アセビよ、貴方の手を引いて
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今日は本屋には寄らなかった。冷たい風が肌に刺さり、何となく家に帰りたい気分になったからだ。「わー寒いね」と笑う彼女に「タクシー呼ぼうか」と提案すると、「いいじゃん、お散歩しようよ」と楽しそうに歩き出す。冷たい風も、彼女にとっては楽しみの一つなのだろう。嫌なものはないんだろうか。聞いてみると、「あるよ、そりゃ」と一笑にふされる。
「貴方はそれを知ってるよ、よくね」
「ふうん。それも教えてくれないの?」
「お屋形様には何度でも教えてあげる。どうする?戻る?」
「戻ったら、君はどうなる?」
「粛清ですとも」
彼女は事も無げにそう言った。僕はその執着の無さが不思議で堪らなく、「君はそれでいいの?」と問いかける。
「死にたいか生きたいかで言えば、生きたいよ」
「じゃあ、今からでも逃げたら?僕は…君を見なかった事にしてあげる」
「そうしたら、貴方はどうなる?」
「賭郎に戻るよ。今思えば…判事は僕のことを知っていたんだろう?それ含めての護衛だったんだ」
「正解」
「なら、判事を頼る。それで問題はないでしょう?」
「そうね。それで問題なく回っていく」
彼女の顔が珍しく曇り、「でもさ」と沈んだ声を出す。
「私は、貴方に忘れられると寂しい」
僕は何も言えなくなる。そういう感情をぶつけられるのは初めてだった。栄羽と父さんはあくまで前向きに、僕が記憶をなくしても上手く立ち回れる方法を探っていたから。
「今貴方が知ってる私は、この三日間の分だけでしょう?貴方をこのまま帰したら、貴方は私のプロフィールを読んで、懐かしくもない写真を見て、それで…私達はお終い。私が生きてても死んでても、貴方にはもう会えないもんね。そして…断言できる。次に貴方が忘れるのは、この三日間だ」
「何で」
「貴方の記憶喪失のルールはもう分かってるの」
「どういう」
「それも秘密。いい?‘お屋形様’、これは私の賭けでもあるの。私はもう自分の命をテーブルに置いた。後は、貴方の記憶を取り戻せるか、犬死か、だよ」
沈んだ彼女の目に映るのは、青い焔。君は、僕の何なんだ。
「ねえ、もう一回聞くよ。賭郎に戻って、貴方はどうなる?はりぼての記憶を積み上げて、実感のない‘思い入れ’で賭郎を守って、それで貴方はどうなるの?」
彼女は問う。墨色の瞳が見透かす。僕は最後まで答えられなかった。
ーー僕はどうなりたいんだろう。
晴乃君が楽しそうに夕飯を作る。さっきの真剣な眼差しが嘘のような、呑気な横顔。鼻歌なんか歌って、彼女はいつも幸せそうだ。
「I can show you the world
Shining, shimmering splendid
Tell me, princess, now when did
You last let your heart decide?」
さあ?最後に決めたのはいつだったかな。
「I can open your eyes
Take you wonder by wonder
Over, sideways and under on a magic carpet ride」
君が連れ出してくれた新しい世界はとても幸せで、魔法のようだ。このままここにいるのも良いと、思えるほどに。
「A whole new world
A new fantastic point of view
No one to tell us "no" or where to go
Or say we're only dreaming」
どうしようね、誰にも止められないのなら、僕はこのままこの幸せな夢の中に浸り続けるのだろうか。もし、ここにいる事が許されるのなら、だけど。
そもそも誰の許しを待っているんだろうか。自分に笑ってしまう。
丁度玄関の鍵が回る音がしたので、僕は立ち上がり玄関へ向かう。
「やあ、ガクト。お帰り」
「ああ蜂名…何だ、浮かない顔をしているな?」
「…何でもないよ」
僕は笑顔を作った。率直に心配してくれる言葉が、ただ嬉しかった。
「貴方はそれを知ってるよ、よくね」
「ふうん。それも教えてくれないの?」
「お屋形様には何度でも教えてあげる。どうする?戻る?」
「戻ったら、君はどうなる?」
「粛清ですとも」
彼女は事も無げにそう言った。僕はその執着の無さが不思議で堪らなく、「君はそれでいいの?」と問いかける。
「死にたいか生きたいかで言えば、生きたいよ」
「じゃあ、今からでも逃げたら?僕は…君を見なかった事にしてあげる」
「そうしたら、貴方はどうなる?」
「賭郎に戻るよ。今思えば…判事は僕のことを知っていたんだろう?それ含めての護衛だったんだ」
「正解」
「なら、判事を頼る。それで問題はないでしょう?」
「そうね。それで問題なく回っていく」
彼女の顔が珍しく曇り、「でもさ」と沈んだ声を出す。
「私は、貴方に忘れられると寂しい」
僕は何も言えなくなる。そういう感情をぶつけられるのは初めてだった。栄羽と父さんはあくまで前向きに、僕が記憶をなくしても上手く立ち回れる方法を探っていたから。
「今貴方が知ってる私は、この三日間の分だけでしょう?貴方をこのまま帰したら、貴方は私のプロフィールを読んで、懐かしくもない写真を見て、それで…私達はお終い。私が生きてても死んでても、貴方にはもう会えないもんね。そして…断言できる。次に貴方が忘れるのは、この三日間だ」
「何で」
「貴方の記憶喪失のルールはもう分かってるの」
「どういう」
「それも秘密。いい?‘お屋形様’、これは私の賭けでもあるの。私はもう自分の命をテーブルに置いた。後は、貴方の記憶を取り戻せるか、犬死か、だよ」
沈んだ彼女の目に映るのは、青い焔。君は、僕の何なんだ。
「ねえ、もう一回聞くよ。賭郎に戻って、貴方はどうなる?はりぼての記憶を積み上げて、実感のない‘思い入れ’で賭郎を守って、それで貴方はどうなるの?」
彼女は問う。墨色の瞳が見透かす。僕は最後まで答えられなかった。
ーー僕はどうなりたいんだろう。
晴乃君が楽しそうに夕飯を作る。さっきの真剣な眼差しが嘘のような、呑気な横顔。鼻歌なんか歌って、彼女はいつも幸せそうだ。
「I can show you the world
Shining, shimmering splendid
Tell me, princess, now when did
You last let your heart decide?」
さあ?最後に決めたのはいつだったかな。
「I can open your eyes
Take you wonder by wonder
Over, sideways and under on a magic carpet ride」
君が連れ出してくれた新しい世界はとても幸せで、魔法のようだ。このままここにいるのも良いと、思えるほどに。
「A whole new world
A new fantastic point of view
No one to tell us "no" or where to go
Or say we're only dreaming」
どうしようね、誰にも止められないのなら、僕はこのままこの幸せな夢の中に浸り続けるのだろうか。もし、ここにいる事が許されるのなら、だけど。
そもそも誰の許しを待っているんだろうか。自分に笑ってしまう。
丁度玄関の鍵が回る音がしたので、僕は立ち上がり玄関へ向かう。
「やあ、ガクト。お帰り」
「ああ蜂名…何だ、浮かない顔をしているな?」
「…何でもないよ」
僕は笑顔を作った。率直に心配してくれる言葉が、ただ嬉しかった。