アセビよ、貴方の手を引いて
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「オラッ!早く出てきやがれ!いつまで入ってんだこの野郎!」
荒々しくトイレのドアを叩かれて、私と城道さんはフリーズする。
「お、おいどうする」
「私は声でバレます。男の貴方が対応して下さい!お腹痛い感じで!」
ヒソヒソ声でのやり取りに城道さんは頷いて、「な…急に何だってんだよ、トイレ位入らせろ!」とキレ返す。
「ちっ…早く出ろ!船にはもう二人乗り込んでる筈なんだ!お前も探すんだよ!」
「あー分かった分かった!すぐに出る!待ってろ!」
「ったく!他の奴らはどこ行ったんだ?!」
「ああ…皆コンテナを探してるんじゃない?」
私達は新たな声の出現に顔を見合わせる。城道さんは気づかなかったようだが…これは直器君だ。
「何い?一体何があった…まあいい、ちょうど良かった。船にはもう二人乗り込んでたんだが、いつのまにか消えやがるもんだから船長に連絡できなくて…とにかく俺は手を離せない。お前はこの事を船長に伝えてきてくれ…ところでお前は?」
ドガッという嫌な音。気絶させただけと思いたいが…一気に扉を開けるのが嫌になる。しかし、そんな私の思いもなんのその。直器君が遠慮なくノックするので、私は反射的に鍵を開ける。
ぐんと伸ばされた手が城道さんの胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「やっやめろ!」
「やあ晴乃君」
私に笑い掛けながら、左手でナチュラルに城道さんへ目潰しの体制をとる直器君。同じような感じでそこに転がっている船員も始末したのだろう。この人は根っからの賭郎だから仕方がない。仕方がないのだが…嫌なもんは嫌だ。恐らく私は酷い顔をしていて、それは直器君に気付かれているだろう。しかし、直器君はあくまで城道さんの相手を続ける。城道さんが反射的に目をガードした隙を見て、彼の携帯を取り上げ、中を確認する。
「何すんだお前!俺の携帯返せ!」
「もう晴乃君に貸したんだから良いじゃない…この40分前の着信履歴、時間的にはファミレスを出て僕らを追っていた時間だ。これ、一体誰と話していたの?」
「そっ…そんな事知るか!」
「僕は本当は分かっていた。君が失ったロンダリングマネー一億…この穴埋めの為最終的に行き着くのが兵器横流しを君に持ちかけた人物…繋がりのある権力者だという事が。自分でゲロった事は棚に上げ、船と密輸を嗅ぎつけた人物がいる事をたれ込み一億円の件に協力を仰ぐ。上手く行くかは別として君に出来るのはこれくらいのもんだ。この番号から芋蔓式に暴けるだろうが、そのたれ込みは恐らく…最終的に防衛省の高官に伝わったはず。つまりガクトの応援要請は握り潰された可能性が高い」
「おっ…お前最初から俺がそうする事を知ってて…でも待てよ、応援が来ないと思っていながらどうして…どうしてお前はこんなところまで…」
「君には関係ないでしょ」と言いながら、直器君は私の手を取って歩き出す。その目に宿る温かい光に気付いたのは、きっと私だけだろう。
ーーーーーーーーーー
毎日昼下がりになると、晴乃君は楽しそうに買い物の準備を始める。僕が「まとめ買いしたらいいのに」と言うと、「毎日行きたくない?」と笑顔で返される。毎日…どうだろうか。非効率的だと思う反面、毎回広いスーパーに所狭しと並ぶ商品を見て新たな発見があるのも事実。帰りにふらっと寄る本屋が楽しみでもある。
「どうだろう」
「じゃ、お留守番する?」
「それは勿体無い気がするね」
「ほうら、直器君も楽しんでる」
彼女はへらっと笑うと、コートを手渡してくれる。「グラッツェ」と笑えば、彼女の笑顔はより大きくなった。
「今日は何食べようね、直器君」
スーパーに着くと、彼女は使い古されて真っ直ぐ走らないカートを器用に操縦しながら、今日の食事を決めていく。行き当たりばったりで決めるから、彼女は売り場を行ったり来たり。酷い時は「ああ別の物買ってた」と元いた売り場に慌てて戻っていく。黒服でもここまでアホなのはいないと思うんだけど、どうなんだろう。
「ねえ、君って何か、特別枠で入社した?」
「そうね、特別も特別だったよ」
やっぱり他の構成員とは別物だったらしい。
「君が入社したのは…僕の記憶喪失を暴いたから?」
「残念」
「じゃあ何で君なんかが入れたの」
「酷いこと言うなぁ、助けに来てくれた相手に対して。これはお仕置きだな」
彼女は「ししとうししとう…」と呟いて、またカートをUターンさせる。野菜売り場はさっき通過したばかりだし、君もガクトも被害に遭うだろうに、ししとうでロシアンルーレットすることのどこがお仕置きなんだ。
でも、何となく着いていく。この行き当たりばったりの馬鹿みたいな買い物に。
やっぱり僕は楽しんでるのかもしれないな、なんて。
荒々しくトイレのドアを叩かれて、私と城道さんはフリーズする。
「お、おいどうする」
「私は声でバレます。男の貴方が対応して下さい!お腹痛い感じで!」
ヒソヒソ声でのやり取りに城道さんは頷いて、「な…急に何だってんだよ、トイレ位入らせろ!」とキレ返す。
「ちっ…早く出ろ!船にはもう二人乗り込んでる筈なんだ!お前も探すんだよ!」
「あー分かった分かった!すぐに出る!待ってろ!」
「ったく!他の奴らはどこ行ったんだ?!」
「ああ…皆コンテナを探してるんじゃない?」
私達は新たな声の出現に顔を見合わせる。城道さんは気づかなかったようだが…これは直器君だ。
「何い?一体何があった…まあいい、ちょうど良かった。船にはもう二人乗り込んでたんだが、いつのまにか消えやがるもんだから船長に連絡できなくて…とにかく俺は手を離せない。お前はこの事を船長に伝えてきてくれ…ところでお前は?」
ドガッという嫌な音。気絶させただけと思いたいが…一気に扉を開けるのが嫌になる。しかし、そんな私の思いもなんのその。直器君が遠慮なくノックするので、私は反射的に鍵を開ける。
ぐんと伸ばされた手が城道さんの胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「やっやめろ!」
「やあ晴乃君」
私に笑い掛けながら、左手でナチュラルに城道さんへ目潰しの体制をとる直器君。同じような感じでそこに転がっている船員も始末したのだろう。この人は根っからの賭郎だから仕方がない。仕方がないのだが…嫌なもんは嫌だ。恐らく私は酷い顔をしていて、それは直器君に気付かれているだろう。しかし、直器君はあくまで城道さんの相手を続ける。城道さんが反射的に目をガードした隙を見て、彼の携帯を取り上げ、中を確認する。
「何すんだお前!俺の携帯返せ!」
「もう晴乃君に貸したんだから良いじゃない…この40分前の着信履歴、時間的にはファミレスを出て僕らを追っていた時間だ。これ、一体誰と話していたの?」
「そっ…そんな事知るか!」
「僕は本当は分かっていた。君が失ったロンダリングマネー一億…この穴埋めの為最終的に行き着くのが兵器横流しを君に持ちかけた人物…繋がりのある権力者だという事が。自分でゲロった事は棚に上げ、船と密輸を嗅ぎつけた人物がいる事をたれ込み一億円の件に協力を仰ぐ。上手く行くかは別として君に出来るのはこれくらいのもんだ。この番号から芋蔓式に暴けるだろうが、そのたれ込みは恐らく…最終的に防衛省の高官に伝わったはず。つまりガクトの応援要請は握り潰された可能性が高い」
「おっ…お前最初から俺がそうする事を知ってて…でも待てよ、応援が来ないと思っていながらどうして…どうしてお前はこんなところまで…」
「君には関係ないでしょ」と言いながら、直器君は私の手を取って歩き出す。その目に宿る温かい光に気付いたのは、きっと私だけだろう。
ーーーーーーーーーー
毎日昼下がりになると、晴乃君は楽しそうに買い物の準備を始める。僕が「まとめ買いしたらいいのに」と言うと、「毎日行きたくない?」と笑顔で返される。毎日…どうだろうか。非効率的だと思う反面、毎回広いスーパーに所狭しと並ぶ商品を見て新たな発見があるのも事実。帰りにふらっと寄る本屋が楽しみでもある。
「どうだろう」
「じゃ、お留守番する?」
「それは勿体無い気がするね」
「ほうら、直器君も楽しんでる」
彼女はへらっと笑うと、コートを手渡してくれる。「グラッツェ」と笑えば、彼女の笑顔はより大きくなった。
「今日は何食べようね、直器君」
スーパーに着くと、彼女は使い古されて真っ直ぐ走らないカートを器用に操縦しながら、今日の食事を決めていく。行き当たりばったりで決めるから、彼女は売り場を行ったり来たり。酷い時は「ああ別の物買ってた」と元いた売り場に慌てて戻っていく。黒服でもここまでアホなのはいないと思うんだけど、どうなんだろう。
「ねえ、君って何か、特別枠で入社した?」
「そうね、特別も特別だったよ」
やっぱり他の構成員とは別物だったらしい。
「君が入社したのは…僕の記憶喪失を暴いたから?」
「残念」
「じゃあ何で君なんかが入れたの」
「酷いこと言うなぁ、助けに来てくれた相手に対して。これはお仕置きだな」
彼女は「ししとうししとう…」と呟いて、またカートをUターンさせる。野菜売り場はさっき通過したばかりだし、君もガクトも被害に遭うだろうに、ししとうでロシアンルーレットすることのどこがお仕置きなんだ。
でも、何となく着いていく。この行き当たりばったりの馬鹿みたいな買い物に。
やっぱり僕は楽しんでるのかもしれないな、なんて。