アセビよ、貴方の手を引いて
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本能で勝てないと分かってもお行儀良く最後まで賭けのテーブルに座るのは、ギャンブラーの性なのか、城道さんの嗅覚が鈍いのか。私はメロンソーダを注文しつつ、ウェイトレス越しに城道さんを盗み見る。
私達が車外に出たところで、直器君から城道さんの監視に来るようメールが来た。そう仰るならと私達は寒空の下から暖かいファミレス内に移動する事にしたのだが、中々生で賭け事を観るのは面白いものだ。
少し離れたテーブルでは、城道さんが直器君に頑張って物言いを付けている。私達と直器君はグルなんだそうだ。大正解だが、それが何だというのか。一人で来たテイにする事に決めたらしい直器君は驚いたように私達を振り返り、こっそりウインクしてきた。こちら側は城道さんに見られているので、薄く笑顔を作って返す。
もう、そこからは風のようだった。直器君が仕掛けていたトラップが、言葉による揺さぶりが城道さんを絶え間なく襲う。忘年会での出来事を思い出して、なんとなく私もへこんでため息を吐いた。
当然直器君が勝ち、彼は「君はギャンブルは向いてない」と止めをさすとこちらのテーブルに歩いてくる。そして、ぽんと私の肩に手を置いた。
「尤も、僕は今まで見た事がない…ギャンブルに向いている人間など。晴乃君もそうだろう?」
「私からしたら、みーんな私より凄いけどね。取り立ては?」
「忘れた」
「ふうん。何としてでも補填して貰ったらよかったのに」
「そんな事してたら出港に間に合わないでしょ」
「そうだけど、この件に関しては私もガクトさんも怒ってるからね」
「そうなの?」
「そうだよ。ねえガクトさん」
「本当だよ…もう…勘弁してくれ」
ーーーーーーーーーー
横浜港に向かう車内は、非常にピリついている。ひとえに直器君の暴挙のせいである。
「今俺達が事を極秘に進めているのは省の上層部にいる黒幕に動きを悟られない為…それをお前はファミレスであんな騒ぎを起こしやがって!後ろを見てみろ、行き場を無くした城道があっさりファミレスを出て付いてきてるぞ…金を取り返すつもりだ。お前がばら撒いた金、あれはマネーロンダリングの証拠である一種の押収品…それを使うなど決して許される事ではない!上にどう報告するつもりだ」
「別に…ほっとけば?」
「何ぃ?!」
「押収と言っても正規の手続きでやった訳じゃない。あの金の存在を上は知らないんだ。黙ってればいい」
「おい!お前…本気で言ってるのか?あれは現場で押さえた証拠品!上に報告するのが決まりだ!お前は決まりを破るのか?!」
「決まり…ルールは大事だ。でもこれは僕の守るべきルールじゃない。そう気に病む事はない。ルールを破ったのはガクトじゃないんだから」
「お前なあ… 晴乃さんも何とか言ってやってくれ!」
ガクトさんが私に振ったので、直器君はミラー越しにこちらを伺う。一応、怒られるかな?という怯えみたいなものはあるらしい。何というか、子どもみたいだな、と思った。いや、実質高校生なのか。
「…貴方が守るルールじゃなくても、ガクトさんが守りたいルールだってのは、分かってたよね?」
「うん」
「じゃあ、酷いよ。私達だって、とんでもない事になったって分かった時も貴方の賭けを邪魔しなかったじゃん。私達にばっかり強いるなら、私達仲間じゃないよ」
直器君は黙る。私もこれ以上の追撃は止める。ミラー越しに見える目に罪悪感が宿ったのを見逃さなかったからだ。これで彼の行動が変わるなら良し、変わらないならご勝手に、だ。
ガクトさんの携帯が繋がり、私達の話はここで終わる。横井さんとの通話が聞こえるように、彼はスピーカーフォンにしてくれた。
『悪い知らせがある。さっきお前の言ったジャルード号は既に港を出ていたんだ。つまり手遅れだったって事だ』
「何だと…?」
嘘だと分かった。声が怯えている。脅されてついた嘘ということは、ジャルード号には荒事に慣れた乗組員がいるということ。嫌だなあ。
『手ぶらで帰るわけにはいかなかった俺は、同じ港で奴らを目撃していたコンテナ船の乗組員を見つけた。俺は今彼らの船で話を聞いている。意外にバカにできんネタが出てる。お前もすぐに来てくれ、中に入れるようにしておく』
「分かった…で、その船の名前は?」
『ギャロップ号だ』
「ギャロップ…スペルは?」
『GALLOP、ギャロップだ。ブリッジで待ってるぞ』
「ああ、分かった。すぐに行く」
そう言って通話を切ると、ガクトさんは車のスピードを上げた。さて、どう罠だと切り出そうか。悩んでいると、流石というべきか何というか、直器君が先に口を開いた。
私達が車外に出たところで、直器君から城道さんの監視に来るようメールが来た。そう仰るならと私達は寒空の下から暖かいファミレス内に移動する事にしたのだが、中々生で賭け事を観るのは面白いものだ。
少し離れたテーブルでは、城道さんが直器君に頑張って物言いを付けている。私達と直器君はグルなんだそうだ。大正解だが、それが何だというのか。一人で来たテイにする事に決めたらしい直器君は驚いたように私達を振り返り、こっそりウインクしてきた。こちら側は城道さんに見られているので、薄く笑顔を作って返す。
もう、そこからは風のようだった。直器君が仕掛けていたトラップが、言葉による揺さぶりが城道さんを絶え間なく襲う。忘年会での出来事を思い出して、なんとなく私もへこんでため息を吐いた。
当然直器君が勝ち、彼は「君はギャンブルは向いてない」と止めをさすとこちらのテーブルに歩いてくる。そして、ぽんと私の肩に手を置いた。
「尤も、僕は今まで見た事がない…ギャンブルに向いている人間など。晴乃君もそうだろう?」
「私からしたら、みーんな私より凄いけどね。取り立ては?」
「忘れた」
「ふうん。何としてでも補填して貰ったらよかったのに」
「そんな事してたら出港に間に合わないでしょ」
「そうだけど、この件に関しては私もガクトさんも怒ってるからね」
「そうなの?」
「そうだよ。ねえガクトさん」
「本当だよ…もう…勘弁してくれ」
ーーーーーーーーーー
横浜港に向かう車内は、非常にピリついている。ひとえに直器君の暴挙のせいである。
「今俺達が事を極秘に進めているのは省の上層部にいる黒幕に動きを悟られない為…それをお前はファミレスであんな騒ぎを起こしやがって!後ろを見てみろ、行き場を無くした城道があっさりファミレスを出て付いてきてるぞ…金を取り返すつもりだ。お前がばら撒いた金、あれはマネーロンダリングの証拠である一種の押収品…それを使うなど決して許される事ではない!上にどう報告するつもりだ」
「別に…ほっとけば?」
「何ぃ?!」
「押収と言っても正規の手続きでやった訳じゃない。あの金の存在を上は知らないんだ。黙ってればいい」
「おい!お前…本気で言ってるのか?あれは現場で押さえた証拠品!上に報告するのが決まりだ!お前は決まりを破るのか?!」
「決まり…ルールは大事だ。でもこれは僕の守るべきルールじゃない。そう気に病む事はない。ルールを破ったのはガクトじゃないんだから」
「お前なあ… 晴乃さんも何とか言ってやってくれ!」
ガクトさんが私に振ったので、直器君はミラー越しにこちらを伺う。一応、怒られるかな?という怯えみたいなものはあるらしい。何というか、子どもみたいだな、と思った。いや、実質高校生なのか。
「…貴方が守るルールじゃなくても、ガクトさんが守りたいルールだってのは、分かってたよね?」
「うん」
「じゃあ、酷いよ。私達だって、とんでもない事になったって分かった時も貴方の賭けを邪魔しなかったじゃん。私達にばっかり強いるなら、私達仲間じゃないよ」
直器君は黙る。私もこれ以上の追撃は止める。ミラー越しに見える目に罪悪感が宿ったのを見逃さなかったからだ。これで彼の行動が変わるなら良し、変わらないならご勝手に、だ。
ガクトさんの携帯が繋がり、私達の話はここで終わる。横井さんとの通話が聞こえるように、彼はスピーカーフォンにしてくれた。
『悪い知らせがある。さっきお前の言ったジャルード号は既に港を出ていたんだ。つまり手遅れだったって事だ』
「何だと…?」
嘘だと分かった。声が怯えている。脅されてついた嘘ということは、ジャルード号には荒事に慣れた乗組員がいるということ。嫌だなあ。
『手ぶらで帰るわけにはいかなかった俺は、同じ港で奴らを目撃していたコンテナ船の乗組員を見つけた。俺は今彼らの船で話を聞いている。意外にバカにできんネタが出てる。お前もすぐに来てくれ、中に入れるようにしておく』
「分かった…で、その船の名前は?」
『ギャロップ号だ』
「ギャロップ…スペルは?」
『GALLOP、ギャロップだ。ブリッジで待ってるぞ』
「ああ、分かった。すぐに行く」
そう言って通話を切ると、ガクトさんは車のスピードを上げた。さて、どう罠だと切り出そうか。悩んでいると、流石というべきか何というか、直器君が先に口を開いた。