アセビよ、貴方の手を引いて
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ふと気付けば、ガクトさんは一人でコインの幅寄せゲームに勤しんでいるではないか。思わず「ガクトさんたら、誘ってくれれば一緒に遊んであげたのに」と哀れみの声を掛ける。
「いや一人遊びがしたかった訳じゃないから!…城道が蜂名を追い払う為に選んだゲームだぞ。何か必勝法があるに違いない」
「確かに!」
ゲームが選ばれた経緯を知っていれば、当然の思考である。考えが及ばず恥ずかしい。しかも、私はこのゲームを知らないというのに。立会人は贔屓の会員が得意なジャンルを選ぶ事はあれども、必ず平等なゲームを選ぶ。必勝法があるものなど論外。私が知らない、つまり賭郎で使われないゲームとすれば、必勝法がある可能性が高い。
「一緒にやってみましょう!何か分かるかも知れません」
二人で向き合い、コインに指を置く。
「やっぱり、動けなくしたら勝ちと言われたら先手で詰めちゃうのが人情ですよね」
何となく話し出した私が先手を取り、上段の百円玉を一番奥に詰める。するとガクトさんは「そうだな…するとやはり、俺ももう一方を詰めて城道と同じ展開に持ち込みたい所だが…敢えて間を空けるか」と、下段の五百円玉を一マスだけ詰めてきた。
「城道さんがやったみたいに、後攻で一方を追い詰められて、もう一方を追い詰めるっていうのは一つ目の必勝法でしょうね。だからやっぱり…私も下段を詰めるとしましょう」
下段で五百円玉が右からニマス目、百円玉が三マス目に配置される。ガクトさんが「むう」と唸る。
「すると、俺は下がるしかない」
「で、私が進む。それを繰り返して、私の勝ちになる。つまり…二つ目のコインを先に詰められた方が負け?」
「その様だな。そう考えると後攻が有利か?」
「そうですよねえ…でも、何で城道さんたら、先攻を取りたがったんでしょう?」
「取りたがっていたか?」
「はい。声が悔しがってましたよ」
そう口走ってからチカラの事は秘密なのを思い出し、「よく聞いてなきゃ」と付け足す。名付けて私が鋭いんじゃなくて貴方が鈍いのよ作戦である。ガクトさんは「そうか…」とコインを睨み、長考に入る。私はコインを初期位置に戻して、「ここから一手で追い詰める何かがあるってことですよねえ」と、同じく悩む。
「あ」
徐に、ガクトさんが上段の五百円玉を五マス詰めた。
「こうだ、恐らくだが」
「半分詰めるのが?」
私は分からないながらも、とりあえず上段の百円玉を五百円玉の目の前まで詰めた。すかさずガクトさんが下段の五百円玉を奥まで詰め、百円玉の行き場を無くした。
「ありゃ、王手ですか」
「そうだろう?例え君が奥まで来なかったとしても…」
彼は五マス間隔ずつに戻すと、次は上段の百円玉を一マスだけ詰めた。
「…同じ間隔を保ち続けるんだ。そうすれば必ず勝機が訪れる」
「成る程、これ狙いだった訳ですか」
素人二人でゲームのカラクリを解き明かした達成感で頷き合っていた私達だったが、無線で入ってきた直器君の『賭けの分は十分ある。気にしないで、だってこれ元々ついさっき君が洗浄屋に渡した一億円なんだから』という言葉に凍り付く。
「えっ今っえっ」
「は?待て蜂名、そういう使い方するか?は?」
私達は無駄に双眼鏡で直器君を確認してみたり、後部座席のアタッシュケースが空っぽになっているのを確認してみたりして、ようやく現実と向き合う。
「ど…どうする?!」
「どうしましょう?!一億なんて補填できませんよ?!」
「だよなあ?!…いや、元々押収品は補填していいものじゃない!」
「ああそっか!やだーどうしよう、あの人好き勝手ばら撒いた後だよ?!」
『じゃあ掛け金を上げろよこの野郎!』
『分かった!言う事を聞いてくれたらね。吐く時は言ってって言ったよね…掛け金を上げてもらいたかったら君の噛んでるXASM-3の件、ブツを渡す船と港の事を洗いざらい吐いてって』
「うわーここで来たか!凄いや直器君!」
「でも迷惑!補って余りある迷惑!」
「もう…もうこの一件で大金星あげて細かい所を有耶無耶にするしかない…!」
「いけるか…?この一件で政府の上層部まで辿り着けるか?!」
「三人がかりならやれる!二人であの自由人のお尻叩きまくりましょ!」
「くっそ…突然ケツに火が付いたな…」
頭を抱え込むガクトさん。勿論、私も倣った。
直器君は私達の苦悩など知る由もなくーーいや、分かってやってる可能性大だがーー気持ち良く他の客にも押収品をばら撒きまくり、私達と城道さんの胃に穴を開けんばかりのプレッシャーをかけまくり、遂に港と船の場所を吐かせる事に成功した。
横浜港中央埠頭の第五繋留所にある、ジャルード号。ガクトさんが慌てて横井さんに連絡を取って情報の真偽の確認に当たるが、私の耳が言っている。正解だ。私は予めカーナビに横浜港を入力しておくことにした。
「何故奴は…」
「さあ?諦めちゃったんでしょうね。ちゃぶ台返しをする膂力もツテもないでしょうから、逃走一択です。身一つで走り出してもいいけど、相手は政府高官…私なら、直器君からあの五千万をぶんどって逃げる」
私はヘッドフォンを外し、マフラーを巻いた。一瞬香るあの人の匂いには、未だ慣れない。
「出口塞ぎに行きましょ。多分大丈夫でしょうけど、あの自由人なら渡しかねない」
「いや一人遊びがしたかった訳じゃないから!…城道が蜂名を追い払う為に選んだゲームだぞ。何か必勝法があるに違いない」
「確かに!」
ゲームが選ばれた経緯を知っていれば、当然の思考である。考えが及ばず恥ずかしい。しかも、私はこのゲームを知らないというのに。立会人は贔屓の会員が得意なジャンルを選ぶ事はあれども、必ず平等なゲームを選ぶ。必勝法があるものなど論外。私が知らない、つまり賭郎で使われないゲームとすれば、必勝法がある可能性が高い。
「一緒にやってみましょう!何か分かるかも知れません」
二人で向き合い、コインに指を置く。
「やっぱり、動けなくしたら勝ちと言われたら先手で詰めちゃうのが人情ですよね」
何となく話し出した私が先手を取り、上段の百円玉を一番奥に詰める。するとガクトさんは「そうだな…するとやはり、俺ももう一方を詰めて城道と同じ展開に持ち込みたい所だが…敢えて間を空けるか」と、下段の五百円玉を一マスだけ詰めてきた。
「城道さんがやったみたいに、後攻で一方を追い詰められて、もう一方を追い詰めるっていうのは一つ目の必勝法でしょうね。だからやっぱり…私も下段を詰めるとしましょう」
下段で五百円玉が右からニマス目、百円玉が三マス目に配置される。ガクトさんが「むう」と唸る。
「すると、俺は下がるしかない」
「で、私が進む。それを繰り返して、私の勝ちになる。つまり…二つ目のコインを先に詰められた方が負け?」
「その様だな。そう考えると後攻が有利か?」
「そうですよねえ…でも、何で城道さんたら、先攻を取りたがったんでしょう?」
「取りたがっていたか?」
「はい。声が悔しがってましたよ」
そう口走ってからチカラの事は秘密なのを思い出し、「よく聞いてなきゃ」と付け足す。名付けて私が鋭いんじゃなくて貴方が鈍いのよ作戦である。ガクトさんは「そうか…」とコインを睨み、長考に入る。私はコインを初期位置に戻して、「ここから一手で追い詰める何かがあるってことですよねえ」と、同じく悩む。
「あ」
徐に、ガクトさんが上段の五百円玉を五マス詰めた。
「こうだ、恐らくだが」
「半分詰めるのが?」
私は分からないながらも、とりあえず上段の百円玉を五百円玉の目の前まで詰めた。すかさずガクトさんが下段の五百円玉を奥まで詰め、百円玉の行き場を無くした。
「ありゃ、王手ですか」
「そうだろう?例え君が奥まで来なかったとしても…」
彼は五マス間隔ずつに戻すと、次は上段の百円玉を一マスだけ詰めた。
「…同じ間隔を保ち続けるんだ。そうすれば必ず勝機が訪れる」
「成る程、これ狙いだった訳ですか」
素人二人でゲームのカラクリを解き明かした達成感で頷き合っていた私達だったが、無線で入ってきた直器君の『賭けの分は十分ある。気にしないで、だってこれ元々ついさっき君が洗浄屋に渡した一億円なんだから』という言葉に凍り付く。
「えっ今っえっ」
「は?待て蜂名、そういう使い方するか?は?」
私達は無駄に双眼鏡で直器君を確認してみたり、後部座席のアタッシュケースが空っぽになっているのを確認してみたりして、ようやく現実と向き合う。
「ど…どうする?!」
「どうしましょう?!一億なんて補填できませんよ?!」
「だよなあ?!…いや、元々押収品は補填していいものじゃない!」
「ああそっか!やだーどうしよう、あの人好き勝手ばら撒いた後だよ?!」
『じゃあ掛け金を上げろよこの野郎!』
『分かった!言う事を聞いてくれたらね。吐く時は言ってって言ったよね…掛け金を上げてもらいたかったら君の噛んでるXASM-3の件、ブツを渡す船と港の事を洗いざらい吐いてって』
「うわーここで来たか!凄いや直器君!」
「でも迷惑!補って余りある迷惑!」
「もう…もうこの一件で大金星あげて細かい所を有耶無耶にするしかない…!」
「いけるか…?この一件で政府の上層部まで辿り着けるか?!」
「三人がかりならやれる!二人であの自由人のお尻叩きまくりましょ!」
「くっそ…突然ケツに火が付いたな…」
頭を抱え込むガクトさん。勿論、私も倣った。
直器君は私達の苦悩など知る由もなくーーいや、分かってやってる可能性大だがーー気持ち良く他の客にも押収品をばら撒きまくり、私達と城道さんの胃に穴を開けんばかりのプレッシャーをかけまくり、遂に港と船の場所を吐かせる事に成功した。
横浜港中央埠頭の第五繋留所にある、ジャルード号。ガクトさんが慌てて横井さんに連絡を取って情報の真偽の確認に当たるが、私の耳が言っている。正解だ。私は予めカーナビに横浜港を入力しておくことにした。
「何故奴は…」
「さあ?諦めちゃったんでしょうね。ちゃぶ台返しをする膂力もツテもないでしょうから、逃走一択です。身一つで走り出してもいいけど、相手は政府高官…私なら、直器君からあの五千万をぶんどって逃げる」
私はヘッドフォンを外し、マフラーを巻いた。一瞬香るあの人の匂いには、未だ慣れない。
「出口塞ぎに行きましょ。多分大丈夫でしょうけど、あの自由人なら渡しかねない」