アセビよ、貴方の手を引いて
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『もう一回やろうよ』
直器君が言う。表面こそ悔しさと苛立ちを纏わせているが、本当は予定調和である事がよく分かる、自信に満ちた声色だ。上手だなあ。
『…分かったよ。そこまで言うならもう一度だけやってやる。ただし、今度はそっちも金をかけて貰う』
『金?』
『そうだ。そっちは本来既に一度負けてるんだタダでなんて都合が良すぎるだろ。嫌ってんならもう好きにしたらいいさ』
『このゲームでお金をかけるの?』
『いいや…そっちもせっかく金を賭けるんだ…もっと趣向を凝らしたゲームにしようぜ。ルール1、今度は途中でウダウダ言うのはナシだ。最後まできっちりやり切る。ルール2、このコイン幅寄せゲームはこのまま利用する。ただし今度は自分のコインを好きなように動かす事は出来ない。世の中には知らない事…いや、知らなくていい事ってのがある。これもその内の一つだ。さあここにコーヒーフレッシュがお互い9個ずつある』
私とガクトさんは思わず顔を見合わせる。
「おい、あっちからコーヒーフレッシュを提案してきたぞ」
「…してきましたね…直器君凄い」
「いや、凄いで済ますなよ。解説してくれ!」
「え、私がですか?!」
私は腕組みして考える。それとなく何かを意識させる方法は、勿論沢山ある。指示を聞いていなさそうな子どもの机をこつんと叩いて、こっそりその子だけを指導したり、教室の普段物を置かないような所に本を置いて、読むように仕向けたり。恐らく、彼がしたのもその一種なのだろう。是非VTRで確認してみたいものだが、盗聴器しかないのが悔やまれる。とりあえずその考えを伝えると、ガクトさんは「成る程…」と考え込んだ。彼も学習しているのだろう。ここら辺はギャンブラーでなくてもあって困らない知識だからね。
『そうだ…裏に一つ一つに数字がふってある、俺もさっき知ったんだ。これをサイコロがわりにしよう。つまりコインは自分の引いたコーヒーフレッシュの数によって動く。おっとそれに触るなよ。今お互いどのフレッシュにどんな数が記されているか知り得ない』
お互いが持つダイスの数は9。そして、その数は両者共知り得ない。引いたとこ勝負。引いたフレッシュの数により進める数が決定するが、引いた数が動かせるマスの数を越えていた場合、「オーバー」となり、前後どちらかに1マス強制的に動かすのみとなる。数が2カタの時はどちらか好きなケタの数を動かす。そして、勝負が終了した時、それまでに使ったフレッシュの出目を足し合わせた数を、合計数×一万円にして支払う。成る程多分分かった。
まあ、ぶっちゃけ分からなくてもいい。直器君が勝つに決まってるんだから。
勝負は進む。しかし、流石に出目を全て読み上げてくれるようなサービス精神は直器君には無い為、私達は早々に置いてけぼりを食らった。
『これで出た数の合計は17…つまり17万…え?おいお前、何やっているんだ。何でこんな所で金を出してんだよ!』
『だって金を賭けるんでしょ?金を出してもいいじゃない』
『だ…だからって今ここで出すこたぁねえだろ。人の目だってあるんだ、しまっとけ!』
『嫌だ…人は身の丈に合わない額を賭けて破滅していく…一種の麻痺って奴だ。今自分がどれだけの額を賭けているか、現金を目の前にしっかりそれを実感して勝負をしたい。僕はルールは守る。賭とは究極の約束。そこから逃げる事は絶対に許されない』
あーそっか。私は思う。この人はこうやって育ってる訳だ。そりゃそうか。賭郎は屋形越えを認めつつも、実は無敗故切間一族が脈々とその地位を守り続けている。その当代が賭けを重要視しない訳がない。そう育った人間が、それを変えるっていうのはとにかく難しい事なのだ。意志の力で、って皆簡単に言うけど、じゃああなたは常に気を張り続けて生きられるのか?気を抜けば顔を出す間違った常識を否定し続ける事ができるか?普通、出来ない。この人は死ぬまでこのままだろう。だって、この人はこれで困っていないし、これからもこの価値観で困る事はないだろう。
お屋形様として生きてきた彼に、私の言葉はどれくらい届いているのだろうか。
直器君が言う。表面こそ悔しさと苛立ちを纏わせているが、本当は予定調和である事がよく分かる、自信に満ちた声色だ。上手だなあ。
『…分かったよ。そこまで言うならもう一度だけやってやる。ただし、今度はそっちも金をかけて貰う』
『金?』
『そうだ。そっちは本来既に一度負けてるんだタダでなんて都合が良すぎるだろ。嫌ってんならもう好きにしたらいいさ』
『このゲームでお金をかけるの?』
『いいや…そっちもせっかく金を賭けるんだ…もっと趣向を凝らしたゲームにしようぜ。ルール1、今度は途中でウダウダ言うのはナシだ。最後まできっちりやり切る。ルール2、このコイン幅寄せゲームはこのまま利用する。ただし今度は自分のコインを好きなように動かす事は出来ない。世の中には知らない事…いや、知らなくていい事ってのがある。これもその内の一つだ。さあここにコーヒーフレッシュがお互い9個ずつある』
私とガクトさんは思わず顔を見合わせる。
「おい、あっちからコーヒーフレッシュを提案してきたぞ」
「…してきましたね…直器君凄い」
「いや、凄いで済ますなよ。解説してくれ!」
「え、私がですか?!」
私は腕組みして考える。それとなく何かを意識させる方法は、勿論沢山ある。指示を聞いていなさそうな子どもの机をこつんと叩いて、こっそりその子だけを指導したり、教室の普段物を置かないような所に本を置いて、読むように仕向けたり。恐らく、彼がしたのもその一種なのだろう。是非VTRで確認してみたいものだが、盗聴器しかないのが悔やまれる。とりあえずその考えを伝えると、ガクトさんは「成る程…」と考え込んだ。彼も学習しているのだろう。ここら辺はギャンブラーでなくてもあって困らない知識だからね。
『そうだ…裏に一つ一つに数字がふってある、俺もさっき知ったんだ。これをサイコロがわりにしよう。つまりコインは自分の引いたコーヒーフレッシュの数によって動く。おっとそれに触るなよ。今お互いどのフレッシュにどんな数が記されているか知り得ない』
お互いが持つダイスの数は9。そして、その数は両者共知り得ない。引いたとこ勝負。引いたフレッシュの数により進める数が決定するが、引いた数が動かせるマスの数を越えていた場合、「オーバー」となり、前後どちらかに1マス強制的に動かすのみとなる。数が2カタの時はどちらか好きなケタの数を動かす。そして、勝負が終了した時、それまでに使ったフレッシュの出目を足し合わせた数を、合計数×一万円にして支払う。成る程多分分かった。
まあ、ぶっちゃけ分からなくてもいい。直器君が勝つに決まってるんだから。
勝負は進む。しかし、流石に出目を全て読み上げてくれるようなサービス精神は直器君には無い為、私達は早々に置いてけぼりを食らった。
『これで出た数の合計は17…つまり17万…え?おいお前、何やっているんだ。何でこんな所で金を出してんだよ!』
『だって金を賭けるんでしょ?金を出してもいいじゃない』
『だ…だからって今ここで出すこたぁねえだろ。人の目だってあるんだ、しまっとけ!』
『嫌だ…人は身の丈に合わない額を賭けて破滅していく…一種の麻痺って奴だ。今自分がどれだけの額を賭けているか、現金を目の前にしっかりそれを実感して勝負をしたい。僕はルールは守る。賭とは究極の約束。そこから逃げる事は絶対に許されない』
あーそっか。私は思う。この人はこうやって育ってる訳だ。そりゃそうか。賭郎は屋形越えを認めつつも、実は無敗故切間一族が脈々とその地位を守り続けている。その当代が賭けを重要視しない訳がない。そう育った人間が、それを変えるっていうのはとにかく難しい事なのだ。意志の力で、って皆簡単に言うけど、じゃああなたは常に気を張り続けて生きられるのか?気を抜けば顔を出す間違った常識を否定し続ける事ができるか?普通、出来ない。この人は死ぬまでこのままだろう。だって、この人はこれで困っていないし、これからもこの価値観で困る事はないだろう。
お屋形様として生きてきた彼に、私の言葉はどれくらい届いているのだろうか。