アセビよ、貴方の手を引いて
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「証言通りの車は駐車場にあった。依頼者は中にいる…だが俺達は三人、一人は女性。このまま奴が車に戻るのを待って尾行する方が確実だな」
「いや、ブツを乗せる船はもう来てるかもしれないんだろ?」
「ああ…港はいくつかに特定できてるが確実じゃない。船も同様だ…横井はすぐに動ける場所に待機しているがな」
「ガクト…本当にやる気があるの?随分消極的じゃない。船を抑えようと思ったら猶予はない」
「おいおい…そりゃそうだけど」
「もし晴乃君の事を心配しているなら無用だよ…腐っても彼女は僕の秘書だからね」
「晴乃さんにはさっき助けられたばかりだが…一応聞くけど、荒事の方は…」
「無理です。盾になれって言われたらやりましょう」
「そこまで覚悟しなくていいですよ」
「でも依頼者さんに尋問するなら任せてくださいよ。私そういうの得意なんです」
「いや、晴乃君は待ってなよ。次は僕が行く」
蜂名はそう言うと、早速発信機をポケットに入れて車を出て行った。俺は慌てて「ちょっと蜂名さーん?」と呼び掛けたが華麗に無視された。晴乃さんが肩を竦め、盗聴器のレシーバーを立ち上げる。
「全く…いつもあんなに勝手なんですか?」
「直器君凄いですよー。ガクトさんの前だからちょっとマシになってます」
「あ、いつもはもっと勝手なんだ」
「それでも部下の人たちが着いてってましたからねえ。今回の旅でもうちょっと人に合わせることを学べってんです。はいコレ」
盗聴の準備が整ったらしい。彼女は俺の分のヘッドフォンを手渡して、自分も装着する。
『…待ち合わせで一人先に来てる筈なんだけど…ああ、あの人。それとこの荷物ここに置いといてくれない?』
「おい、蜂名は人相を知っていたのか?」
「…言い訳のしようもなく食べてたのでは?」
「そんなことがあるかね…」
俺は気になって、双眼鏡で店内の客を調べる。確かにアレじゃなければおかしい量の皿をテーブルに乗せた客が一人いた。顔を確認して、思わず声を出す。
「あ、あれは…!」
「え、知り合いだったんですか?」
「いや、有名人だ。あいつは旧防衛施設庁の城道…何でも喰いのダボハゼ城道…数々の談合の裏側にこいつがいたという話だ。理由も言わず突然辞めたと聞いていたが…間違いない。こいつなら政界や省の上層部と今も繋がっている筈…」
「成る程…悪い事する為に辞めたんですかねえ…勿体無い」
「さあな…気持ちなんて分からんよ」
晴乃さんはぼんやりとファミレスを見つめながら、シートに深く腰掛ける。俺は正体が分かればこそ蜂名が心配になり、窓に双眼鏡をつける様にして二人の動向を見守る。しかし、彼は俺の心配をよそに、行きがかりのテーブルに置いてあるコーヒーフレッシュをいじり始める。
「蜂名は何をしているんだ…?」
「何してるんですか?」
「コーヒーフレッシュをいじっているんだ…あ、他のテーブルにも手を伸ばし始めたぞ」
「…多分、仕込んでるんでしょうね」
「自白剤でも入れるのか?」
「いやあ…暗謀のお家芸みたいなもんで…その、賭けのイカサマです」
「…は?」
「何でそんな思考になるのか全然分かりませんけど、賭けで解決したがるんですよ、あの人達。変でしょ?」
「…変則的な交渉と考えるべきか?」
「…べきなのかなあ?」
晴乃さんはふふ、と笑った。仕方がない子どもを笑う様な、温かい笑い声。
「君と蜂名は…?」
「何なんでしょうね。私は友達と思ってます。直器君には秘密ですよ?」
彼女はやっぱり笑う。蜂名はイカサマの仕込みが出来上がった様で、ウェイトレスにコーヒーフレッシュを手渡すと、いよいよ城道の元へと歩いて行った。
『おいしかった…?』
『?…ああ。これ下げてくれない?次も早く持ってきて』
『まだ…食べるの?』
『店員じゃないじゃん…何?君』
『ゆっくり食べるといい…君が食べる、最後の食事だ』
蜂名が城道の前に腰掛ける。俺は彼を心配する気持ちの中に、暗謀のお家芸とやらが気になる気持ちが芽生えるのを隠しきれず、彼らの様子を食い入る様に見つめた。
「いや、ブツを乗せる船はもう来てるかもしれないんだろ?」
「ああ…港はいくつかに特定できてるが確実じゃない。船も同様だ…横井はすぐに動ける場所に待機しているがな」
「ガクト…本当にやる気があるの?随分消極的じゃない。船を抑えようと思ったら猶予はない」
「おいおい…そりゃそうだけど」
「もし晴乃君の事を心配しているなら無用だよ…腐っても彼女は僕の秘書だからね」
「晴乃さんにはさっき助けられたばかりだが…一応聞くけど、荒事の方は…」
「無理です。盾になれって言われたらやりましょう」
「そこまで覚悟しなくていいですよ」
「でも依頼者さんに尋問するなら任せてくださいよ。私そういうの得意なんです」
「いや、晴乃君は待ってなよ。次は僕が行く」
蜂名はそう言うと、早速発信機をポケットに入れて車を出て行った。俺は慌てて「ちょっと蜂名さーん?」と呼び掛けたが華麗に無視された。晴乃さんが肩を竦め、盗聴器のレシーバーを立ち上げる。
「全く…いつもあんなに勝手なんですか?」
「直器君凄いですよー。ガクトさんの前だからちょっとマシになってます」
「あ、いつもはもっと勝手なんだ」
「それでも部下の人たちが着いてってましたからねえ。今回の旅でもうちょっと人に合わせることを学べってんです。はいコレ」
盗聴の準備が整ったらしい。彼女は俺の分のヘッドフォンを手渡して、自分も装着する。
『…待ち合わせで一人先に来てる筈なんだけど…ああ、あの人。それとこの荷物ここに置いといてくれない?』
「おい、蜂名は人相を知っていたのか?」
「…言い訳のしようもなく食べてたのでは?」
「そんなことがあるかね…」
俺は気になって、双眼鏡で店内の客を調べる。確かにアレじゃなければおかしい量の皿をテーブルに乗せた客が一人いた。顔を確認して、思わず声を出す。
「あ、あれは…!」
「え、知り合いだったんですか?」
「いや、有名人だ。あいつは旧防衛施設庁の城道…何でも喰いのダボハゼ城道…数々の談合の裏側にこいつがいたという話だ。理由も言わず突然辞めたと聞いていたが…間違いない。こいつなら政界や省の上層部と今も繋がっている筈…」
「成る程…悪い事する為に辞めたんですかねえ…勿体無い」
「さあな…気持ちなんて分からんよ」
晴乃さんはぼんやりとファミレスを見つめながら、シートに深く腰掛ける。俺は正体が分かればこそ蜂名が心配になり、窓に双眼鏡をつける様にして二人の動向を見守る。しかし、彼は俺の心配をよそに、行きがかりのテーブルに置いてあるコーヒーフレッシュをいじり始める。
「蜂名は何をしているんだ…?」
「何してるんですか?」
「コーヒーフレッシュをいじっているんだ…あ、他のテーブルにも手を伸ばし始めたぞ」
「…多分、仕込んでるんでしょうね」
「自白剤でも入れるのか?」
「いやあ…暗謀のお家芸みたいなもんで…その、賭けのイカサマです」
「…は?」
「何でそんな思考になるのか全然分かりませんけど、賭けで解決したがるんですよ、あの人達。変でしょ?」
「…変則的な交渉と考えるべきか?」
「…べきなのかなあ?」
晴乃さんはふふ、と笑った。仕方がない子どもを笑う様な、温かい笑い声。
「君と蜂名は…?」
「何なんでしょうね。私は友達と思ってます。直器君には秘密ですよ?」
彼女はやっぱり笑う。蜂名はイカサマの仕込みが出来上がった様で、ウェイトレスにコーヒーフレッシュを手渡すと、いよいよ城道の元へと歩いて行った。
『おいしかった…?』
『?…ああ。これ下げてくれない?次も早く持ってきて』
『まだ…食べるの?』
『店員じゃないじゃん…何?君』
『ゆっくり食べるといい…君が食べる、最後の食事だ』
蜂名が城道の前に腰掛ける。俺は彼を心配する気持ちの中に、暗謀のお家芸とやらが気になる気持ちが芽生えるのを隠しきれず、彼らの様子を食い入る様に見つめた。