アセビよ、貴方の手を引いて
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「蜂名がご迷惑をお掛けして大っ変申し訳ありません、大船さん!」と、晴乃君は玄関に上がるや否やダイナミックな土下座を決めた。戸惑う大船に喋る隙を与えず、彼女はマシンガントークを展開する。
「蜂名よりお聞き及びとは存じますが!我々ヘマを致しまして只今暗謀から追われております上に警察も頼れない状況です!そんな中大船さんが助けてくださると聞き私本当に涙が出そうでございます!ほんっとありがとうございます!蜂名と二人で打首獄門市中引き摺り回しかと覚悟しておりました!」
「晴乃さん、大丈夫ですから。困った時は助け合いですから」
「そんな…ありがとうございます!では我々お言葉に甘えまして、暫くご厄介になります!」
にこにこ顔を上げた晴乃君に対して、ガクトは「んっ?」と疑問符を浮かべた。すかさず晴乃は鞄から封筒を取り出す。
「ここに二百万入っております!解決までにどれだけを要するか分かりませんが…当分はこちらをお使いください!もちろん、大船さんの食費などにも充てて下さって結構でございます!」
「に、二百万?!」
「晴乃君、少なくない?」
「喧しいわボンボンめ!あんたからの給料が少なすぎんのよ!」
「い、いえいえ、十分ですよこれだけあれば!」
「そう?なら良かった」
「ありがとうございます!」
という訳で、僕と晴乃君は暫くガクトの部屋に寝泊まりする事になったのだった。
ーーあの時、彼女にすぐに賭郎に帰るか記憶を取り戻しに行くか問われ、僕は後者を選んだ。彼女は自分が提案したにも関わらず驚いた様で、「ホントにいいの?」と聞いてくる。
「提案するからには何かあるんじゃないの?」
「あるけど、それが上手く行くかなんて分かんないよ?」
「なら何で言ったの」
「ずっとそのままより、やってみた方がいいと思った」
「なら、いいじゃない」
「いいんだけど、効率主義の貴方が選ぶと思ってなかったもんでね…」
「ふうん。ねえ、二つ質問があるんだけど」
「何でしょ」
「一つ目。君、誰?」
「伏龍晴乃ですとも」
「何者なのか聞いたんだけど?」
「でしょうね。教えません」
「僕が聞いてるんだけど?」
「お屋形様には答えます。蜂名さんには答えない」
「屁理屈は嫌いだ」
「前聞いた。覚えてないだろうけど」
彼女は僕を麗かな笑顔で見つめる。こうなったらもう駄目だと、僕の中の誰かが言った。
「君、帰ったら粛清ね」
「帰らなくても立会人に見つかったら粛清だよ、裏切り者だもん。最後の時間を貴方に使ってあげるって言ってんの」
「結局お屋形様の為に使うなら、何で裏切ったの」
「秘密」
「君、変わってる」
「言うと思った」
彼女は少しだけ口許を緩ませた。そして、「多分、お屋形様は私の事忘れたかったと思うんだよね。思い出せないなら下手に知らない方がいいよ。どうせ死ぬし」と言った。
「ニつ目。どうやって記憶を取り戻すつもり?」
「まず…栄羽立会人を探しに行こう」
「栄羽を?」
「うん。多分、直ぐには見つけられないと思う。でも、貴方の記憶の要は、その人だと思ってる」
「栄羽か…いいよ。どの道接触するつもりだった。で、当てはあるの?」
「うん。自力で頑張って」
「君、結構適当だよね」
「否定しないけど、今回に関しては考えて言ってるから大丈夫」
「信じようかな。さて…分かった事がいくつかあるよ」
「むむ?」
「まず、僕はお屋形様なんだね」
「…やだ、口走ってたね私。馬鹿じゃん」
「うん。だから君は立会人ではないし、弱そうだから掃除人でもない。でも、僕ととても近しい仲だ…つまり、君は僕の婚約者…もしくは、妻」
「そうきたか!あはは!お屋形様は独身だし、私が知る限りそういう相手もいなかった。…あ、立会人でも掃除人でもないのは正解」
「その割には、君のタメ口は堂に入ってるよ」
「うんまあ、そうね。でも私と貴方はだいぶ拗れてるから、相当ヒントが無いと当たらないと思うよ」
「そんなに?」
「そんなに」
「ふうん。そして…最後の一つ。お屋形様が立会人を直ぐ見つけられないなんてことはあり得ない。もう、栄羽は死んでいるね?」
彼女は驚いて、当てて当然かと寂しげに笑う。そして、頷いた。
「何故、居ない男を探しに行く必要があるの」
「…栄羽さんはさ、遺体こそ見つかってるけど、何が起きて亡くなったか、ちゃんと分かってないんだ。そして、栄羽さんが亡くなった直後、貴方がスイスの寄宿舎から戻ってきてる。辻褄は合う。何なら関係なさそう。だから誰も気に留めなかった…でも、貴方の記憶喪失を知っていたのは当時栄羽さんと撻器様だけだったと考えるとさ」
「栄羽の死と僕の記憶喪失は深く関係している可能性が高い」
「うん。栄羽さんは貴方にとって特別な人だよ。その人を忘れなきゃいけない何か…それを追う事が、貴方が貴方を知る近道なんじゃないかと思ってる」
「僕が僕を知る事が、記憶の回復に繋がる…成る程。面白い試みだね。なら、そこにもう一つスパイスを加えよう」
「なんか他人事の様に楽しみ始めたぞこいつ」
「とりあえず聞きなよ。それは君だ。僕が忘れたかった筈の君の写真を、僕は持っていた。立会人でも、掃除人でも、恋人でもない君は一体僕の何なのか?今は亡き栄羽、僕の横にいる君…これは僕の中の二人を探る旅だ。君には責任を取って立会って貰うよ」
「何の責任よ」
「僕を唆した責任さ」
「嘘やん。良いけど」
「という訳で、君は僕が当てた事については正直に答えてよね」
「うーん、いいや。乗った。じゃ、私は貴方が当てた事、もしくはこの旅で必要になった事を適宜貴方に教えてあげる、言わばチェシャ猫。それでいい?」
「うん。面白い旅になるよ」
「そりゃどうも」
「蜂名よりお聞き及びとは存じますが!我々ヘマを致しまして只今暗謀から追われております上に警察も頼れない状況です!そんな中大船さんが助けてくださると聞き私本当に涙が出そうでございます!ほんっとありがとうございます!蜂名と二人で打首獄門市中引き摺り回しかと覚悟しておりました!」
「晴乃さん、大丈夫ですから。困った時は助け合いですから」
「そんな…ありがとうございます!では我々お言葉に甘えまして、暫くご厄介になります!」
にこにこ顔を上げた晴乃君に対して、ガクトは「んっ?」と疑問符を浮かべた。すかさず晴乃は鞄から封筒を取り出す。
「ここに二百万入っております!解決までにどれだけを要するか分かりませんが…当分はこちらをお使いください!もちろん、大船さんの食費などにも充てて下さって結構でございます!」
「に、二百万?!」
「晴乃君、少なくない?」
「喧しいわボンボンめ!あんたからの給料が少なすぎんのよ!」
「い、いえいえ、十分ですよこれだけあれば!」
「そう?なら良かった」
「ありがとうございます!」
という訳で、僕と晴乃君は暫くガクトの部屋に寝泊まりする事になったのだった。
ーーあの時、彼女にすぐに賭郎に帰るか記憶を取り戻しに行くか問われ、僕は後者を選んだ。彼女は自分が提案したにも関わらず驚いた様で、「ホントにいいの?」と聞いてくる。
「提案するからには何かあるんじゃないの?」
「あるけど、それが上手く行くかなんて分かんないよ?」
「なら何で言ったの」
「ずっとそのままより、やってみた方がいいと思った」
「なら、いいじゃない」
「いいんだけど、効率主義の貴方が選ぶと思ってなかったもんでね…」
「ふうん。ねえ、二つ質問があるんだけど」
「何でしょ」
「一つ目。君、誰?」
「伏龍晴乃ですとも」
「何者なのか聞いたんだけど?」
「でしょうね。教えません」
「僕が聞いてるんだけど?」
「お屋形様には答えます。蜂名さんには答えない」
「屁理屈は嫌いだ」
「前聞いた。覚えてないだろうけど」
彼女は僕を麗かな笑顔で見つめる。こうなったらもう駄目だと、僕の中の誰かが言った。
「君、帰ったら粛清ね」
「帰らなくても立会人に見つかったら粛清だよ、裏切り者だもん。最後の時間を貴方に使ってあげるって言ってんの」
「結局お屋形様の為に使うなら、何で裏切ったの」
「秘密」
「君、変わってる」
「言うと思った」
彼女は少しだけ口許を緩ませた。そして、「多分、お屋形様は私の事忘れたかったと思うんだよね。思い出せないなら下手に知らない方がいいよ。どうせ死ぬし」と言った。
「ニつ目。どうやって記憶を取り戻すつもり?」
「まず…栄羽立会人を探しに行こう」
「栄羽を?」
「うん。多分、直ぐには見つけられないと思う。でも、貴方の記憶の要は、その人だと思ってる」
「栄羽か…いいよ。どの道接触するつもりだった。で、当てはあるの?」
「うん。自力で頑張って」
「君、結構適当だよね」
「否定しないけど、今回に関しては考えて言ってるから大丈夫」
「信じようかな。さて…分かった事がいくつかあるよ」
「むむ?」
「まず、僕はお屋形様なんだね」
「…やだ、口走ってたね私。馬鹿じゃん」
「うん。だから君は立会人ではないし、弱そうだから掃除人でもない。でも、僕ととても近しい仲だ…つまり、君は僕の婚約者…もしくは、妻」
「そうきたか!あはは!お屋形様は独身だし、私が知る限りそういう相手もいなかった。…あ、立会人でも掃除人でもないのは正解」
「その割には、君のタメ口は堂に入ってるよ」
「うんまあ、そうね。でも私と貴方はだいぶ拗れてるから、相当ヒントが無いと当たらないと思うよ」
「そんなに?」
「そんなに」
「ふうん。そして…最後の一つ。お屋形様が立会人を直ぐ見つけられないなんてことはあり得ない。もう、栄羽は死んでいるね?」
彼女は驚いて、当てて当然かと寂しげに笑う。そして、頷いた。
「何故、居ない男を探しに行く必要があるの」
「…栄羽さんはさ、遺体こそ見つかってるけど、何が起きて亡くなったか、ちゃんと分かってないんだ。そして、栄羽さんが亡くなった直後、貴方がスイスの寄宿舎から戻ってきてる。辻褄は合う。何なら関係なさそう。だから誰も気に留めなかった…でも、貴方の記憶喪失を知っていたのは当時栄羽さんと撻器様だけだったと考えるとさ」
「栄羽の死と僕の記憶喪失は深く関係している可能性が高い」
「うん。栄羽さんは貴方にとって特別な人だよ。その人を忘れなきゃいけない何か…それを追う事が、貴方が貴方を知る近道なんじゃないかと思ってる」
「僕が僕を知る事が、記憶の回復に繋がる…成る程。面白い試みだね。なら、そこにもう一つスパイスを加えよう」
「なんか他人事の様に楽しみ始めたぞこいつ」
「とりあえず聞きなよ。それは君だ。僕が忘れたかった筈の君の写真を、僕は持っていた。立会人でも、掃除人でも、恋人でもない君は一体僕の何なのか?今は亡き栄羽、僕の横にいる君…これは僕の中の二人を探る旅だ。君には責任を取って立会って貰うよ」
「何の責任よ」
「僕を唆した責任さ」
「嘘やん。良いけど」
「という訳で、君は僕が当てた事については正直に答えてよね」
「うーん、いいや。乗った。じゃ、私は貴方が当てた事、もしくはこの旅で必要になった事を適宜貴方に教えてあげる、言わばチェシャ猫。それでいい?」
「うん。面白い旅になるよ」
「そりゃどうも」