ダフネの本心
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
亜面立会人が「相談とは何だったのですか?」と切り出したのは、鍋も終盤に差し掛かった頃の事だった。
「あ〜、忘れてました。誰かさんが数少ない肉ばっかりがっつくもので」
「OK、誰かさんが野菜ばっかり鍋に入れるからだよ。OK?」
「誰かさんが調子に乗って野菜という野菜を切り尽くしたからでしょう」
銅寺立会人と肘で牽制し合いながら、弥鱈立会人が答える。ついに二人は泉江外務卿に「その数少ない肉は既に狩り尽くしただろうが。いつまで戦うつもりだ」と諌められ、漸く真っ直ぐ座り直した。
「はぁ〜。相談というのは… 伏龍についてです」
「裏切り者は仮の姿なんだから良いじゃないか。意外と潔癖だったのかい?」
「それは賭郎側から見た景色です。南方立会人、アイツは味方にすれば頼もしい女ですが、‘何でも出来る立会人さん’ではありません。知でも暴でも一段劣るのが現実です」
「そうだね…たまにとんでもない所の理解がとんでる時があるね。僕の立会人室に逃げ込んできた時も、自分がわざと逃がされてる事に気付いてなかった…話したいのはそれでしょう?弥鱈立会人」
「ええ…理解が早くて助かります。その通り、あの馬鹿は恐らく素で裏切ってます。その事がバレれば…流石に全くお咎めなしにはなりません」
「なっ…あいつ、やっぱり裏切っとったんかい!」
「そうですね〜…今日タワーにいた者は全員知った話ですが…あなた方は黒服共の噂で知るより、私が正しく伝えるべきでしょうね。伏龍の本来の姿を」
そう言うと弥鱈立会人は手に持っていた酎ハイを飲み干し、いつも通りの飄々とした語り口で今日聞いた話と高校時代の出来事を語る。
「…つまり、先生の一族は…僕らによって蹂躙されてきた訳か」
「別に…賭郎がやった事やない」
「晴乃さんの力では調べがつかないだけでしょう…恐らく…」
「ああ。何人かは我々が手に掛けてきただろうな。何しろ…敵に回せば厄介な能力だ。晴乃程の胆力が無かったとしても」
「失踪した方も…弱みを掴まれ、利用されているのでしょう。晴乃さんの様に…」
「目蒲立会人を弱みと呼ぶには弱すぎますけどねぇ〜」
「五月蝿え。そもそも…‘自分で決める’のがあれの主義でしょうが。本気で嫌なら大暴れしてるでしょう。今回の様に」
「今回の、様に…」
泉江外務卿が唸る。全員顔が曇る。弥鱈立会人の話を聞いて改めて見つめ直せば、彼女は今回の裏切りで賭郎を仕留める気でいてもおかしくない。叶う叶わないは別として、だ。
「…お屋形様が危ない」
「有り得ません」
「メカ、惚れた弱みもええ加減にせえよ」
「それやめてくれ、門っち。無いんだよ… 晴乃の主義に反する。あれは目的の為とはいえ、手段を選ぶタイプだ」
「そうですねぇ〜。手段どころが、お屋形様自体が目的の一つである可能性も高いです。あのメサイアコンプレックスは、お屋形様が記憶喪失という爆弾を抱えている事に心底同情している筈です。目蒲立会人に対してそうであった様に、さぞ真摯に向き合っていることでしょう。事が起こるとすれば…」
「お屋形様に記憶が戻った後…と言いたいんだろうが、一番有り得んだろう。勝てると思うか?」
「泉江外務卿の仰る通りです。事が起こるなど杞憂でしょうに。我々に見つけられなかったとしても、記憶を取り戻したお屋形様が連れ戻して、晴乃が立会人入りして、この話は終いです。裏切り者ですが、お屋形様にとってはお気に入りの女で、恩人ですからねえ」
「あの、私思うんですが」
亜面立会人がおずおずと手を挙げる。
「お屋形様は、戻りたいと思うでしょうか」
「はぁ?!」
門っちが反射的に声を上げ、そのまま言葉を失った。絶句、という言葉そのものの彼の様子を、弥鱈立会人が据わった目で捉える。
「亜面立会人が今仰った事が、私の最大の懸念であり、あなた方に今から頭を下げる理由です。お屋形様が望むなら、彼女はお屋形様を玉座に戻す。しかし、お屋形様がもしそれを望まなかった時…その心がほんの少しでもお屋形様に芽生えた時…彼女は本懐を遂げるでしょう。誰も傷付ける事なく、理不尽を強いるこの組織を破壊するという、その願いを」
弥鱈立会人は少し下がり、テーブルと自分との間の距離を確保する。
そして、深々と頭を下げた。
「お願いします。力を貸して下さい。アイツが賭郎を壊す前に…そんな事になれば…俺はアイツを殺さなければならなくなります。それだけは嫌なんです。どうか、どうかお願いします」
「顔を上げろ。お前に貸しをつくっても使いようがない」
泉江外務卿が立ち上がる。
「すぐ部下に防犯カメラをサーチさせてくる。なに、こういったことは外務部の得意分野だ。すぐに見つけてやる」
「じゃ、僕も探しに行こうかな。後片付けよろしくお願いします、一年間入り浸りの目蒲立会人」
「俺かよ。せめて全て食べ切ってから行け」
顔を見合わせ、もう一度着席する面々。こういう一瞬は晴乃の影響を感じる。同じ事を感じたであろう弥鱈立会人が、やっと一息ついて顔を上げた。
「あ〜、忘れてました。誰かさんが数少ない肉ばっかりがっつくもので」
「OK、誰かさんが野菜ばっかり鍋に入れるからだよ。OK?」
「誰かさんが調子に乗って野菜という野菜を切り尽くしたからでしょう」
銅寺立会人と肘で牽制し合いながら、弥鱈立会人が答える。ついに二人は泉江外務卿に「その数少ない肉は既に狩り尽くしただろうが。いつまで戦うつもりだ」と諌められ、漸く真っ直ぐ座り直した。
「はぁ〜。相談というのは… 伏龍についてです」
「裏切り者は仮の姿なんだから良いじゃないか。意外と潔癖だったのかい?」
「それは賭郎側から見た景色です。南方立会人、アイツは味方にすれば頼もしい女ですが、‘何でも出来る立会人さん’ではありません。知でも暴でも一段劣るのが現実です」
「そうだね…たまにとんでもない所の理解がとんでる時があるね。僕の立会人室に逃げ込んできた時も、自分がわざと逃がされてる事に気付いてなかった…話したいのはそれでしょう?弥鱈立会人」
「ええ…理解が早くて助かります。その通り、あの馬鹿は恐らく素で裏切ってます。その事がバレれば…流石に全くお咎めなしにはなりません」
「なっ…あいつ、やっぱり裏切っとったんかい!」
「そうですね〜…今日タワーにいた者は全員知った話ですが…あなた方は黒服共の噂で知るより、私が正しく伝えるべきでしょうね。伏龍の本来の姿を」
そう言うと弥鱈立会人は手に持っていた酎ハイを飲み干し、いつも通りの飄々とした語り口で今日聞いた話と高校時代の出来事を語る。
「…つまり、先生の一族は…僕らによって蹂躙されてきた訳か」
「別に…賭郎がやった事やない」
「晴乃さんの力では調べがつかないだけでしょう…恐らく…」
「ああ。何人かは我々が手に掛けてきただろうな。何しろ…敵に回せば厄介な能力だ。晴乃程の胆力が無かったとしても」
「失踪した方も…弱みを掴まれ、利用されているのでしょう。晴乃さんの様に…」
「目蒲立会人を弱みと呼ぶには弱すぎますけどねぇ〜」
「五月蝿え。そもそも…‘自分で決める’のがあれの主義でしょうが。本気で嫌なら大暴れしてるでしょう。今回の様に」
「今回の、様に…」
泉江外務卿が唸る。全員顔が曇る。弥鱈立会人の話を聞いて改めて見つめ直せば、彼女は今回の裏切りで賭郎を仕留める気でいてもおかしくない。叶う叶わないは別として、だ。
「…お屋形様が危ない」
「有り得ません」
「メカ、惚れた弱みもええ加減にせえよ」
「それやめてくれ、門っち。無いんだよ… 晴乃の主義に反する。あれは目的の為とはいえ、手段を選ぶタイプだ」
「そうですねぇ〜。手段どころが、お屋形様自体が目的の一つである可能性も高いです。あのメサイアコンプレックスは、お屋形様が記憶喪失という爆弾を抱えている事に心底同情している筈です。目蒲立会人に対してそうであった様に、さぞ真摯に向き合っていることでしょう。事が起こるとすれば…」
「お屋形様に記憶が戻った後…と言いたいんだろうが、一番有り得んだろう。勝てると思うか?」
「泉江外務卿の仰る通りです。事が起こるなど杞憂でしょうに。我々に見つけられなかったとしても、記憶を取り戻したお屋形様が連れ戻して、晴乃が立会人入りして、この話は終いです。裏切り者ですが、お屋形様にとってはお気に入りの女で、恩人ですからねえ」
「あの、私思うんですが」
亜面立会人がおずおずと手を挙げる。
「お屋形様は、戻りたいと思うでしょうか」
「はぁ?!」
門っちが反射的に声を上げ、そのまま言葉を失った。絶句、という言葉そのものの彼の様子を、弥鱈立会人が据わった目で捉える。
「亜面立会人が今仰った事が、私の最大の懸念であり、あなた方に今から頭を下げる理由です。お屋形様が望むなら、彼女はお屋形様を玉座に戻す。しかし、お屋形様がもしそれを望まなかった時…その心がほんの少しでもお屋形様に芽生えた時…彼女は本懐を遂げるでしょう。誰も傷付ける事なく、理不尽を強いるこの組織を破壊するという、その願いを」
弥鱈立会人は少し下がり、テーブルと自分との間の距離を確保する。
そして、深々と頭を下げた。
「お願いします。力を貸して下さい。アイツが賭郎を壊す前に…そんな事になれば…俺はアイツを殺さなければならなくなります。それだけは嫌なんです。どうか、どうかお願いします」
「顔を上げろ。お前に貸しをつくっても使いようがない」
泉江外務卿が立ち上がる。
「すぐ部下に防犯カメラをサーチさせてくる。なに、こういったことは外務部の得意分野だ。すぐに見つけてやる」
「じゃ、僕も探しに行こうかな。後片付けよろしくお願いします、一年間入り浸りの目蒲立会人」
「俺かよ。せめて全て食べ切ってから行け」
顔を見合わせ、もう一度着席する面々。こういう一瞬は晴乃の影響を感じる。同じ事を感じたであろう弥鱈立会人が、やっと一息ついて顔を上げた。