ダフネの本心
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時は一時間程遡る。帝国タワーから帰ってきた夜行掃除人と伏龍が壱號立会人室に入室する。それによりお屋形様の秘密を知る四人全員が揃い、早速能輪立会人が口火を切った。
「お屋形様が失踪なされた。判事の顔に違和感を持ち、‘栄羽’と呟き警察庁から逃走なさったとの事じゃ」
「じゃ、自身がお屋形様であられる事もお忘れだな」
「その通りじゃ、夜行…。お屋形様は今、記憶喪失の事を知っているのは撻器様と栄羽のみと思っておる…じゃが…」
そのどちらも、お屋形様を助けにいけない。部屋を重苦しい沈黙が占める。
「あの、早く探しにいきましょうよ」
伏龍が沈黙を破った。私達三人の顔を不思議そうに見上げている。
「迷子って初動が肝心ですよ。小学生でも平気で市外に出ますもん。お屋形様なら国外まで行ってもおかしくないと思うんですけど」
「我々四人でか?」
「いや、そんな。立会人さん達に協力して貰いましょうよ。早め早めの人海戦術に決まってるじゃないですか」
「どう説明する気だ?」
伏龍の目が見開かれる。そうだな、君は、そう言うだろうな。
「素直に話せばいいじゃないですか…」
「伏龍、お屋形様が戻ってきた後の事も考えなさい。極力記憶喪失の件はおろか…失踪の件も内密にしたい」
「それは…そうですけど…」
「どうしたものか…公的機関に網を張れば、いずれ構成員の耳に入るじゃろうしの」
「搦手はそこかしこにいるからな…」
「しかし…四人で探すのは至難の技というものだ…」
「南方には既に知れておる…警察関係の者達を呼ぶか」
「警察か…奴ら、反抗的だぞ。足元を掬われかねん」
夜行掃除人が座ったまま天を仰ぎ、能輪立会人は俯き眉間を抑える。とにかく全員が焦っている。それは痛い程に伝わってくる。
「伏龍、着信に注意していてくれ。お屋形様からコンタクトがあるとすれば、君だ」
「はい…え?」
「どうして伏龍なんだ」
伏龍の目が点になり、夜行掃除人が問い掛ける。私は「秘密だったのだが」と前置きし、「お屋形様は例の、パーティーの写真を常に携帯しておられる」と言った。
「あの、手に書いちゃった奴をか?」
「それだ」
「恥ずかしい!!」
彼女は真っ赤になった頬を両手で挟むようにして抑える。気持ちは分かる。私もこんな事が無ければ墓まで持っていく気だった。だが、こんな時に慮る事でもないのでとりあえず携帯を確認する様促した。
伏龍は携帯の画面を見て、首を横に振る。
「やはりか」
「お屋形様…」
彼女はぎゅうと携帯を握りしめて暫く俯くと、決意を胸に顔を上げる。
「私、探しに行きます」
「一人でか?」
「はい…じっとしてられません。無駄だと思いますけど、でも」
能輪立会人が考え込んだまま、「ならぬ」と静止する。
「お主が特段の任務もなく外に出たとなれば…疑問をもつ者も多い筈じゃ。どう誤魔化す?」
「でも…行ってくれって、顔に書いてありますよ」
「分からんか…想いだけで行動できんのだ…!」
「分かりません…分かりませんよ…何なんですかさっきから…バレたらバレたらって!この期に及んでお屋形様が完璧じゃなきゃダメなんですか?!」
「言わずとも分かっておる!じゃが…お主こそ…なるべく傷が少ない様にしてやりたい、その親心が分からんのか?!」
「分かりません!親心…?一秒でも早く顔を見たいのが親心です!」
伏龍は泣きそうに顔を歪める。それはきっと、我々も同じなのだろう。
「それに蓋をして…面子ばっかり気にして…完璧?そんなの理想ですよ!誰かあの人に、どうなっても貴方が大好きって、言ってやらないんですか?それじゃお屋形様が引き合わない…」
「何故分からん…!完璧は無理だからみんなで探そう?我々が理想を求めておる?逆よ、完璧をかなぐり捨てられることこそ理想なのじゃ!お屋形様の秘密が表に出て、立会人共が素直にお屋形様を支えていくと思うのか?!青い…青過ぎるわ!」
「じゃあここでずっと作戦会議してるのが正解なんですか?!」
「大事にして賭郎を混乱に陥れるのが正解と思うてか!」
二人は睨み合う。どちらにも理がある。どちらにも愛がある。
伏龍はやがて肩を落とし、どこか吹っ切れた様な顔をした。
「なら…なら、もういい。賭郎がどうなろうが、どうでもいい。元々こんな組織は大嫌いだったのよ」
「何を言うちょる…」
「いいですいいです、分からなくて。貴方達はどうぞ好きなだけ完璧とやらのお側で心ゆくまで話し合ってて下さいな。私はお屋形様のお側に行きますんで」
「…おいやめろ」
「私は勝手にやる。皆さんもどうぞご勝手に」
「やめろ!それ以上は裏切りと判断するぞ!」
「ええそうよ裏切りよ!私はあの人のワイルドカードを全うしに行く!それが裏切りになるなら…どうぞ私を追えばいいじゃない!」
彼女は立ち上がり、駆け出す。夜行掃除人の手をすり抜けたのは、単に彼に迷いがあったからだ。
きっと彼にも過ったのだ。目蒲を救い出した、伏龍の姿が。
「焼け野原になっちまえこんな謎組織!」
そう捨て台詞を残し、彼女は逃げ去っていった。
「お屋形様が失踪なされた。判事の顔に違和感を持ち、‘栄羽’と呟き警察庁から逃走なさったとの事じゃ」
「じゃ、自身がお屋形様であられる事もお忘れだな」
「その通りじゃ、夜行…。お屋形様は今、記憶喪失の事を知っているのは撻器様と栄羽のみと思っておる…じゃが…」
そのどちらも、お屋形様を助けにいけない。部屋を重苦しい沈黙が占める。
「あの、早く探しにいきましょうよ」
伏龍が沈黙を破った。私達三人の顔を不思議そうに見上げている。
「迷子って初動が肝心ですよ。小学生でも平気で市外に出ますもん。お屋形様なら国外まで行ってもおかしくないと思うんですけど」
「我々四人でか?」
「いや、そんな。立会人さん達に協力して貰いましょうよ。早め早めの人海戦術に決まってるじゃないですか」
「どう説明する気だ?」
伏龍の目が見開かれる。そうだな、君は、そう言うだろうな。
「素直に話せばいいじゃないですか…」
「伏龍、お屋形様が戻ってきた後の事も考えなさい。極力記憶喪失の件はおろか…失踪の件も内密にしたい」
「それは…そうですけど…」
「どうしたものか…公的機関に網を張れば、いずれ構成員の耳に入るじゃろうしの」
「搦手はそこかしこにいるからな…」
「しかし…四人で探すのは至難の技というものだ…」
「南方には既に知れておる…警察関係の者達を呼ぶか」
「警察か…奴ら、反抗的だぞ。足元を掬われかねん」
夜行掃除人が座ったまま天を仰ぎ、能輪立会人は俯き眉間を抑える。とにかく全員が焦っている。それは痛い程に伝わってくる。
「伏龍、着信に注意していてくれ。お屋形様からコンタクトがあるとすれば、君だ」
「はい…え?」
「どうして伏龍なんだ」
伏龍の目が点になり、夜行掃除人が問い掛ける。私は「秘密だったのだが」と前置きし、「お屋形様は例の、パーティーの写真を常に携帯しておられる」と言った。
「あの、手に書いちゃった奴をか?」
「それだ」
「恥ずかしい!!」
彼女は真っ赤になった頬を両手で挟むようにして抑える。気持ちは分かる。私もこんな事が無ければ墓まで持っていく気だった。だが、こんな時に慮る事でもないのでとりあえず携帯を確認する様促した。
伏龍は携帯の画面を見て、首を横に振る。
「やはりか」
「お屋形様…」
彼女はぎゅうと携帯を握りしめて暫く俯くと、決意を胸に顔を上げる。
「私、探しに行きます」
「一人でか?」
「はい…じっとしてられません。無駄だと思いますけど、でも」
能輪立会人が考え込んだまま、「ならぬ」と静止する。
「お主が特段の任務もなく外に出たとなれば…疑問をもつ者も多い筈じゃ。どう誤魔化す?」
「でも…行ってくれって、顔に書いてありますよ」
「分からんか…想いだけで行動できんのだ…!」
「分かりません…分かりませんよ…何なんですかさっきから…バレたらバレたらって!この期に及んでお屋形様が完璧じゃなきゃダメなんですか?!」
「言わずとも分かっておる!じゃが…お主こそ…なるべく傷が少ない様にしてやりたい、その親心が分からんのか?!」
「分かりません!親心…?一秒でも早く顔を見たいのが親心です!」
伏龍は泣きそうに顔を歪める。それはきっと、我々も同じなのだろう。
「それに蓋をして…面子ばっかり気にして…完璧?そんなの理想ですよ!誰かあの人に、どうなっても貴方が大好きって、言ってやらないんですか?それじゃお屋形様が引き合わない…」
「何故分からん…!完璧は無理だからみんなで探そう?我々が理想を求めておる?逆よ、完璧をかなぐり捨てられることこそ理想なのじゃ!お屋形様の秘密が表に出て、立会人共が素直にお屋形様を支えていくと思うのか?!青い…青過ぎるわ!」
「じゃあここでずっと作戦会議してるのが正解なんですか?!」
「大事にして賭郎を混乱に陥れるのが正解と思うてか!」
二人は睨み合う。どちらにも理がある。どちらにも愛がある。
伏龍はやがて肩を落とし、どこか吹っ切れた様な顔をした。
「なら…なら、もういい。賭郎がどうなろうが、どうでもいい。元々こんな組織は大嫌いだったのよ」
「何を言うちょる…」
「いいですいいです、分からなくて。貴方達はどうぞ好きなだけ完璧とやらのお側で心ゆくまで話し合ってて下さいな。私はお屋形様のお側に行きますんで」
「…おいやめろ」
「私は勝手にやる。皆さんもどうぞご勝手に」
「やめろ!それ以上は裏切りと判断するぞ!」
「ええそうよ裏切りよ!私はあの人のワイルドカードを全うしに行く!それが裏切りになるなら…どうぞ私を追えばいいじゃない!」
彼女は立ち上がり、駆け出す。夜行掃除人の手をすり抜けたのは、単に彼に迷いがあったからだ。
きっと彼にも過ったのだ。目蒲を救い出した、伏龍の姿が。
「焼け野原になっちまえこんな謎組織!」
そう捨て台詞を残し、彼女は逃げ去っていった。