ダフネの本心
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大会議室に入れば、先着の立会人達のうざったい視線に晒される。取り合う気にはなれず、前だけを見ながら第拾席に腰掛けた。
「今来られる者はこれで揃った…始めよう」
判事がそう言ったのをきっかけに、全員が居住まいを正す。言葉を引き継いだのは能輪壱號だ。
「良いニュースと悪いニュースがある。本来であれば正式な席を設けるべきじゃが…門倉がこれより立会人として復帰する」
既に第弐席に腰掛けていた門っちは立ち上がり、全体へ深々と礼をした。大きな拍手が起こる。
「新たな號数は弐。これは切間立会人の穴を埋める形になるが…異存がある者は今ここで申し出よ」
能輪壱號が全体を見回すが、門っちに挑戦しようという猛者はいない。立会人の中でも大柄な門っちは戦闘もゴリゴリのパワータイプ。反感のある者も今日手を上げる事はしないだろう。
「さて…それでは、早速悪いニュースに入らせて貰おうの…何より時間がない。俄に信じ難い話じゃと思うが…皆、心して聞いてくれ。伏龍晴乃がお屋形様と共に失踪したのじゃ」
違うだろ、それ。
だが、声を上げることはしない。裏があるのは分かっていた事。俺はざわめきを増す会議室の面々を見渡す。ヰ近立会人が「伏龍がそんなに愚かな訳が無かろうが!もっかい調べ直せ!」と叫ぶ。能輪陸號が「女は分かりませんよ」と頬杖をつく。横の口論におろおろしつつも「何か、何か理由がある筈です。話を聞きましょう」と宥めようとするのは亜面立会人。その中で醒めた目をしているのは、「最悪が起きてから晴乃が消えた」事を知っている弥鱈立会人と泉江外務卿。同じく周りを見ていた泉江外務卿とは、視線を交わし合う。
「伏龍が何を狙っておるかは分からん…しかし、先の立ち会い中、伏龍が賭郎…いや、裏社会全てを嫌っておった事が分かったのじゃ。お屋形様が奴にやられる事は無かろうが…既にお屋形様が伏龍と共に消えるというイレギュラーが起こっておる。次に奴がどう動くか分からん。早急に二人を確保するのじゃ」
ざわつきは止まない。裏切りに憤る者、騙されたと嘆く者、理由がある筈だと繰り返す者、そして、裏があると疑う俺達。
そんな中、番代立会人が挙手する。
「どうした、番代立会人」
「あの女、殺してしまっても?」
ざわつきが止み、皆が能輪壱號を見た。彼は判事と目配せし合い、「いや、生捕じゃ。あの目は捨て難い」と答えた。
長生きできないと断言した彼女を思い出す。成る程、こういう事か。
「この話は他言無用じゃ。皆、心して掛かるのじゃ」
会議の終わりを察した者からばらばらと立ち上がる。ピリついた空気の中、判事が「伏龍会、残れ。個別に話を聞きたい」と言い放つ。いつの間に伏龍会は公式になったのだろうか。俺は仕方がなく自席に戻ると、頬杖をついて他立会人の退席を待った。
「さて…」
全員退室したのを確認し、判事はネクタイを直す。
「伏龍の事だ」
「判事…疑われとんのは胸糞悪いですわ…あの糞女…ワシらの事騙しとったんかい…」
「門倉君、落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられますか?!あの女、ワシらと笑いながら内心では舌出しとったんですよ?!ワシは…あいつの事を信頼しとったんに…」
嫌いって何じゃあ…と項垂れる門っち。その姿に苛立った亜面立会人が「貴方晴乃さんに刺客差し向けてますよね?嫌われても仕方ないのでは?」と睨む。
「あれはワシらの信頼関係あってこそじゃけえ、ええんじゃ!弥鱈立会人なんぞ高校卒業後に音信不通やんけ!」
「あれはそもそも嫌われるつもりでした」
「まあまあ門倉、そこまでにしなさいよ」
「ラリアットに言われとうないわ!」
怒り立つ門倉立会人が次のターゲットを南方立会人に変え、食ってかかろうとした所で、銅寺立会人が立ち塞がり、胸ポケットからハンカチを取り出した。
「判事に諌められてもまだ足りない人に、弐號は相応しくありませんね」
ひらり。ハンカチが二人の足元に落ちる。
「なんやぁワレ…売っとるんかワシに…喧嘩を…」
「私達は立会人ですよ」
ビリビリと怒気を放つ門っちに対し、銅寺立会人は同じだけの殺気を返しながらも真っ直ぐ静かに正対する。身長差のあるはずの二人が、今だけは同じに見える。
二人の緊張がピークに達した時、門っちが選んだのは鉾を収める道だった。
「…ワシが未熟やった」
彼はそう言ってハンカチを拾うと、「すまんかった」と埃を払い、銅寺立会人に返した。
「信じられない気持ちも尤もです。私も…上階の騒ぎが聞こえていなければ取り乱していたでしょう」
銅寺立会人は気恥ずかしそうに頭をかくと、また居住まいを正して言った。
「先生を… 伏龍さんを逃したのは私です。そうすべきだと判断しました」
「今来られる者はこれで揃った…始めよう」
判事がそう言ったのをきっかけに、全員が居住まいを正す。言葉を引き継いだのは能輪壱號だ。
「良いニュースと悪いニュースがある。本来であれば正式な席を設けるべきじゃが…門倉がこれより立会人として復帰する」
既に第弐席に腰掛けていた門っちは立ち上がり、全体へ深々と礼をした。大きな拍手が起こる。
「新たな號数は弐。これは切間立会人の穴を埋める形になるが…異存がある者は今ここで申し出よ」
能輪壱號が全体を見回すが、門っちに挑戦しようという猛者はいない。立会人の中でも大柄な門っちは戦闘もゴリゴリのパワータイプ。反感のある者も今日手を上げる事はしないだろう。
「さて…それでは、早速悪いニュースに入らせて貰おうの…何より時間がない。俄に信じ難い話じゃと思うが…皆、心して聞いてくれ。伏龍晴乃がお屋形様と共に失踪したのじゃ」
違うだろ、それ。
だが、声を上げることはしない。裏があるのは分かっていた事。俺はざわめきを増す会議室の面々を見渡す。ヰ近立会人が「伏龍がそんなに愚かな訳が無かろうが!もっかい調べ直せ!」と叫ぶ。能輪陸號が「女は分かりませんよ」と頬杖をつく。横の口論におろおろしつつも「何か、何か理由がある筈です。話を聞きましょう」と宥めようとするのは亜面立会人。その中で醒めた目をしているのは、「最悪が起きてから晴乃が消えた」事を知っている弥鱈立会人と泉江外務卿。同じく周りを見ていた泉江外務卿とは、視線を交わし合う。
「伏龍が何を狙っておるかは分からん…しかし、先の立ち会い中、伏龍が賭郎…いや、裏社会全てを嫌っておった事が分かったのじゃ。お屋形様が奴にやられる事は無かろうが…既にお屋形様が伏龍と共に消えるというイレギュラーが起こっておる。次に奴がどう動くか分からん。早急に二人を確保するのじゃ」
ざわつきは止まない。裏切りに憤る者、騙されたと嘆く者、理由がある筈だと繰り返す者、そして、裏があると疑う俺達。
そんな中、番代立会人が挙手する。
「どうした、番代立会人」
「あの女、殺してしまっても?」
ざわつきが止み、皆が能輪壱號を見た。彼は判事と目配せし合い、「いや、生捕じゃ。あの目は捨て難い」と答えた。
長生きできないと断言した彼女を思い出す。成る程、こういう事か。
「この話は他言無用じゃ。皆、心して掛かるのじゃ」
会議の終わりを察した者からばらばらと立ち上がる。ピリついた空気の中、判事が「伏龍会、残れ。個別に話を聞きたい」と言い放つ。いつの間に伏龍会は公式になったのだろうか。俺は仕方がなく自席に戻ると、頬杖をついて他立会人の退席を待った。
「さて…」
全員退室したのを確認し、判事はネクタイを直す。
「伏龍の事だ」
「判事…疑われとんのは胸糞悪いですわ…あの糞女…ワシらの事騙しとったんかい…」
「門倉君、落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられますか?!あの女、ワシらと笑いながら内心では舌出しとったんですよ?!ワシは…あいつの事を信頼しとったんに…」
嫌いって何じゃあ…と項垂れる門っち。その姿に苛立った亜面立会人が「貴方晴乃さんに刺客差し向けてますよね?嫌われても仕方ないのでは?」と睨む。
「あれはワシらの信頼関係あってこそじゃけえ、ええんじゃ!弥鱈立会人なんぞ高校卒業後に音信不通やんけ!」
「あれはそもそも嫌われるつもりでした」
「まあまあ門倉、そこまでにしなさいよ」
「ラリアットに言われとうないわ!」
怒り立つ門倉立会人が次のターゲットを南方立会人に変え、食ってかかろうとした所で、銅寺立会人が立ち塞がり、胸ポケットからハンカチを取り出した。
「判事に諌められてもまだ足りない人に、弐號は相応しくありませんね」
ひらり。ハンカチが二人の足元に落ちる。
「なんやぁワレ…売っとるんかワシに…喧嘩を…」
「私達は立会人ですよ」
ビリビリと怒気を放つ門っちに対し、銅寺立会人は同じだけの殺気を返しながらも真っ直ぐ静かに正対する。身長差のあるはずの二人が、今だけは同じに見える。
二人の緊張がピークに達した時、門っちが選んだのは鉾を収める道だった。
「…ワシが未熟やった」
彼はそう言ってハンカチを拾うと、「すまんかった」と埃を払い、銅寺立会人に返した。
「信じられない気持ちも尤もです。私も…上階の騒ぎが聞こえていなければ取り乱していたでしょう」
銅寺立会人は気恥ずかしそうに頭をかくと、また居住まいを正して言った。
「先生を… 伏龍さんを逃したのは私です。そうすべきだと判断しました」