からむ宿木
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「行って行って行って!!」
半狂乱の晴乃の声が、全員を現実に引き戻す。余韻もへったくれも無い女だと呆れてしまうのは、俺が立会人だからだろう。
ドタバタと両立会人の元に駆けつける救急隊員の通路を確保せんと「ほら下がって下さいあんたらいても役に立たんでしょうが!」と口汚くパーテションの後ろにギャラリーを下げさせる彼女は普段通りに見えて、口許が緩む。俺も逆鱗に触れない程度に近付こうと思った時、彼女は驚いた様に振り返る。担架で運ばれながらにして、切間立会人が彼女の袖を掴んだのだ。
「そ…いち、たのむね」
破れた喉で伝えた願い。彼女は何も言わず、ただ麗かな笑顔で受け止めた。
担架が去っていく。そして救急車に乗せられ、走り去っていくまで晴乃は頭を下げ続けた。祈りに似たその姿が直るまで、俺は黙して彼女の横に立っていた。
「行っちまったぞ〜」
晴乃にいち早く声を掛けたのは、弥鱈立会人だった。彼女はその声に応じて顔を上げると、髪を手櫛で直す。
「後は祈るだけだねえ」
「そーだな」
「弥鱈君は帰る?」
「おー」
「そっかあ。私片付けしなきゃいけない気がする」
「頑張れ下っ端」
「下っ端、立ち会い二連戦した」
「なら帰ればいい」
そう割り込むと、弥鱈立会人と晴乃がびっくりした顔で俺を見る。
「うわあ…」
「目蒲さん、悪ぅ…」
「絶対学生時代掃除サボってたぜ、アイツ」
「絶対隅っこでホウキを杖にしてたね」
「お前ら…!」
引っ叩いてやろうかと思ったが、二人が「ねー」と頷き合いながらベルトパーテションを片付け始めるので、何も言えずそれに準じる。… 晴乃だけが片付けじゃなかったか?
「…お前ら何してるんだ?」
「ああ夕湖。目蒲さんが働け三下って言うからさあ」
「はあああ?!」
「ねー弥鱈君、目蒲さん素直でしょ?」
「チョロすぎて笑うわ」
「てめえら…!」
泉江外務卿と命知らず二人で一頻り笑った後、晴乃は「じゃ、三人ともお気を付けて」と手を振った。
「何を言う、晴乃。帰るぞ」
「ううん…ここで帰ったら自分で幹部級と言ってる気がしてなんか凄い嫌。晴乃ちゃんは事務兼人質でいたいのよね」
「あっそ。じゃ、後でな」
弥鱈立会人が素直に言い分を受け入れて歩き出し、泉江外務卿も迷いつつもそれに倣おうとした所で、後から来た夜行掃除人が晴乃の頭を引っ掴む。
「お前は俺と帰るぞ…小娘」
「へ?うん?え?」
混乱状態のまま夜行掃除人に引き摺られる晴乃。俺はその後を追い、待機していたリムジンに乗り込んだ。
「ほああリムジン!じゃなくて、何があったんですか夜行さん?!」
「考え得る最悪が起きた」
すぐに出せ。と運転手に短く命令を出した夜行掃除人は、そのままずるりと椅子に深く腰掛けた。ドアが閉まり、五人を乗せたリムジンが出発する。
「えー、最悪?最悪…」
考え得る最悪を真面目に考える馬鹿女を前に、俺達三人は茶化すに茶化せず沈黙する。
「いやでも…それは最悪すぎるし…」
「おい待て馬鹿女。何故今考え得る最悪をすっ飛ばした」
「馬鹿だからですよ〜」
「お前ら、言い過ぎだぞ…」
泉江外務卿に諭されるが、今のはどうしても馬鹿だろう。謝る気はない。その代わり「で、何なんだ」と件の馬鹿に聞いた。
「ええと…」
「言えんか」
座席にだらけ切ったまま、夜行掃除人が問い掛ける。彼女が戸惑いを露わに頷くと、「なら、それが正解だ」と唸るように言う。
「伏龍、お前だけ三連戦だ。今は休んでおけ」
晴乃は唇を噛み締め、「目蒲さん、一応私のクレカ返して」と低い声で言う。目に灯る青い焔の理由は聞けもしなかった。
半狂乱の晴乃の声が、全員を現実に引き戻す。余韻もへったくれも無い女だと呆れてしまうのは、俺が立会人だからだろう。
ドタバタと両立会人の元に駆けつける救急隊員の通路を確保せんと「ほら下がって下さいあんたらいても役に立たんでしょうが!」と口汚くパーテションの後ろにギャラリーを下げさせる彼女は普段通りに見えて、口許が緩む。俺も逆鱗に触れない程度に近付こうと思った時、彼女は驚いた様に振り返る。担架で運ばれながらにして、切間立会人が彼女の袖を掴んだのだ。
「そ…いち、たのむね」
破れた喉で伝えた願い。彼女は何も言わず、ただ麗かな笑顔で受け止めた。
担架が去っていく。そして救急車に乗せられ、走り去っていくまで晴乃は頭を下げ続けた。祈りに似たその姿が直るまで、俺は黙して彼女の横に立っていた。
「行っちまったぞ〜」
晴乃にいち早く声を掛けたのは、弥鱈立会人だった。彼女はその声に応じて顔を上げると、髪を手櫛で直す。
「後は祈るだけだねえ」
「そーだな」
「弥鱈君は帰る?」
「おー」
「そっかあ。私片付けしなきゃいけない気がする」
「頑張れ下っ端」
「下っ端、立ち会い二連戦した」
「なら帰ればいい」
そう割り込むと、弥鱈立会人と晴乃がびっくりした顔で俺を見る。
「うわあ…」
「目蒲さん、悪ぅ…」
「絶対学生時代掃除サボってたぜ、アイツ」
「絶対隅っこでホウキを杖にしてたね」
「お前ら…!」
引っ叩いてやろうかと思ったが、二人が「ねー」と頷き合いながらベルトパーテションを片付け始めるので、何も言えずそれに準じる。… 晴乃だけが片付けじゃなかったか?
「…お前ら何してるんだ?」
「ああ夕湖。目蒲さんが働け三下って言うからさあ」
「はあああ?!」
「ねー弥鱈君、目蒲さん素直でしょ?」
「チョロすぎて笑うわ」
「てめえら…!」
泉江外務卿と命知らず二人で一頻り笑った後、晴乃は「じゃ、三人ともお気を付けて」と手を振った。
「何を言う、晴乃。帰るぞ」
「ううん…ここで帰ったら自分で幹部級と言ってる気がしてなんか凄い嫌。晴乃ちゃんは事務兼人質でいたいのよね」
「あっそ。じゃ、後でな」
弥鱈立会人が素直に言い分を受け入れて歩き出し、泉江外務卿も迷いつつもそれに倣おうとした所で、後から来た夜行掃除人が晴乃の頭を引っ掴む。
「お前は俺と帰るぞ…小娘」
「へ?うん?え?」
混乱状態のまま夜行掃除人に引き摺られる晴乃。俺はその後を追い、待機していたリムジンに乗り込んだ。
「ほああリムジン!じゃなくて、何があったんですか夜行さん?!」
「考え得る最悪が起きた」
すぐに出せ。と運転手に短く命令を出した夜行掃除人は、そのままずるりと椅子に深く腰掛けた。ドアが閉まり、五人を乗せたリムジンが出発する。
「えー、最悪?最悪…」
考え得る最悪を真面目に考える馬鹿女を前に、俺達三人は茶化すに茶化せず沈黙する。
「いやでも…それは最悪すぎるし…」
「おい待て馬鹿女。何故今考え得る最悪をすっ飛ばした」
「馬鹿だからですよ〜」
「お前ら、言い過ぎだぞ…」
泉江外務卿に諭されるが、今のはどうしても馬鹿だろう。謝る気はない。その代わり「で、何なんだ」と件の馬鹿に聞いた。
「ええと…」
「言えんか」
座席にだらけ切ったまま、夜行掃除人が問い掛ける。彼女が戸惑いを露わに頷くと、「なら、それが正解だ」と唸るように言う。
「伏龍、お前だけ三連戦だ。今は休んでおけ」
晴乃は唇を噛み締め、「目蒲さん、一応私のクレカ返して」と低い声で言う。目に灯る青い焔の理由は聞けもしなかった。