からむ宿木
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「この二人の空気…どうやらやり合うようだね。理由は謎だけど」
密葬課だったであろう女が、横の男にそう話し出す。逆鱗にいる箕輪が、晴乃に説明を求めた。
「號奪戦…と言って、今からあの二人は、立会人のランキング一位を賭けて戦います」
「成る程ネェ… 晴乃ちゃん、他にルールは?」
ええと、と言い淀んだ彼女の顔を、女が覗き込む。
「晴乃…お嬢さん、伏龍晴乃かい?」
「へ?ああそうです。三鷹花さんと真鍋匠さんですよね?父がお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる晴乃。説明が終わる前に號奪戦が始まりそうだったので、俺は勝手に説明を引き継いだ。
「腕一本分の距離から始めて、十秒以内に相手を心肺停止させる。ルールはそれだけです」
「ほーん…ありがとね、ゲゲゲの」
「目蒲です。出会い頭に名乗った筈ですが」
「あーそうだっけ?ごめんごめん」
舌打ちをすれば、晴乃が代わりに箕輪に頭を下げた。
「…この號奪戦、どっちに転ぶと見る」
夜行掃除人が若手達に問いかける。すかさず一番親交の深い泉江外務卿が「戦いには相性があります。蓋を開けるまで分かりませんが、おそらく…二人はあまり噛み合わないかと」と答えた。「だろうな」と夜行掃除人は頷く。
「それ以前に夜行立会人にとってこれはやり辛い勝負なのでは…」
「…なら、やらなければいいんですよ。もう…」
晴乃が心底嫌そうな声を出す。それに応えるように、三鷹は「やり方もさる事ながら、正気の沙汰じゃないね」と腕組みする。
「何の意味があって仲間同士で…私には理解し難いね…最終的にどちらかが死んでまで」
「理由は一つだけ。彼らは仲間なのではなく、賭郎…立会人だからです」
ふぅ、と微かなため息を残し、晴乃がまた携帯を片手に移動する。ついて行こうとするが、「見てたいでしょ?そこにいて良いですよ」と笑顔を向けられた。
「何をしに行く気だ?」
「うん?病院に最終確認。オペの準備できてますかーって」
「最初にしてなかったか?」
「しましたよー。何回でもしますよー」
けらけら笑って、彼女は外に出て行く。俺は呆れてその背を目で追った。
「…恐らく、二人とも一命は取り留めるでしょう」
「…弥鱈立会人、何を」
「勘です。俺は…アイツが狙ったものを取りこぼした所を見た事がない」
弥鱈立会人は、同じく彼女を背を見つめながらそう言った。
「10秒計の砂時計を用意しました。10秒経つと自動的に回転し、音を発します。この音を號奪戦開始と終了の合図とします。それではお二人とも、號奪戦の間合いまでお進み下さい」
黒服リーダーの指示で向かい合う両者。砂時計の奏でる、コーンという高い音。
「次の合図を、號奪戦開始の合図とします」
砂時計の砂が落ちていく。両者はそれにはちらりとも目をくれず、ただ見つめ合う。殺意が重たく場を満たしている。
砂が落ち切る。
砂時計が回転する。
再び高い音が響くのと全く同時、両者の肉体は弾かれたようにぶつかり合った。
最初に打ち込んだのは切間立会人。一撃で肋をへし折られ、夜行立会人が吐血する。しかし、夜行立会人は腹を押す肘を左手で打ち落とし、腰を落とす。
ーー極まった。
夜行立会人の右が、切間立会人を吹き飛ばす。吹き飛ばした、筈だった。彼は脚力だけでその身を起こしたかと思えば、一瞬で復帰し、夜行立会人を蹴り上げる。
「ほんの一瞬だったな…お前が零號だったのは…」
夜行立会人はその言葉には答えない。その代わり、切間立会人のネクタイを掴んだ。己の蹴りの勢いで浮かされ、逃げ場を失った切間立会人に、夜行立会人が踵落としを決める。いや、違う。切間立会人はそれを手で受けた。
無視できないダメージを負いつつ地上に降り立った両者は、再び向かい合う。勝負は折り返しにきている。
「妃古壱〜…頭が高い」
次に極めたのは切間立会人。腹への一発。防ぐことのできなかった夜行立会人が柱に強く打ち付けられた。
ずるり。夜行立会人が力を失う。
いや、違う。目が、目が違う。俺は視線の先を目で確認する。嘘喰い。
立会人が、心酔する奴の前で膝をつくものかよ。
夜行立会人の体が爆ぜる。執念が拳を持ち上げる。同じく拳でそれを迎え撃つ切間立会人。
拳が融け合う。否、それはお互い構えた時に分かっていた。切間立会人はすかさず左を打ち込む。しかし、それより早かったのは、砕けた拳を無理矢理解き、体重を乗せて前に出した夜行立会人だった。
突き出た骨が切間立会人の首筋を掻っ切る。血飛沫。静寂。
そのまま二人は倒れ込んだ。
密葬課だったであろう女が、横の男にそう話し出す。逆鱗にいる箕輪が、晴乃に説明を求めた。
「號奪戦…と言って、今からあの二人は、立会人のランキング一位を賭けて戦います」
「成る程ネェ… 晴乃ちゃん、他にルールは?」
ええと、と言い淀んだ彼女の顔を、女が覗き込む。
「晴乃…お嬢さん、伏龍晴乃かい?」
「へ?ああそうです。三鷹花さんと真鍋匠さんですよね?父がお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる晴乃。説明が終わる前に號奪戦が始まりそうだったので、俺は勝手に説明を引き継いだ。
「腕一本分の距離から始めて、十秒以内に相手を心肺停止させる。ルールはそれだけです」
「ほーん…ありがとね、ゲゲゲの」
「目蒲です。出会い頭に名乗った筈ですが」
「あーそうだっけ?ごめんごめん」
舌打ちをすれば、晴乃が代わりに箕輪に頭を下げた。
「…この號奪戦、どっちに転ぶと見る」
夜行掃除人が若手達に問いかける。すかさず一番親交の深い泉江外務卿が「戦いには相性があります。蓋を開けるまで分かりませんが、おそらく…二人はあまり噛み合わないかと」と答えた。「だろうな」と夜行掃除人は頷く。
「それ以前に夜行立会人にとってこれはやり辛い勝負なのでは…」
「…なら、やらなければいいんですよ。もう…」
晴乃が心底嫌そうな声を出す。それに応えるように、三鷹は「やり方もさる事ながら、正気の沙汰じゃないね」と腕組みする。
「何の意味があって仲間同士で…私には理解し難いね…最終的にどちらかが死んでまで」
「理由は一つだけ。彼らは仲間なのではなく、賭郎…立会人だからです」
ふぅ、と微かなため息を残し、晴乃がまた携帯を片手に移動する。ついて行こうとするが、「見てたいでしょ?そこにいて良いですよ」と笑顔を向けられた。
「何をしに行く気だ?」
「うん?病院に最終確認。オペの準備できてますかーって」
「最初にしてなかったか?」
「しましたよー。何回でもしますよー」
けらけら笑って、彼女は外に出て行く。俺は呆れてその背を目で追った。
「…恐らく、二人とも一命は取り留めるでしょう」
「…弥鱈立会人、何を」
「勘です。俺は…アイツが狙ったものを取りこぼした所を見た事がない」
弥鱈立会人は、同じく彼女を背を見つめながらそう言った。
「10秒計の砂時計を用意しました。10秒経つと自動的に回転し、音を発します。この音を號奪戦開始と終了の合図とします。それではお二人とも、號奪戦の間合いまでお進み下さい」
黒服リーダーの指示で向かい合う両者。砂時計の奏でる、コーンという高い音。
「次の合図を、號奪戦開始の合図とします」
砂時計の砂が落ちていく。両者はそれにはちらりとも目をくれず、ただ見つめ合う。殺意が重たく場を満たしている。
砂が落ち切る。
砂時計が回転する。
再び高い音が響くのと全く同時、両者の肉体は弾かれたようにぶつかり合った。
最初に打ち込んだのは切間立会人。一撃で肋をへし折られ、夜行立会人が吐血する。しかし、夜行立会人は腹を押す肘を左手で打ち落とし、腰を落とす。
ーー極まった。
夜行立会人の右が、切間立会人を吹き飛ばす。吹き飛ばした、筈だった。彼は脚力だけでその身を起こしたかと思えば、一瞬で復帰し、夜行立会人を蹴り上げる。
「ほんの一瞬だったな…お前が零號だったのは…」
夜行立会人はその言葉には答えない。その代わり、切間立会人のネクタイを掴んだ。己の蹴りの勢いで浮かされ、逃げ場を失った切間立会人に、夜行立会人が踵落としを決める。いや、違う。切間立会人はそれを手で受けた。
無視できないダメージを負いつつ地上に降り立った両者は、再び向かい合う。勝負は折り返しにきている。
「妃古壱〜…頭が高い」
次に極めたのは切間立会人。腹への一発。防ぐことのできなかった夜行立会人が柱に強く打ち付けられた。
ずるり。夜行立会人が力を失う。
いや、違う。目が、目が違う。俺は視線の先を目で確認する。嘘喰い。
立会人が、心酔する奴の前で膝をつくものかよ。
夜行立会人の体が爆ぜる。執念が拳を持ち上げる。同じく拳でそれを迎え撃つ切間立会人。
拳が融け合う。否、それはお互い構えた時に分かっていた。切間立会人はすかさず左を打ち込む。しかし、それより早かったのは、砕けた拳を無理矢理解き、体重を乗せて前に出した夜行立会人だった。
突き出た骨が切間立会人の首筋を掻っ切る。血飛沫。静寂。
そのまま二人は倒れ込んだ。