からむ宿木
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ここで話して良かったのか?」と夕湖が聞いてきたので、私は「もうお屋形様に正式にバレたからね。怖いもん無しよ」と肩を竦める。
「お屋形様はこの事を?」
「話しては無かったけど、察してたんじゃないかなあ?私が‘賭郎じゃない’って言う度にしょんぼりしてたし」
使ったワードの幼さ故か、お屋形様の行動の幼さ故か、夕湖は薄く苦笑いした。私は「どんなに繕っても皆子どもだね」と笑う。
「皆お前が大好きなんだ」
「どうかなあ」
有難い事に好いた分だけ好かれてる自覚はあるけど、恥ずかしいのではぐらかす。丁度捨隈さん達が降りてきたので、私は夕湖との会話を打ち切った。
「無事…だったのか」
「ちゃんと助けてもらえました。信じてみるもんです」
「そうか…」
そこで会話が止まる。私の方もどう切り出すか考えていなかったので、今更悩む。
「俺には…それは出来ない」
「…これに関しては私の頭がおかしいだけだから大丈夫。誰もここまで求めないと思いますよ。でも…信じて何とかなるパターンもあるんだって分かって貰えたら嬉しいです」
「…ここまで鮮やかな他力本願を見せてきたのは貴女が初めてだが…類する光景は、何度も見てきた。だが、俺には出来なかった」
「…きっつい事言っていい?」
「…ああ」
「貴方、中学生くらいで止まってるからだよ。生きづらいのはそのせい。何かあったでしょ、その時」
捨隈さんが目を丸くする。ホントは時間をかけて本職のカウンセリングを受けるべき案件だが、私の荒療治で申し訳ない。
「人を…殺した。そして逃げ出した」
「そっか。詳しい話は聞かないけど、多分それ間違ってなかったと思う。黒孩子で生まれて殺してやりたい程憎まなくて済む人生なんて無理でしょ。ただ…無茶苦茶心の負担が大きかったんだろうね。貴方の心はいつまでもそこにいる。…場所変えたかったら素直に教えてね?嫌ならもう話さないし」
「いや…いい。いいんだ…」
「ううん…良くなさそうね。程々にしよっか。ホントは私さ、貴方に過去ぜーんぶ話すようにお願いしようと思ってたんだ。アダルトチルドレンにはそれが一番効くから。でも…他のお願いが出来ちゃったから、それはまた今度」
「今度…?」
「今度。ごめんね、今からは無理だ。時間が取れない」
「いや…やるのか」
「あ、嫌ならやらないよ?さっき困ってそうだったから言ってるだけ。貸し借りに感じるならお金払って本職のカウンセラー雇うといいよ」
「いや…頼む」
「いいともさ」
「…俺のお願いのようになった」
「あはは。貸しにしてやろうじゃあないか」
「貴女のお願いとは?」
「うん、力を貸して欲しいの。私はこの目のせいでね、多分長生きできない。気付いちゃいけない事に気付いて、知っちゃいけない事を知りがちだからね。早晩消されると思うけど…ただ死ぬのは不服。だから…私は私のナイフが欲しい。私の敵を一突きにできるような、ね」
「賭郎に入って、貴女の部下になればいいか?」
「それは嫌!賭郎なんかに入ってごらんよ、いつの間にかハンカチ渡されて立会人になってるに決まってる!私よりずっと上司になってまうやないかい!」
「そ…そうか」
「何より…貴方の人生丸ごと引き受ける器量はないし、今回のでそこまでの貸しを作れたとも思ってないよ。一回だけ、賭郎の人じゃ何ともならない時に、力を貸して欲しい。ダメ?」
「引き受けた…時が来れば、貴女のナイフになろう」
「ねえ捨隈、その時までどうする気だい?」
「ぐはあ!晴乃、大幹部の前で謀反の準備とはイカれてるじゃないか!好きだぞっ、そういうの!」
話が纏まったと思ったら、私も捨隈さんも刺客に絡みつかれる。
「むむむ謀反するとは言ってませんもん!」
「晴乃ー、そこまでやっておいて謀反しない方がびっくりだぞー」
切間さんが後ろから両肩を掴み、揉みながら話す。顔は見せない気らしい。楽しそうな声から、プレッシャーを感じる。
「いいじゃないですか私こんなにも働いたんだから!こんな健気に働く反乱分子私くらいですよ?!」
「どんなに健気に頑張っても反乱分子で台無しだぞ」
「そもそも私賭郎じゃありませんもん!」
「いつでもハンカチをやると言っているだろう?今なら零號で作ってやるぞ!」
「一日持たずに死んでしまう」
「渡した瞬間殺すと思う」
「よくそれを渡そうと思いましたね」
「反乱分子だからな」
「今だから聞きますけど、反乱分子なの気付いてましたよね」
「勿論」
切間さんはぽんと両肩を叩いて、「お前はそれでいい。頼んだぞ」と笑った。
すぐ横では、捨隈さんが鞍馬さんに絡まれている。
「ねえっ、あんた…行く宛はあるのかい?」
「いや…無いが」
「ふうん…じゃあさ、ウチで働かない?金は出してやるよ」
裏しか無さそうな鞍馬さんの言葉に、捨隈さんは目に見えて警戒する。輪を掛けて面倒くさい事に、貘様まで参戦してくるではないか。
「えー、クララのトコに行くなら俺のトコにおいでよ。いい暮らしさせてあげるから」
「結構だ」
「そう冷たい事お言いでないよ。なあに…取って食ったりはしないさ…フフ」
「結構だ。俺はもう、誰の下に付く気もない」
「そんな事言っちゃってー、アイデアルの報復から身を守る為の暴が必要なんじゃないのー?カルちゃんクラスを今から用意するのは至難の業よー?」
「そうよ捨隈…なぁに、裏切る男には裏切る男なりの使い方があるもんさ…さあっ、どっちにするんだい?」
「どちらにも付かないと言っている」
「ぐはあ!長いものには巻かれた方がいいぞー、若人!」
切間さんは私の肩をアームレスト代わりに寛ぎながらそう笑うので、私も重みに耐えつつ「他にやりたい事がないならバイトさせて貰ったら?」と笑っておいた。そして、それに応えて捨隈さんはちょっとだけ逡巡する様子を見せ、鞍馬さんに「よろしく頼む」と頭を下げた。
「お屋形様はこの事を?」
「話しては無かったけど、察してたんじゃないかなあ?私が‘賭郎じゃない’って言う度にしょんぼりしてたし」
使ったワードの幼さ故か、お屋形様の行動の幼さ故か、夕湖は薄く苦笑いした。私は「どんなに繕っても皆子どもだね」と笑う。
「皆お前が大好きなんだ」
「どうかなあ」
有難い事に好いた分だけ好かれてる自覚はあるけど、恥ずかしいのではぐらかす。丁度捨隈さん達が降りてきたので、私は夕湖との会話を打ち切った。
「無事…だったのか」
「ちゃんと助けてもらえました。信じてみるもんです」
「そうか…」
そこで会話が止まる。私の方もどう切り出すか考えていなかったので、今更悩む。
「俺には…それは出来ない」
「…これに関しては私の頭がおかしいだけだから大丈夫。誰もここまで求めないと思いますよ。でも…信じて何とかなるパターンもあるんだって分かって貰えたら嬉しいです」
「…ここまで鮮やかな他力本願を見せてきたのは貴女が初めてだが…類する光景は、何度も見てきた。だが、俺には出来なかった」
「…きっつい事言っていい?」
「…ああ」
「貴方、中学生くらいで止まってるからだよ。生きづらいのはそのせい。何かあったでしょ、その時」
捨隈さんが目を丸くする。ホントは時間をかけて本職のカウンセリングを受けるべき案件だが、私の荒療治で申し訳ない。
「人を…殺した。そして逃げ出した」
「そっか。詳しい話は聞かないけど、多分それ間違ってなかったと思う。黒孩子で生まれて殺してやりたい程憎まなくて済む人生なんて無理でしょ。ただ…無茶苦茶心の負担が大きかったんだろうね。貴方の心はいつまでもそこにいる。…場所変えたかったら素直に教えてね?嫌ならもう話さないし」
「いや…いい。いいんだ…」
「ううん…良くなさそうね。程々にしよっか。ホントは私さ、貴方に過去ぜーんぶ話すようにお願いしようと思ってたんだ。アダルトチルドレンにはそれが一番効くから。でも…他のお願いが出来ちゃったから、それはまた今度」
「今度…?」
「今度。ごめんね、今からは無理だ。時間が取れない」
「いや…やるのか」
「あ、嫌ならやらないよ?さっき困ってそうだったから言ってるだけ。貸し借りに感じるならお金払って本職のカウンセラー雇うといいよ」
「いや…頼む」
「いいともさ」
「…俺のお願いのようになった」
「あはは。貸しにしてやろうじゃあないか」
「貴女のお願いとは?」
「うん、力を貸して欲しいの。私はこの目のせいでね、多分長生きできない。気付いちゃいけない事に気付いて、知っちゃいけない事を知りがちだからね。早晩消されると思うけど…ただ死ぬのは不服。だから…私は私のナイフが欲しい。私の敵を一突きにできるような、ね」
「賭郎に入って、貴女の部下になればいいか?」
「それは嫌!賭郎なんかに入ってごらんよ、いつの間にかハンカチ渡されて立会人になってるに決まってる!私よりずっと上司になってまうやないかい!」
「そ…そうか」
「何より…貴方の人生丸ごと引き受ける器量はないし、今回のでそこまでの貸しを作れたとも思ってないよ。一回だけ、賭郎の人じゃ何ともならない時に、力を貸して欲しい。ダメ?」
「引き受けた…時が来れば、貴女のナイフになろう」
「ねえ捨隈、その時までどうする気だい?」
「ぐはあ!晴乃、大幹部の前で謀反の準備とはイカれてるじゃないか!好きだぞっ、そういうの!」
話が纏まったと思ったら、私も捨隈さんも刺客に絡みつかれる。
「むむむ謀反するとは言ってませんもん!」
「晴乃ー、そこまでやっておいて謀反しない方がびっくりだぞー」
切間さんが後ろから両肩を掴み、揉みながら話す。顔は見せない気らしい。楽しそうな声から、プレッシャーを感じる。
「いいじゃないですか私こんなにも働いたんだから!こんな健気に働く反乱分子私くらいですよ?!」
「どんなに健気に頑張っても反乱分子で台無しだぞ」
「そもそも私賭郎じゃありませんもん!」
「いつでもハンカチをやると言っているだろう?今なら零號で作ってやるぞ!」
「一日持たずに死んでしまう」
「渡した瞬間殺すと思う」
「よくそれを渡そうと思いましたね」
「反乱分子だからな」
「今だから聞きますけど、反乱分子なの気付いてましたよね」
「勿論」
切間さんはぽんと両肩を叩いて、「お前はそれでいい。頼んだぞ」と笑った。
すぐ横では、捨隈さんが鞍馬さんに絡まれている。
「ねえっ、あんた…行く宛はあるのかい?」
「いや…無いが」
「ふうん…じゃあさ、ウチで働かない?金は出してやるよ」
裏しか無さそうな鞍馬さんの言葉に、捨隈さんは目に見えて警戒する。輪を掛けて面倒くさい事に、貘様まで参戦してくるではないか。
「えー、クララのトコに行くなら俺のトコにおいでよ。いい暮らしさせてあげるから」
「結構だ」
「そう冷たい事お言いでないよ。なあに…取って食ったりはしないさ…フフ」
「結構だ。俺はもう、誰の下に付く気もない」
「そんな事言っちゃってー、アイデアルの報復から身を守る為の暴が必要なんじゃないのー?カルちゃんクラスを今から用意するのは至難の業よー?」
「そうよ捨隈…なぁに、裏切る男には裏切る男なりの使い方があるもんさ…さあっ、どっちにするんだい?」
「どちらにも付かないと言っている」
「ぐはあ!長いものには巻かれた方がいいぞー、若人!」
切間さんは私の肩をアームレスト代わりに寛ぎながらそう笑うので、私も重みに耐えつつ「他にやりたい事がないならバイトさせて貰ったら?」と笑っておいた。そして、それに応えて捨隈さんはちょっとだけ逡巡する様子を見せ、鞍馬さんに「よろしく頼む」と頭を下げた。