からむ宿木
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ドン引きの目蒲さんを笑いつつ、私は捨隈さんを盗み見る。私は、この人と自分は似た境遇だと思っている。勿論捨隈さんの方がずっとずっとハードだったとは分かっているけど。
調べれば、すぐに彼が黒孩子だと分かった。それは、彼の自分に対する投げやりさの表れだったのだろう。彼は過去を隠そうとはしていなかった。それ故に表の世界には行けなかった事も、よく分かった。
彼は、運が悪かった私なのだ。
だからこそ、彼が行き場をなくしてしまうのは、悲しい。
「俺にも、言っただと?」
ゆっくりとこっちを見ながら、彼は口を開く。横ではマルコ君が彼のドス黒い殺気に気付き、あたふたと頑張っていた端末操作を止めた。
「言いましたとも。貴方がそんなに苦しんで帰ってきて、作戦失敗を責めるボスなら、そんな奴に貴方は勿体ないって言ったんです」
「俺が、勿体ない…はっ!」
彼は鼻で笑う。彼の自己肯定感、自己信頼感の無さから当然来ると思っていた反応だ。だから私は反論する。
「貴方は貴方が思うよりずっと凄い。ここにいるみんなが貴方には手こずった。みーんな、すごい人達なのに。私達は、ううん、少なくとも賭郎は貴方が欲しい。貴方が何者かなんて関係ない」
「何者か…俺は一体何者なんだろうな…それを考えない日はなかった。自分の事…生きる術を。世界を知れば、何かが見えると思った」
彼は自暴自棄になって笑う。悲痛な笑顔に耐えきれず、私は彼の元へ歩み寄る。
「分かりますよ」
「何が分かる…!知れば知るほど疑問は増える一方だ!真っ先に感じた事は、表しようのない怒りと、素朴な興味。笑ったり、信じ合ったり、泣いたり。それ、どうやってやるんだ?」
なあ、教えてくれよ。彼はそう言うと、私の手首を掴んで持ち上げ、割れた窓へと運んでいく。
「うわ捨隈さん?!」
「動かないで頂きたい…目蒲立会人…私は非力故、暴力に晒されれば彼女を落としかねない…ところで目蒲立会人、貴方はどうやっているのです?貴方はどうしてこの女性を信じるのです。彼女が裏切らないと、どうして思えるのです」
「彼女はとっくに裏切る気満々ですよ。ご存知なかったでしょうが、その女は化け物です」
「…人聞き悪いなあ、目蒲さん」
目蒲さんは平然とそう返す。計算なのか素なのか知らないが、彼は最適解を出した。そう、パニックを起こしては思う壺なのだ。
捨隈さんは平然と話す私達に少なからず驚きと不満を持ち、声を荒げる。
「それが分かっていて何故信じる!」
「その馬鹿は、無鉄砲で強情で馬鹿ですが、誰よりも愛情深い女です。それが分かっていれば問題はありません」
「分からない…!何なんだ!お前らは何なんだ!」
「何なんでしょうね。敵同士なのかなあ」
ーーーーーーーーーー
彼女は平然と言う。敵、なのだろうな。
俺達は、立会人は、寄り添って立つ事はしない。そうしていられるのが立会人。故に立場などどうでも良いことなのだ。お前が教師であれ、人質であれ、友人であれ、敵であれ、俺達はそれを愛せる。そう。俺達は彼女を愛している。失う気は、無い。俺は晴乃から預かったままになっていた携帯を後ろ手に操作し、トランシーバーアプリを起動させた。
「私はね、捨隈さん。生まれつき人の気持ちが分かるんです。…あ、比喩じゃないですよ。無茶苦茶洞察力が優れてるんです。お陰様で謎組織に軟禁されて、こうやって便利に使われてます。私軟禁されるような事しましたかね?と強く問いたい」
「おい晴乃、長話はやめておけ。落ちるぞ」
「この高さから落ちたら死にますかねえ」
「お前はな」
ーーーーーーーーーー
目蒲立会人が伏龍と話しながらヘリコプター内の俺を見たので、聞こえてますよの合図に中指を立てた。目蒲立会人は何をしようとしたのか、ピクリと右手を浮かし掛けてやめる。
『生まれつきの事で人生が左右されるのって理不尽だと思いません?私は嫌です。私は自分で選びたい。正義でも悪でもいい。自分で決めたい。賭郎は…いいえ、この裏社会という場所は、私にそれをさせてくれませんでした。だから嫌いです』
それでいいさ。アンタが何を嫌ってようが、アンタは俺の親友だ。
伏龍はお屋形様や泉江外務卿に聞かれていると知ってか知らずか、大分やばい事を喋っている。声の近さから察するに、インカムはしっかり付けたままなのだろうが…恐らく気付いて居ないだろう。何せ馬鹿だ。
「貘様、シートベルトをお締めください」
「ん?どうしたのちゃんみだ」
「このヘリコプターですが〜…直に揺れます」
「了解」
貘様は素直に座席に戻る。これから起こることがよく分かっているのだろう。俺はヘリコプターを一旦タワーから離す。
ーーーーーーーーーー
『でもね、私は賭郎にいる人達のこと、結構好きなんです。いい人ではありませんけど、心に一本芯のある、カッコいい人達だから。憧れてるんです』
晴乃の柔らかい声。私もお前が大好きだよ、と心の中で答える。
タワーを見上げれば、豆粒サイズの人影が確かにデッキからはみ出ている。あれが晴乃だろう。そして、どうやら目蒲立会人は私達にあれを何とかするよう求めている。晴乃が聞かれてはまずい事をペラペラ喋り、目蒲立会人が状況をそれとなく伝えたという事は、恐らくそういうことだ。私達を使おうなどと、偉くなったものだ。非常に合理的だが、癪に触る。
「夜行掃除人、晴乃が落ちてきます。救助の手伝いをお願いします」
「あいつは何をやっているんだ」
「分かればこれ以上楽な事はないでしょうね」
「伊達にお屋形様とつるんでねえな」
弥鱈立会人の操縦するヘリコプターが移動する。ダウンウォッシュで晴乃をタワーから遠ざけるつもりだろう。私達はそれを踏まえて落下予想地点まで歩き始める。
『好きと嫌いがごちゃ混ぜになってるのって、捨隈さんもそうでしょ?全部嫌いだけど、でも、我を忘れて真剣勝負してる時間だけは好き。だからここにいる。貴方も私も、どでかい嫌いの沼の中に、キラキラ光る好きがあるから沼から出られない。それでいいんじゃないかな。憧れる人みたいに、真っ直ぐ歩けないままだけど』
「私は、そういうお前が大好きだ。落ちてこい」
やだぁ、という照れた声。繋がってるとは知らなかったのだろうな。
調べれば、すぐに彼が黒孩子だと分かった。それは、彼の自分に対する投げやりさの表れだったのだろう。彼は過去を隠そうとはしていなかった。それ故に表の世界には行けなかった事も、よく分かった。
彼は、運が悪かった私なのだ。
だからこそ、彼が行き場をなくしてしまうのは、悲しい。
「俺にも、言っただと?」
ゆっくりとこっちを見ながら、彼は口を開く。横ではマルコ君が彼のドス黒い殺気に気付き、あたふたと頑張っていた端末操作を止めた。
「言いましたとも。貴方がそんなに苦しんで帰ってきて、作戦失敗を責めるボスなら、そんな奴に貴方は勿体ないって言ったんです」
「俺が、勿体ない…はっ!」
彼は鼻で笑う。彼の自己肯定感、自己信頼感の無さから当然来ると思っていた反応だ。だから私は反論する。
「貴方は貴方が思うよりずっと凄い。ここにいるみんなが貴方には手こずった。みーんな、すごい人達なのに。私達は、ううん、少なくとも賭郎は貴方が欲しい。貴方が何者かなんて関係ない」
「何者か…俺は一体何者なんだろうな…それを考えない日はなかった。自分の事…生きる術を。世界を知れば、何かが見えると思った」
彼は自暴自棄になって笑う。悲痛な笑顔に耐えきれず、私は彼の元へ歩み寄る。
「分かりますよ」
「何が分かる…!知れば知るほど疑問は増える一方だ!真っ先に感じた事は、表しようのない怒りと、素朴な興味。笑ったり、信じ合ったり、泣いたり。それ、どうやってやるんだ?」
なあ、教えてくれよ。彼はそう言うと、私の手首を掴んで持ち上げ、割れた窓へと運んでいく。
「うわ捨隈さん?!」
「動かないで頂きたい…目蒲立会人…私は非力故、暴力に晒されれば彼女を落としかねない…ところで目蒲立会人、貴方はどうやっているのです?貴方はどうしてこの女性を信じるのです。彼女が裏切らないと、どうして思えるのです」
「彼女はとっくに裏切る気満々ですよ。ご存知なかったでしょうが、その女は化け物です」
「…人聞き悪いなあ、目蒲さん」
目蒲さんは平然とそう返す。計算なのか素なのか知らないが、彼は最適解を出した。そう、パニックを起こしては思う壺なのだ。
捨隈さんは平然と話す私達に少なからず驚きと不満を持ち、声を荒げる。
「それが分かっていて何故信じる!」
「その馬鹿は、無鉄砲で強情で馬鹿ですが、誰よりも愛情深い女です。それが分かっていれば問題はありません」
「分からない…!何なんだ!お前らは何なんだ!」
「何なんでしょうね。敵同士なのかなあ」
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彼女は平然と言う。敵、なのだろうな。
俺達は、立会人は、寄り添って立つ事はしない。そうしていられるのが立会人。故に立場などどうでも良いことなのだ。お前が教師であれ、人質であれ、友人であれ、敵であれ、俺達はそれを愛せる。そう。俺達は彼女を愛している。失う気は、無い。俺は晴乃から預かったままになっていた携帯を後ろ手に操作し、トランシーバーアプリを起動させた。
「私はね、捨隈さん。生まれつき人の気持ちが分かるんです。…あ、比喩じゃないですよ。無茶苦茶洞察力が優れてるんです。お陰様で謎組織に軟禁されて、こうやって便利に使われてます。私軟禁されるような事しましたかね?と強く問いたい」
「おい晴乃、長話はやめておけ。落ちるぞ」
「この高さから落ちたら死にますかねえ」
「お前はな」
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目蒲立会人が伏龍と話しながらヘリコプター内の俺を見たので、聞こえてますよの合図に中指を立てた。目蒲立会人は何をしようとしたのか、ピクリと右手を浮かし掛けてやめる。
『生まれつきの事で人生が左右されるのって理不尽だと思いません?私は嫌です。私は自分で選びたい。正義でも悪でもいい。自分で決めたい。賭郎は…いいえ、この裏社会という場所は、私にそれをさせてくれませんでした。だから嫌いです』
それでいいさ。アンタが何を嫌ってようが、アンタは俺の親友だ。
伏龍はお屋形様や泉江外務卿に聞かれていると知ってか知らずか、大分やばい事を喋っている。声の近さから察するに、インカムはしっかり付けたままなのだろうが…恐らく気付いて居ないだろう。何せ馬鹿だ。
「貘様、シートベルトをお締めください」
「ん?どうしたのちゃんみだ」
「このヘリコプターですが〜…直に揺れます」
「了解」
貘様は素直に座席に戻る。これから起こることがよく分かっているのだろう。俺はヘリコプターを一旦タワーから離す。
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『でもね、私は賭郎にいる人達のこと、結構好きなんです。いい人ではありませんけど、心に一本芯のある、カッコいい人達だから。憧れてるんです』
晴乃の柔らかい声。私もお前が大好きだよ、と心の中で答える。
タワーを見上げれば、豆粒サイズの人影が確かにデッキからはみ出ている。あれが晴乃だろう。そして、どうやら目蒲立会人は私達にあれを何とかするよう求めている。晴乃が聞かれてはまずい事をペラペラ喋り、目蒲立会人が状況をそれとなく伝えたという事は、恐らくそういうことだ。私達を使おうなどと、偉くなったものだ。非常に合理的だが、癪に触る。
「夜行掃除人、晴乃が落ちてきます。救助の手伝いをお願いします」
「あいつは何をやっているんだ」
「分かればこれ以上楽な事はないでしょうね」
「伊達にお屋形様とつるんでねえな」
弥鱈立会人の操縦するヘリコプターが移動する。ダウンウォッシュで晴乃をタワーから遠ざけるつもりだろう。私達はそれを踏まえて落下予想地点まで歩き始める。
『好きと嫌いがごちゃ混ぜになってるのって、捨隈さんもそうでしょ?全部嫌いだけど、でも、我を忘れて真剣勝負してる時間だけは好き。だからここにいる。貴方も私も、どでかい嫌いの沼の中に、キラキラ光る好きがあるから沼から出られない。それでいいんじゃないかな。憧れる人みたいに、真っ直ぐ歩けないままだけど』
「私は、そういうお前が大好きだ。落ちてこい」
やだぁ、という照れた声。繋がってるとは知らなかったのだろうな。