沈丁花の約束
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…ったく」
舌打ちを打つ俺を見て、彼女は首をかしげる。外ではまだ山口の笑い声が聞こえていた。
「何かあったんですか?」
「なんでもねえよ」
そういって俺はベッド脇の椅子に座った。彼女と顔の高さが合う。廃坑でのあの日よりもずっと顔色が良くなったことに、密かに安心した。
「佐田国様は、あの後処刑された。命乞いをしながら死んでいった」
「そうですか」
「嘘喰いは賭けに勝って、金の代わりに賭郎の会員権を持っていったよ」
「そうですか」
いいとも悪いとも態度に示さない彼女の相槌を間に挟みつつ、俺は彼女が寝てから覚めるまでのことを話していった。テロの顛末のこと、お屋形様のこと、拾號メンバーのこと、そして、自分のこと。彼女はゆるゆると相槌を打ちながら全部聞き切って、そして、言った。
「それで目蒲さん、大丈夫ですか?」
彼女に心配される自分が懐かしかった。
「お前はそればっかりだ」
「だって、なんか目蒲さん、危なっかしいんですもん」
「お前の方がずっと危なっかしくて心配だよ。怪我はどうなんだ?」
「お陰様で、身体中とっても痛いですよ」
「だろうな」
会話は終わってしまったが、特に沈黙が気まずくもなかったのでそのまま黙る。窓の外には夕暮れが、真っ赤に空を染めていた。
「お前さ」
「ん?」
「後悔とか、してねえの?」
「そうですねぇ」
彼女は微笑んで、ベッドの端をぽんぽんと叩く。
「目蒲さん、ここに座ってください」
「こうか?」
「はい」
彼女は満足気に頷いて、話し出す。
「目蒲さん、あなたのせいで身体中ボロボロです」
「…悪かった」
「いえいえ。言いたいのは…」
抱きしめ返さないでくださいね、ってことです。そう言うと彼女はぐいと俺を引き寄せ、無事な方の右手を背中に回した。彼女の体温が、柔らかさが伝わる。
「あなたが無事なんです。後悔する理由なんてありません」
瞬間、全てが報われたような気持ちがした。背に回る細い腕が、鼻腔をくすぐる石鹸の香りが、頬に当たる頬が、真っ赤な部屋が、俺を赦してくれるような、不思議な気分だった。
俺はそっと彼女の背に手を回した。もう怪我をさせないように、優しく、優しく。
舌打ちを打つ俺を見て、彼女は首をかしげる。外ではまだ山口の笑い声が聞こえていた。
「何かあったんですか?」
「なんでもねえよ」
そういって俺はベッド脇の椅子に座った。彼女と顔の高さが合う。廃坑でのあの日よりもずっと顔色が良くなったことに、密かに安心した。
「佐田国様は、あの後処刑された。命乞いをしながら死んでいった」
「そうですか」
「嘘喰いは賭けに勝って、金の代わりに賭郎の会員権を持っていったよ」
「そうですか」
いいとも悪いとも態度に示さない彼女の相槌を間に挟みつつ、俺は彼女が寝てから覚めるまでのことを話していった。テロの顛末のこと、お屋形様のこと、拾號メンバーのこと、そして、自分のこと。彼女はゆるゆると相槌を打ちながら全部聞き切って、そして、言った。
「それで目蒲さん、大丈夫ですか?」
彼女に心配される自分が懐かしかった。
「お前はそればっかりだ」
「だって、なんか目蒲さん、危なっかしいんですもん」
「お前の方がずっと危なっかしくて心配だよ。怪我はどうなんだ?」
「お陰様で、身体中とっても痛いですよ」
「だろうな」
会話は終わってしまったが、特に沈黙が気まずくもなかったのでそのまま黙る。窓の外には夕暮れが、真っ赤に空を染めていた。
「お前さ」
「ん?」
「後悔とか、してねえの?」
「そうですねぇ」
彼女は微笑んで、ベッドの端をぽんぽんと叩く。
「目蒲さん、ここに座ってください」
「こうか?」
「はい」
彼女は満足気に頷いて、話し出す。
「目蒲さん、あなたのせいで身体中ボロボロです」
「…悪かった」
「いえいえ。言いたいのは…」
抱きしめ返さないでくださいね、ってことです。そう言うと彼女はぐいと俺を引き寄せ、無事な方の右手を背中に回した。彼女の体温が、柔らかさが伝わる。
「あなたが無事なんです。後悔する理由なんてありません」
瞬間、全てが報われたような気持ちがした。背に回る細い腕が、鼻腔をくすぐる石鹸の香りが、頬に当たる頬が、真っ赤な部屋が、俺を赦してくれるような、不思議な気分だった。
俺はそっと彼女の背に手を回した。もう怪我をさせないように、優しく、優しく。