からむ宿木
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「終わったね…」
登ってきた捨隈さんに、鞍馬さんが笑いかける。私と目蒲さん、そして網膜認証をすでに終わらせた‘ことになっている’マルコ君はそれを何もせず眺める。
「一瞬迷いはあったけど、あんたが勝つと思ってたよ。これでこの勝負、私らの勝ちだね」
「ああ…ところでこの有様はどうした?」
「…簡単に言えば…私ら以外にここに忍び込んでた奴らを見つけてね。そいつらは片付けたけど、予想外の被害….全て私の過ちさ。捨隈、あんたにも謝っておく。私らは嘘喰いの本当の球の数を探ろうとして雹吾が入力したミスナンバー…8を嘘喰いに流した…あんたの勝利を疑って、負けた時の保険に走ったってわけさ」
「…気にするな」
「一時的に奴の口車に乗ったフリをし、マルコが正解パスワードを仕入れ、入力を済ませた時にこいつを無力化。パスワード変更チャンスを奪い嘘喰いと取引…全てがあやまりだった。入力したマルコから聞き出した正解パスワード13は外れ…まさかの外れだよ」
「当然だ…奴は完全に私の掌で踊っていた。梟と同様、私の前で奴は崩れ落ちる以外の選択肢はなかった。目を潰された復讐心に囚われ、ドティに執着したただの弱者だ」
茶番だなあと思うが、本人たちの間では騙し合いが成立しているので黙っておく。目蒲さんも楽しそうだしね。我慢我慢。ただ、さっき死闘を繰り広げていたレオさんが痛みでバランスを崩したのを見て、鞍馬さんが慌てて「話は後だね。先に入力を済ませるよ」と頭を掻き、ついでに首筋に隠しておいた銃を取り出した。
「ボウヤが起き上がってきたらこいつで黙らせな捨隈…念の為だよ。麻酔銃さ」
「…ん?」
なーんか、分かっちゃったぞ。
「何だい晴乃、取り込み中だよ?」
「あーいや、うん、すみません私ったら気になっちゃって。あの、それ、カラカルさんに撃ちました?」
「何さ…何か文句があるのかい?」
「いやぁ…うん、文句は、ないかなぁ。すみません。ただの確認」
何となく事実が言い出せず、私は話を打ち切る。結果、知りたがり共の強烈な視線に晒される羽目になったのだが。
「晴乃、言わないと犯すわよ?」
「ちょっと!もう…カラカルさん豹変の原因はその麻酔銃です。あの人は夢遊病だったんですよ」
暫くの間、鞍馬さんと見つめ合う。彼女は気まずそうに目を逸らし、「聞かなかった事にするわね」と言った。
「ええと、話が途中だったわね。入力は私がする。まずは網膜だ…そのままこっちへおいで、捨隈。それと、本当のパスワードを教えな」
捨隈さんはそれに反応して、レオさんを撃った。まるで踵を返す前に必要な動作だったかのように。そして、仲間にパスワードを教えるくらい当然の顔をして、鞍馬さんに銃を向ける。
「捨隈…あんた…」
「気にするなと言っただろ…予定とは違うが…私も気にしない」
パァン、と軽い音を立てて、銃弾が放たれる。鞍馬さんが後ろに倒れる。
「だからお前も、気にする事はない」
放たれたのが空砲だと分かってはいるが、悲しくなった。ドティの一戦目を思い出せば、彼のひととなりも分かるというもの。この人はこうやって、誰も信頼せず生きるしかなかったんだなぁ。
「お前らは自分の立つ場所がいかに不安定で脆いか分かるか?」
網膜認証をしながら、彼は意識のない鞍馬さんに問い掛ける。私は心の中で答えた。分かるよ。よく分かってる。
「まるで踏めば揺れるはりぼての世界だ…。俺は同じ場所には立たない…俺とは…違う」
そうだね、はりぼて。言い得て妙だね。ドロドロの欲を包み込む、理性の薄い皮。いつの間にか、ドロドロの最奥まで落ちてきてしまった。
彼は正解ナンバーを入力する。何を押したかは知らないが、すぐに入力ミスを知らせるブザーが鳴り響いた。驚愕と絶望に染まる捨隈さん。そして、それを嘲笑うかのようにヘリコプターの轟音が響く。
「うわ」
割れた窓から吹き込む風が強くなる。そちらを見ると、その更に向こうには不敵に笑う貘様がヘリコプターに座っている。
「わざわざ見に来たんですかね、ヘリで」
「嘘喰いは入力権を失っているからな…我々と直接接触する気はないのだろう」
「ふぅん…そのまま落ちたらいいのに」
「おい」
「てか、操縦してるの弥鱈君…?」
「昔研修会でヘリコプターの操縦を習った。俺もできる」
「立会人って一体…」
目蒲さんとお喋りしていると、館内放送がかかり、憎たらしい貘様の声が聞こえてきた。
「勝負に絶対は無い。それがギャンブルだ。13は俺が導き出した最も勝算のあるカードだった。自信はあったが絶対じゃあない。13が外れた後…俺はそれを思い知らされた。捨隈悟、お前は完璧だったよ。完璧だったお前に比べ…俺は正直、不安でいっぱいだった。13を押す時も、13を外したその後も…もしかしてお前が、本当は俺が6・7ではないと疑いを持つんじゃないかと…」
騙されていた。貘様の言葉で、捨隈さんは自分がただ間違えたのでは無く、彼に騙されたのだと気付き、絶望する。私も忘年会を思い出した。鮮やかに騙された方はたまったもんじゃないのだ。
「まるで泥船に乗る気分だったよ。正面から山を越えるか、地道に陸路を行くか。この勝負どれも安易に選べるものはなかったが、それでも目的地へ辿り着くための経路は数あった。けど、俺が選んだものはボロボロで大穴だらけだった。でも…乗ってみたら穴が空いてた、ではなく、穴が見えるから誰も乗ろうとしないんだ…でも重要なのはそれで目的地へ辿り着けるかどうかだ。世の中当たり前だと思っている事の裏に全く逆の意図が隠れていることがある。もしかしたら経路はこれしかなくて…この穴だって皆があるように見えるだけで本当はそんなもの無いのかもしれない。ねえ、今あんたスーツのボタン閉めてるよね。1ターンが終わった時、何であんたボタンを閉めなかったの?どうせまた脱ぐつもりだったから?2ターン目をやる為に。最初から2ターン目をやるつもり満々だった…8入力はブラフだったから。あれは敢えて8入力をマルコに見せる為だったんじゃないかなぁ〜?…これってギャンブルなんだ。絶対はない…穴の存在は避けては通れない。穴が怖けりゃ塞ぐしかない…例え命を賭けても」
スーツのボタン、か。成る程。昔弥鱈君に指摘されたが、私は物から類推するのが苦手だ。全ての情報は体から発せられるメッセージに依存している。それで不十分と感じた事はないから、そういう推理とは縁遠い。そして、貘様の言葉で確信を持ったが、私と貘様の目は似て非なるもののようだ。同類かと思っていただけに残念。あの人は天才側の人間。洞察の天才、といったところだろうか。自分と同じ人はいない。それを理解するたびに寂しくなる。いや、この目のことは良く思ってるんだけど、ね。
登ってきた捨隈さんに、鞍馬さんが笑いかける。私と目蒲さん、そして網膜認証をすでに終わらせた‘ことになっている’マルコ君はそれを何もせず眺める。
「一瞬迷いはあったけど、あんたが勝つと思ってたよ。これでこの勝負、私らの勝ちだね」
「ああ…ところでこの有様はどうした?」
「…簡単に言えば…私ら以外にここに忍び込んでた奴らを見つけてね。そいつらは片付けたけど、予想外の被害….全て私の過ちさ。捨隈、あんたにも謝っておく。私らは嘘喰いの本当の球の数を探ろうとして雹吾が入力したミスナンバー…8を嘘喰いに流した…あんたの勝利を疑って、負けた時の保険に走ったってわけさ」
「…気にするな」
「一時的に奴の口車に乗ったフリをし、マルコが正解パスワードを仕入れ、入力を済ませた時にこいつを無力化。パスワード変更チャンスを奪い嘘喰いと取引…全てがあやまりだった。入力したマルコから聞き出した正解パスワード13は外れ…まさかの外れだよ」
「当然だ…奴は完全に私の掌で踊っていた。梟と同様、私の前で奴は崩れ落ちる以外の選択肢はなかった。目を潰された復讐心に囚われ、ドティに執着したただの弱者だ」
茶番だなあと思うが、本人たちの間では騙し合いが成立しているので黙っておく。目蒲さんも楽しそうだしね。我慢我慢。ただ、さっき死闘を繰り広げていたレオさんが痛みでバランスを崩したのを見て、鞍馬さんが慌てて「話は後だね。先に入力を済ませるよ」と頭を掻き、ついでに首筋に隠しておいた銃を取り出した。
「ボウヤが起き上がってきたらこいつで黙らせな捨隈…念の為だよ。麻酔銃さ」
「…ん?」
なーんか、分かっちゃったぞ。
「何だい晴乃、取り込み中だよ?」
「あーいや、うん、すみません私ったら気になっちゃって。あの、それ、カラカルさんに撃ちました?」
「何さ…何か文句があるのかい?」
「いやぁ…うん、文句は、ないかなぁ。すみません。ただの確認」
何となく事実が言い出せず、私は話を打ち切る。結果、知りたがり共の強烈な視線に晒される羽目になったのだが。
「晴乃、言わないと犯すわよ?」
「ちょっと!もう…カラカルさん豹変の原因はその麻酔銃です。あの人は夢遊病だったんですよ」
暫くの間、鞍馬さんと見つめ合う。彼女は気まずそうに目を逸らし、「聞かなかった事にするわね」と言った。
「ええと、話が途中だったわね。入力は私がする。まずは網膜だ…そのままこっちへおいで、捨隈。それと、本当のパスワードを教えな」
捨隈さんはそれに反応して、レオさんを撃った。まるで踵を返す前に必要な動作だったかのように。そして、仲間にパスワードを教えるくらい当然の顔をして、鞍馬さんに銃を向ける。
「捨隈…あんた…」
「気にするなと言っただろ…予定とは違うが…私も気にしない」
パァン、と軽い音を立てて、銃弾が放たれる。鞍馬さんが後ろに倒れる。
「だからお前も、気にする事はない」
放たれたのが空砲だと分かってはいるが、悲しくなった。ドティの一戦目を思い出せば、彼のひととなりも分かるというもの。この人はこうやって、誰も信頼せず生きるしかなかったんだなぁ。
「お前らは自分の立つ場所がいかに不安定で脆いか分かるか?」
網膜認証をしながら、彼は意識のない鞍馬さんに問い掛ける。私は心の中で答えた。分かるよ。よく分かってる。
「まるで踏めば揺れるはりぼての世界だ…。俺は同じ場所には立たない…俺とは…違う」
そうだね、はりぼて。言い得て妙だね。ドロドロの欲を包み込む、理性の薄い皮。いつの間にか、ドロドロの最奥まで落ちてきてしまった。
彼は正解ナンバーを入力する。何を押したかは知らないが、すぐに入力ミスを知らせるブザーが鳴り響いた。驚愕と絶望に染まる捨隈さん。そして、それを嘲笑うかのようにヘリコプターの轟音が響く。
「うわ」
割れた窓から吹き込む風が強くなる。そちらを見ると、その更に向こうには不敵に笑う貘様がヘリコプターに座っている。
「わざわざ見に来たんですかね、ヘリで」
「嘘喰いは入力権を失っているからな…我々と直接接触する気はないのだろう」
「ふぅん…そのまま落ちたらいいのに」
「おい」
「てか、操縦してるの弥鱈君…?」
「昔研修会でヘリコプターの操縦を習った。俺もできる」
「立会人って一体…」
目蒲さんとお喋りしていると、館内放送がかかり、憎たらしい貘様の声が聞こえてきた。
「勝負に絶対は無い。それがギャンブルだ。13は俺が導き出した最も勝算のあるカードだった。自信はあったが絶対じゃあない。13が外れた後…俺はそれを思い知らされた。捨隈悟、お前は完璧だったよ。完璧だったお前に比べ…俺は正直、不安でいっぱいだった。13を押す時も、13を外したその後も…もしかしてお前が、本当は俺が6・7ではないと疑いを持つんじゃないかと…」
騙されていた。貘様の言葉で、捨隈さんは自分がただ間違えたのでは無く、彼に騙されたのだと気付き、絶望する。私も忘年会を思い出した。鮮やかに騙された方はたまったもんじゃないのだ。
「まるで泥船に乗る気分だったよ。正面から山を越えるか、地道に陸路を行くか。この勝負どれも安易に選べるものはなかったが、それでも目的地へ辿り着くための経路は数あった。けど、俺が選んだものはボロボロで大穴だらけだった。でも…乗ってみたら穴が空いてた、ではなく、穴が見えるから誰も乗ろうとしないんだ…でも重要なのはそれで目的地へ辿り着けるかどうかだ。世の中当たり前だと思っている事の裏に全く逆の意図が隠れていることがある。もしかしたら経路はこれしかなくて…この穴だって皆があるように見えるだけで本当はそんなもの無いのかもしれない。ねえ、今あんたスーツのボタン閉めてるよね。1ターンが終わった時、何であんたボタンを閉めなかったの?どうせまた脱ぐつもりだったから?2ターン目をやる為に。最初から2ターン目をやるつもり満々だった…8入力はブラフだったから。あれは敢えて8入力をマルコに見せる為だったんじゃないかなぁ〜?…これってギャンブルなんだ。絶対はない…穴の存在は避けては通れない。穴が怖けりゃ塞ぐしかない…例え命を賭けても」
スーツのボタン、か。成る程。昔弥鱈君に指摘されたが、私は物から類推するのが苦手だ。全ての情報は体から発せられるメッセージに依存している。それで不十分と感じた事はないから、そういう推理とは縁遠い。そして、貘様の言葉で確信を持ったが、私と貘様の目は似て非なるもののようだ。同類かと思っていただけに残念。あの人は天才側の人間。洞察の天才、といったところだろうか。自分と同じ人はいない。それを理解するたびに寂しくなる。いや、この目のことは良く思ってるんだけど、ね。