からむ宿木
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「いやああ怖い怖い怖い!」
「五月蝿えなあ馬鹿女!置いてくぞ!」
「どこに?!落ちるよ?!あ、待って携帯落ちた!」
「拾った!ちゃんとしまっとけ馬鹿女!」
信じられるでしょうかお父さん。私は今友達の背に乗って帝国タワーの外側を走っています。アニメとかに出てくる忍者のように、鉄骨をぴょんぴょん跳んだり跳ねたり走ったり。気分は最悪です。一緒に連れて帰って下さい。
「メインデッキ目指せばいいのか?!」
「多分!」
「聞いた俺が馬鹿だった!」
悪態を吐きながらも、目蒲さんが登るスピードは一切緩まない。やっぱりこんなん、鍛えて何とかなる次元じゃないよな。私は閉口しかけて、メインデッキの窓が割れたのでまた悲鳴を上げる。
「えええ?!」
「ちっ…鞍馬雹吾…!」
そう。人が落ちてきたのだ。恐れていた通り、ニコラがそこで鞍馬組を蹂躙しているのだろう。何とかしなきゃ。私は思わず雹吾さんに手を伸ばす。
「正気か?!」
「…っあ!」
「あー…いい!助けろ!」
目蒲さんが何やらごそごそ私の持ち方を変えるのを感じつつ、私は雹吾さんを受け止めんと両手を広げる。
「ジタバタすんなよ」
目蒲さんがそう言うと同時に、私の体は猛スピードで空中に投げ出される。
「いっ…嫌あああああ!!!」
雹吾さんを掴むとかじゃない。ぶつかった。私はもう自分が雹吾さんを捕まえてるのか縋り付いてるのかよく分からないまま、空を飛んだ。
10分は飛んでいたと思うのだが、多分気のせいだろう。とにかく、私は雹吾さんが落ちてきた窓から見事メインデッキへと入場した。「雹吾…!」という鞍馬さんの声。そちらを向けば、自ずと状況の全てが目に入る。
鞍馬さんを庇う、ぼろぼろのレオさん。その向こうでカラカルさんがマルコ君と戦っている。もう、そこまでみんなぼろぼろならやめようぜ。お屋形様の座が何だっていうんだ。やめられないっていうなら私が止めてやる。
「ニコラ!暴れちゃダメ!」
「ニコ…ラ…?」
私の声に反応して、カラカルさん…いや、ニコラが私を見る。「何してんだい!」と叫ぶ鞍馬さんの声は、無視して進む。
「私が分かるわね?マーティンは叱っておきました。怖かったわね」
歩きながら手を伸ばす。もうすぐ届く。状況は分からないなりに、マルコ君が獣の勘で道を開ける。私はカラカルさんの頬に触れた。火傷で爛れた頬が、指先に熱く張り付く。涙が出そうだ。こんなになってもまだマーティンが怖いのか。
「マー…ティン…!そうだ…マーティン…!ナースさん、マーティンが!」
「知ってるわ。もう大丈夫よ。彼はもうこの部屋には来れないわ。安心してね」
「マーティンが、マーティンが僕の首を…!死にたくないよ!」
「大丈夫。怖かったわね。もう大丈夫よ。大丈夫。落ち着いて」
「嫌だ…怖い…」
「大丈夫…ね?起きるまで一緒に居てあげるから」
カラカルさんの手が腰に回る。正座して迎えれば、彼は太ももを枕にして縋り付いてきた。
「怖かった…怖かったよぉ…」
「そうね…もう大丈夫…大丈夫だからね…」
不明瞭になっていくニコラの言葉を聞きながら、頭を撫でる。ゆっくりとそれは寝息に変わっていった。
「大丈夫…大丈夫よー…いい子よー」
私は繰り返しつつ、そっと太ももをカラカルさんの頭から外す。
「ねんねよー…いい子よー…」
そのまま二歩、三歩と下がり、寝たままなのを確認すると、私は遅れて到着していた目蒲さんの元へと駆け戻る。
「目蒲さん!良かった終わった怖かった!」
「瞬殺だったな」
「褒めてくれていいですよ!」
「どの口が言う?」
額を小突かれるが、それでまた安心してしまう。目蒲さんも同じ気持ちなのだろう。緩み切った空気が流れる。
「晴乃!天使だったのね!」
「違いますよ?!櫛灘さんと同じセンスやめて?!」
マルコ君が駆け寄って来てアホな事を言ったので、思わず突っ込む。
「おや、良かったですねえ晴乃さん、お望み通り褒められてますよ」
「いや…うーん…もう何でもいいや。好きに呼んでください」
私は恥ずかしさ半分馬鹿らしさ半分でお土産物屋さんに向かう。カラカルさんに濡れタオルを作ってやるのだ。歩き出せば、まだ元気な目蒲さんとマルコ君が付いてくる。
「晴乃どこ行くか?」
「お土産物屋さんですよ。カラカルさん、火傷可哀想ですからね」
「あれがまた動き出したらどうなさる気で?」
「ニコラで動く事はないでしょうから…目蒲さんとマルコ様にお任せします」
「…なら止めをさしてくる」
「まあまあ。アイデアルのボスの顔を知っているのは現状あの人だけです。夕湖に引き渡しましょうよ」
「あの女の手柄にするのも癪ですがねえ」
「目蒲さん、心を広く持って下さい」
私は笑い、商品棚からタオルを掴むと包装を剥がす。あるだけタオルを持ち、カウンター脇の帝国タワーペットボトルをマルコ君に持たせる。
「よし。新品タオルとミネラルウォーターで雑菌が入るならもうそれはカラカルさんの運が悪いせい」
「ノーコメント」
私はカラカルさんの元に戻り、早速応急処置を始める。離れたところでは鞍馬組の二人が雹吾さんの手当てをしていた。
「雹吾さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫…とは、言えないねえ。生きてはいるよ。ありがとうね」
「そっか。良かったです」
私は笑う。全てが終わっていく。イヤホンからは搦め手成立と密葬課制圧の報せが聞こえている。
「五月蝿えなあ馬鹿女!置いてくぞ!」
「どこに?!落ちるよ?!あ、待って携帯落ちた!」
「拾った!ちゃんとしまっとけ馬鹿女!」
信じられるでしょうかお父さん。私は今友達の背に乗って帝国タワーの外側を走っています。アニメとかに出てくる忍者のように、鉄骨をぴょんぴょん跳んだり跳ねたり走ったり。気分は最悪です。一緒に連れて帰って下さい。
「メインデッキ目指せばいいのか?!」
「多分!」
「聞いた俺が馬鹿だった!」
悪態を吐きながらも、目蒲さんが登るスピードは一切緩まない。やっぱりこんなん、鍛えて何とかなる次元じゃないよな。私は閉口しかけて、メインデッキの窓が割れたのでまた悲鳴を上げる。
「えええ?!」
「ちっ…鞍馬雹吾…!」
そう。人が落ちてきたのだ。恐れていた通り、ニコラがそこで鞍馬組を蹂躙しているのだろう。何とかしなきゃ。私は思わず雹吾さんに手を伸ばす。
「正気か?!」
「…っあ!」
「あー…いい!助けろ!」
目蒲さんが何やらごそごそ私の持ち方を変えるのを感じつつ、私は雹吾さんを受け止めんと両手を広げる。
「ジタバタすんなよ」
目蒲さんがそう言うと同時に、私の体は猛スピードで空中に投げ出される。
「いっ…嫌あああああ!!!」
雹吾さんを掴むとかじゃない。ぶつかった。私はもう自分が雹吾さんを捕まえてるのか縋り付いてるのかよく分からないまま、空を飛んだ。
10分は飛んでいたと思うのだが、多分気のせいだろう。とにかく、私は雹吾さんが落ちてきた窓から見事メインデッキへと入場した。「雹吾…!」という鞍馬さんの声。そちらを向けば、自ずと状況の全てが目に入る。
鞍馬さんを庇う、ぼろぼろのレオさん。その向こうでカラカルさんがマルコ君と戦っている。もう、そこまでみんなぼろぼろならやめようぜ。お屋形様の座が何だっていうんだ。やめられないっていうなら私が止めてやる。
「ニコラ!暴れちゃダメ!」
「ニコ…ラ…?」
私の声に反応して、カラカルさん…いや、ニコラが私を見る。「何してんだい!」と叫ぶ鞍馬さんの声は、無視して進む。
「私が分かるわね?マーティンは叱っておきました。怖かったわね」
歩きながら手を伸ばす。もうすぐ届く。状況は分からないなりに、マルコ君が獣の勘で道を開ける。私はカラカルさんの頬に触れた。火傷で爛れた頬が、指先に熱く張り付く。涙が出そうだ。こんなになってもまだマーティンが怖いのか。
「マー…ティン…!そうだ…マーティン…!ナースさん、マーティンが!」
「知ってるわ。もう大丈夫よ。彼はもうこの部屋には来れないわ。安心してね」
「マーティンが、マーティンが僕の首を…!死にたくないよ!」
「大丈夫。怖かったわね。もう大丈夫よ。大丈夫。落ち着いて」
「嫌だ…怖い…」
「大丈夫…ね?起きるまで一緒に居てあげるから」
カラカルさんの手が腰に回る。正座して迎えれば、彼は太ももを枕にして縋り付いてきた。
「怖かった…怖かったよぉ…」
「そうね…もう大丈夫…大丈夫だからね…」
不明瞭になっていくニコラの言葉を聞きながら、頭を撫でる。ゆっくりとそれは寝息に変わっていった。
「大丈夫…大丈夫よー…いい子よー」
私は繰り返しつつ、そっと太ももをカラカルさんの頭から外す。
「ねんねよー…いい子よー…」
そのまま二歩、三歩と下がり、寝たままなのを確認すると、私は遅れて到着していた目蒲さんの元へと駆け戻る。
「目蒲さん!良かった終わった怖かった!」
「瞬殺だったな」
「褒めてくれていいですよ!」
「どの口が言う?」
額を小突かれるが、それでまた安心してしまう。目蒲さんも同じ気持ちなのだろう。緩み切った空気が流れる。
「晴乃!天使だったのね!」
「違いますよ?!櫛灘さんと同じセンスやめて?!」
マルコ君が駆け寄って来てアホな事を言ったので、思わず突っ込む。
「おや、良かったですねえ晴乃さん、お望み通り褒められてますよ」
「いや…うーん…もう何でもいいや。好きに呼んでください」
私は恥ずかしさ半分馬鹿らしさ半分でお土産物屋さんに向かう。カラカルさんに濡れタオルを作ってやるのだ。歩き出せば、まだ元気な目蒲さんとマルコ君が付いてくる。
「晴乃どこ行くか?」
「お土産物屋さんですよ。カラカルさん、火傷可哀想ですからね」
「あれがまた動き出したらどうなさる気で?」
「ニコラで動く事はないでしょうから…目蒲さんとマルコ様にお任せします」
「…なら止めをさしてくる」
「まあまあ。アイデアルのボスの顔を知っているのは現状あの人だけです。夕湖に引き渡しましょうよ」
「あの女の手柄にするのも癪ですがねえ」
「目蒲さん、心を広く持って下さい」
私は笑い、商品棚からタオルを掴むと包装を剥がす。あるだけタオルを持ち、カウンター脇の帝国タワーペットボトルをマルコ君に持たせる。
「よし。新品タオルとミネラルウォーターで雑菌が入るならもうそれはカラカルさんの運が悪いせい」
「ノーコメント」
私はカラカルさんの元に戻り、早速応急処置を始める。離れたところでは鞍馬組の二人が雹吾さんの手当てをしていた。
「雹吾さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫…とは、言えないねえ。生きてはいるよ。ありがとうね」
「そっか。良かったです」
私は笑う。全てが終わっていく。イヤホンからは搦め手成立と密葬課制圧の報せが聞こえている。