からむ宿木
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「どういう戦いになったんだ?」
変わり果てた四階を見回しながら、目蒲さんが問い掛ける。
「アイデアルが仕掛けたトラップ地獄でした。私は鞍馬蘭子さんと組んでマーティンと戦ってたんでAEDだけでしたし、そのAEDを仕掛けたのは他ならぬ私ですからね。カラカルさんと戦ったレオさんと雹吾さんはもっと大変だったと思います。あの人はホントに頭が良いんですねえ」
「敵を褒めるな」
「あ、そうでした。アイデアルは鞍馬組を分断させた後、スプリンクラーを作動させて、AEDのトラップで気絶させていく作戦だったそうですけど、途中で停電してしまって…てんやわんやでした。最後はマーティンを地面に転がした状態でAEDを喰らわして、あの状態です。共倒れですけど」
「喰らったのか?!」
目蒲さんが突然大きな声を出したので、私は驚いて彼を見た。暗闇の中でうっすらと見える、彼の見開かれた目。
不意に、理解する。この人が怒っていたのは、私が思い通りじゃなかったからじゃない。私が心配だったからだ。
つい、体が動く。
「…どうした」
「嬉しくて」
「何でだよ」
「うふふ。秘密」
目蒲さんに両肩を押され、私は抱きついていたのをやめる。抱きしめ返してくれて良かったのに。
「大丈夫ですよ。AEDから遠かったし、立って喰らいましたから。一瞬意識が飛んだだけです」
「最初から心配してねえよ」
大嘘である。指摘はしないが。
「しかし、カラカルさんいませんねえ。ここら辺で戦ってたのに」
「…ここなんだな?」
目蒲さんはそう言うと、携帯を取り出してライトをオンにする。カラカルさんたちが伸びていた筈の場所が照らし出された。
「ああ…移動したな」
目蒲さんは、屈んで低い位置から床を照らす。水溜まりがつののように長く伸びている場所がある。彼はその方向にスタスタ歩いて、曲がり角で止まる。
「次は…」
ライトで四方を照らし、ナイフの跡を見つけた目蒲さんは、「ナイフが壁に垂直に刺さっているのが分かるか?投げたんじゃない、ここに足場を作り、奇襲を仕掛けた。だが、血溜まりはない。ここでは仕留め損なった」と言った。
「私みたいに、AEDで伸したんじゃなくてですか?」
「相手はカラカルだ。確実に殺す筈だ」
「成る程」
目蒲さんはまたライトで床を照らし、水滴の行方を見る。流石にもう乾いてしまったらしく見つけられなかったが、他に証拠はとライトで広範囲を照らし、すぐにトイレが真っ黒になっているのを見つけた。
「あそこだ」
目蒲さんはトイレまで行くと、顔を顰めた。
「移動している」
「え、まだ戦いが続いたんですか?」
「いや…ここで一人が集中的にやられているのは間違いない。これが銃で撃たれた血痕、こっちは刃物だ。焦げて見にくくなっているが…」
「それ、一人が喰らったんですか?」
「ああ。だが…足りなかった」
「世界観がおかしい」
目蒲さんがじっとりした目でこっちを見ている予感がするが、気付かないふりでやり過ごし、考える。さて、タフすぎて気持ち悪いのは置いといてーー何より、置いとかないと私も何か言われそうだーーおかしい。この人の夢遊病的症状‘ニコラ’は眠った時にしか現れない。それはさっきの戦いが示している。気絶でニコラになるのなら、さっきの戦いでもうなっている。
「ねえ、例えば目蒲さんなら、ここまでされて動けます?」
「俺の世界観まで疑うな。無理だ」
「ですよねえ」
ということは、やっぱりニコラだ。可哀想に、今彼は恐怖心だけで壊れかけの体を動かしている。行ってやらないと。何故ニコラになったかは後でいい。カラカルさんには腹が立つが、ニコラに罪はないのだ。
「目蒲さん、おんぶ」
「は?」
「私の足じゃ間に合いません。カラカルさんを止めなきゃ」
「死に体だ…トップデッキには辿り着けねえよ」
「いいえ、今のカラカルさんはゾンビみたいなものです。肉が削げようが、骨が砕けようが、です。全部殺す。敵も味方なく全部。賭けが成り立たなくなって、私達は始末書の刑です」
「…そうなる要因が、何かあるのか」
「あの人は過去のトラウマが原因で、夢遊病を患ってるんです。映像を見ましたけど…壮絶でした。伽羅元立会人の號奪戦が優しく見える位」
「…それは壮絶だな。俺が行く」
踵を返した目蒲さんの手を取り、「目蒲さん、お願いおんぶ」と繰り返す。彼は手を払うことはしない代わりに、冷めた目で私を見下ろす。
「お前に何ができるんだよ」
「カラカルさんを止めます」
「お前さぁ…こんな手で何する気だよ。俺の手首を握るこの力がお前の暴なら、お前にできる事はねえよ」
「…目蒲さんが一人で行っても、死んじゃいますよ」
「なめんな…死なねえよ」
「死んじゃいますよ…マルコも鞍馬さんもレオさんも雹吾さんも、みんな死んじゃいますよ!強かったですもん!意識があっても強いのに!」
「だったら尚更来んな!お前が死んだらどうするんだ!」
「私は…!死にませんもん!私だけなんです、死なずに帰って来れるのは!」
「お前はそう言って…南方の時も!俺の時も、今も!怪我してんじゃねえか…!」
「目蒲さんだってしてるじゃないですか!私だって嫌です貴方が怪我するの!私…私守ってなんて言ってない!協力してとか助けてとかたくさん言ったけど…守ってとは言ってない!」
涙が出てくる。
「死なないでほしいの!誰にも!死にに行かないで!連れてって!お願い…お願いだから…」
悔しい。そうだ私は悔しいのだ。目の前で大切な人が命を落とそうとしているのが。私の言葉を信じてくれているにも関わらず、私を案じて置いていこうとする、その優しさが。
「お前それ…狡いぞ…」
「それでいいですもう…ならここにいて下さい…一緒に始末書書きましょうよ…」
「あんなもん、人生で一枚も書けば十分だ…はぁ」
がしがしと頭を掻いて、目蒲さんは一際大きなため息をつく。
「貸しにしてやる、馬鹿女」
「…え?」
「昔‘我々こそがこれの暴です’と粋がったことを思い出した」
彼はひょいと私を俵抱きにすると、もの凄いスピードで走り出した。
変わり果てた四階を見回しながら、目蒲さんが問い掛ける。
「アイデアルが仕掛けたトラップ地獄でした。私は鞍馬蘭子さんと組んでマーティンと戦ってたんでAEDだけでしたし、そのAEDを仕掛けたのは他ならぬ私ですからね。カラカルさんと戦ったレオさんと雹吾さんはもっと大変だったと思います。あの人はホントに頭が良いんですねえ」
「敵を褒めるな」
「あ、そうでした。アイデアルは鞍馬組を分断させた後、スプリンクラーを作動させて、AEDのトラップで気絶させていく作戦だったそうですけど、途中で停電してしまって…てんやわんやでした。最後はマーティンを地面に転がした状態でAEDを喰らわして、あの状態です。共倒れですけど」
「喰らったのか?!」
目蒲さんが突然大きな声を出したので、私は驚いて彼を見た。暗闇の中でうっすらと見える、彼の見開かれた目。
不意に、理解する。この人が怒っていたのは、私が思い通りじゃなかったからじゃない。私が心配だったからだ。
つい、体が動く。
「…どうした」
「嬉しくて」
「何でだよ」
「うふふ。秘密」
目蒲さんに両肩を押され、私は抱きついていたのをやめる。抱きしめ返してくれて良かったのに。
「大丈夫ですよ。AEDから遠かったし、立って喰らいましたから。一瞬意識が飛んだだけです」
「最初から心配してねえよ」
大嘘である。指摘はしないが。
「しかし、カラカルさんいませんねえ。ここら辺で戦ってたのに」
「…ここなんだな?」
目蒲さんはそう言うと、携帯を取り出してライトをオンにする。カラカルさんたちが伸びていた筈の場所が照らし出された。
「ああ…移動したな」
目蒲さんは、屈んで低い位置から床を照らす。水溜まりがつののように長く伸びている場所がある。彼はその方向にスタスタ歩いて、曲がり角で止まる。
「次は…」
ライトで四方を照らし、ナイフの跡を見つけた目蒲さんは、「ナイフが壁に垂直に刺さっているのが分かるか?投げたんじゃない、ここに足場を作り、奇襲を仕掛けた。だが、血溜まりはない。ここでは仕留め損なった」と言った。
「私みたいに、AEDで伸したんじゃなくてですか?」
「相手はカラカルだ。確実に殺す筈だ」
「成る程」
目蒲さんはまたライトで床を照らし、水滴の行方を見る。流石にもう乾いてしまったらしく見つけられなかったが、他に証拠はとライトで広範囲を照らし、すぐにトイレが真っ黒になっているのを見つけた。
「あそこだ」
目蒲さんはトイレまで行くと、顔を顰めた。
「移動している」
「え、まだ戦いが続いたんですか?」
「いや…ここで一人が集中的にやられているのは間違いない。これが銃で撃たれた血痕、こっちは刃物だ。焦げて見にくくなっているが…」
「それ、一人が喰らったんですか?」
「ああ。だが…足りなかった」
「世界観がおかしい」
目蒲さんがじっとりした目でこっちを見ている予感がするが、気付かないふりでやり過ごし、考える。さて、タフすぎて気持ち悪いのは置いといてーー何より、置いとかないと私も何か言われそうだーーおかしい。この人の夢遊病的症状‘ニコラ’は眠った時にしか現れない。それはさっきの戦いが示している。気絶でニコラになるのなら、さっきの戦いでもうなっている。
「ねえ、例えば目蒲さんなら、ここまでされて動けます?」
「俺の世界観まで疑うな。無理だ」
「ですよねえ」
ということは、やっぱりニコラだ。可哀想に、今彼は恐怖心だけで壊れかけの体を動かしている。行ってやらないと。何故ニコラになったかは後でいい。カラカルさんには腹が立つが、ニコラに罪はないのだ。
「目蒲さん、おんぶ」
「は?」
「私の足じゃ間に合いません。カラカルさんを止めなきゃ」
「死に体だ…トップデッキには辿り着けねえよ」
「いいえ、今のカラカルさんはゾンビみたいなものです。肉が削げようが、骨が砕けようが、です。全部殺す。敵も味方なく全部。賭けが成り立たなくなって、私達は始末書の刑です」
「…そうなる要因が、何かあるのか」
「あの人は過去のトラウマが原因で、夢遊病を患ってるんです。映像を見ましたけど…壮絶でした。伽羅元立会人の號奪戦が優しく見える位」
「…それは壮絶だな。俺が行く」
踵を返した目蒲さんの手を取り、「目蒲さん、お願いおんぶ」と繰り返す。彼は手を払うことはしない代わりに、冷めた目で私を見下ろす。
「お前に何ができるんだよ」
「カラカルさんを止めます」
「お前さぁ…こんな手で何する気だよ。俺の手首を握るこの力がお前の暴なら、お前にできる事はねえよ」
「…目蒲さんが一人で行っても、死んじゃいますよ」
「なめんな…死なねえよ」
「死んじゃいますよ…マルコも鞍馬さんもレオさんも雹吾さんも、みんな死んじゃいますよ!強かったですもん!意識があっても強いのに!」
「だったら尚更来んな!お前が死んだらどうするんだ!」
「私は…!死にませんもん!私だけなんです、死なずに帰って来れるのは!」
「お前はそう言って…南方の時も!俺の時も、今も!怪我してんじゃねえか…!」
「目蒲さんだってしてるじゃないですか!私だって嫌です貴方が怪我するの!私…私守ってなんて言ってない!協力してとか助けてとかたくさん言ったけど…守ってとは言ってない!」
涙が出てくる。
「死なないでほしいの!誰にも!死にに行かないで!連れてって!お願い…お願いだから…」
悔しい。そうだ私は悔しいのだ。目の前で大切な人が命を落とそうとしているのが。私の言葉を信じてくれているにも関わらず、私を案じて置いていこうとする、その優しさが。
「お前それ…狡いぞ…」
「それでいいですもう…ならここにいて下さい…一緒に始末書書きましょうよ…」
「あんなもん、人生で一枚も書けば十分だ…はぁ」
がしがしと頭を掻いて、目蒲さんは一際大きなため息をつく。
「貸しにしてやる、馬鹿女」
「…え?」
「昔‘我々こそがこれの暴です’と粋がったことを思い出した」
彼はひょいと私を俵抱きにすると、もの凄いスピードで走り出した。