からむ宿木
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「…鞍馬さん、レコーダー起動して下さい」
「は?」
「AEDの発動タイミング、誤認させてみせます」
本物のAEDは現在‘心電図を調べています’の段階。いいだろう、上等だ。私はエタノールをポッケから取り出し、叩き割る。そして火を付け、光源を確保する。
ぼうっと浮き上がるマーティンの影に、私は大きく息を吸って呼び掛ける。
「マーティン!あんたの居場所はわかったんだから!」
「そう…丁度いい、ニコラ…さあ会いましょう…」
‘…を調べ…’
「ふざけんな!85人!85人もニコラを一人で死なせておいて!」
「違う!彼らは真のニコラではなかった…!」
‘…チャージして…’
「元々ニコラじゃないもの当たり前でしょうが!!」
私はマーティンがAEDの真横に来たのを確認し、最後のエタノールを投げつけた。マーティンが悲鳴を上げ、体にかけられた液体を水で薄めようと地面に転がる。
そして、正気に返る。私が静かになった事で、真横にあるAEDの音声がやっと聞こえたのだ。
「‘体から、離れてください’」
息を呑む間もなく、彼は電気ショックを喰らった。もちろん、水の中にいた私も。
ーーーーーーーーーー
「おやあんた、起きたのかい」
「すみません…どれくらい寝てました?」
「全然よ…とりあえず水から出そうとして触ったら起きたもの」
「あーじゃあ、ホントに全然か。良かった」
「この距離で、立って喰らったのがよかったねぇ…あいつは駄目さ、あんな近くで、転がって受けたもの」
「ざまあみやがれ、です。ホントはエタノールに引火しちまえと思ったんですけどね。水が多すぎましたか」
「一瞬燃えてたよ。いいザマさ」
「なら、いっか」
私は立ち上がろうとしたが、まだまだ体が痺れて全く動ける気がしない。早々に諦め、私はマーティンに目を向ける。しっかり転がっている。お腹が上下しているから、生きてはいるだろう。丈夫な奴め。
「生きてる…賭郎に連れて帰って…情報を吐かせなきゃ…」
「あらそう…真面目だねえ」
鞍馬さんはニヒルに笑って、「さっきのは、本物のAEDの音声だけを叫び声で聞こえないようにしてた、って事でいいのかい?」と聞いてきた。私も微笑みを返す。
「正解です…鞍馬さんは、あのメール、いつの間に?」
「私?あんなん、最初にこいつがAEDを喰らった時に携帯だけ安全なところに置いてたんだもの。アドレスをこっそり見させて貰っただけさ」
「おお…流石です」
「まあね…あ!」
何かに気付いた鞍馬さんは、マーティンに駆け寄り、足下に落ちていた物を拾い上げる。
「これかい…私が欲しかったのはコレよ…」
「それは…?」
「対マルコ用の武器さっ!持たせてたら厄介だからね…」
「ああ…言ってた奴」
「ええ…最低これくらいは用意してると思ったのさ。おや、フレシェット散弾かい…私のと同じ…考えることは一緒ね」
鞍馬さんはほくそ笑むと、意識のないマーティンに語りかける。
「私はねぇ、どうしてもこいつが気になってたのさ。この読心女子が全て暴いてくれちゃってたからあんたが心室細動を起こした時に殺してもよかったんだが…あんたの体を漁ってもこの銃は見つからなかった…手元に置かずどっかに隠してる可能性…それを確かめたくてあんたを蘇生させたのさ。別に友達と思ってた訳じゃない…あんたじゃいまいちそそられないからね…性癖は細胞の罪かもしれないけどガッカリだねぇ〜。制御できなきゃただの自爆装置さ。こんな穴だらけじゃホラー嫌いな私でもイマイチ乗れないね。順序を踏みましょ。まずはメル友から始めましょうよ。待ってるわ」
カツカツヒールを鳴らして去っていく鞍馬さん。思い出したように振り返ると、「あんた、いつまで寝てるの?」と聞いてきた。
「私は…痺れが取れるまでかなぁ。どの道目蒲さんと合流しないといけませんから、ここでお別れです」
「あらそう。残念ね」
鞍馬さんは私を担ぐと、廊下の壁にもたれるように座らせてくれた。
「ねえっ!鞍馬組に入らないかい?」
「私?入りませんよ。嫌だなぁ」
「どうせ賭郎の人質扱いなんだろ?手厚く扱ってやるよ」
「手厚くとか、そういうのじゃないんですよ。私は裏社会に居たくないんです」
「向いてんのにね」
「正直、自覚はありますよ。いかれてるって。でもね…」
理不尽を強いる側に回るのは死んでも嫌だ。それは私の心の核の部分だから、何となく口には出さない。代わりに肩を竦める。
「さ、ドティ三戦目はもう終わってます。ふふ…ホントは言っちゃダメだけど助けてくれたお礼です。行ってください」
「そうかい。ありがとね」
鞍馬さんの背が暗がりに消えていくのを見送って、私はぼんやり上を見る。
やだなぁ、この目。
やりたくないことは、やりたくない。
帰って全てが無かった事になるのなら、私はお父さんと家に帰るのにね。
「は?」
「AEDの発動タイミング、誤認させてみせます」
本物のAEDは現在‘心電図を調べています’の段階。いいだろう、上等だ。私はエタノールをポッケから取り出し、叩き割る。そして火を付け、光源を確保する。
ぼうっと浮き上がるマーティンの影に、私は大きく息を吸って呼び掛ける。
「マーティン!あんたの居場所はわかったんだから!」
「そう…丁度いい、ニコラ…さあ会いましょう…」
‘…を調べ…’
「ふざけんな!85人!85人もニコラを一人で死なせておいて!」
「違う!彼らは真のニコラではなかった…!」
‘…チャージして…’
「元々ニコラじゃないもの当たり前でしょうが!!」
私はマーティンがAEDの真横に来たのを確認し、最後のエタノールを投げつけた。マーティンが悲鳴を上げ、体にかけられた液体を水で薄めようと地面に転がる。
そして、正気に返る。私が静かになった事で、真横にあるAEDの音声がやっと聞こえたのだ。
「‘体から、離れてください’」
息を呑む間もなく、彼は電気ショックを喰らった。もちろん、水の中にいた私も。
ーーーーーーーーーー
「おやあんた、起きたのかい」
「すみません…どれくらい寝てました?」
「全然よ…とりあえず水から出そうとして触ったら起きたもの」
「あーじゃあ、ホントに全然か。良かった」
「この距離で、立って喰らったのがよかったねぇ…あいつは駄目さ、あんな近くで、転がって受けたもの」
「ざまあみやがれ、です。ホントはエタノールに引火しちまえと思ったんですけどね。水が多すぎましたか」
「一瞬燃えてたよ。いいザマさ」
「なら、いっか」
私は立ち上がろうとしたが、まだまだ体が痺れて全く動ける気がしない。早々に諦め、私はマーティンに目を向ける。しっかり転がっている。お腹が上下しているから、生きてはいるだろう。丈夫な奴め。
「生きてる…賭郎に連れて帰って…情報を吐かせなきゃ…」
「あらそう…真面目だねえ」
鞍馬さんはニヒルに笑って、「さっきのは、本物のAEDの音声だけを叫び声で聞こえないようにしてた、って事でいいのかい?」と聞いてきた。私も微笑みを返す。
「正解です…鞍馬さんは、あのメール、いつの間に?」
「私?あんなん、最初にこいつがAEDを喰らった時に携帯だけ安全なところに置いてたんだもの。アドレスをこっそり見させて貰っただけさ」
「おお…流石です」
「まあね…あ!」
何かに気付いた鞍馬さんは、マーティンに駆け寄り、足下に落ちていた物を拾い上げる。
「これかい…私が欲しかったのはコレよ…」
「それは…?」
「対マルコ用の武器さっ!持たせてたら厄介だからね…」
「ああ…言ってた奴」
「ええ…最低これくらいは用意してると思ったのさ。おや、フレシェット散弾かい…私のと同じ…考えることは一緒ね」
鞍馬さんはほくそ笑むと、意識のないマーティンに語りかける。
「私はねぇ、どうしてもこいつが気になってたのさ。この読心女子が全て暴いてくれちゃってたからあんたが心室細動を起こした時に殺してもよかったんだが…あんたの体を漁ってもこの銃は見つからなかった…手元に置かずどっかに隠してる可能性…それを確かめたくてあんたを蘇生させたのさ。別に友達と思ってた訳じゃない…あんたじゃいまいちそそられないからね…性癖は細胞の罪かもしれないけどガッカリだねぇ〜。制御できなきゃただの自爆装置さ。こんな穴だらけじゃホラー嫌いな私でもイマイチ乗れないね。順序を踏みましょ。まずはメル友から始めましょうよ。待ってるわ」
カツカツヒールを鳴らして去っていく鞍馬さん。思い出したように振り返ると、「あんた、いつまで寝てるの?」と聞いてきた。
「私は…痺れが取れるまでかなぁ。どの道目蒲さんと合流しないといけませんから、ここでお別れです」
「あらそう。残念ね」
鞍馬さんは私を担ぐと、廊下の壁にもたれるように座らせてくれた。
「ねえっ!鞍馬組に入らないかい?」
「私?入りませんよ。嫌だなぁ」
「どうせ賭郎の人質扱いなんだろ?手厚く扱ってやるよ」
「手厚くとか、そういうのじゃないんですよ。私は裏社会に居たくないんです」
「向いてんのにね」
「正直、自覚はありますよ。いかれてるって。でもね…」
理不尽を強いる側に回るのは死んでも嫌だ。それは私の心の核の部分だから、何となく口には出さない。代わりに肩を竦める。
「さ、ドティ三戦目はもう終わってます。ふふ…ホントは言っちゃダメだけど助けてくれたお礼です。行ってください」
「そうかい。ありがとね」
鞍馬さんの背が暗がりに消えていくのを見送って、私はぼんやり上を見る。
やだなぁ、この目。
やりたくないことは、やりたくない。
帰って全てが無かった事になるのなら、私はお父さんと家に帰るのにね。