からむ宿木
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「あ、鞍馬さん。会っちゃった」
「不可抗力さね。許しておくれ」
タウンフロア内のエレベーターへと向かう階段の途中、晴乃とばったり出くわす。レオから目蒲立会人と晴乃がいると聞いて心配はしていたが、やっぱり会っちまったね。広いようで狭いタワーの中じゃ仕方がないんだが。それは彼女も分かっちゃいたようで、「切間立会人には秘密にしときますね」と笑って階段の隅に避け、私らが通れるよう道をあける。
「今どうなってる?」
「御三方が知ることが全てですよ」
悪戯心で投げかけてみた問いは、見事に躱される。高校生の頃は答えてくれそうだったが…
「あんた…立派になったねぇ…鞍馬組に欲しかったよ」
「そもそも賭郎に入る気すらなかったんですけどねぇ。世の中不思議です」
「あんたはこっちに来て正解の人間さ」
「やだなぁ。…まあいいや。あ、三階は目蒲立会人がバトル中ですので、邪魔しちゃダメですよ」
「元々そんなつもりはないさ。じゃあね」
「ええ、多分、また後で」
「極力避けるようにするさ」
会釈しつつ立ち去る彼女を見送りつつ、私らも歩き出す。
「蘭子、どういうことだ?」
「むかーしの賭けでね、私はあの子と弥鱈立会人に接触できない事になってんだよ。私の立ち会いに弥鱈立会人が来た事ないだろ?」
「そう…だったか?」
「そうさ。まあ…破った時のペナルティは決めてないから、いいっちゃいいんだが、一応ね」
レオの疑問にそう答えつつ、雹吾に五階のドアを開けさせる。中に人影が見えない事を確認して中へ進む。
がちゃん。
「は?」
殿を務めていたレオが引き返し、ドアをがちゃがちゃやる。
「閉められたぞ…」
「…は?あの子かい?」
「他に居るまい…何故…」
まだ納得できないのか、ドアを押したり引いたりしているレオに「いいさ、行こう」と声を掛けた。
「いいのか?罠だぞ」
「いいんだよ…カモノハシにだって毒はあるんだ。毒に気付けなかった私らの負けさ」
ただ、彼女の毒がどういう毒かが分からない。アタシはキセルを咥えた。
ーー謎が謎を呼ぶってのは、この事だね。
「ねえ、何してんだい?あんた」
「あっ…蘭子組長…」
「はあ?何さ、何馴れ馴れしく人の名前呼んでんのさ」
レオ達と別れて探索中に出会ったのは、ポリタンクで床に液体を撒いているロン毛。なるほどね。晴乃はコイツの手助けをしてるって訳かい。
「すっすいませんっ!すいません、つい…その…」
「鞍馬さんダメ!」
パタパタと鈍臭そうな足音と共に近付いてきた晴乃は、そのままロン毛に飛びつく。
「マーティンは私が守るわ!」
「なっ… 晴乃!何で戻ってきたんだ!」
「だって…貴方が心配で!」
「ああ…なんて優しいんだ…マイフレンド…」
何だいこの茶番は。
私の心の声を読み取ったこの読心女子は、くるりと私を見て、演技掛かった口調で言う。
「鞍馬さん…マーティンは指示されただけなの!本当に怖い人は他にいるわ!」
「何言ってんだい、ここにいる以上…」
「駄目です!近付いてはいけません!」
近付こうとして、マーティンの剣幕に止まる。
「私はタワーのトイレ等から集めた塩素系の洗剤をこのフロアの各所に撒いていたんです。いいですか?塩素系の洗剤をです。だから組長は近付いてはいけないのです。あなた方の体には先程のペットボトルの破裂により、ショップにあった入浴剤…それも硫黄系のものが付着しているはずです。もしこの二つが混ざり合えば硫化水素が発生し、非常に危険です!」
「あんた…いいのかい?そんなにペラペラ喋っちまって」
「…本当はこんな事はやりたくなかった…私にはこんな事向いてないのです」
「そんな!マーティンは頑張ってるわ!」
「ありがとう… 晴乃…」
何なんだいこいつ…でも嘘を言っているようには見えない…何より… 晴乃は何のつもりなんだい…?
何も分からない、二人の意図が。こういう時は踏み込むに限る。
「で?あんたにその指示をした奴ってのは…どこさ…そいつは何者なのさ…」
「そ…それは…喋ったら私は終わりです…殺されてしまうんです」
「もう結構喋ってるよあんた。早く話しなっ!もう手遅れさ。私だったら完全にアウトだね。…喋らないってんなら、あんたを始末するのはその男ではなくなっちまうよ」
「そっ…それは私を守ってくれるという意味ですね?」
「は?」
「ありがとうございます!出会ったばかりの私をこんなに…受け入れてもらえるなんて…」
「苛つく奴だねえー。喋らないなら私はあんたを…」
「我々はアイデアル。そういう組織の者です。アイデアル…語源はダイヤモンドのカットの最高形を表しています。お決まりの文句ですが、ボスの事は私などには知らされておりません。一切が謎に包まれています。私に指示を出した男…あれは恐ろしい男です。ボスの側近…同じく素性は分かりません。一部の人間にはカラカルなどと呼ばれているらしいです。タワーには私と彼の二人で来ました。入ったのは2時間ほど前、急な事だったので必要最低限の装備しかできていませんでした。私達は下で行われている勝負の内容も知らない状態でしたので、この戦いを傍観するつもりだったようですが、彼はボイスレコーダーを聞き、最上階でのあなた方の会話も入手し作戦を改めたようでした。彼は言っていました…鞍馬組、奴らにはもう利用価値が無くなった。始末すると。蘭子組長…信じてもらえますね?私もあなたを信じて喋ったのです」
「聞くまでもなかったけどね…」
チラ、と晴乃を見る。彼女は私と目が合うと、ニヤリと笑った。
「本当です!鞍馬さん、信じて下さい!」
立派な狸に育っちゃって、まあ。
「ふぅん…で、そのカラカルってのはどこ?」
「わ…私も探そうと…あっ!そういえば彼はこのフロアのトイレにエタノールを使ったトラップを仕掛けてました…もしかすると…案内します!あいつを見つけましょう!」
「やったるで!」
意気揚々と走り出す二人。その背を追おうとしたところで、マーティンが振り向いた。
「と…ところで私達何というか…深まりましたよね。何か…その…長年の付き合いの友達みたいに」
「不可抗力さね。許しておくれ」
タウンフロア内のエレベーターへと向かう階段の途中、晴乃とばったり出くわす。レオから目蒲立会人と晴乃がいると聞いて心配はしていたが、やっぱり会っちまったね。広いようで狭いタワーの中じゃ仕方がないんだが。それは彼女も分かっちゃいたようで、「切間立会人には秘密にしときますね」と笑って階段の隅に避け、私らが通れるよう道をあける。
「今どうなってる?」
「御三方が知ることが全てですよ」
悪戯心で投げかけてみた問いは、見事に躱される。高校生の頃は答えてくれそうだったが…
「あんた…立派になったねぇ…鞍馬組に欲しかったよ」
「そもそも賭郎に入る気すらなかったんですけどねぇ。世の中不思議です」
「あんたはこっちに来て正解の人間さ」
「やだなぁ。…まあいいや。あ、三階は目蒲立会人がバトル中ですので、邪魔しちゃダメですよ」
「元々そんなつもりはないさ。じゃあね」
「ええ、多分、また後で」
「極力避けるようにするさ」
会釈しつつ立ち去る彼女を見送りつつ、私らも歩き出す。
「蘭子、どういうことだ?」
「むかーしの賭けでね、私はあの子と弥鱈立会人に接触できない事になってんだよ。私の立ち会いに弥鱈立会人が来た事ないだろ?」
「そう…だったか?」
「そうさ。まあ…破った時のペナルティは決めてないから、いいっちゃいいんだが、一応ね」
レオの疑問にそう答えつつ、雹吾に五階のドアを開けさせる。中に人影が見えない事を確認して中へ進む。
がちゃん。
「は?」
殿を務めていたレオが引き返し、ドアをがちゃがちゃやる。
「閉められたぞ…」
「…は?あの子かい?」
「他に居るまい…何故…」
まだ納得できないのか、ドアを押したり引いたりしているレオに「いいさ、行こう」と声を掛けた。
「いいのか?罠だぞ」
「いいんだよ…カモノハシにだって毒はあるんだ。毒に気付けなかった私らの負けさ」
ただ、彼女の毒がどういう毒かが分からない。アタシはキセルを咥えた。
ーー謎が謎を呼ぶってのは、この事だね。
「ねえ、何してんだい?あんた」
「あっ…蘭子組長…」
「はあ?何さ、何馴れ馴れしく人の名前呼んでんのさ」
レオ達と別れて探索中に出会ったのは、ポリタンクで床に液体を撒いているロン毛。なるほどね。晴乃はコイツの手助けをしてるって訳かい。
「すっすいませんっ!すいません、つい…その…」
「鞍馬さんダメ!」
パタパタと鈍臭そうな足音と共に近付いてきた晴乃は、そのままロン毛に飛びつく。
「マーティンは私が守るわ!」
「なっ… 晴乃!何で戻ってきたんだ!」
「だって…貴方が心配で!」
「ああ…なんて優しいんだ…マイフレンド…」
何だいこの茶番は。
私の心の声を読み取ったこの読心女子は、くるりと私を見て、演技掛かった口調で言う。
「鞍馬さん…マーティンは指示されただけなの!本当に怖い人は他にいるわ!」
「何言ってんだい、ここにいる以上…」
「駄目です!近付いてはいけません!」
近付こうとして、マーティンの剣幕に止まる。
「私はタワーのトイレ等から集めた塩素系の洗剤をこのフロアの各所に撒いていたんです。いいですか?塩素系の洗剤をです。だから組長は近付いてはいけないのです。あなた方の体には先程のペットボトルの破裂により、ショップにあった入浴剤…それも硫黄系のものが付着しているはずです。もしこの二つが混ざり合えば硫化水素が発生し、非常に危険です!」
「あんた…いいのかい?そんなにペラペラ喋っちまって」
「…本当はこんな事はやりたくなかった…私にはこんな事向いてないのです」
「そんな!マーティンは頑張ってるわ!」
「ありがとう… 晴乃…」
何なんだいこいつ…でも嘘を言っているようには見えない…何より… 晴乃は何のつもりなんだい…?
何も分からない、二人の意図が。こういう時は踏み込むに限る。
「で?あんたにその指示をした奴ってのは…どこさ…そいつは何者なのさ…」
「そ…それは…喋ったら私は終わりです…殺されてしまうんです」
「もう結構喋ってるよあんた。早く話しなっ!もう手遅れさ。私だったら完全にアウトだね。…喋らないってんなら、あんたを始末するのはその男ではなくなっちまうよ」
「そっ…それは私を守ってくれるという意味ですね?」
「は?」
「ありがとうございます!出会ったばかりの私をこんなに…受け入れてもらえるなんて…」
「苛つく奴だねえー。喋らないなら私はあんたを…」
「我々はアイデアル。そういう組織の者です。アイデアル…語源はダイヤモンドのカットの最高形を表しています。お決まりの文句ですが、ボスの事は私などには知らされておりません。一切が謎に包まれています。私に指示を出した男…あれは恐ろしい男です。ボスの側近…同じく素性は分かりません。一部の人間にはカラカルなどと呼ばれているらしいです。タワーには私と彼の二人で来ました。入ったのは2時間ほど前、急な事だったので必要最低限の装備しかできていませんでした。私達は下で行われている勝負の内容も知らない状態でしたので、この戦いを傍観するつもりだったようですが、彼はボイスレコーダーを聞き、最上階でのあなた方の会話も入手し作戦を改めたようでした。彼は言っていました…鞍馬組、奴らにはもう利用価値が無くなった。始末すると。蘭子組長…信じてもらえますね?私もあなたを信じて喋ったのです」
「聞くまでもなかったけどね…」
チラ、と晴乃を見る。彼女は私と目が合うと、ニヤリと笑った。
「本当です!鞍馬さん、信じて下さい!」
立派な狸に育っちゃって、まあ。
「ふぅん…で、そのカラカルってのはどこ?」
「わ…私も探そうと…あっ!そういえば彼はこのフロアのトイレにエタノールを使ったトラップを仕掛けてました…もしかすると…案内します!あいつを見つけましょう!」
「やったるで!」
意気揚々と走り出す二人。その背を追おうとしたところで、マーティンが振り向いた。
「と…ところで私達何というか…深まりましたよね。何か…その…長年の付き合いの友達みたいに」