からむ宿木
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目蒲さんの罵声が遠くに聞こえる中、私とマーティンは三階を駆け抜ける。
「晴乃、良かったのかい?君、この地獄から抜け出すチャンスだったんじゃない?…あの金髪の君への態度は酷いものだった。そうだろ?」
「…マーティンはあのオジサンが言う事、本当だと思う?」
「え?」
「嘘だったら?お父さんなんて来てなくて、人質に取られる事になったら?目蒲さん…さっきの金髪の人は、私のこと助けてくれるかな」
全面的にハッタリだ。夕湖からお父さんが来ていて、しかもまさかの白星を上げているのは聞いているし、目蒲さんはもちろん助けてくれるだろう。というか…一年もいれば賭郎に愛着も湧く。助け舟が来たから乗り込もうとは中々思えないものだ。良い思い出で終わらせて、ちゃんと別れたい。担任していた子供たちのように、心残りにするのは嫌なのだ。
甘いだろうか。
甘いだろうなあ。
「マーティン…私賭郎は地獄だと思ってるけど、あの人たちが悪魔だとは思えないんだ。友達だもん」
「…そっか」
「帰りたいけどね」
「帰れるといいね」
AEDを見つけて急ブレーキ。これからどんな展開になるか、もう私には読めない。けど、とりあえず武器が要る。目蒲さんからの凶悪なラブコールは聞こえているが、もう暫く放っておく。
ーーーーーーーーーー
「おい晴乃この馬鹿女!いいから戻って来やがれ!ソイツ誰だ!」
「聞いてりゃさっきから口汚く…」
金髪はギロリと俺を睨むと、鼻っ面に突きを繰り出してくる。勿論躱す。次は上段蹴りが来たので、それは受ける。
受けては躱わされ、躱わしては受けられ。手強い奴等だねェ、賭郎ってのは。俺は脳味噌を削り取ってやったにも関わらず相打ちに持ち込んでくれやがった、あの男を思い出す。
これが後98人。おー怖。親父さんも運が無いね、こんな奴らに娘を拐われちまうなんて。そこら辺のヤクザならすぐにでも取り返してあげるんだけどね。兎に角敵が大きすぎる。
「馬鹿女!馬鹿女!!くっそ、返事しやがれ!」
「おーおー、凄え剣幕でやんの。そら堅気のネエちゃんはビビるわ」
「アンタは黙って死んでろ!」
ビュンと風を切って飛んできた剛腕を、掴んで引き寄せる。近付いてきた頭を額で受けた。金髪の視界に星が舞う。
「…っ!…ちっ!」
盛大な舌打ちをして、金髪は体勢を立て直す。育ち悪いなコイツ。
「いい加減こっちを見てくれないと俺寂しいなぁ」
「はぁー…余程死にたいらしいですねぇー!」
流石に暴言を引っ込めた金髪の猛攻が続く。余程頭に血が上っているようで、攻撃自体は単調で躱しやすい。ただ、一発一発の精度とスピードが常人と桁違いなのが厄介だ。
この男を葬って、あのマーティンとかいう野郎を葬って、娘さんがマーティンと手を取り合って逃げているであろう相手を葬って。
最小で三人。参ったね。
「あの、マーティンって男は何者よ」
「貴方にお伝えする事ではございません」
「仲良さそうだったねェ」
「ええ…馬鹿は敵味方の区別もつかないから困ります…!親の顔が見てみたい!」
「下にいるよォ〜」
「ええそうですか…貴方を殺して物見遊山と行きましょうかね…!」
こんな凶悪な男を親父さんの元に向かわせる訳にはいかないね。もしかして親父さんなら丸め込んじゃうかも知れないけど。やり手だし、兎に角優しい人なのだ。会議の度に「密葬課にもうちょっと権利を」と繰り返してくれた事を、密葬課は一生忘れないだろう。密葬課がここまでの形になったのはあの人のお陰だ。
報いたいと思う。仕事の成果で。
「いい加減死ねよ」
「テメェが死ね」
俺は攻撃の隙を縫い、金髪の頭を掴む。所謂アイアンクローだ。金髪も負けじと手を伸ばし、俺の襟首を引っ掴んだ。そのまま遠心力で俺を壁に打ちつける。門倉のヤロウにやられた古傷がガンガン傷み始めるが、ここで引けば負ける。俺は指に力を込める。指が頭蓋に食い込み、血が伝ってくる。金髪が血走った眼で睨みつける。狂気だった。
太く大きな雄叫びが、耳をつんざく。金髪は自分の頭の肉が削がれるのも構わず、俺を反対側の壁に叩きつけた。目の前がカッと白く爆ぜた。
「ちっ!…晴乃あいつ…どこ行きやがった…」
徹頭徹尾その事ばっかね。飛びかける意識の中でそう思った。
ーーーーーーーーーー
「よぉゲゲゲの」
俺をご丁寧に柱に括り付けてくれちゃってる金髪に呼び掛ける。別に、そこまで往生際悪かねえよ。負けたらそこまでの密葬課よ。
「殺さねえの?」
「あの馬鹿のお父上の知り合いとなれば、それなりに丁重に扱います」
「丁重の意味が大分ずれてそうねぇ」
「否定しません。では」
結び目に納得いったらしい金髪が、さっさか歩き出す。
「なあ」
「…手短に、お願いします」
立ち止まる金髪に、お言葉に甘えて一言だけ。
「娘さんに会ったら、お父さん心配してたって伝えてくれない?」
「承りました」
今度こそ去っていく金髪。俺は柱に体重を預け、気長に助けを待つことにする。
「晴乃、良かったのかい?君、この地獄から抜け出すチャンスだったんじゃない?…あの金髪の君への態度は酷いものだった。そうだろ?」
「…マーティンはあのオジサンが言う事、本当だと思う?」
「え?」
「嘘だったら?お父さんなんて来てなくて、人質に取られる事になったら?目蒲さん…さっきの金髪の人は、私のこと助けてくれるかな」
全面的にハッタリだ。夕湖からお父さんが来ていて、しかもまさかの白星を上げているのは聞いているし、目蒲さんはもちろん助けてくれるだろう。というか…一年もいれば賭郎に愛着も湧く。助け舟が来たから乗り込もうとは中々思えないものだ。良い思い出で終わらせて、ちゃんと別れたい。担任していた子供たちのように、心残りにするのは嫌なのだ。
甘いだろうか。
甘いだろうなあ。
「マーティン…私賭郎は地獄だと思ってるけど、あの人たちが悪魔だとは思えないんだ。友達だもん」
「…そっか」
「帰りたいけどね」
「帰れるといいね」
AEDを見つけて急ブレーキ。これからどんな展開になるか、もう私には読めない。けど、とりあえず武器が要る。目蒲さんからの凶悪なラブコールは聞こえているが、もう暫く放っておく。
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「おい晴乃この馬鹿女!いいから戻って来やがれ!ソイツ誰だ!」
「聞いてりゃさっきから口汚く…」
金髪はギロリと俺を睨むと、鼻っ面に突きを繰り出してくる。勿論躱す。次は上段蹴りが来たので、それは受ける。
受けては躱わされ、躱わしては受けられ。手強い奴等だねェ、賭郎ってのは。俺は脳味噌を削り取ってやったにも関わらず相打ちに持ち込んでくれやがった、あの男を思い出す。
これが後98人。おー怖。親父さんも運が無いね、こんな奴らに娘を拐われちまうなんて。そこら辺のヤクザならすぐにでも取り返してあげるんだけどね。兎に角敵が大きすぎる。
「馬鹿女!馬鹿女!!くっそ、返事しやがれ!」
「おーおー、凄え剣幕でやんの。そら堅気のネエちゃんはビビるわ」
「アンタは黙って死んでろ!」
ビュンと風を切って飛んできた剛腕を、掴んで引き寄せる。近付いてきた頭を額で受けた。金髪の視界に星が舞う。
「…っ!…ちっ!」
盛大な舌打ちをして、金髪は体勢を立て直す。育ち悪いなコイツ。
「いい加減こっちを見てくれないと俺寂しいなぁ」
「はぁー…余程死にたいらしいですねぇー!」
流石に暴言を引っ込めた金髪の猛攻が続く。余程頭に血が上っているようで、攻撃自体は単調で躱しやすい。ただ、一発一発の精度とスピードが常人と桁違いなのが厄介だ。
この男を葬って、あのマーティンとかいう野郎を葬って、娘さんがマーティンと手を取り合って逃げているであろう相手を葬って。
最小で三人。参ったね。
「あの、マーティンって男は何者よ」
「貴方にお伝えする事ではございません」
「仲良さそうだったねェ」
「ええ…馬鹿は敵味方の区別もつかないから困ります…!親の顔が見てみたい!」
「下にいるよォ〜」
「ええそうですか…貴方を殺して物見遊山と行きましょうかね…!」
こんな凶悪な男を親父さんの元に向かわせる訳にはいかないね。もしかして親父さんなら丸め込んじゃうかも知れないけど。やり手だし、兎に角優しい人なのだ。会議の度に「密葬課にもうちょっと権利を」と繰り返してくれた事を、密葬課は一生忘れないだろう。密葬課がここまでの形になったのはあの人のお陰だ。
報いたいと思う。仕事の成果で。
「いい加減死ねよ」
「テメェが死ね」
俺は攻撃の隙を縫い、金髪の頭を掴む。所謂アイアンクローだ。金髪も負けじと手を伸ばし、俺の襟首を引っ掴んだ。そのまま遠心力で俺を壁に打ちつける。門倉のヤロウにやられた古傷がガンガン傷み始めるが、ここで引けば負ける。俺は指に力を込める。指が頭蓋に食い込み、血が伝ってくる。金髪が血走った眼で睨みつける。狂気だった。
太く大きな雄叫びが、耳をつんざく。金髪は自分の頭の肉が削がれるのも構わず、俺を反対側の壁に叩きつけた。目の前がカッと白く爆ぜた。
「ちっ!…晴乃あいつ…どこ行きやがった…」
徹頭徹尾その事ばっかね。飛びかける意識の中でそう思った。
ーーーーーーーーーー
「よぉゲゲゲの」
俺をご丁寧に柱に括り付けてくれちゃってる金髪に呼び掛ける。別に、そこまで往生際悪かねえよ。負けたらそこまでの密葬課よ。
「殺さねえの?」
「あの馬鹿のお父上の知り合いとなれば、それなりに丁重に扱います」
「丁重の意味が大分ずれてそうねぇ」
「否定しません。では」
結び目に納得いったらしい金髪が、さっさか歩き出す。
「なあ」
「…手短に、お願いします」
立ち止まる金髪に、お言葉に甘えて一言だけ。
「娘さんに会ったら、お父さん心配してたって伝えてくれない?」
「承りました」
今度こそ去っていく金髪。俺は柱に体重を預け、気長に助けを待つことにする。