からむ宿木
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「あーもしもし。箕輪です。タワー入りました」
段を上る度に、カツカツと鉄製の非常階段が音を立てる、見栄えを取って真っ赤に塗られたそれは目に煩く、俺は心中で溜息をついた。やってられん。晴乃と別れてから心は沈むばかりだ。
「うん、うん…そうねぇ…一階は暴力禁止ですってよ…ひひっ…さあねえ…半端な人数じゃ突破は難しいでしょうねえ…その代わり、二階以上にゃあ殆ど兵はいねえようだ…それは私が葬りますんで…一階の奴等をのしちゃえばそれで終いです」
戦闘は二階以上でという申し出を、箕輪勢一はあっさりと了承した。電話の内容から察するにこの男は偵察兵なのだろう。正直もう少し人数を増やしてから突入があると踏んでいたが…それ程この男が強いということか、死んで構わないということか。門っちを瀕死に追いやったのだから、勿論前者なのだろう。もしくは、両方か。まあ、どちらでもいい。今は一人で考える時間が欲しい。時間が経てば経つほど頭の中はあいつの事ばかりだ。
いや、惚れた弱みとかではなく。
というか誰に言い訳をしているんだ俺は。
溜息がついに口から漏れるのと、箕輪の電話が終わるのは同時。結果的に俺が彼の電話に呆れたような形になった。
「あー、ごめんねぇー?無視した訳じゃないのよ?おじさんも仕事でさぁ…」
「いいえ、私事ですのでおきになさら…ず!」
先導する俺が最上段に乗ったのを合図に、箕輪は階段を駆け上がる。振り上げられた腕から逃げるように俺はドアを開け、中に転がり込んだ。マウントを取ろうと覆い被さってくる箕輪の腹を蹴り、フロアの奥へと飛ばそうとするが、予想していなかった重量のため、受け流すに終わる。俺は後転の要領で立ち上がる。
「何仕込んでやがる…?」
「俺重いのよ。あのリーゼントから聞いてなかった?あー、まだ話せないかあ。悪かったねぇー」
ゆっくりと立ち上がりながら片唇を上げ、箕輪は言う。
「立会人が皆あの程度だってンなら話は早い。選ばせてやるよ。火葬密葬鳥葬どれがいい?尤も…死に方は選ばせてやれねえけど」
振われる拳を受け流し、こちらも正拳突き。肩を引く形で避けられたが、織り込み済み。腕を引いた流れで体を回転させ、上段蹴りを放つ。
「おやぁ〜?死に方も選ばせられないとは芸の幅の狭さが窺えますなあ。立会人なら銃殺撲殺刺殺なんでもござれです。公に存在できない方には道具はまだ難しいようですねえ?」
「おーおー。若えのがピーチクパーチク囀りやがる」
箕輪は蹴りを左腕で受けた。ぐらりとよろめく姿を見て違和感が募る。見た目で予見される重量と実際が違いすぎるのだ。恐らく、筋肉。しかし、脂肪の分が全て筋肉になったとして、体感100㎏を超える事があるのだろうか?
いや、やめよう。世の中びっくり人間だらけだ。晴乃が最たる例じゃないか。重いと分かればやりようはある。
俺は身を翻し、土産屋に走る。「大口叩いて逃げンのかよ」と聞こえてきたが、まあ、いい。商品棚を飛び越え、ついでに飾ってあったキーホルダーを後脚で蹴り上げる。ガシャンと大きな音を立ててそれらは舞い上がり、箕輪の目を眩ました。舌打ちの音。何となくの方向をそれで理解し、俺は空中で身を捻る。案の定の位置に箕輪はいた。舞い踊るキーホルダーの一つに突きを繰り出せば、それは真っ直ぐ箕輪の左目を目指して飛んで行った。
「へェ〜…やってくれるじゃないの、ゲゲゲの」
左眉の辺りから流れた血をぺろりと舐めながら、箕輪は笑った。
「なあに、道具の使い方を教えて差し上げたまでです。勉強になりましたか?」
箕輪が走り出す。商品棚に手をついて跳び越えたのを見て、余程身体が重いのだろうと思った。ゴリゴリのパワータイプ。いいだろう、おちょくってやるさ。俺は立ててあったペンを引っ掴む。
段を上る度に、カツカツと鉄製の非常階段が音を立てる、見栄えを取って真っ赤に塗られたそれは目に煩く、俺は心中で溜息をついた。やってられん。晴乃と別れてから心は沈むばかりだ。
「うん、うん…そうねぇ…一階は暴力禁止ですってよ…ひひっ…さあねえ…半端な人数じゃ突破は難しいでしょうねえ…その代わり、二階以上にゃあ殆ど兵はいねえようだ…それは私が葬りますんで…一階の奴等をのしちゃえばそれで終いです」
戦闘は二階以上でという申し出を、箕輪勢一はあっさりと了承した。電話の内容から察するにこの男は偵察兵なのだろう。正直もう少し人数を増やしてから突入があると踏んでいたが…それ程この男が強いということか、死んで構わないということか。門っちを瀕死に追いやったのだから、勿論前者なのだろう。もしくは、両方か。まあ、どちらでもいい。今は一人で考える時間が欲しい。時間が経てば経つほど頭の中はあいつの事ばかりだ。
いや、惚れた弱みとかではなく。
というか誰に言い訳をしているんだ俺は。
溜息がついに口から漏れるのと、箕輪の電話が終わるのは同時。結果的に俺が彼の電話に呆れたような形になった。
「あー、ごめんねぇー?無視した訳じゃないのよ?おじさんも仕事でさぁ…」
「いいえ、私事ですのでおきになさら…ず!」
先導する俺が最上段に乗ったのを合図に、箕輪は階段を駆け上がる。振り上げられた腕から逃げるように俺はドアを開け、中に転がり込んだ。マウントを取ろうと覆い被さってくる箕輪の腹を蹴り、フロアの奥へと飛ばそうとするが、予想していなかった重量のため、受け流すに終わる。俺は後転の要領で立ち上がる。
「何仕込んでやがる…?」
「俺重いのよ。あのリーゼントから聞いてなかった?あー、まだ話せないかあ。悪かったねぇー」
ゆっくりと立ち上がりながら片唇を上げ、箕輪は言う。
「立会人が皆あの程度だってンなら話は早い。選ばせてやるよ。火葬密葬鳥葬どれがいい?尤も…死に方は選ばせてやれねえけど」
振われる拳を受け流し、こちらも正拳突き。肩を引く形で避けられたが、織り込み済み。腕を引いた流れで体を回転させ、上段蹴りを放つ。
「おやぁ〜?死に方も選ばせられないとは芸の幅の狭さが窺えますなあ。立会人なら銃殺撲殺刺殺なんでもござれです。公に存在できない方には道具はまだ難しいようですねえ?」
「おーおー。若えのがピーチクパーチク囀りやがる」
箕輪は蹴りを左腕で受けた。ぐらりとよろめく姿を見て違和感が募る。見た目で予見される重量と実際が違いすぎるのだ。恐らく、筋肉。しかし、脂肪の分が全て筋肉になったとして、体感100㎏を超える事があるのだろうか?
いや、やめよう。世の中びっくり人間だらけだ。晴乃が最たる例じゃないか。重いと分かればやりようはある。
俺は身を翻し、土産屋に走る。「大口叩いて逃げンのかよ」と聞こえてきたが、まあ、いい。商品棚を飛び越え、ついでに飾ってあったキーホルダーを後脚で蹴り上げる。ガシャンと大きな音を立ててそれらは舞い上がり、箕輪の目を眩ました。舌打ちの音。何となくの方向をそれで理解し、俺は空中で身を捻る。案の定の位置に箕輪はいた。舞い踊るキーホルダーの一つに突きを繰り出せば、それは真っ直ぐ箕輪の左目を目指して飛んで行った。
「へェ〜…やってくれるじゃないの、ゲゲゲの」
左眉の辺りから流れた血をぺろりと舐めながら、箕輪は笑った。
「なあに、道具の使い方を教えて差し上げたまでです。勉強になりましたか?」
箕輪が走り出す。商品棚に手をついて跳び越えたのを見て、余程身体が重いのだろうと思った。ゴリゴリのパワータイプ。いいだろう、おちょくってやるさ。俺は立ててあったペンを引っ掴む。