沈丁花の約束
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上を下への大騒ぎとはまさにこの事を言うのだろう。連日の拾號立会人室の様を見ているとふとそんな言葉が浮かんだ。
「山口!雑巾取ってこい」
「了解しました!」
目蒲立会人の命令を受け、俺は部屋を出た。そして、廊下に出た途端ニヤつきを抑えられなくなってしまう。
ああ、平和が戻ってきた。
まだ壱號立会人による個別の事情聴取が続いていたり、伏龍さんが目覚めないままだったりと平常には遠そうだが、それでも着実に平和が近づいてくるのを感じられた。もうあの部屋に目蒲立会人の怒声が響くことも、伏龍さんの血が飛び散ることも、部屋がピリピリしたムードで満たされることも、不正を強いられることも二度とない。
伏龍さんのお陰だ。そして、俺のお陰でもある。
「有難う」
深々と頭を下げる目蒲立会人の姿を思い出し、俺は一層笑みを深めた。あの方に感謝して貰える自分が誇らしかった。どうなってもあの人は俺の憧れの人なのである。そして今回の件は、皮肉にも俺や他の拾號メンバーのその気持ちを再確認する絶好の機会になった。
「済まなかった。許してくれとは言わない。望むなら他の立会人の下ににつけるように、俺が渡りをつける」
目蒲立会人のその言葉に頷く者はいなかった。全員が拾號立会人室に留まった。目蒲立会人の境遇を心配する者はいても、嫌う者はいなかったのだ。
素晴らしい人だ。間違いを犯したいという意味ではないが、俺も間違ったとしても部下に付いてきて貰えるような人望をもつ立会人を目指したい。
倉庫を開け、雑巾を片手に引っ掴む。さて戻ろう。伏龍さんの血と吐瀉物のシミをなんとかせねば。
ーーーーーーーーーー
とんでもない女じゃのう。儂は潤沢に集まってしまった調査書をめくりながら、大きくため息をついた。
事件の流れを掻い摘んで説明すれば、単純な事だった。教え子の命を救う為、伏龍は会員・平田氏の代打ちとして佐田国と対戦。勝利を収めるもののそれにより佐田国に命を狙われる。それを助ける為に目蒲は晴乃を監禁。彼女は反抗的な態度をとり、目蒲の反感を買い暴力を受ける。しかし、佐田国と目蒲が手を組んで不正を行っている事を知った彼女は黒服である山口と共に、立会報告書に我々が上手く読み飛ばすよう事実を記し、目蒲が立会い中に馬脚を現すのを虎視眈々と待っておったと、それだけの事。
流れは簡単じゃが、マジでぶっ飛んどる。この件で何回死にかけとるんじゃ、こいつは。
正直深入りしたくない女だったが、お屋形様に教育係に任命されてしまったからには腹を決めるしかない。「とりあえずあの子に賭郎の事を教えて、誰とでも組めるように皆に顔を売っといてよ。幅広く活用できるようにしたいんだ」とのお屋形様のご意向に沿うよう、暫くは事務方として、立会人のスケジュール管理に精を出してもらうとしよう。
ここまで観察しても尚、彼女の値はつかないままだ。
「山口!雑巾取ってこい」
「了解しました!」
目蒲立会人の命令を受け、俺は部屋を出た。そして、廊下に出た途端ニヤつきを抑えられなくなってしまう。
ああ、平和が戻ってきた。
まだ壱號立会人による個別の事情聴取が続いていたり、伏龍さんが目覚めないままだったりと平常には遠そうだが、それでも着実に平和が近づいてくるのを感じられた。もうあの部屋に目蒲立会人の怒声が響くことも、伏龍さんの血が飛び散ることも、部屋がピリピリしたムードで満たされることも、不正を強いられることも二度とない。
伏龍さんのお陰だ。そして、俺のお陰でもある。
「有難う」
深々と頭を下げる目蒲立会人の姿を思い出し、俺は一層笑みを深めた。あの方に感謝して貰える自分が誇らしかった。どうなってもあの人は俺の憧れの人なのである。そして今回の件は、皮肉にも俺や他の拾號メンバーのその気持ちを再確認する絶好の機会になった。
「済まなかった。許してくれとは言わない。望むなら他の立会人の下ににつけるように、俺が渡りをつける」
目蒲立会人のその言葉に頷く者はいなかった。全員が拾號立会人室に留まった。目蒲立会人の境遇を心配する者はいても、嫌う者はいなかったのだ。
素晴らしい人だ。間違いを犯したいという意味ではないが、俺も間違ったとしても部下に付いてきて貰えるような人望をもつ立会人を目指したい。
倉庫を開け、雑巾を片手に引っ掴む。さて戻ろう。伏龍さんの血と吐瀉物のシミをなんとかせねば。
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とんでもない女じゃのう。儂は潤沢に集まってしまった調査書をめくりながら、大きくため息をついた。
事件の流れを掻い摘んで説明すれば、単純な事だった。教え子の命を救う為、伏龍は会員・平田氏の代打ちとして佐田国と対戦。勝利を収めるもののそれにより佐田国に命を狙われる。それを助ける為に目蒲は晴乃を監禁。彼女は反抗的な態度をとり、目蒲の反感を買い暴力を受ける。しかし、佐田国と目蒲が手を組んで不正を行っている事を知った彼女は黒服である山口と共に、立会報告書に我々が上手く読み飛ばすよう事実を記し、目蒲が立会い中に馬脚を現すのを虎視眈々と待っておったと、それだけの事。
流れは簡単じゃが、マジでぶっ飛んどる。この件で何回死にかけとるんじゃ、こいつは。
正直深入りしたくない女だったが、お屋形様に教育係に任命されてしまったからには腹を決めるしかない。「とりあえずあの子に賭郎の事を教えて、誰とでも組めるように皆に顔を売っといてよ。幅広く活用できるようにしたいんだ」とのお屋形様のご意向に沿うよう、暫くは事務方として、立会人のスケジュール管理に精を出してもらうとしよう。
ここまで観察しても尚、彼女の値はつかないままだ。