からむ宿木
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「粛正されろ」
我々の会話を隣で聞いていた夜行掃除人が毒づく。友人としては是非ともお目溢し願いたい所だが…不遜だからなあとは思う。
‘ 命と名誉のための防衛戦なんです。戦うに決まってる。そうでしょ?いつまでもダラダラ捕虜なんてやってませんよ’
今朝の晴乃の言葉が頭を過ぎる。やっぱり、不遜だよな。それだけの能力があるから誰も何も言わないだけで。
ため息をつく。それが彼女、伏龍晴乃。それだけの話なのだ。
「実際、お屋形様は晴乃の事をどう思っているんでしょうか」
「大好きだろうよ」
それはお屋形様がかつて仰っていた事を繰り返しているのか、貴方の考えなのか。問いを発する間もなく、夜行掃除人は配下の掃除人の元へ歩き出す。仕方があるまい。私もSATが到着する前に最終ブリーフィングを終えなければ。
ーーーーーーーーーー
通話をお切りになったお屋形様は、胸ポケットをちょいと摘むような仕草をなさる。私、この棟耶将輝だけが知っている。そこにはあの日撮った伏龍の写真が入っているのだ。世界でたった一人の、彼の友達の写真が。
泉江は先程の会話を聞いてさぞかし肝を冷やした事だろう。彼女が本当に粛正されてしまうのではないかと。だが、それは起こらない。お屋形様と二人の時はもっとフランクに話す時もある。何より、お屋形様付き達は、彼女の想いを知っている。
梅の花の頃だ。妃古壱さんが「将輝さん、この紙に思い出せるだけ、お屋形様がいつ、どこで、どういう時に記憶を無くし、その結果どうなったかを書いて頂けませんか」と頼みに来た。聞けば伏龍と珈琲紅茶の争いに負け、賭けの報酬としてそれを要求されたのだという。何故そんなものを?と聞くと、妃古壱さんは真剣な顔になって「将輝さん、彼女はお屋形様の記憶喪失のメカニズムを解明する気でいますよ。…そして、私はそれに期待しています」と言った。
そんなもの…私も期待するに決まっている。
結果集まった分厚い紙の束を両手で持って、伏龍は脂汗をかいていた。
「私…夜行さんだけのつもりで…まさかこんな事になるなんて思ってなくて…その、ありがとうございました…」
「何、参考になるケースは多ければ多いほどいいものです。古株一同、期待していますよ」
「つ…辛い…!」
結果、妃古壱さんと私に加え、夜行掃除人と能輪立会人が思い出せる限りを書き綴ったのだから伏龍は大変だったと思う。
「スミマセン本当、解明できたらいいな程度に思っておいて下さい…」
「最初から人質の小娘になんぞ期待しちゃいねえよ。死ぬ気でやれ」
「押忍… でも、私、十例程度だと思ってたから夜行さんとそのまま話せるつもりだったんです。すみません。こんなにあるなら読むだけで一晩かかります。明日の夜、また時間を下さいませんか?」
泣きそうになっている伏龍だったが、それでも言いたい事を言えるのは彼女が事務たる所以だ。夜行掃除人は些か不満そうだったが、我々はその願いを聞き入れる。一礼してさっそく自室に戻ろうとする彼女に、ふと思った事を聞いてみる。
「なあ伏龍、どうしてお屋形様の為にそこまでする?」
「へ?だって、友達ですもん」
「友達…」
一言で終わらせかけて、我々の胡乱な目に晒され、彼女は喋り出す。
「…いや、烏滸がましいって言われたらそれまでですけど…人の仕事中にふらっと来て映画鑑賞に誘ってくるのは友達だと思ってますよ、私」
「…そうだな。私も同感だ」
言葉にしては不味いだろうか?だが、私は彼女がお屋形様をそう捉えていてくれることが嬉しいのだ。それこそ烏滸がましい話だが、親心を感じている。そして、その心の機微を感じ取ってか、伏龍は柔らかく笑った。
「友達が苦しんでるなら背負ってやりたくなるのが人情ってヤツですよう。それに…」
彼女は分厚い紙の束を口元に当て、目を細める。
「心配してるのは私だけじゃないですよね?どう考えても」
そうだとも。我々はこの方の事を常に想っている。
「ひとーつ人より欲深く、ふたーつ不法な奸悪権力、みっつ見下げた売国奴を、粛正してよお屋形様」
お屋形様がそう名乗りを上げつつ、副総監室に乱入する。今の私はお屋形様付きとして、その背中を守るのみ。
「笹岡副総監、君は自らの血を流す覚悟はあるか?」
我々には、ある。お屋形様と共に死ぬ覚悟が。
我々の会話を隣で聞いていた夜行掃除人が毒づく。友人としては是非ともお目溢し願いたい所だが…不遜だからなあとは思う。
‘ 命と名誉のための防衛戦なんです。戦うに決まってる。そうでしょ?いつまでもダラダラ捕虜なんてやってませんよ’
今朝の晴乃の言葉が頭を過ぎる。やっぱり、不遜だよな。それだけの能力があるから誰も何も言わないだけで。
ため息をつく。それが彼女、伏龍晴乃。それだけの話なのだ。
「実際、お屋形様は晴乃の事をどう思っているんでしょうか」
「大好きだろうよ」
それはお屋形様がかつて仰っていた事を繰り返しているのか、貴方の考えなのか。問いを発する間もなく、夜行掃除人は配下の掃除人の元へ歩き出す。仕方があるまい。私もSATが到着する前に最終ブリーフィングを終えなければ。
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通話をお切りになったお屋形様は、胸ポケットをちょいと摘むような仕草をなさる。私、この棟耶将輝だけが知っている。そこにはあの日撮った伏龍の写真が入っているのだ。世界でたった一人の、彼の友達の写真が。
泉江は先程の会話を聞いてさぞかし肝を冷やした事だろう。彼女が本当に粛正されてしまうのではないかと。だが、それは起こらない。お屋形様と二人の時はもっとフランクに話す時もある。何より、お屋形様付き達は、彼女の想いを知っている。
梅の花の頃だ。妃古壱さんが「将輝さん、この紙に思い出せるだけ、お屋形様がいつ、どこで、どういう時に記憶を無くし、その結果どうなったかを書いて頂けませんか」と頼みに来た。聞けば伏龍と珈琲紅茶の争いに負け、賭けの報酬としてそれを要求されたのだという。何故そんなものを?と聞くと、妃古壱さんは真剣な顔になって「将輝さん、彼女はお屋形様の記憶喪失のメカニズムを解明する気でいますよ。…そして、私はそれに期待しています」と言った。
そんなもの…私も期待するに決まっている。
結果集まった分厚い紙の束を両手で持って、伏龍は脂汗をかいていた。
「私…夜行さんだけのつもりで…まさかこんな事になるなんて思ってなくて…その、ありがとうございました…」
「何、参考になるケースは多ければ多いほどいいものです。古株一同、期待していますよ」
「つ…辛い…!」
結果、妃古壱さんと私に加え、夜行掃除人と能輪立会人が思い出せる限りを書き綴ったのだから伏龍は大変だったと思う。
「スミマセン本当、解明できたらいいな程度に思っておいて下さい…」
「最初から人質の小娘になんぞ期待しちゃいねえよ。死ぬ気でやれ」
「押忍… でも、私、十例程度だと思ってたから夜行さんとそのまま話せるつもりだったんです。すみません。こんなにあるなら読むだけで一晩かかります。明日の夜、また時間を下さいませんか?」
泣きそうになっている伏龍だったが、それでも言いたい事を言えるのは彼女が事務たる所以だ。夜行掃除人は些か不満そうだったが、我々はその願いを聞き入れる。一礼してさっそく自室に戻ろうとする彼女に、ふと思った事を聞いてみる。
「なあ伏龍、どうしてお屋形様の為にそこまでする?」
「へ?だって、友達ですもん」
「友達…」
一言で終わらせかけて、我々の胡乱な目に晒され、彼女は喋り出す。
「…いや、烏滸がましいって言われたらそれまでですけど…人の仕事中にふらっと来て映画鑑賞に誘ってくるのは友達だと思ってますよ、私」
「…そうだな。私も同感だ」
言葉にしては不味いだろうか?だが、私は彼女がお屋形様をそう捉えていてくれることが嬉しいのだ。それこそ烏滸がましい話だが、親心を感じている。そして、その心の機微を感じ取ってか、伏龍は柔らかく笑った。
「友達が苦しんでるなら背負ってやりたくなるのが人情ってヤツですよう。それに…」
彼女は分厚い紙の束を口元に当て、目を細める。
「心配してるのは私だけじゃないですよね?どう考えても」
そうだとも。我々はこの方の事を常に想っている。
「ひとーつ人より欲深く、ふたーつ不法な奸悪権力、みっつ見下げた売国奴を、粛正してよお屋形様」
お屋形様がそう名乗りを上げつつ、副総監室に乱入する。今の私はお屋形様付きとして、その背中を守るのみ。
「笹岡副総監、君は自らの血を流す覚悟はあるか?」
我々には、ある。お屋形様と共に死ぬ覚悟が。