からむ宿木
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絶対強者。その四文字が脳内に踊る。今頃アイツは高笑いしているんだろう。賭郎は今や、アイツの手中にある。
「晴乃ちゃん、久しぶりだね。おじさんのこと、覚えてるかな」
「…はい。よく覚えてます」
こういう時に思い出すのは、高二の春。俺が初めて伏龍の秘密に触れた日のことだ。
いつもの喫茶店へ向かう道中、じゃらじゃらとやすぼったいアクセサリーを着けた金髪の男が電柱の影からぬっと出てきた。伏龍があからさまに身体を硬直させる。
「よかった!やっと見つけた!十年ぶりになるのかな?」
男は捲し立てる。
「お父さんが会わせてくれなくてさ。参るよね。こっちだって事情があるのに。でもいいや、やっと見つけたんだから」
「おじさん、ほら、友達の前だから」
「は?…あーそうだね、場所を変えようか」
「…ホントに大事な事なら、お父さんを通して」
「はあ?だからお父さんが会わせてくれないんだって」
俺は「いいから行こうよ」と荒っぽく伏龍の手首を掴もうとする、男の腕を薙ぎ払う。男の目が変わった。
「何こいつ、彼氏?ませてんな」
「おじさん、私、おじさんがした事知ってるよ」
「…チッ」
男が舌打ちをすると、伏龍が怯えて服の裾を掴む。コイツがここまでなるなんて、アイツは何者だよ。いつもなら俺の気持ちを察してモールスで伝えてくるはずが、それもない。
人の親友を、ここまでしやがって。
俺は男と鼻が触れ合わん距離まで近づいて、唾フーセンを飛ばす。男が「キタネ!」とのけぞった所にハイキックをかました。勿論寸止めだが、側頭部に掠った革靴を見て、男は青褪める。
「つか、アンタが誰だよ。オッサン」
一応聞いてやる。逃げていく背中から答えを得られる事はなかった。
「オイ、大丈夫か伏龍」
返事は無いが、振り返って全く大丈夫ではないと気付く。彼女は真っ赤な顔で涙を堪えていたのだった。
ーーーーーーーーーー
喫茶店に着く頃には、彼女は一応の落ち着きを取り戻していた。俺たちはいつも通り奥の席に座り、今月のケーキを頼む。
「なあ」
「うん…あれはね、お母さんのお兄さん。チンピラなの」
「だろうな〜」
「あんまりね、頭良くなくてね、出世できなくて。それで、お母さんを引き込もうとしたの」
伏龍のお袋さんを思い出す。伏龍と同じ、伏龍より強い目を持つ彼女の事を。
恩恵に預かるなかで、俺も気付いてはいた。彼女達の目には無限の利用方法がある。
「なるほどな」
「おじさんだけじゃなくて、幹部っぽい人達にまで狙われてさ。私も攫われかけたりして、それで、お母さん参っちゃって」
伏龍はハラハラと涙を流す。気持ちは分かる。恐ろしかっただろう。
「お父さん、警察だから、なんとかしてくれたんだけど、でも、その頃にお母さんはもう外に出れなくなっちゃってた。毎年海水浴とか、行ってたのに。理不尽だ」
「アイツ、マジで蹴っときゃ良かったな」
「ホントだよ」
伏龍が泣きながら微笑む。
「私、いつか会ったら絶対仕返ししてやるって、思ってたのにさ。いざ対面したら何も出来なかった。弥鱈君、ありがと」
「気にすんなって〜」
丁度やってきたケーキに目を向ける。これは…桜の塩漬け?
「珍しいな」
「美味しそうだね」
真っ赤な目のまま、伏龍はケーキにフォークを差し込む。
「私、外出って嫌いだったんだけど、弥鱈君と会えてよかったよ」
「そりゃど〜も」
彼女はケーキを頬張り、笑った。その笑顔こそ彼女が牙を研ぎ始める合図だったのだろうと、今は思う。
「晴乃ちゃん、久しぶりだね。おじさんのこと、覚えてるかな」
「…はい。よく覚えてます」
こういう時に思い出すのは、高二の春。俺が初めて伏龍の秘密に触れた日のことだ。
いつもの喫茶店へ向かう道中、じゃらじゃらとやすぼったいアクセサリーを着けた金髪の男が電柱の影からぬっと出てきた。伏龍があからさまに身体を硬直させる。
「よかった!やっと見つけた!十年ぶりになるのかな?」
男は捲し立てる。
「お父さんが会わせてくれなくてさ。参るよね。こっちだって事情があるのに。でもいいや、やっと見つけたんだから」
「おじさん、ほら、友達の前だから」
「は?…あーそうだね、場所を変えようか」
「…ホントに大事な事なら、お父さんを通して」
「はあ?だからお父さんが会わせてくれないんだって」
俺は「いいから行こうよ」と荒っぽく伏龍の手首を掴もうとする、男の腕を薙ぎ払う。男の目が変わった。
「何こいつ、彼氏?ませてんな」
「おじさん、私、おじさんがした事知ってるよ」
「…チッ」
男が舌打ちをすると、伏龍が怯えて服の裾を掴む。コイツがここまでなるなんて、アイツは何者だよ。いつもなら俺の気持ちを察してモールスで伝えてくるはずが、それもない。
人の親友を、ここまでしやがって。
俺は男と鼻が触れ合わん距離まで近づいて、唾フーセンを飛ばす。男が「キタネ!」とのけぞった所にハイキックをかました。勿論寸止めだが、側頭部に掠った革靴を見て、男は青褪める。
「つか、アンタが誰だよ。オッサン」
一応聞いてやる。逃げていく背中から答えを得られる事はなかった。
「オイ、大丈夫か伏龍」
返事は無いが、振り返って全く大丈夫ではないと気付く。彼女は真っ赤な顔で涙を堪えていたのだった。
ーーーーーーーーーー
喫茶店に着く頃には、彼女は一応の落ち着きを取り戻していた。俺たちはいつも通り奥の席に座り、今月のケーキを頼む。
「なあ」
「うん…あれはね、お母さんのお兄さん。チンピラなの」
「だろうな〜」
「あんまりね、頭良くなくてね、出世できなくて。それで、お母さんを引き込もうとしたの」
伏龍のお袋さんを思い出す。伏龍と同じ、伏龍より強い目を持つ彼女の事を。
恩恵に預かるなかで、俺も気付いてはいた。彼女達の目には無限の利用方法がある。
「なるほどな」
「おじさんだけじゃなくて、幹部っぽい人達にまで狙われてさ。私も攫われかけたりして、それで、お母さん参っちゃって」
伏龍はハラハラと涙を流す。気持ちは分かる。恐ろしかっただろう。
「お父さん、警察だから、なんとかしてくれたんだけど、でも、その頃にお母さんはもう外に出れなくなっちゃってた。毎年海水浴とか、行ってたのに。理不尽だ」
「アイツ、マジで蹴っときゃ良かったな」
「ホントだよ」
伏龍が泣きながら微笑む。
「私、いつか会ったら絶対仕返ししてやるって、思ってたのにさ。いざ対面したら何も出来なかった。弥鱈君、ありがと」
「気にすんなって〜」
丁度やってきたケーキに目を向ける。これは…桜の塩漬け?
「珍しいな」
「美味しそうだね」
真っ赤な目のまま、伏龍はケーキにフォークを差し込む。
「私、外出って嫌いだったんだけど、弥鱈君と会えてよかったよ」
「そりゃど〜も」
彼女はケーキを頬張り、笑った。その笑顔こそ彼女が牙を研ぎ始める合図だったのだろうと、今は思う。