からむ宿木
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
晴乃は携帯を弄りながらエレベーターに向かう。俺がその背を追おうとしたところで貘様に呼ばれ、俺達は足を止めた。
「晴乃チャン、マルコに教えてくれてありがとね」
「いえいえ、当然ですよう」
「いやー、優しい晴乃チャンならこのまま俺達に味方してくれちゃったりして」
「ないですねー。賭郎はあくまで公平です」
「あれれ?晴乃チャンは身も心も賭郎の一員になっちゃったの?」
晴乃は麗かに笑い、「なってませんよう。まあ、九割八分くらい賭郎みたいなもんですけどね」と言った。貘様もニヤリと笑う。
「俺達と組もうよ」
「ウケる。不倶戴天の敵じゃないんですか?私達」
「腹割って話してみないと分からないこともあるでしょ?晴乃チャンが欲しい」
「私は別に、要らないかな」
「良く考えておいてね」
「どうもです」
そう言うと彼女は獏様から視線を外し、立会人の二人に会釈した。切間立会人がおどけて「晴乃が離脱すると立会人が大量脱退するからな!ぐはあ!」と笑った。できるのか?
ーーーーーーーーーー
「9でした、二人とも。探る気はなかったんですけど」
エレベーターのドアが閉まった途端、晴乃はそう呟いた。
「…それはもしかして、球の数の話か?」
「はい。多分ですけど。ちょっと確かめてみましょうか?」
「…網膜認証を突破する策があるなら止めないぞ」
「…ううん、ダメかあ。私と目蒲さんペアだったら500億取れてたのに、残念ですねえ」
彼女は唇を尖らせた。
「500億あったら旅行行けたんですけどね」
「ささやかだな」
「えー、じゃあ、目蒲さん何します?」
「…それ位あればお前を人質から解放できないか」
「ないですね」
「きっぱり言ったな」
「お屋形様は私の事大好きですからね」
なんだそれと言いかけて、忘年会を思い出す。あの時点で大好きだったのなら、今や500億は端金かもしれない。
「…貯金、だな」
「夢がないなあ、目蒲さん」
「五月蝿え馬鹿女」
丁度エレベーターのドアが開いたので外に出ようとする晴乃の首根っこを掴んで止める。ぐえ、という色気の無い悲鳴。
「すまん」
「へ?あっ」
一応詫びは入れ、走り出す。正面ではレオ様がナイフを構えている。先手を取るのは俺。ガードの左手を縫い、右手に一発。ナイフを取り落とした。地面に触れるかどうかの所でそれを蹴り上げ、握ろうとするレオ様。そうはいかん。ガラ空きの脇腹にもう一発喰らわす。
「困りますねえ、観光客の方がナイフを振り回されては」
「はっ?」
レオ様が目を見開く。排除されると思っていたのだろう。無理もない。後方に跳んで俺と距離を取り、思案に入る。
「ここはギャンブルの舞台となりました。急だったためお客様方の避難が遅れ申し訳ありません。降りるのに付き添いましょうか?」
「いや…結構だ」
別に意地悪がしたいわけではない。そう言葉を添えてやれば、レオ様は朧げながら今回のルールの一つを察したようだった。今回は賭郎が勝負の場を整える事はしない。つまり、事前に‘何’を持ち込もうと関与しないということだ。勝負の著しい妨げにならなければの話だが、その裁量は我々タワー上階組にある。
「そうですか。なら結構です」
俺はそう言うと、戻ってエレベーターのボタンを押した。開いた扉の向こうでは晴乃が座り込んでいる。
「終わったぞ」
「あ、目蒲さんありがとうございました!レオ様やっつけました?」
「いや、そこでピンピンしてる」
「へっ?!」
『だろうな』
「…これはこれは、外務卿殿」
床に置いてあった晴乃の携帯から声が聞こえてきて、些か驚く。スピーカーフォンで通話中だったらしい。
「やっつけないとマズくないですか?」
「問題ない。今回は事前にタワー内を調べる時間がなかったからな」
「…あーそっか、何があっても仕方がないのかあ。いや、皆さん頭いいですねえ」
「お前が馬鹿なだけだ」
「酷い。夕湖何か言ってやって」
『晴乃はいい奴だぞ』
「なんかそれ、弱いなあ」
口を尖らす晴乃に、とりあえずエレベーターから出てくるよう身振りで伝える。彼女はコクコク頷いて携帯を掴むと、こちらにやってきた。
「でも私、賢いかもです。気づいちゃいました」
『どうした』
「何があっても仕方がないなら私いらなくないですか?」
『賢い』
「ほらね畜生!デート行こうぜ目蒲さん!」
「外のSATを突破出来るならな」
「撤回!ここにいます!」
『賢い』
「お屋形様、乱入してこないでください」
『晴乃君、粛正』
「ぎゃ!」
がーん。
「え、何今の音?」
『私です』
「ありゃ弥鱈君、何ふざけてんのさ」
『画面下に効果音ボタンがありましたので』
『技術部は何を考えているんだ…』
『ああ泉江、それ作らせたの私』
『素晴らしい機能です』
キラーン。
「いや、トランシーバーアプリには要らなかったと思いますよ…!」
『晴乃君、粛正』
どどーん。
「ぎゃ!」
がーん。
「もう!てか弥鱈君が活用しすぎなんだよもう!やめて!」
『技術部は頑張ったんだぞ〜』
「だからなんだっていうんだ!」
がおー。
「ああもう!てかさ!このアプリがあるならいよいよ私要りませんよね?!帰ろう目蒲さん!」
『君、何言ってるの。君が聞いてないなら私は報告しないよ』
「えっ…あっ…」
突然の惚気に赤面する晴乃。楽しそうで何よりだが…情報が正しければ泉江外務卿はタワーの外、弥鱈立会人はテレビ局、お屋形様は警視庁ではなかろうか。
客前でこれとか、正気か。
携帯にメールが入ったので確認する。同志、南方立会人からの「本当に申し訳ないが、目蒲立会人から女史に職務に戻るように伝えてくれないだろうか。扉の向こうでずっとお屋形様の声が聞こえていて誤魔化しきれない」というものだった。そのまま画面を晴乃に見せる。
「…さっ!じゃあ皆さん職務に戻りましょうか」
『そうだな』
『お〜』
『うん。ああそうだ晴乃君、二つ。21個の搦手は欲しいので嘘喰いの邪魔をしない事』
「バレてましたか。残念。もう一つは?」
『目蒲とのデートは許さないよ』
「妬いてます?」
『まさか』
「なんだつまんない」
彼女は話を打ち切り、携帯をポケットに戻す。
「デートダメですって。残念」
「行けるつもりだったのか?」
けらけら。彼女は笑う。その背後では、エレベーターの回数表示が光っている。
「晴乃チャン、マルコに教えてくれてありがとね」
「いえいえ、当然ですよう」
「いやー、優しい晴乃チャンならこのまま俺達に味方してくれちゃったりして」
「ないですねー。賭郎はあくまで公平です」
「あれれ?晴乃チャンは身も心も賭郎の一員になっちゃったの?」
晴乃は麗かに笑い、「なってませんよう。まあ、九割八分くらい賭郎みたいなもんですけどね」と言った。貘様もニヤリと笑う。
「俺達と組もうよ」
「ウケる。不倶戴天の敵じゃないんですか?私達」
「腹割って話してみないと分からないこともあるでしょ?晴乃チャンが欲しい」
「私は別に、要らないかな」
「良く考えておいてね」
「どうもです」
そう言うと彼女は獏様から視線を外し、立会人の二人に会釈した。切間立会人がおどけて「晴乃が離脱すると立会人が大量脱退するからな!ぐはあ!」と笑った。できるのか?
ーーーーーーーーーー
「9でした、二人とも。探る気はなかったんですけど」
エレベーターのドアが閉まった途端、晴乃はそう呟いた。
「…それはもしかして、球の数の話か?」
「はい。多分ですけど。ちょっと確かめてみましょうか?」
「…網膜認証を突破する策があるなら止めないぞ」
「…ううん、ダメかあ。私と目蒲さんペアだったら500億取れてたのに、残念ですねえ」
彼女は唇を尖らせた。
「500億あったら旅行行けたんですけどね」
「ささやかだな」
「えー、じゃあ、目蒲さん何します?」
「…それ位あればお前を人質から解放できないか」
「ないですね」
「きっぱり言ったな」
「お屋形様は私の事大好きですからね」
なんだそれと言いかけて、忘年会を思い出す。あの時点で大好きだったのなら、今や500億は端金かもしれない。
「…貯金、だな」
「夢がないなあ、目蒲さん」
「五月蝿え馬鹿女」
丁度エレベーターのドアが開いたので外に出ようとする晴乃の首根っこを掴んで止める。ぐえ、という色気の無い悲鳴。
「すまん」
「へ?あっ」
一応詫びは入れ、走り出す。正面ではレオ様がナイフを構えている。先手を取るのは俺。ガードの左手を縫い、右手に一発。ナイフを取り落とした。地面に触れるかどうかの所でそれを蹴り上げ、握ろうとするレオ様。そうはいかん。ガラ空きの脇腹にもう一発喰らわす。
「困りますねえ、観光客の方がナイフを振り回されては」
「はっ?」
レオ様が目を見開く。排除されると思っていたのだろう。無理もない。後方に跳んで俺と距離を取り、思案に入る。
「ここはギャンブルの舞台となりました。急だったためお客様方の避難が遅れ申し訳ありません。降りるのに付き添いましょうか?」
「いや…結構だ」
別に意地悪がしたいわけではない。そう言葉を添えてやれば、レオ様は朧げながら今回のルールの一つを察したようだった。今回は賭郎が勝負の場を整える事はしない。つまり、事前に‘何’を持ち込もうと関与しないということだ。勝負の著しい妨げにならなければの話だが、その裁量は我々タワー上階組にある。
「そうですか。なら結構です」
俺はそう言うと、戻ってエレベーターのボタンを押した。開いた扉の向こうでは晴乃が座り込んでいる。
「終わったぞ」
「あ、目蒲さんありがとうございました!レオ様やっつけました?」
「いや、そこでピンピンしてる」
「へっ?!」
『だろうな』
「…これはこれは、外務卿殿」
床に置いてあった晴乃の携帯から声が聞こえてきて、些か驚く。スピーカーフォンで通話中だったらしい。
「やっつけないとマズくないですか?」
「問題ない。今回は事前にタワー内を調べる時間がなかったからな」
「…あーそっか、何があっても仕方がないのかあ。いや、皆さん頭いいですねえ」
「お前が馬鹿なだけだ」
「酷い。夕湖何か言ってやって」
『晴乃はいい奴だぞ』
「なんかそれ、弱いなあ」
口を尖らす晴乃に、とりあえずエレベーターから出てくるよう身振りで伝える。彼女はコクコク頷いて携帯を掴むと、こちらにやってきた。
「でも私、賢いかもです。気づいちゃいました」
『どうした』
「何があっても仕方がないなら私いらなくないですか?」
『賢い』
「ほらね畜生!デート行こうぜ目蒲さん!」
「外のSATを突破出来るならな」
「撤回!ここにいます!」
『賢い』
「お屋形様、乱入してこないでください」
『晴乃君、粛正』
「ぎゃ!」
がーん。
「え、何今の音?」
『私です』
「ありゃ弥鱈君、何ふざけてんのさ」
『画面下に効果音ボタンがありましたので』
『技術部は何を考えているんだ…』
『ああ泉江、それ作らせたの私』
『素晴らしい機能です』
キラーン。
「いや、トランシーバーアプリには要らなかったと思いますよ…!」
『晴乃君、粛正』
どどーん。
「ぎゃ!」
がーん。
「もう!てか弥鱈君が活用しすぎなんだよもう!やめて!」
『技術部は頑張ったんだぞ〜』
「だからなんだっていうんだ!」
がおー。
「ああもう!てかさ!このアプリがあるならいよいよ私要りませんよね?!帰ろう目蒲さん!」
『君、何言ってるの。君が聞いてないなら私は報告しないよ』
「えっ…あっ…」
突然の惚気に赤面する晴乃。楽しそうで何よりだが…情報が正しければ泉江外務卿はタワーの外、弥鱈立会人はテレビ局、お屋形様は警視庁ではなかろうか。
客前でこれとか、正気か。
携帯にメールが入ったので確認する。同志、南方立会人からの「本当に申し訳ないが、目蒲立会人から女史に職務に戻るように伝えてくれないだろうか。扉の向こうでずっとお屋形様の声が聞こえていて誤魔化しきれない」というものだった。そのまま画面を晴乃に見せる。
「…さっ!じゃあ皆さん職務に戻りましょうか」
『そうだな』
『お〜』
『うん。ああそうだ晴乃君、二つ。21個の搦手は欲しいので嘘喰いの邪魔をしない事』
「バレてましたか。残念。もう一つは?」
『目蒲とのデートは許さないよ』
「妬いてます?」
『まさか』
「なんだつまんない」
彼女は話を打ち切り、携帯をポケットに戻す。
「デートダメですって。残念」
「行けるつもりだったのか?」
けらけら。彼女は笑う。その背後では、エレベーターの回数表示が光っている。