からむ宿木
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頼られる、というのは気分がいい。俺は少しだけスーツを引っ張られる感触を楽しんだ。しかし、これで動揺するのは彼女だけ。物語は進む。
「会員の捨隈様、確かあなたが初めて賭郎勝負をした時は、その立会人は零號ではなかったと記憶していますが」
「確かに」
夜行立会人が問い、捨隈様が答える。やっと気付いたらしい晴乃がくしゃりとスーツを握る。どの道、亘立会人に任務を与えていた時点で詰みだ。おろおろとスーツを弄る指を、そう脳内で慰める。
「私の専属は参拾俉號亘立会人です。私もそう思っていたのですが、先程賭郎にコンタクトした所、私の専属は今手が離せないという返答が返ってきました…よって…今から来る立会人は…あの日会員権を手に入れた時に立会っていた方。それが確か…」
なんとも丁度良いタイミングで聞こえてきたのは、聞き慣れたホイールの音。さあ、来たぞ。
「切間撻器零號立会人です」
いつもの滑走でタワーに入場してきた切間立会人は、役者が揃っていることを目の動きで確認すると満足そうに目を細め、「上から失礼」と一言。そして爪先を勢いよく地面に打ちつけ、フワ、と立ち入り禁止を示すベルトパーティションを飛び越えた。
「遅ればせながら私零號立会人、切間撻器と申します」
着地と同時に麗しく一礼。全くもって派手好きの切間立会人らしい。彼は「いい具合に張り詰めている。楽しい勝負になりそうだ…」と居並ぶ面々を順に見回す。そして嘘喰いに目を留め、「お前もしつこい奴だな」と嫌味を一つ。しかし、すぐに「夜行、二人にとっては急がねばならんのだろう?この勝負…さっさと始めよう」と笑顔を作った。
「おっと…だが、晴乃が怯えているじゃあないか…なぜだ?…ああ、成る程」
彼は笑顔を崩さず、ひょいと猫議員の死体を持ち上げた。
「おいおい、こんなところで寝てちゃ困るな。つまづきでもしてコケたら怪我の元だ…起きろ…」
切間立会人は猫議員の耳元に口を近づけ、皆に聞こえるように態とらしくそう言った。そして「仕方がない」とばかりにため息をつくと、足先の力だけで死体に蹴りを入れ、塔外へと吹っ飛ばす。「ひ」と背中で悲鳴が上がった。
「さて。勝者は500億。そして我ら賭郎に納める搦手の功績を手にする事になります。この事についてはお屋形様も異論無しとのことです。搦手を成功させるにはアルファベットのターゲット達を免責する電波ジャックを続ける必要があります。双方の合意がありましたゆえ、カール氏には継続して送信機室の管理を行ってもらうため、勝負から外れてもらいます。そして、勝負の時間には限りがあります。政府が自衛隊に出動を命じ、妨害電波が発信されるまで最短でおそらく2時間。あくまで予想でしかありませんが、それまでに勝負をつけなければならないでしょう。つまり今からこのタワーを勝負の為にあれこれ調べる事は出来ません。この状況から即座に始める事になりますがよろしいですか?」
「俺は問題ないけどね。あちらさんは何というか…俺が何か仕掛けてるとか疑ってたりしちゃったりして…」
「結構です。初めからこうなる事は分かって来てますので」
「救済措置として、この二人を上に配置しましょう。勝負の進行に大きく差し障る何かがあれば、彼らが排除致します」
「ん?!」
さらりとのたまった切間立会人に対して、晴乃が大きな疑問符をつけた。
「そういう役回りだったんですか?私達」
「ぐはあ!お屋形様から'より楽しくなるように配置せよ'とのお達しが来ているぞ!」
「あいつまじむかつく!」
「ぐははあ!ま、頼んだぞ。一階の状況は部下に逐一メールを入れさせよう」
即座に反抗の構えを取る晴乃を腕で捉え、口を塞ぐ。代わりに「お任せください」と答えれば、下から凄まじい剣幕で睨まれた。
「では始めましょう。勝負内容は我らに一任との事でしたので、切間立会人と私とで決めさせていただきました。タワーを使っての勝負は賭郎でもいくつかありますが…最もこの状況に合ったものを選択させていただきました。内容はシンプルでいて深い駆け引きが楽しめるものです。ではご説明致します」
晴乃が腕をタップしてきたので、少しだけ緩めてやる。「ぷは」と大袈裟に一呼吸して、彼女は「目蒲さん、行きましょ」と言った。
「ルールは」
「知ってますもん。目蒲さんもでしょ?」
「まあ」
「じゃ、いいじゃないですか」
「だがな」
晴乃は俺が反論する前に内容を察したようで、「もう…立会人だなあ」と笑った。
「会員の捨隈様、確かあなたが初めて賭郎勝負をした時は、その立会人は零號ではなかったと記憶していますが」
「確かに」
夜行立会人が問い、捨隈様が答える。やっと気付いたらしい晴乃がくしゃりとスーツを握る。どの道、亘立会人に任務を与えていた時点で詰みだ。おろおろとスーツを弄る指を、そう脳内で慰める。
「私の専属は参拾俉號亘立会人です。私もそう思っていたのですが、先程賭郎にコンタクトした所、私の専属は今手が離せないという返答が返ってきました…よって…今から来る立会人は…あの日会員権を手に入れた時に立会っていた方。それが確か…」
なんとも丁度良いタイミングで聞こえてきたのは、聞き慣れたホイールの音。さあ、来たぞ。
「切間撻器零號立会人です」
いつもの滑走でタワーに入場してきた切間立会人は、役者が揃っていることを目の動きで確認すると満足そうに目を細め、「上から失礼」と一言。そして爪先を勢いよく地面に打ちつけ、フワ、と立ち入り禁止を示すベルトパーティションを飛び越えた。
「遅ればせながら私零號立会人、切間撻器と申します」
着地と同時に麗しく一礼。全くもって派手好きの切間立会人らしい。彼は「いい具合に張り詰めている。楽しい勝負になりそうだ…」と居並ぶ面々を順に見回す。そして嘘喰いに目を留め、「お前もしつこい奴だな」と嫌味を一つ。しかし、すぐに「夜行、二人にとっては急がねばならんのだろう?この勝負…さっさと始めよう」と笑顔を作った。
「おっと…だが、晴乃が怯えているじゃあないか…なぜだ?…ああ、成る程」
彼は笑顔を崩さず、ひょいと猫議員の死体を持ち上げた。
「おいおい、こんなところで寝てちゃ困るな。つまづきでもしてコケたら怪我の元だ…起きろ…」
切間立会人は猫議員の耳元に口を近づけ、皆に聞こえるように態とらしくそう言った。そして「仕方がない」とばかりにため息をつくと、足先の力だけで死体に蹴りを入れ、塔外へと吹っ飛ばす。「ひ」と背中で悲鳴が上がった。
「さて。勝者は500億。そして我ら賭郎に納める搦手の功績を手にする事になります。この事についてはお屋形様も異論無しとのことです。搦手を成功させるにはアルファベットのターゲット達を免責する電波ジャックを続ける必要があります。双方の合意がありましたゆえ、カール氏には継続して送信機室の管理を行ってもらうため、勝負から外れてもらいます。そして、勝負の時間には限りがあります。政府が自衛隊に出動を命じ、妨害電波が発信されるまで最短でおそらく2時間。あくまで予想でしかありませんが、それまでに勝負をつけなければならないでしょう。つまり今からこのタワーを勝負の為にあれこれ調べる事は出来ません。この状況から即座に始める事になりますがよろしいですか?」
「俺は問題ないけどね。あちらさんは何というか…俺が何か仕掛けてるとか疑ってたりしちゃったりして…」
「結構です。初めからこうなる事は分かって来てますので」
「救済措置として、この二人を上に配置しましょう。勝負の進行に大きく差し障る何かがあれば、彼らが排除致します」
「ん?!」
さらりとのたまった切間立会人に対して、晴乃が大きな疑問符をつけた。
「そういう役回りだったんですか?私達」
「ぐはあ!お屋形様から'より楽しくなるように配置せよ'とのお達しが来ているぞ!」
「あいつまじむかつく!」
「ぐははあ!ま、頼んだぞ。一階の状況は部下に逐一メールを入れさせよう」
即座に反抗の構えを取る晴乃を腕で捉え、口を塞ぐ。代わりに「お任せください」と答えれば、下から凄まじい剣幕で睨まれた。
「では始めましょう。勝負内容は我らに一任との事でしたので、切間立会人と私とで決めさせていただきました。タワーを使っての勝負は賭郎でもいくつかありますが…最もこの状況に合ったものを選択させていただきました。内容はシンプルでいて深い駆け引きが楽しめるものです。ではご説明致します」
晴乃が腕をタップしてきたので、少しだけ緩めてやる。「ぷは」と大袈裟に一呼吸して、彼女は「目蒲さん、行きましょ」と言った。
「ルールは」
「知ってますもん。目蒲さんもでしょ?」
「まあ」
「じゃ、いいじゃないですか」
「だがな」
晴乃は俺が反論する前に内容を察したようで、「もう…立会人だなあ」と笑った。