アイリス・アポロは野に咲いて
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揉み合う八號の黒服達を横目に、マスターの前に座り込む晴乃に近づいていく。そんな俺に気付き、手を振ってくるとぼけた姿が非常に彼女らしくて笑えた。
「やけに化粧が濃くないか」
「よく見てますね、目蒲さん」
いつもよりピンク色の濃い唇が麗らかに笑う。釣られて半月を描く目元は随分と勝気に見えて、俺はこの女を監禁していた頃を思い出した。
成る程、かつて言っていた、会敵した時の動作が決まっているとはこういう事か。晴乃は麗らかに笑うらしい。
「さて」
彼女は立ち上がると、廊下で言い争っている黒服達に言い放つ。
「援軍が到着しました。ゲームオーバーですよ」
ふふ。彼女はすぐそばにいた俺だけに聞こえた小さな含み笑いを余韻に残して、立ち上がると、さっきまで背もたれにしていた扉を開け、中に入っていった。'援軍'として蹴散らして置くべきかと迷ったが、俺を見て微笑む晴乃の目が「放っておけ」と言っていたので、そのまま彼女の後についていった。
「援軍扱いか」
「気に障りました?」
「まあ、な」
「ふうん。うふふ」
「何だ」
「凄い」
「は?」
「私は手段を選んでたら勝てないのに、目蒲さんにはまだ手段を選ぶ余裕がある」
「だが、俺はお前に勝てない」
彼女は驚いた顔をした。しまった、褒めすぎたか。気まずくなった俺はなんとか話を変えようと「外はいいのか?」と聞いた。
彼女は俺の思考を読んでか読まずか、ニヤリと笑った。
「大丈夫。この部屋の中に攻め込んで来れるほど肝の座った黒服は八號にいません。そんなことより、目蒲さんは何故ここに?」
何故か、とは、素っ気ない言い方をしてくれるじゃあないか。元はと言えばお前のお使いの為だろうが。だが、不満を口にする気は無い。俺は「夜行に話を聞いてきた」と切り出した。
「そっか。ありがとうございました。どうでした?」
「この番組はダミーだ。嘘喰いの真の狙いはこの次に放送される暴露番組」
「うへえ」
「うへえ、ってなあ…。元々Lファイルに載っているのが二人だけだ。分かっていた話だろう」
「いや…二段構えなんて、普通やります?」
「やるな」
「やるのかあ…」
彼女は「凄いなあ」と呟いて、髪をかきあげた。
「じゃあ、おじいちゃんの地下ケーブルは間違いじゃなかったんですねえ」
「いや、そうとも言えん」
「へ?」
「嘘喰いはそれを見越して、帝国タワーを抑えていた」
「帝国タワー…?」
「あのな…旧電波塔だ」
「あー!ああ…じゃあ、マズいですね。次はどなたが暴露されるんですか?」
「教えてやってもいい。お前には覚えきれないだろうがな」
「やってみなきゃ分からない!」
「21人いるぞ」
「やっぱやめときますね」
「だろうな」
「でも、困りましたね。私がどうこうできるレベルじゃなくなってきましたよ」
「ああ。お屋形様が動かれるそうだ」
「おお!凄い、これで何も怖いもの無しですね。帰りましょ!」
「いや、そうもいかん」
「へ?」
「俺に何故ここに来たか聞いたな。お前を帝国タワーに連れていく為だ。お屋形様のご命令でな」
「はぁ!?嫌です嫌です。行って何になるんですか。お屋形様って事は、棟椰さんもでしょ?獏様の立会人が夜行さんで?」
「外務卿も動く。名うてのスイーパーを率いて」
「超豪華!ほら、私なんて要らない要らない!帰りましょ目蒲さん。私久し振りにコンビニ行きたい」
「コンビニ位寄ってやる。ほら行くぞ。外務卿からの要請だ」
「え、夕湖なの?お屋形様なの?」
「両方だ」
「何でそんな事が起こるんですか」
「知らん。両方から電話が来た」
「大丈夫か賭郎」
「外務卿は、‘お屋形様の状況を掴んでおいてくれ。お前にしかできない’。そしてお屋形様は‘皆の状況を確認して、時々私に教えてね’だそうだ」
「私を間に挟む意味!」
「お前以外誰も纏められん。いいから行くぞ」
そう言って手を引くも、彼女は歩き出す気配を見せない。まあ、いいだろう。対して重くもない。俺は彼女を引きずりながら部屋を出た。
脳裏に散歩を拒否する犬の映像がちらついたのは誰にも言わないことにする。
「やけに化粧が濃くないか」
「よく見てますね、目蒲さん」
いつもよりピンク色の濃い唇が麗らかに笑う。釣られて半月を描く目元は随分と勝気に見えて、俺はこの女を監禁していた頃を思い出した。
成る程、かつて言っていた、会敵した時の動作が決まっているとはこういう事か。晴乃は麗らかに笑うらしい。
「さて」
彼女は立ち上がると、廊下で言い争っている黒服達に言い放つ。
「援軍が到着しました。ゲームオーバーですよ」
ふふ。彼女はすぐそばにいた俺だけに聞こえた小さな含み笑いを余韻に残して、立ち上がると、さっきまで背もたれにしていた扉を開け、中に入っていった。'援軍'として蹴散らして置くべきかと迷ったが、俺を見て微笑む晴乃の目が「放っておけ」と言っていたので、そのまま彼女の後についていった。
「援軍扱いか」
「気に障りました?」
「まあ、な」
「ふうん。うふふ」
「何だ」
「凄い」
「は?」
「私は手段を選んでたら勝てないのに、目蒲さんにはまだ手段を選ぶ余裕がある」
「だが、俺はお前に勝てない」
彼女は驚いた顔をした。しまった、褒めすぎたか。気まずくなった俺はなんとか話を変えようと「外はいいのか?」と聞いた。
彼女は俺の思考を読んでか読まずか、ニヤリと笑った。
「大丈夫。この部屋の中に攻め込んで来れるほど肝の座った黒服は八號にいません。そんなことより、目蒲さんは何故ここに?」
何故か、とは、素っ気ない言い方をしてくれるじゃあないか。元はと言えばお前のお使いの為だろうが。だが、不満を口にする気は無い。俺は「夜行に話を聞いてきた」と切り出した。
「そっか。ありがとうございました。どうでした?」
「この番組はダミーだ。嘘喰いの真の狙いはこの次に放送される暴露番組」
「うへえ」
「うへえ、ってなあ…。元々Lファイルに載っているのが二人だけだ。分かっていた話だろう」
「いや…二段構えなんて、普通やります?」
「やるな」
「やるのかあ…」
彼女は「凄いなあ」と呟いて、髪をかきあげた。
「じゃあ、おじいちゃんの地下ケーブルは間違いじゃなかったんですねえ」
「いや、そうとも言えん」
「へ?」
「嘘喰いはそれを見越して、帝国タワーを抑えていた」
「帝国タワー…?」
「あのな…旧電波塔だ」
「あー!ああ…じゃあ、マズいですね。次はどなたが暴露されるんですか?」
「教えてやってもいい。お前には覚えきれないだろうがな」
「やってみなきゃ分からない!」
「21人いるぞ」
「やっぱやめときますね」
「だろうな」
「でも、困りましたね。私がどうこうできるレベルじゃなくなってきましたよ」
「ああ。お屋形様が動かれるそうだ」
「おお!凄い、これで何も怖いもの無しですね。帰りましょ!」
「いや、そうもいかん」
「へ?」
「俺に何故ここに来たか聞いたな。お前を帝国タワーに連れていく為だ。お屋形様のご命令でな」
「はぁ!?嫌です嫌です。行って何になるんですか。お屋形様って事は、棟椰さんもでしょ?獏様の立会人が夜行さんで?」
「外務卿も動く。名うてのスイーパーを率いて」
「超豪華!ほら、私なんて要らない要らない!帰りましょ目蒲さん。私久し振りにコンビニ行きたい」
「コンビニ位寄ってやる。ほら行くぞ。外務卿からの要請だ」
「え、夕湖なの?お屋形様なの?」
「両方だ」
「何でそんな事が起こるんですか」
「知らん。両方から電話が来た」
「大丈夫か賭郎」
「外務卿は、‘お屋形様の状況を掴んでおいてくれ。お前にしかできない’。そしてお屋形様は‘皆の状況を確認して、時々私に教えてね’だそうだ」
「私を間に挟む意味!」
「お前以外誰も纏められん。いいから行くぞ」
そう言って手を引くも、彼女は歩き出す気配を見せない。まあ、いいだろう。対して重くもない。俺は彼女を引きずりながら部屋を出た。
脳裏に散歩を拒否する犬の映像がちらついたのは誰にも言わないことにする。