アイリス・アポロは野に咲いて
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ふう。
ぱちん。
ふう。
ぱちん。
一仕事を終えた伏龍さんは、弥鱈立会人が作る唾風船をひたすら割る、退屈極まりないゲームに興じている。二人は私達黒服にも、目の前のギャンブルにもまるで興味が無いようだ。尤も、弥鱈立会人はギャンブルに興味が無い時は誰の目にも明らかな態度を取る人なので、特段驚きもしないのだが。
そんな二人を見ながら、ぼんやりと考える。
不倶戴天の敵。伏龍さんが仰ったのは、どういうことだろう。賭郎は渡さないと言ったのは。このゲームで獏様は賭郎の取り立てた秘密を暴露することで、賭郎の地位を危険に晒した。その事なのか?否。それならば「守る」等の言葉を使うはずだ。彼女は所有を主張した。普段は「厳密には賭郎スタッフではない」と言い張って聞かない彼女が。
何となく、彼女が怖くなる。分からないということは、存外怖い。弥鱈立会人はこの人のことをどこまで知っているのだろうか。賭郎という組織は、どうなのだろうか。
足元を掬われようとしている。恐らく。立会人達はそれを恐れてはいないだろう。御せる、ということか。それとも、この女に限ってあり得ないという、高慢か。
携帯のバイブ音。伏龍さんは最後の唾風船を割ると、ポケットからそれを取り出した。左右を確認し、自分を咎めるものがいないと分かると、その場で電話を取る。おいおい、と思うも横の弥鱈立会人も携帯に耳を近づけ、盗み聞こうとするのを見て何も言わないことに決めた。
「お屋形様?何かありました?」
伏龍さんがそう喋り出したのが聞こえた。ああ、ホントに注意しなくて良かった。
しばらくのひそひそ声の会話。伏龍さんが何か口に出す度、どんどん二人の表情が曇っていく。
終いには弥鱈立会人が頭を抱え、伏龍さんが眉間を抑える貴重な姿を見ることができた。
「お前、まじ、ふざけんなよ」
伏龍さんがそう地を這うような声で唸り、電話を切る。
「聞いてたよね。来るよ」
「おー」
「私が戦ってあげようか?」
「ばーか。お前マスターな」
「ちぇ。じゃ、頑張ってね、弥鱈'立会人'」
「おー」
スタスタと歩いて行ってしまう伏龍さんを余所に、弥鱈立会人は私とその側に立っていた数人に「おい、お前らもマスター死守しろ」と声を掛けた。
「え、弥鱈立会人は」
「俺は能輪立会人を迎え撃つ」
「はぁ…」
「代わるか?」
彼はそう軽口を叩くも、私の返事は聞かずにスタジオを出て行った。
ーーーーーーーーーー
「ありゃ、今日は縁がありますね」
マスター室のドアの前で座り込んでいた伏龍さんは、黒服達の中に私を見つけると立ち上がり、そう言った。
「勉強させて頂きます」
「あはは!教えることなんてないですよう!むしろ守って下さい」
そうは言うものの、麗らかに笑う彼女は余裕綽々そのもの。
「さて、弥鱈立会人から何て聞いてます?」
「はい。マスターを死守せよと」
「あら不親切。弥鱈立会人らしいですね」
彼女はまた笑って、「今から能輪立会人の黒服が攻め込んできます」と言った。
「Cのパネル、あれが鴉山さんの事件って気付かれましたか?」
「ええ、しかし、あれについては先程伏龍さんが権利を放棄させて、もう賭郎の管轄外になったのでは?」
「はい。でも、おじいちゃん…だから、能輪壱號立会人にはその情報が行ってなかった訳ですね」
「…は?」
「えへへ」
可愛い笑い声とは真逆の陰鬱な表情を浮かべ、彼女は話を続ける。
「他の会員達へのアピールの為、能輪壱號には気持ち良く放送を止めてもらうんですってよ」
「…は?」
「イラッとしますよね?!あームカつく!このままじゃ'賭郎は自分の立場が危なくなると一方的に梯子を外す組織だ'って思われちゃうかもしれないから、私の成功如何に関わらず地下ケーブルを爆破するんですって!それでもどうにもならなかったら書類見せて'賭郎は権利を放棄した会員に対しても義理を立てる優しい組織'ってことにするんですって!そりゃ、言ってることは間違ってないけどさあ!まじあいつなんなの?!」
「お、落ち着いて下さい。伏龍さん、ほら、ひとまず深呼吸!」
「これが冷静でいられるかってんですよ!もう覚悟しろよ!マスター破壊に来た奴、メンタルぼっこぼこにしてやる!」
「八つ当たりじゃないですか!」
「おうともよ!」
おうともよじゃねえし。
私はそっと目を瞑り、来るであろうハ號所属の黒服達の冥福を祈った。
ぱちん。
ふう。
ぱちん。
一仕事を終えた伏龍さんは、弥鱈立会人が作る唾風船をひたすら割る、退屈極まりないゲームに興じている。二人は私達黒服にも、目の前のギャンブルにもまるで興味が無いようだ。尤も、弥鱈立会人はギャンブルに興味が無い時は誰の目にも明らかな態度を取る人なので、特段驚きもしないのだが。
そんな二人を見ながら、ぼんやりと考える。
不倶戴天の敵。伏龍さんが仰ったのは、どういうことだろう。賭郎は渡さないと言ったのは。このゲームで獏様は賭郎の取り立てた秘密を暴露することで、賭郎の地位を危険に晒した。その事なのか?否。それならば「守る」等の言葉を使うはずだ。彼女は所有を主張した。普段は「厳密には賭郎スタッフではない」と言い張って聞かない彼女が。
何となく、彼女が怖くなる。分からないということは、存外怖い。弥鱈立会人はこの人のことをどこまで知っているのだろうか。賭郎という組織は、どうなのだろうか。
足元を掬われようとしている。恐らく。立会人達はそれを恐れてはいないだろう。御せる、ということか。それとも、この女に限ってあり得ないという、高慢か。
携帯のバイブ音。伏龍さんは最後の唾風船を割ると、ポケットからそれを取り出した。左右を確認し、自分を咎めるものがいないと分かると、その場で電話を取る。おいおい、と思うも横の弥鱈立会人も携帯に耳を近づけ、盗み聞こうとするのを見て何も言わないことに決めた。
「お屋形様?何かありました?」
伏龍さんがそう喋り出したのが聞こえた。ああ、ホントに注意しなくて良かった。
しばらくのひそひそ声の会話。伏龍さんが何か口に出す度、どんどん二人の表情が曇っていく。
終いには弥鱈立会人が頭を抱え、伏龍さんが眉間を抑える貴重な姿を見ることができた。
「お前、まじ、ふざけんなよ」
伏龍さんがそう地を這うような声で唸り、電話を切る。
「聞いてたよね。来るよ」
「おー」
「私が戦ってあげようか?」
「ばーか。お前マスターな」
「ちぇ。じゃ、頑張ってね、弥鱈'立会人'」
「おー」
スタスタと歩いて行ってしまう伏龍さんを余所に、弥鱈立会人は私とその側に立っていた数人に「おい、お前らもマスター死守しろ」と声を掛けた。
「え、弥鱈立会人は」
「俺は能輪立会人を迎え撃つ」
「はぁ…」
「代わるか?」
彼はそう軽口を叩くも、私の返事は聞かずにスタジオを出て行った。
ーーーーーーーーーー
「ありゃ、今日は縁がありますね」
マスター室のドアの前で座り込んでいた伏龍さんは、黒服達の中に私を見つけると立ち上がり、そう言った。
「勉強させて頂きます」
「あはは!教えることなんてないですよう!むしろ守って下さい」
そうは言うものの、麗らかに笑う彼女は余裕綽々そのもの。
「さて、弥鱈立会人から何て聞いてます?」
「はい。マスターを死守せよと」
「あら不親切。弥鱈立会人らしいですね」
彼女はまた笑って、「今から能輪立会人の黒服が攻め込んできます」と言った。
「Cのパネル、あれが鴉山さんの事件って気付かれましたか?」
「ええ、しかし、あれについては先程伏龍さんが権利を放棄させて、もう賭郎の管轄外になったのでは?」
「はい。でも、おじいちゃん…だから、能輪壱號立会人にはその情報が行ってなかった訳ですね」
「…は?」
「えへへ」
可愛い笑い声とは真逆の陰鬱な表情を浮かべ、彼女は話を続ける。
「他の会員達へのアピールの為、能輪壱號には気持ち良く放送を止めてもらうんですってよ」
「…は?」
「イラッとしますよね?!あームカつく!このままじゃ'賭郎は自分の立場が危なくなると一方的に梯子を外す組織だ'って思われちゃうかもしれないから、私の成功如何に関わらず地下ケーブルを爆破するんですって!それでもどうにもならなかったら書類見せて'賭郎は権利を放棄した会員に対しても義理を立てる優しい組織'ってことにするんですって!そりゃ、言ってることは間違ってないけどさあ!まじあいつなんなの?!」
「お、落ち着いて下さい。伏龍さん、ほら、ひとまず深呼吸!」
「これが冷静でいられるかってんですよ!もう覚悟しろよ!マスター破壊に来た奴、メンタルぼっこぼこにしてやる!」
「八つ当たりじゃないですか!」
「おうともよ!」
おうともよじゃねえし。
私はそっと目を瞑り、来るであろうハ號所属の黒服達の冥福を祈った。