アイリス・アポロは野に咲いて
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若いとはいい。
変化できるとは、いい。
この、目蒲鬼郎という男はまあ、彼女と出会ってから随分と変わってしまったようでして。それがどうしようもなくこの老人を愉快な気持ちにさせるのです。
「して、何のご用ですかな」
「何、一つ二つ、質問がありましたのでねえ」
「ほう、貴方が珍しい」
「何でしたかな?」と質問を促せば、彼は単刀直入に「嘘喰いは貴方に何と言いましたか?」と聞いてきました。
ぶすくれて頬杖をつくその表情は、かつての鉄面皮、目蒲立会人の面影もないので、つい柔らかな気持ちが芽生えます。この方は大分変わった。恐らく、良い方に。
「貴方はもう少し相方の彼女を見習った方がいい」
「チッ…」
「おやおや」
「いいからさっさと答えていただけませんかねえ?別にこんなところに長居したいわけではないのですよ」
「そうでしょうね」
貴方は私のこの言葉を、「かつて負けた貴方は、気不味くて居た堪れないだろう」と捉える。なぜなら、それが立会人だから。
私はこの後に起こる展開を期待して、何も起こらないことに些か驚きました。彼はそんな私を見て、ため息をつきました。
「年休を取ったのは何故ですか」
気難しかった頃とは大違いの、感情の昂りを全く感じさせない、落ち着いた声。成る程、この方は変わった。
「いいでしょう。私も気になることが出来ました」
「はあ」
「Truth or Dare」
「…はぁ?そのような幼稚なゲーム、お孫さんとでもなさってはどうですかねえ?」
「生憎この老いぼれには孫がおりませんで」
「そういう話じゃねえっつーの…はあ。Truth」
Truth or Dare。このゲームはお互いが交互に質問をしていき、それに対して必ずTruth、つまり真実で答えるというもの。勿論、言えないと判断した場合は、Dare。相手が代わりに提案した課題をこなさなければならない。
やはりというか、何というか。目蒲立会人がこのゲームを素直に受けて下さるので安心致しました。
「何故貴方は…いえ、何故貴方がここに来る事にしたのです?」
「は?」
「おや、皆まで言わせますか?」
挑発的に問い掛けた私の言葉を、彼は自然な感じで受け入れました。
ほうら、変わったのはこういう所ですよ。人は本当に面白い。
「あれが知りたがっているので」
「ほう、彼女が、何故」
「質問の数も数えられない程耄碌しましたか?引退なさっては?」
「これは手厳しい」
「とぼけやがって…Truth or Dare」
「Truth」
「年休を取った理由は?」
「午後に必ず獏様の立ち会いをするよう厳命されましたので。Truth or Dare」
「Truth」
「何故貴方は彼女の手足となって動くのですか?」
「命を救われましたので、ねえ」
「それでは回答になりませんよ。あの場に居なかった者はそれで納得するでしょうがね。…あの時貴方と彼女が交わした契約は、一緒に生きる事。違いますか?」
チ、と小さく舌打ちをして、彼は語ります。
「俺は、あれと同じ場所から景色が見たい。だからあれが望む場所に連れて行く。それだけだ」
伽羅。あの豪傑。
この若者は明らかにあの者とは違う。言ってしまえば、数段劣る。だがしかし、魂はどうだ。この、この言葉が口から出るということは。
「Truth or Dare」と、ぶすくれた態度を更に酷くして問い掛けてくる姿があの獣とふと重なり、腕に鳥肌が立つのを感じました。
彼は、立会人の醍醐味を知っているのですね。この老いぼれが、パーフェクト死神とまで呼ばれた私が、唯一得られなかった喜びを。傍に居ながらもどうしようもなく届かない、見上げるばかりの相手がいることの幸福を。
「Truth」
「午後の立ち会いはどこで行われるのですか?」
「帝国タワーですよ。Truth or Dare」
「Truth」
「晴乃さんは、何故獏様を止めようとなさるのですか?」
「…Dare」
今まで素直に喋っていた彼が発する、初めてのDare。つい目を見開いてしまいますが、それで彼が揺らぐ様子はありません。「何故」と問い掛けますが、彼は「質問は一つだろ、ジジイ」と釣れません。
知りたい。何故だろう、知りたくてたまらない。そこに望んだものがあるような気がしてならない。
「いいでしょう。質問を変えましょう。何故この質問の答えだけDareなのですか?」
「…まどろっこしい。全部吐け。全部話してやる」
「ふ」
ああ、思わず笑いが漏れます。潔いことだ。捻くれたかつての彼はどこへやら。
「今獏様が行なっている賭けは、搦手の候補となる有力な企業や自治体などに、搦手を受け入れなければ次にこうなるのは自分たちだと思わせる為の前哨戦。本当の目的はこの後に行われるもう一つの暴露番組を流し切ること。その為には、獏様は何としてでも電波塔を守る必要がある。その為に駆り出されるのが我々です。我々は獏様の賭けを守るべく、電波塔を死守する事になります。そして、誉れ高いことに、私がその勝負を司る立会人として選ばれたのです」
「ふん…」
鼻を鳴らす彼は、その勝負の予想される壮絶さが分からないわけではないでしょう。恐らく'何故、あの男の為にそんな面倒な事を'とでもいったところでしょうね。
でも、それは、貴方も同じ。
変化できるとは、いい。
この、目蒲鬼郎という男はまあ、彼女と出会ってから随分と変わってしまったようでして。それがどうしようもなくこの老人を愉快な気持ちにさせるのです。
「して、何のご用ですかな」
「何、一つ二つ、質問がありましたのでねえ」
「ほう、貴方が珍しい」
「何でしたかな?」と質問を促せば、彼は単刀直入に「嘘喰いは貴方に何と言いましたか?」と聞いてきました。
ぶすくれて頬杖をつくその表情は、かつての鉄面皮、目蒲立会人の面影もないので、つい柔らかな気持ちが芽生えます。この方は大分変わった。恐らく、良い方に。
「貴方はもう少し相方の彼女を見習った方がいい」
「チッ…」
「おやおや」
「いいからさっさと答えていただけませんかねえ?別にこんなところに長居したいわけではないのですよ」
「そうでしょうね」
貴方は私のこの言葉を、「かつて負けた貴方は、気不味くて居た堪れないだろう」と捉える。なぜなら、それが立会人だから。
私はこの後に起こる展開を期待して、何も起こらないことに些か驚きました。彼はそんな私を見て、ため息をつきました。
「年休を取ったのは何故ですか」
気難しかった頃とは大違いの、感情の昂りを全く感じさせない、落ち着いた声。成る程、この方は変わった。
「いいでしょう。私も気になることが出来ました」
「はあ」
「Truth or Dare」
「…はぁ?そのような幼稚なゲーム、お孫さんとでもなさってはどうですかねえ?」
「生憎この老いぼれには孫がおりませんで」
「そういう話じゃねえっつーの…はあ。Truth」
Truth or Dare。このゲームはお互いが交互に質問をしていき、それに対して必ずTruth、つまり真実で答えるというもの。勿論、言えないと判断した場合は、Dare。相手が代わりに提案した課題をこなさなければならない。
やはりというか、何というか。目蒲立会人がこのゲームを素直に受けて下さるので安心致しました。
「何故貴方は…いえ、何故貴方がここに来る事にしたのです?」
「は?」
「おや、皆まで言わせますか?」
挑発的に問い掛けた私の言葉を、彼は自然な感じで受け入れました。
ほうら、変わったのはこういう所ですよ。人は本当に面白い。
「あれが知りたがっているので」
「ほう、彼女が、何故」
「質問の数も数えられない程耄碌しましたか?引退なさっては?」
「これは手厳しい」
「とぼけやがって…Truth or Dare」
「Truth」
「年休を取った理由は?」
「午後に必ず獏様の立ち会いをするよう厳命されましたので。Truth or Dare」
「Truth」
「何故貴方は彼女の手足となって動くのですか?」
「命を救われましたので、ねえ」
「それでは回答になりませんよ。あの場に居なかった者はそれで納得するでしょうがね。…あの時貴方と彼女が交わした契約は、一緒に生きる事。違いますか?」
チ、と小さく舌打ちをして、彼は語ります。
「俺は、あれと同じ場所から景色が見たい。だからあれが望む場所に連れて行く。それだけだ」
伽羅。あの豪傑。
この若者は明らかにあの者とは違う。言ってしまえば、数段劣る。だがしかし、魂はどうだ。この、この言葉が口から出るということは。
「Truth or Dare」と、ぶすくれた態度を更に酷くして問い掛けてくる姿があの獣とふと重なり、腕に鳥肌が立つのを感じました。
彼は、立会人の醍醐味を知っているのですね。この老いぼれが、パーフェクト死神とまで呼ばれた私が、唯一得られなかった喜びを。傍に居ながらもどうしようもなく届かない、見上げるばかりの相手がいることの幸福を。
「Truth」
「午後の立ち会いはどこで行われるのですか?」
「帝国タワーですよ。Truth or Dare」
「Truth」
「晴乃さんは、何故獏様を止めようとなさるのですか?」
「…Dare」
今まで素直に喋っていた彼が発する、初めてのDare。つい目を見開いてしまいますが、それで彼が揺らぐ様子はありません。「何故」と問い掛けますが、彼は「質問は一つだろ、ジジイ」と釣れません。
知りたい。何故だろう、知りたくてたまらない。そこに望んだものがあるような気がしてならない。
「いいでしょう。質問を変えましょう。何故この質問の答えだけDareなのですか?」
「…まどろっこしい。全部吐け。全部話してやる」
「ふ」
ああ、思わず笑いが漏れます。潔いことだ。捻くれたかつての彼はどこへやら。
「今獏様が行なっている賭けは、搦手の候補となる有力な企業や自治体などに、搦手を受け入れなければ次にこうなるのは自分たちだと思わせる為の前哨戦。本当の目的はこの後に行われるもう一つの暴露番組を流し切ること。その為には、獏様は何としてでも電波塔を守る必要がある。その為に駆り出されるのが我々です。我々は獏様の賭けを守るべく、電波塔を死守する事になります。そして、誉れ高いことに、私がその勝負を司る立会人として選ばれたのです」
「ふん…」
鼻を鳴らす彼は、その勝負の予想される壮絶さが分からないわけではないでしょう。恐らく'何故、あの男の為にそんな面倒な事を'とでもいったところでしょうね。
でも、それは、貴方も同じ。