アイリス・アポロは野に咲いて
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本番までまであと一時間を切ったスタジオはとにかく慌しい。その中で暇を持て余した二人の喋り声が場違いに響いていることに、部下として申し訳なさを覚える。しかし、同時にこの二人が並ぶという事の重大さに慄きを覚えてもいた。
まさかこの人が前線に立つなんて。
黒服たちの間でまことしやかに流れている噂。目蒲立会人に勝っただの、夜行立会人に勝っただの、お屋形様に勝っただの。今まで事務でありながら立会人はおろかお屋形様とまで肩を並べてきた彼女。力量も全てが未知数な彼女がついに前線に立った。そんな私たち黒服の思いも露知らず、伏龍さんは呑気に弥鱈立会人とクッキーを頬張っている。
「まあ、ほら。あれだ。焦土と化せばいいよ。うん。血で血を洗え」
「オイ黒服が引いてるぞ」
「まじか照れる」
「照れんなばーか」
「弥鱈君のがばーか…しかし、やっぱ犯罪者って嫌いだわ、私」
「寧ろ好きな奴いねえだろ」
「まあね。しかもさ、それを隠蔽しようって、その根性がいけすかないね。うん。やっぱり焦土と化せばいい」
ぱりぽりもしゃもしゃ。緊張感のカケラもない咀嚼音を微かに漏らしつつ、何枚目かのクッキーを頬張る二人の背中を見ながら、思い出すのはほんの15分前の出来事。
「汚いな」
そう言うと伏龍さんは弥鱈立会人が唾で作った風船を指で突いて消す。しかし、その光景を見ていたオシケンが「汚ねえ」と騒ぎ立てる。
「まーまー緒島さん。彼は私が呼んだんですよ。ねっ?…でも何か恥ずかしがり屋みたいで全然目を合わせてくれないんですよ…嫌われてんのかな」
「いえ獏様、恥ずかしがり屋というわけではありません、私…」
と言いながら弥鱈立会人は横にいる伏龍さんとガッチリ目を合わすので、獏様は面白くなさそうに顔をしかめた。しかし、二人はそんな彼には何のフォローも入れず、喋り出す。
「初めまして緒島様。私賭郎弐拾ハ號立会人、弥鱈悠助と申します」
「伏龍晴乃です」
「何が立会人だ!訳わかんねえこと言ってんじゃねえ!あとその唾の粘着力を利用してフーセン作るのやめろよ」
「ほら言われた」
「茶化すな」
「えー?」
ナチュラルにオシケンを放置しつつ、伏龍さんは携帯を取り出す。そして、画面を見て怪訝そうに眉を顰めた。
「弥鱈君」
呼ばれた立会人は一緒になって画面を覗き、同じ表情を作った。
「何かあるぜ」
「やっぱり?」
「探らせろ」
「わかった」
すると弥鱈立会人は私を呼び、伏龍さんに付き添うように言った。本人は携帯を弄りながら「見せるもんじゃないよ」と笑うが、相手は権力を持つ悪人。油断するべきではない。その事を伝えると、吹き出したのは彼女ではなく弥鱈立会人だった。
「はぁ~。アンタの勉強の為に付き添わせてやってんだよ。頭下げろ」
「いやいや、そんな大層なもんじゃないって」
彼女はケラケラ笑いながらそう言うと、携帯をしまった。
ーーーーーーーーーー
「何だったんですか?」
「ん?どれでしょ。今からやること?…じゃないですかそうですか。弥鱈君?うんー?」
悩む伏龍さんに「探らせろって仰ったのは」と補足すれば、「ああ!」と表情を明るくさせた。そして、「いやね、実はこの勝負、Lファイルに名前が載ってる人が二人だけなんです。しかも、別に搦手のアテがあるわけでもなさそうなんで、泉江外務卿にもう少し探って頂くことにしたんです」と言った。
「泉江外務卿に」
「うふふ、お互い猫の手も借りたい状況ですからね。助け合いですよう」
重大さを感じさせないように、あくまで、麗らかに、彼女はまた笑う。そして真っ直ぐにスタジオセットの裏側へと歩いていく。
「さて、何故人は人を殺すのか」
「え」
「答えは二つ。殺したいか、殺さなきゃいけないか。鴉山さんはどっちでしょうね」
彼女は立ち止まり、自分の頬を人差し指で潰しながら、少し離れた鴉山貴志を見つめる。
「うーん、あんまり殺したがりなタイプじゃなさそうですねえ。無駄なリスクは避けたいタイプだもんなあ。なんで殺したんでしょ、ホント」
ぽん、ぽん、と指の腹で頬を叩きながら、彼女は独り言つ。
「ま、いっか、聞こっと」
そう結論付け、ポーチから口紅を取り出すと唇に引いた。濃いピンクは彼女の顔を一気に幼く見せた。
まさかこの人が前線に立つなんて。
黒服たちの間でまことしやかに流れている噂。目蒲立会人に勝っただの、夜行立会人に勝っただの、お屋形様に勝っただの。今まで事務でありながら立会人はおろかお屋形様とまで肩を並べてきた彼女。力量も全てが未知数な彼女がついに前線に立った。そんな私たち黒服の思いも露知らず、伏龍さんは呑気に弥鱈立会人とクッキーを頬張っている。
「まあ、ほら。あれだ。焦土と化せばいいよ。うん。血で血を洗え」
「オイ黒服が引いてるぞ」
「まじか照れる」
「照れんなばーか」
「弥鱈君のがばーか…しかし、やっぱ犯罪者って嫌いだわ、私」
「寧ろ好きな奴いねえだろ」
「まあね。しかもさ、それを隠蔽しようって、その根性がいけすかないね。うん。やっぱり焦土と化せばいい」
ぱりぽりもしゃもしゃ。緊張感のカケラもない咀嚼音を微かに漏らしつつ、何枚目かのクッキーを頬張る二人の背中を見ながら、思い出すのはほんの15分前の出来事。
「汚いな」
そう言うと伏龍さんは弥鱈立会人が唾で作った風船を指で突いて消す。しかし、その光景を見ていたオシケンが「汚ねえ」と騒ぎ立てる。
「まーまー緒島さん。彼は私が呼んだんですよ。ねっ?…でも何か恥ずかしがり屋みたいで全然目を合わせてくれないんですよ…嫌われてんのかな」
「いえ獏様、恥ずかしがり屋というわけではありません、私…」
と言いながら弥鱈立会人は横にいる伏龍さんとガッチリ目を合わすので、獏様は面白くなさそうに顔をしかめた。しかし、二人はそんな彼には何のフォローも入れず、喋り出す。
「初めまして緒島様。私賭郎弐拾ハ號立会人、弥鱈悠助と申します」
「伏龍晴乃です」
「何が立会人だ!訳わかんねえこと言ってんじゃねえ!あとその唾の粘着力を利用してフーセン作るのやめろよ」
「ほら言われた」
「茶化すな」
「えー?」
ナチュラルにオシケンを放置しつつ、伏龍さんは携帯を取り出す。そして、画面を見て怪訝そうに眉を顰めた。
「弥鱈君」
呼ばれた立会人は一緒になって画面を覗き、同じ表情を作った。
「何かあるぜ」
「やっぱり?」
「探らせろ」
「わかった」
すると弥鱈立会人は私を呼び、伏龍さんに付き添うように言った。本人は携帯を弄りながら「見せるもんじゃないよ」と笑うが、相手は権力を持つ悪人。油断するべきではない。その事を伝えると、吹き出したのは彼女ではなく弥鱈立会人だった。
「はぁ~。アンタの勉強の為に付き添わせてやってんだよ。頭下げろ」
「いやいや、そんな大層なもんじゃないって」
彼女はケラケラ笑いながらそう言うと、携帯をしまった。
ーーーーーーーーーー
「何だったんですか?」
「ん?どれでしょ。今からやること?…じゃないですかそうですか。弥鱈君?うんー?」
悩む伏龍さんに「探らせろって仰ったのは」と補足すれば、「ああ!」と表情を明るくさせた。そして、「いやね、実はこの勝負、Lファイルに名前が載ってる人が二人だけなんです。しかも、別に搦手のアテがあるわけでもなさそうなんで、泉江外務卿にもう少し探って頂くことにしたんです」と言った。
「泉江外務卿に」
「うふふ、お互い猫の手も借りたい状況ですからね。助け合いですよう」
重大さを感じさせないように、あくまで、麗らかに、彼女はまた笑う。そして真っ直ぐにスタジオセットの裏側へと歩いていく。
「さて、何故人は人を殺すのか」
「え」
「答えは二つ。殺したいか、殺さなきゃいけないか。鴉山さんはどっちでしょうね」
彼女は立ち止まり、自分の頬を人差し指で潰しながら、少し離れた鴉山貴志を見つめる。
「うーん、あんまり殺したがりなタイプじゃなさそうですねえ。無駄なリスクは避けたいタイプだもんなあ。なんで殺したんでしょ、ホント」
ぽん、ぽん、と指の腹で頬を叩きながら、彼女は独り言つ。
「ま、いっか、聞こっと」
そう結論付け、ポーチから口紅を取り出すと唇に引いた。濃いピンクは彼女の顔を一気に幼く見せた。