アイリス・アポロは野に咲いて
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「先に言っとくけどよ」
「知ってる」
「俺は反対だぜ」
「知ってるってば」
横を歩く弥鱈君が唾で風船を作るので、いつも通りにそれを割る。彼はそれを気怠げに横目で見ると、ため息をついた。
「深淵を見るぜ、アンタ」
「まあ、ねえ。いいよ。分かってたことだよ」
「せっかく遠ざけてやったのによぉ~」
「だーって、そもそもこれが私の本懐なんだもん。いずれこうなったって」
「はあ…ばーか」
「弥鱈君のがばーか」
そこまで言ったところで、立ち止まる。見上げれば集英テレビ。校外学習で行ったなあ、なんて思い出し笑い。立場が変われば見える景色が違うなんて嘘だね。全部全部がいつも通りだ。
でもそれは、私が変わっていないということなのかもしれない。私の本懐は、私の覚悟は、昔から変わっていない。久方ぶりの自由にあっても変わらない景色は、きっとその証左。
「でも、ホントに馬鹿なのは、みんな、だよねえ」
「いや~?馬鹿はアンタ一人だぜ」
「うふふ、酷い。まあいいや、行こ。天下の賭郎様に尽くさないとね」
ーーーーーーーーーー
「お望み通り弥鱈君にしたじゃないですか。何が不満なんですかもう」
私を睨む目蒲さんに、そう言葉をぶつけた。彼の願いは分かっていたけど、適材適所であるべきなのだ。私のパートナーは弥鱈君。だから私に立ち会うのは弥鱈君。残念ながらあなたの願いを全て聞き届けてやれる程、私の能力は高くない。何かを選べば何かが落ちる。あなたには一生わからないだろうけど、普通の人間はそうやって選びながら生きている。
「目蒲さんは夜行さんのところに行って、あの人が獏様に何を頼まれたのかを探って欲しいです」
「そんな事、弥鱈立会人でも出来る」
「そうですね。でも私と戦えるのは弥鱈君だけです」
「おい馬鹿にするなよ」
「守ってもらうだけならあなたが言う通り、誰でもいいんです。残念ですけど、私の方は立会人に気を遣ってる余裕、ないですよ。私が何を始めてもサポートしてくれます?」
目蒲さんは息を詰まらす。この人のこういう素直さは本当に好感がもてる。
「…だが、能輪立会人も出てくる筈だ。賭郎だって初手が電波塔爆破はまずい。必ず先ずは立会人を制する為の刺客を送ってくる」
だから俺も連れて行けと、そういう事だろう。会員一人につき立会人は一人と決まっているのに。この人のこういう諦めの悪さには辟易する。
「ふむう…なるほど、確かに。じゃ、能輪さんと磨黒さんに號奪戦をしてもらいましょう。ちょうど会員同士の賭けが一件入ってます」
「は?」
「おじいちゃん本人が前線に立つ事はまずないでしょう。必ず派閥の人…中でも戦闘力と忠誠心を兼ね備えた二人のどちらかを使う筈。だから先に號奪戦を入れて消耗させちゃいましょう」
「は?いや、號奪戦って、どうやってやらせるんだよ」
「そんなん、会えばやりますよ」
「なら何で今までやらなかった」
「会えなかったから」
目蒲さんは私の言葉から裏にある状況を察したようだった。流石立会人である。そう。正確には、私が会わせなかった、が正解。実は能輪さんは大層お怒りなのだ。能輪翁派の中で、磨黒さんとポジションが被っている事、そして、自分の方が強いにも関わらず過去の戦績から磨黒さんの方が重用されている事に。だから何とかして自分の方が格上なのだと周りに示したい。でも、今までとってもとっても星の巡りが悪かった為、磨黒さんと立会いの場に居合わせることがなかった。彼はずっと待っていたのだ。自分の力を示す機会を。
だから、必ず號奪戦は起きる。そして、おじいちゃんに指令を下されたらどんなに満身創痍でも必ず引き受ける。どちらが勝ったとしても、どちらに連絡が行ったとしても。だって能輪さんも磨黒さんも、おじいちゃんに頼られるのがこの上なく嬉しいから。
「さ、これで問題はなくなりましたね。じゃ、すぐにお屋形様に掛け合ってきます」
私は不満顔の目蒲さんを事務室に残し、退室する。流石の彼もお屋形様の部屋まで追っては来ないのを知りながら。
「知ってる」
「俺は反対だぜ」
「知ってるってば」
横を歩く弥鱈君が唾で風船を作るので、いつも通りにそれを割る。彼はそれを気怠げに横目で見ると、ため息をついた。
「深淵を見るぜ、アンタ」
「まあ、ねえ。いいよ。分かってたことだよ」
「せっかく遠ざけてやったのによぉ~」
「だーって、そもそもこれが私の本懐なんだもん。いずれこうなったって」
「はあ…ばーか」
「弥鱈君のがばーか」
そこまで言ったところで、立ち止まる。見上げれば集英テレビ。校外学習で行ったなあ、なんて思い出し笑い。立場が変われば見える景色が違うなんて嘘だね。全部全部がいつも通りだ。
でもそれは、私が変わっていないということなのかもしれない。私の本懐は、私の覚悟は、昔から変わっていない。久方ぶりの自由にあっても変わらない景色は、きっとその証左。
「でも、ホントに馬鹿なのは、みんな、だよねえ」
「いや~?馬鹿はアンタ一人だぜ」
「うふふ、酷い。まあいいや、行こ。天下の賭郎様に尽くさないとね」
ーーーーーーーーーー
「お望み通り弥鱈君にしたじゃないですか。何が不満なんですかもう」
私を睨む目蒲さんに、そう言葉をぶつけた。彼の願いは分かっていたけど、適材適所であるべきなのだ。私のパートナーは弥鱈君。だから私に立ち会うのは弥鱈君。残念ながらあなたの願いを全て聞き届けてやれる程、私の能力は高くない。何かを選べば何かが落ちる。あなたには一生わからないだろうけど、普通の人間はそうやって選びながら生きている。
「目蒲さんは夜行さんのところに行って、あの人が獏様に何を頼まれたのかを探って欲しいです」
「そんな事、弥鱈立会人でも出来る」
「そうですね。でも私と戦えるのは弥鱈君だけです」
「おい馬鹿にするなよ」
「守ってもらうだけならあなたが言う通り、誰でもいいんです。残念ですけど、私の方は立会人に気を遣ってる余裕、ないですよ。私が何を始めてもサポートしてくれます?」
目蒲さんは息を詰まらす。この人のこういう素直さは本当に好感がもてる。
「…だが、能輪立会人も出てくる筈だ。賭郎だって初手が電波塔爆破はまずい。必ず先ずは立会人を制する為の刺客を送ってくる」
だから俺も連れて行けと、そういう事だろう。会員一人につき立会人は一人と決まっているのに。この人のこういう諦めの悪さには辟易する。
「ふむう…なるほど、確かに。じゃ、能輪さんと磨黒さんに號奪戦をしてもらいましょう。ちょうど会員同士の賭けが一件入ってます」
「は?」
「おじいちゃん本人が前線に立つ事はまずないでしょう。必ず派閥の人…中でも戦闘力と忠誠心を兼ね備えた二人のどちらかを使う筈。だから先に號奪戦を入れて消耗させちゃいましょう」
「は?いや、號奪戦って、どうやってやらせるんだよ」
「そんなん、会えばやりますよ」
「なら何で今までやらなかった」
「会えなかったから」
目蒲さんは私の言葉から裏にある状況を察したようだった。流石立会人である。そう。正確には、私が会わせなかった、が正解。実は能輪さんは大層お怒りなのだ。能輪翁派の中で、磨黒さんとポジションが被っている事、そして、自分の方が強いにも関わらず過去の戦績から磨黒さんの方が重用されている事に。だから何とかして自分の方が格上なのだと周りに示したい。でも、今までとってもとっても星の巡りが悪かった為、磨黒さんと立会いの場に居合わせることがなかった。彼はずっと待っていたのだ。自分の力を示す機会を。
だから、必ず號奪戦は起きる。そして、おじいちゃんに指令を下されたらどんなに満身創痍でも必ず引き受ける。どちらが勝ったとしても、どちらに連絡が行ったとしても。だって能輪さんも磨黒さんも、おじいちゃんに頼られるのがこの上なく嬉しいから。
「さ、これで問題はなくなりましたね。じゃ、すぐにお屋形様に掛け合ってきます」
私は不満顔の目蒲さんを事務室に残し、退室する。流石の彼もお屋形様の部屋まで追っては来ないのを知りながら。