二輪草の選択
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「おい晴乃!」と夕湖がドアの外から呼びかけるので、私はその剣幕を不思議に思いながらもドアを開ける。
「夕湖?」
「お前、何をする気だ?」
「へ?ごめん、何の話?」
かくかくしかじか。聞けば目蒲さんが夕湖に応援を要請したらしい。そして彼に事の成り行きを聞かされた彼女は、また無鉄砲をしようとしている友人の元へ抗議に来たという事だった。
とりあえず、あれだ。目蒲さんはもっと考えて応援要請を出すべきだと思う。
「で、晴乃。お前一体何が目的なんだ」
「何がと言われても…打倒獏様、かな」
「何故だ」
「言えないなあ」
過るのは、あの子の姿。助けを求める方法さえ知らない無知な彼の、ピンとのばされた背筋。
「私にも、か?」
「うん。この世の誰にも言わない」
じゃなきゃ、彼が引き合わない。今この瞬間だって、相当無理して立っているんだから。
「誰のためも、何のためも、秘密。とにかく今はね、賭郎が揺らぐ様なこと、起こしたくないの」
はあ、と夕湖は大きなため息をついた。
「お前はそろそろ、身の程を知るべきだと思うぞ」
「スミマセン…」
「お前は弱い。銅寺じゃないが、お前は私達が場を整えないと勝てないんだ。もっとその自覚をもって慎ましく軟禁されろ」
「ですよねえ」
「でも、お前にはそれは無理なんだろう?ならもっと大々的に私達に助けを求めろ」
「へ?」
「お前は助ける事ばっかりで、助けられる事が頭に無いのが問題だと思うんだ」
「いやでも」
「うるさい」
ぐに、と夕湖が私の頬を潰す。ひどいや。
「私達にはその力がある。お前の望みは叶えてやる」
返事はハイかイエスだ。彼女はそう笑った。
ーーーーーーーーーー
「ただいま」
「おかえり」
おどけてそう言えば、目蒲さんはパソコンとにらめっこしたままそう答えてくれた。しかし、直後に嫌味ったらしくも夕湖に「晴乃が居ても意味ないんじゃないですかねえ?」と声を掛ける。対する彼女も「ああ、だが、お前と作業なんぞ願い下げだからな」と平然と言い放った。本当に嫌い合っているようではないので放置しているが、弥鱈君の一件からずっと、この二人は喧嘩腰だ。
「それで、KY宣言に出演するゲストを割り出せばいいんだな?」
「ええ。嘘喰いは必ずこのLファイルの中から搦手の候補を選ぶ筈です。我々はその者たちを先に失脚させればいい…というか、それ以外の選択肢はありません」
「は?」
「この男、賭郎が取り立てたアリバイを使って脅す気です」
目蒲さんが渋い顔で説明してくれるのはいいが、私にはいまいちよく分からなかったので首を傾げる。しかし、夕湖は一発で理解したらしい。ヒッ、と引き攣った悲鳴を上げ、目蒲さんの操るパソコンを覗き込んだ。
「門倉に亜面に櫛灘に…おいおい、立会人勢揃いじゃないか」
「ええ…誰が被弾するか分かりませんよ…。あの親子、頑なに専属立会人を使おうとしませんでしたからねえ…」
「仕方があるまい。専属は磨黒だろう?奴は正義感の強い男だ。あの親子とは水と油だったんだろう。まあ…問題ないさ。阻止すればいいだけの話」
二人仲良く並んで作業に入った背中を眺めつつ、私は来客用の椅子に腰掛ける。すると行き場を無くした南方さんが寄ってきた。
「南方さんたら、まだいたんですか?私が帰った時に帰れば良かったのに」
「いや…そうしても良かったんだが、どうしても成り行きが気になってね」
「知りたがりめー」
「まあ、ね」
チラと寄せられる視線からは、溢れんばかりの好奇心が読み取れる。私はあえてそれを無視することにする。あまり企てに関わって欲しくはないのが本当のところだ。
「屋形越えって?」
「ありゃ、ご存知なかったでしたっけ」
「済まないね」
「嘘つき」
何気なく嘘を指摘して、ちょっと戸惑う。なんでそんな嘘を?訳がわからなくて見つめてみる横顔には、余裕の笑みが浮かんでいる。
「屋形越えって、お屋形様の座を得るためにお屋形様に挑むってことです」
考えても分からなかった私は、乗っかってみることにする。考えて分からなければ直感で決めるしかない。
南方さんは「なるほどねえ」と唇を撫でる。
「それを邪魔したいのね、女史は」
「はい」
「ふうん…班目獏がお屋形様になるとまずい訳?」
「さあ?」
「え?」
「そんなん、なってみないと分かりませんよう」
呆気に取られた様子の彼を見て、笑えてしまう。
「あなたたちには一生分からないでしょうけど、普通の人は結果が出るまで分からないんです。でも、分かった時ってもう手遅れじゃないですか。だから当てずっぽうでやるんです。多分、獏様は何か目的がある。そしてとっても執念深く、その目的を遂げようとしている。そういう人は怖い。だから、私は何となく嫌です」
「何となく、ねえ」
南方さんが人差し指を唇から顎のラインへと移動させる。考えている。愉しんでいる。何をだ?私は彼を見つめる。
「夕湖?」
「お前、何をする気だ?」
「へ?ごめん、何の話?」
かくかくしかじか。聞けば目蒲さんが夕湖に応援を要請したらしい。そして彼に事の成り行きを聞かされた彼女は、また無鉄砲をしようとしている友人の元へ抗議に来たという事だった。
とりあえず、あれだ。目蒲さんはもっと考えて応援要請を出すべきだと思う。
「で、晴乃。お前一体何が目的なんだ」
「何がと言われても…打倒獏様、かな」
「何故だ」
「言えないなあ」
過るのは、あの子の姿。助けを求める方法さえ知らない無知な彼の、ピンとのばされた背筋。
「私にも、か?」
「うん。この世の誰にも言わない」
じゃなきゃ、彼が引き合わない。今この瞬間だって、相当無理して立っているんだから。
「誰のためも、何のためも、秘密。とにかく今はね、賭郎が揺らぐ様なこと、起こしたくないの」
はあ、と夕湖は大きなため息をついた。
「お前はそろそろ、身の程を知るべきだと思うぞ」
「スミマセン…」
「お前は弱い。銅寺じゃないが、お前は私達が場を整えないと勝てないんだ。もっとその自覚をもって慎ましく軟禁されろ」
「ですよねえ」
「でも、お前にはそれは無理なんだろう?ならもっと大々的に私達に助けを求めろ」
「へ?」
「お前は助ける事ばっかりで、助けられる事が頭に無いのが問題だと思うんだ」
「いやでも」
「うるさい」
ぐに、と夕湖が私の頬を潰す。ひどいや。
「私達にはその力がある。お前の望みは叶えてやる」
返事はハイかイエスだ。彼女はそう笑った。
ーーーーーーーーーー
「ただいま」
「おかえり」
おどけてそう言えば、目蒲さんはパソコンとにらめっこしたままそう答えてくれた。しかし、直後に嫌味ったらしくも夕湖に「晴乃が居ても意味ないんじゃないですかねえ?」と声を掛ける。対する彼女も「ああ、だが、お前と作業なんぞ願い下げだからな」と平然と言い放った。本当に嫌い合っているようではないので放置しているが、弥鱈君の一件からずっと、この二人は喧嘩腰だ。
「それで、KY宣言に出演するゲストを割り出せばいいんだな?」
「ええ。嘘喰いは必ずこのLファイルの中から搦手の候補を選ぶ筈です。我々はその者たちを先に失脚させればいい…というか、それ以外の選択肢はありません」
「は?」
「この男、賭郎が取り立てたアリバイを使って脅す気です」
目蒲さんが渋い顔で説明してくれるのはいいが、私にはいまいちよく分からなかったので首を傾げる。しかし、夕湖は一発で理解したらしい。ヒッ、と引き攣った悲鳴を上げ、目蒲さんの操るパソコンを覗き込んだ。
「門倉に亜面に櫛灘に…おいおい、立会人勢揃いじゃないか」
「ええ…誰が被弾するか分かりませんよ…。あの親子、頑なに専属立会人を使おうとしませんでしたからねえ…」
「仕方があるまい。専属は磨黒だろう?奴は正義感の強い男だ。あの親子とは水と油だったんだろう。まあ…問題ないさ。阻止すればいいだけの話」
二人仲良く並んで作業に入った背中を眺めつつ、私は来客用の椅子に腰掛ける。すると行き場を無くした南方さんが寄ってきた。
「南方さんたら、まだいたんですか?私が帰った時に帰れば良かったのに」
「いや…そうしても良かったんだが、どうしても成り行きが気になってね」
「知りたがりめー」
「まあ、ね」
チラと寄せられる視線からは、溢れんばかりの好奇心が読み取れる。私はあえてそれを無視することにする。あまり企てに関わって欲しくはないのが本当のところだ。
「屋形越えって?」
「ありゃ、ご存知なかったでしたっけ」
「済まないね」
「嘘つき」
何気なく嘘を指摘して、ちょっと戸惑う。なんでそんな嘘を?訳がわからなくて見つめてみる横顔には、余裕の笑みが浮かんでいる。
「屋形越えって、お屋形様の座を得るためにお屋形様に挑むってことです」
考えても分からなかった私は、乗っかってみることにする。考えて分からなければ直感で決めるしかない。
南方さんは「なるほどねえ」と唇を撫でる。
「それを邪魔したいのね、女史は」
「はい」
「ふうん…班目獏がお屋形様になるとまずい訳?」
「さあ?」
「え?」
「そんなん、なってみないと分かりませんよう」
呆気に取られた様子の彼を見て、笑えてしまう。
「あなたたちには一生分からないでしょうけど、普通の人は結果が出るまで分からないんです。でも、分かった時ってもう手遅れじゃないですか。だから当てずっぽうでやるんです。多分、獏様は何か目的がある。そしてとっても執念深く、その目的を遂げようとしている。そういう人は怖い。だから、私は何となく嫌です」
「何となく、ねえ」
南方さんが人差し指を唇から顎のラインへと移動させる。考えている。愉しんでいる。何をだ?私は彼を見つめる。