二輪草の選択
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話は昨晩へと遡る。
「もーダメだ、分かんない!」と晴乃が両手を上げる。俺は突然の大声に驚いて顔を上げた。
「頭いい奴らの考えてることなんて分かるわけねーんですよばーか!」
「頭が良いのか馬鹿なのか」
「えっ…どっちだろう」
「馬鹿女」
「酷い目蒲さん!」
「馬鹿じゃなかったのか?」
「馬鹿じゃないですよ、あなた達が異常なんです」
「馬鹿というのは知能が劣るという意味だ。劣るということはつまり、馬鹿は所属集団によって決まる」
「じゃあそんな馬鹿とはつるまなければいいんじゃないですかあ?」
やけに険のある返しに面喰らう。そして「もしかして、苛ついてるのか」と聞いてみた。大きなため息が返事の代わりに返ってきた。
「随分だな」
「一目で人の気持ちが分からない人は大変ですねえ」
「気持ちが分かろうが考えてることが分からないのも考えものだな」
と、言ったところで自己嫌悪に苛まれた。なぜ脊髄反射で嫌味を返す、俺は。そして、俺の表情の変化を読み取った晴乃はまたため息をつき、「もっと賢ければ楽だったんでしょうけどね」と苦笑いした。
こうやって、察して受け入れてもらうたび、負債が増えていくような気になる。俺は罪悪感に押され、「結局何があったんだ」と問い掛ける。彼女は困り顔のまま口を開いた。
最初からこう言っておけば良かったんだ。
「獏様のしたい事が分からない」
「屋形越えだろう、どう見ても」
「そう…うん。そうなんですけど」
彼女は自分の髪を撫でる。飾り気のない黒髪が指に絡まり揺れた。
「何のために、どんな手段で、が分からない」
「知ってどうする」
「阻止します」
「は?」
反射的にそう言ってしまってから、口を噤む。また気を悪くさせるところだった。
「どうして」
俺は尋ねた。彼女はけらけらと笑う。
「敵うわけないって?」
「いや」
「うそだ、顔に書いてありますよう」
彼女はひときわ大きく笑った後、ふと真剣な表情を作る。
「目蒲さん」
そう言いながら伸ばしてきた手に、自分の手を重ねた。柔らかな細い指が指に絡められる。
「大丈夫ですよ。無鉄砲で走ってる訳じゃないので」
「嘘だ」
「へ?」
何故だかは分からない。彼女が発したその言葉が無性に癇に障った。面食らう彼女に更に「お前は出会った時から無鉄砲だった」と追撃する。一つ憎まれ口を叩けば、後はもう、流れるように。
「最初からずっとだったろうが。なあ?四方八方命がいくつあっても足りないような喧嘩を売りやがって、お前は無鉄砲だろうが」
「…突然どうしたんですか目蒲さん」
「突然?ずっと思ってきたんだ。気付いてただろ?俺がどれだけお前を心配したと思ってるんだ。なあ。予想の範疇にいてくれ。お前には俺たちの力が必要なんだよ。俺の、俺たちの、手の届く場所にいてくれよ」
「目蒲さん?」
ああ分かってきた。これは不安だ。俺は今不安なんだ。なんなんだ、とことん癇に障る。
「何だよ馬鹿女。下手な言い訳しやがったら…」
言いかけて、手を強く握られる。繋いだままだったのか、そう言えば。
「ごめんなさい」
それはいつかと同じ、拒絶のための謝罪だった。
「あなたがそう言うなら、下手な言い訳はしません。ごめんなさい。でも、私は私のしたいようにしますよ。そこに誰の思惑も介入しない」
ああ、ならば。お前がそう言うなら。
「なら、せめて、俺を使ってくれ」
口をついて出たのはそれだった。結局佐田国様に傅いていた頃から何も変わらない。どこまで行っても俺は俺なのだ。仕方がない子どもを見るような目で微笑んだ晴乃の考えていることが、手に取るように分かった。
「やっぱり、そうなりますよね」
彼女は繋がれていた俺の手の甲を掻くようにして、人差し指を動かした。擽ったい沈黙の後、彼女は今の疑問を吐き出し始めた。
「もーダメだ、分かんない!」と晴乃が両手を上げる。俺は突然の大声に驚いて顔を上げた。
「頭いい奴らの考えてることなんて分かるわけねーんですよばーか!」
「頭が良いのか馬鹿なのか」
「えっ…どっちだろう」
「馬鹿女」
「酷い目蒲さん!」
「馬鹿じゃなかったのか?」
「馬鹿じゃないですよ、あなた達が異常なんです」
「馬鹿というのは知能が劣るという意味だ。劣るということはつまり、馬鹿は所属集団によって決まる」
「じゃあそんな馬鹿とはつるまなければいいんじゃないですかあ?」
やけに険のある返しに面喰らう。そして「もしかして、苛ついてるのか」と聞いてみた。大きなため息が返事の代わりに返ってきた。
「随分だな」
「一目で人の気持ちが分からない人は大変ですねえ」
「気持ちが分かろうが考えてることが分からないのも考えものだな」
と、言ったところで自己嫌悪に苛まれた。なぜ脊髄反射で嫌味を返す、俺は。そして、俺の表情の変化を読み取った晴乃はまたため息をつき、「もっと賢ければ楽だったんでしょうけどね」と苦笑いした。
こうやって、察して受け入れてもらうたび、負債が増えていくような気になる。俺は罪悪感に押され、「結局何があったんだ」と問い掛ける。彼女は困り顔のまま口を開いた。
最初からこう言っておけば良かったんだ。
「獏様のしたい事が分からない」
「屋形越えだろう、どう見ても」
「そう…うん。そうなんですけど」
彼女は自分の髪を撫でる。飾り気のない黒髪が指に絡まり揺れた。
「何のために、どんな手段で、が分からない」
「知ってどうする」
「阻止します」
「は?」
反射的にそう言ってしまってから、口を噤む。また気を悪くさせるところだった。
「どうして」
俺は尋ねた。彼女はけらけらと笑う。
「敵うわけないって?」
「いや」
「うそだ、顔に書いてありますよう」
彼女はひときわ大きく笑った後、ふと真剣な表情を作る。
「目蒲さん」
そう言いながら伸ばしてきた手に、自分の手を重ねた。柔らかな細い指が指に絡められる。
「大丈夫ですよ。無鉄砲で走ってる訳じゃないので」
「嘘だ」
「へ?」
何故だかは分からない。彼女が発したその言葉が無性に癇に障った。面食らう彼女に更に「お前は出会った時から無鉄砲だった」と追撃する。一つ憎まれ口を叩けば、後はもう、流れるように。
「最初からずっとだったろうが。なあ?四方八方命がいくつあっても足りないような喧嘩を売りやがって、お前は無鉄砲だろうが」
「…突然どうしたんですか目蒲さん」
「突然?ずっと思ってきたんだ。気付いてただろ?俺がどれだけお前を心配したと思ってるんだ。なあ。予想の範疇にいてくれ。お前には俺たちの力が必要なんだよ。俺の、俺たちの、手の届く場所にいてくれよ」
「目蒲さん?」
ああ分かってきた。これは不安だ。俺は今不安なんだ。なんなんだ、とことん癇に障る。
「何だよ馬鹿女。下手な言い訳しやがったら…」
言いかけて、手を強く握られる。繋いだままだったのか、そう言えば。
「ごめんなさい」
それはいつかと同じ、拒絶のための謝罪だった。
「あなたがそう言うなら、下手な言い訳はしません。ごめんなさい。でも、私は私のしたいようにしますよ。そこに誰の思惑も介入しない」
ああ、ならば。お前がそう言うなら。
「なら、せめて、俺を使ってくれ」
口をついて出たのはそれだった。結局佐田国様に傅いていた頃から何も変わらない。どこまで行っても俺は俺なのだ。仕方がない子どもを見るような目で微笑んだ晴乃の考えていることが、手に取るように分かった。
「やっぱり、そうなりますよね」
彼女は繋がれていた俺の手の甲を掻くようにして、人差し指を動かした。擽ったい沈黙の後、彼女は今の疑問を吐き出し始めた。