沈丁花の約束
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は目蒲さんに、何も声をかけない事に決めていた。車椅子の取っ手を握る、関節の白んだ硬い手は見えていたけど、振り向こうとは思わなかった。
目蒲さん、あなたはあなたに向き合う時間が必要だよ。本当に生きていきたいならね。あなたと佐田国さんは正反対に見えて、根っこのところはとてもよく似ている。とても怖がりで、強がりで、不器用で。あなたはそれを隠す為に無気力であるように振舞って、彼はそれを隠す為に雄々しく吼えた。それだけの話なの。だからね、目蒲さん、彼に幻滅することは、あなた自身に幻滅するということ。今はピンとこないだろうけど、いつかそれがちゃんとイコールで結びつくよ。
だから、あなたに声をかけるのは、その時までお預け。ホントはたくさん言いたいけどね。
お屋形様が指を鳴らすと、側近のおじいさんがコピー用紙からルービックキューブを取り出した。マジックだ!私は思わず拍手してしまう。おじいさんはそれを受けて恭しく一礼。よく見たらあの人と夜行さん、とっても似ているな。兄弟で同じ会社ってこともあるのかな。
それを受け取り、遊び始めるお屋形様。皆頭に疑問符を浮かべてそれを見ていたし、私もよく分からなかった。お屋形様、一瞬変な顔をしたけど、怒ってるわけでもなんでもないみたいだ。人のことを変わっている呼ばわりしておきながら、あの人の方がよっぽど変人らしい。
「てっきり賭郎の兵が、直接ミサイルを発射させに行くのかと思ったけど」
動揺したままの様子で、嘘喰いと呼ばれていた白髪の男性が声をかける。お屋形様は「まさか」と一言返して、完成したルービックキューブを側近のおじいさんに投げ渡した。
「獏君…ミサイルが発射されるか否か。こんな単純な賭け、そんな手を回すまでもなく僕は勝つと思うよ。大体僕はさっき佐田国君にこの革命に賭郎は手を出さないと言ってしまった。もともと手を出すつもりもなかったが…」
心ここにあらずといった感じで、お屋形様は言った。
「このくらいほっといても強運の僕ならなんとかなるでしょ」
伏龍さん、付いてきていますか?突然夜行さんが問いかけてきて、私は顔を上げる。私、難しい顔してましたか?と問いかけると、彼は肯定の笑顔。あらら。仕方がなく私も笑顔を返した。
「話自体には付いていけてるんですけど…」
「けど?」
「あの人達一体何がしたいのか…」
ブハッ!
夜行さんが豪快に吹き出した。それに反応して目蒲さんが顔を上げる。
「ミサイルの結果は気になるけど、お金も賭けもどうでもいいってどういうことですか?」
「どうでもいい…それは、どうしてそう思うのです?」
夜行さんがおや、という顔をして、聞き返してくる。
「だって顔に書いてあるじゃないですか。というか、夜行さん、お屋形様が何を考えてるか、知ってるんですか」
「まあ…内部機密ですので、申し訳ありません」
「そっか。やっぱり目的が他にあるんですね。あと、嘘喰いさんもなんか変なんです。なんで勝ってるのにあんなに焦った顔なんですか?」
夜行さんが悩むそぶりを見せた。
「獏様…嘘喰いは以前、屋形越えに失敗した過去があります」
「屋形越え?」
「賭郎の全実権と己の全てを賭けてお屋形様と戦う…とでも言いましょうか」
私も悩む。それかな。本当にそれであの顔になるかな。
「多分、違う?なんか嘘喰いさんはもっと…お話ししたい!みたいな感じで…わっかんないなぁ」
夜行さんは笑う。
「お屋形様が貴女を手駒に加えた理由がよく分かりました」
「え、なんでですか?」
「貴女は賭郎でこそ生かされるでしょう」
夜行さんは意味深に笑った。私は増え続ける疑問に首をかしげるしかなかったが、不意に喋り出したスクリーンの向こうの女性の「嘘喰い…」という声にハッとなる。
「今ね…撃っちまったってさ、ミサイル…」
「え?」
「あらー」
「んなアホな」
まさかの逆転に、皆思い思いの驚きの声を上げた。因みに一番下が私で、直後に目蒲さんと夜行さんの視線を感じてしまう。しまったもっとお淑やかな驚きの声を出すべきだった。
ざわつき収まらぬ坑内で、それでもスクリーンの向こうの女性が電話する言葉に耳を傾ければ、「脅かすんじゃないよ馬鹿!」という言葉が聞こえてきておやっと思う。首を傾げて見ていれば、彼女は電話を置いて「すまないね、ロケットだったようだよ」と伝えてきた。嘘喰いさんとお屋形様の顔色が綺麗に逆になる。
「常に一歩先を読み、敵を出し抜こうとも、頭でできる事は限度がある。最後の最後は結局…運に身を委ねるしかない。運が尽きれば代償を支払わなきゃね」
嘘喰いさんは語り出す。その目にあるのは敵意ではなく…
「アンタは今はじめて小さい石につまづいちまったんだ」
そう。彼の目にあるのは喜び。勝ち名乗りの沸き立つ喜びとは違う。じわじわと染み出す、深い喜び。
「何が…勝ち続ける人生だ」
嘘喰いさんはそう言って、かり梅の袋を開けた。
目蒲さん、あなたはあなたに向き合う時間が必要だよ。本当に生きていきたいならね。あなたと佐田国さんは正反対に見えて、根っこのところはとてもよく似ている。とても怖がりで、強がりで、不器用で。あなたはそれを隠す為に無気力であるように振舞って、彼はそれを隠す為に雄々しく吼えた。それだけの話なの。だからね、目蒲さん、彼に幻滅することは、あなた自身に幻滅するということ。今はピンとこないだろうけど、いつかそれがちゃんとイコールで結びつくよ。
だから、あなたに声をかけるのは、その時までお預け。ホントはたくさん言いたいけどね。
お屋形様が指を鳴らすと、側近のおじいさんがコピー用紙からルービックキューブを取り出した。マジックだ!私は思わず拍手してしまう。おじいさんはそれを受けて恭しく一礼。よく見たらあの人と夜行さん、とっても似ているな。兄弟で同じ会社ってこともあるのかな。
それを受け取り、遊び始めるお屋形様。皆頭に疑問符を浮かべてそれを見ていたし、私もよく分からなかった。お屋形様、一瞬変な顔をしたけど、怒ってるわけでもなんでもないみたいだ。人のことを変わっている呼ばわりしておきながら、あの人の方がよっぽど変人らしい。
「てっきり賭郎の兵が、直接ミサイルを発射させに行くのかと思ったけど」
動揺したままの様子で、嘘喰いと呼ばれていた白髪の男性が声をかける。お屋形様は「まさか」と一言返して、完成したルービックキューブを側近のおじいさんに投げ渡した。
「獏君…ミサイルが発射されるか否か。こんな単純な賭け、そんな手を回すまでもなく僕は勝つと思うよ。大体僕はさっき佐田国君にこの革命に賭郎は手を出さないと言ってしまった。もともと手を出すつもりもなかったが…」
心ここにあらずといった感じで、お屋形様は言った。
「このくらいほっといても強運の僕ならなんとかなるでしょ」
伏龍さん、付いてきていますか?突然夜行さんが問いかけてきて、私は顔を上げる。私、難しい顔してましたか?と問いかけると、彼は肯定の笑顔。あらら。仕方がなく私も笑顔を返した。
「話自体には付いていけてるんですけど…」
「けど?」
「あの人達一体何がしたいのか…」
ブハッ!
夜行さんが豪快に吹き出した。それに反応して目蒲さんが顔を上げる。
「ミサイルの結果は気になるけど、お金も賭けもどうでもいいってどういうことですか?」
「どうでもいい…それは、どうしてそう思うのです?」
夜行さんがおや、という顔をして、聞き返してくる。
「だって顔に書いてあるじゃないですか。というか、夜行さん、お屋形様が何を考えてるか、知ってるんですか」
「まあ…内部機密ですので、申し訳ありません」
「そっか。やっぱり目的が他にあるんですね。あと、嘘喰いさんもなんか変なんです。なんで勝ってるのにあんなに焦った顔なんですか?」
夜行さんが悩むそぶりを見せた。
「獏様…嘘喰いは以前、屋形越えに失敗した過去があります」
「屋形越え?」
「賭郎の全実権と己の全てを賭けてお屋形様と戦う…とでも言いましょうか」
私も悩む。それかな。本当にそれであの顔になるかな。
「多分、違う?なんか嘘喰いさんはもっと…お話ししたい!みたいな感じで…わっかんないなぁ」
夜行さんは笑う。
「お屋形様が貴女を手駒に加えた理由がよく分かりました」
「え、なんでですか?」
「貴女は賭郎でこそ生かされるでしょう」
夜行さんは意味深に笑った。私は増え続ける疑問に首をかしげるしかなかったが、不意に喋り出したスクリーンの向こうの女性の「嘘喰い…」という声にハッとなる。
「今ね…撃っちまったってさ、ミサイル…」
「え?」
「あらー」
「んなアホな」
まさかの逆転に、皆思い思いの驚きの声を上げた。因みに一番下が私で、直後に目蒲さんと夜行さんの視線を感じてしまう。しまったもっとお淑やかな驚きの声を出すべきだった。
ざわつき収まらぬ坑内で、それでもスクリーンの向こうの女性が電話する言葉に耳を傾ければ、「脅かすんじゃないよ馬鹿!」という言葉が聞こえてきておやっと思う。首を傾げて見ていれば、彼女は電話を置いて「すまないね、ロケットだったようだよ」と伝えてきた。嘘喰いさんとお屋形様の顔色が綺麗に逆になる。
「常に一歩先を読み、敵を出し抜こうとも、頭でできる事は限度がある。最後の最後は結局…運に身を委ねるしかない。運が尽きれば代償を支払わなきゃね」
嘘喰いさんは語り出す。その目にあるのは敵意ではなく…
「アンタは今はじめて小さい石につまづいちまったんだ」
そう。彼の目にあるのは喜び。勝ち名乗りの沸き立つ喜びとは違う。じわじわと染み出す、深い喜び。
「何が…勝ち続ける人生だ」
嘘喰いさんはそう言って、かり梅の袋を開けた。