フォックスフェイスの戯れ
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「あ、ファンタなくなった」
ペットボトルを逆さに振りながら、晴乃さんが呟きますと、それを受けたお屋形様が私に視線を送るので、私は冷蔵庫へ向かいました。ぎゃあ、という晴乃さんの色気のない声が後ろ髪を引きます。
「夜行さんいいですいいです!自分で行きます!」
「やらせなよ、それくらい」
「やりますよそのくらい!」
どたばたと立ち上がる彼女に呆れた視線を送りながら、お屋形様は再生されていた映画をお止めになりました。そして拗ねたように「私がいいって言うんだから、従えばいいのに」と仰ったので、つい笑みが溢れるのを禁じ得ませんでした。
お屋形様に対して唯一我を通せる晴乃さん。晴乃さんに労られ、甘やかされる立会人。そして、立会人を思うままに操るお屋形様。
いつの間にやら三竦みの関係にあるのです、我々は。
「あれ、待っててくれたんですか?ありがとうございます」
ニ本目を片手に戻ってきた晴乃さんは、止まった画面に気付くとそう柔らかな声を出しました。対するお屋形様が「うん」と頷きながら空になったカップを差し出しますと、「よしきた」とフランクに笑いつつ、彼女はなみなみとファンタを注ぎます。
しゅわしゅわという小さな音の中、再び映画は再生されました。画面の向こうでは小さな黒髪の男の子が白髪白髭の男性に食ってかかります。
「私、例のあの人って居たたまれなくて見てられないんですよ」
「今これ六作目なんだけど、今更な」
「身も蓋もない事言わないで下さいよ」
「他ならぬ君がね」
二人はクスクス笑い合います。
「なんでなの?」
「なんか、全てが」
「何その、生理的に受け付けないみたいな理由」
呆れ返るお屋形様に苦笑いを送り、彼女は語り始めます。
「この人、引き返すチャンスは腐るほどあったのに、それを全部自分の足で踏み潰してきたんだろうなって思うと、なんか」
「別に、引き返す必要なんてなかったでしょ?彼にはこれが正義だったんだから」
「どうでしょ。なんかね、誰かに認められたくって、必死に必死に高いところを目指して、結果みんなに認められるんだけど、それって結局作り上げた仮初めの自分だから本当の自分は寂しいまんま、みたいな感じ。ドラマで演じた役がいい役だと、その役者までいい人に見える、みたいな」
「なんて下手な例え」
「酷い」
「無い方が良かったよ」
「ハイハイすみませんでしたー。でも、絶対この人、素の状態でも愛してくれる人は出てきたと思うんですよねえ。顔はいいし、頭もいいし。それがこんな迷走しちゃって超不憫」
「でも」
「ん?」
「結果、愛されている事には変わりない」
「どうだかなー」
気づいてしまった私は思わず口角を緩めてしまいます。
ああ、この方はジャブを打っているのですね。
「化けの皮が剥がれたらそこで終わりの関係なんて、苦しいだけですよ。この人はずっと苦しかったと思うなぁ。誰かが'どうなっても君が大好き'って言ってあげたらよかったのに」
「君、相変わらず変わってるよねえ」
それに気づいてか気づかずか、お屋形様は話を打ち切りました。晴乃さんも深追いはしません。緩く笑顔を作ると、ソファに掛け直しました。
「飽きた」
「やっとですか」
お屋形様がリモコンを操作し、映画をお止めになりました。続きはまた次回、という事。今回は二本半続けてご覧になったので、それに付き合った我々も中々頑張ったと言えるでしょう。
切り替わったテレビ画面からは、ギャハハという品の無い笑い声。「ああ」と晴乃さんが嘆息なさいます。
「ドッキリだ。番組改編の時期ですね」
「こういうのってみんな分かってて敢えて乗るの?」
「何で私に聞くんですか」
「君だから聞くんでしょ」
「一理ある」
「一理どころの騒ぎじゃないよ。で、どうなの?」
「なんか、色々って感じ。でも、途中で気付いてもやらなきゃいけない、みたいな空気はあるみたい?」
「何で」
「え、何ででしょうね。プレッシャー?」
「ふうん」
「ちょっと」
「何?」
「今、何か良からぬこと思いつきましたね?」
「バレた?」
ほくそ笑むお屋形様。晴乃さんは態とらしい大きなため息をおつきになりました。
晴乃さん、そこは止めていただけると我々非常に、この上なく、助かるのですが。
ペットボトルを逆さに振りながら、晴乃さんが呟きますと、それを受けたお屋形様が私に視線を送るので、私は冷蔵庫へ向かいました。ぎゃあ、という晴乃さんの色気のない声が後ろ髪を引きます。
「夜行さんいいですいいです!自分で行きます!」
「やらせなよ、それくらい」
「やりますよそのくらい!」
どたばたと立ち上がる彼女に呆れた視線を送りながら、お屋形様は再生されていた映画をお止めになりました。そして拗ねたように「私がいいって言うんだから、従えばいいのに」と仰ったので、つい笑みが溢れるのを禁じ得ませんでした。
お屋形様に対して唯一我を通せる晴乃さん。晴乃さんに労られ、甘やかされる立会人。そして、立会人を思うままに操るお屋形様。
いつの間にやら三竦みの関係にあるのです、我々は。
「あれ、待っててくれたんですか?ありがとうございます」
ニ本目を片手に戻ってきた晴乃さんは、止まった画面に気付くとそう柔らかな声を出しました。対するお屋形様が「うん」と頷きながら空になったカップを差し出しますと、「よしきた」とフランクに笑いつつ、彼女はなみなみとファンタを注ぎます。
しゅわしゅわという小さな音の中、再び映画は再生されました。画面の向こうでは小さな黒髪の男の子が白髪白髭の男性に食ってかかります。
「私、例のあの人って居たたまれなくて見てられないんですよ」
「今これ六作目なんだけど、今更な」
「身も蓋もない事言わないで下さいよ」
「他ならぬ君がね」
二人はクスクス笑い合います。
「なんでなの?」
「なんか、全てが」
「何その、生理的に受け付けないみたいな理由」
呆れ返るお屋形様に苦笑いを送り、彼女は語り始めます。
「この人、引き返すチャンスは腐るほどあったのに、それを全部自分の足で踏み潰してきたんだろうなって思うと、なんか」
「別に、引き返す必要なんてなかったでしょ?彼にはこれが正義だったんだから」
「どうでしょ。なんかね、誰かに認められたくって、必死に必死に高いところを目指して、結果みんなに認められるんだけど、それって結局作り上げた仮初めの自分だから本当の自分は寂しいまんま、みたいな感じ。ドラマで演じた役がいい役だと、その役者までいい人に見える、みたいな」
「なんて下手な例え」
「酷い」
「無い方が良かったよ」
「ハイハイすみませんでしたー。でも、絶対この人、素の状態でも愛してくれる人は出てきたと思うんですよねえ。顔はいいし、頭もいいし。それがこんな迷走しちゃって超不憫」
「でも」
「ん?」
「結果、愛されている事には変わりない」
「どうだかなー」
気づいてしまった私は思わず口角を緩めてしまいます。
ああ、この方はジャブを打っているのですね。
「化けの皮が剥がれたらそこで終わりの関係なんて、苦しいだけですよ。この人はずっと苦しかったと思うなぁ。誰かが'どうなっても君が大好き'って言ってあげたらよかったのに」
「君、相変わらず変わってるよねえ」
それに気づいてか気づかずか、お屋形様は話を打ち切りました。晴乃さんも深追いはしません。緩く笑顔を作ると、ソファに掛け直しました。
「飽きた」
「やっとですか」
お屋形様がリモコンを操作し、映画をお止めになりました。続きはまた次回、という事。今回は二本半続けてご覧になったので、それに付き合った我々も中々頑張ったと言えるでしょう。
切り替わったテレビ画面からは、ギャハハという品の無い笑い声。「ああ」と晴乃さんが嘆息なさいます。
「ドッキリだ。番組改編の時期ですね」
「こういうのってみんな分かってて敢えて乗るの?」
「何で私に聞くんですか」
「君だから聞くんでしょ」
「一理ある」
「一理どころの騒ぎじゃないよ。で、どうなの?」
「なんか、色々って感じ。でも、途中で気付いてもやらなきゃいけない、みたいな空気はあるみたい?」
「何で」
「え、何ででしょうね。プレッシャー?」
「ふうん」
「ちょっと」
「何?」
「今、何か良からぬこと思いつきましたね?」
「バレた?」
ほくそ笑むお屋形様。晴乃さんは態とらしい大きなため息をおつきになりました。
晴乃さん、そこは止めていただけると我々非常に、この上なく、助かるのですが。