見守る瞳のオキザリス
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「呆気ないですよねえ」と、さくらんぼの茎を摘み上げながら一声。お行儀よく返事を待つのもなんだか違う気がしたので、そのままさくらんぼを口に放り込んで咀嚼した。こういうのはなんでもないことの様に、あたかも時間を持て余した末のどうでもいい会話の様に振る舞うのが重要だ。
南方さんが赤ん坊の代わりに桐の箱を持って来たのは今日の朝の事。やっぱりその時もなんでもないことの様に、どうでもいいことの様に振る舞った。
「あ、やっと孤児院に空きが?」
「ああ。世話をかけたね。これは約束のものだよ」
「やった。いただきまーす」
努めて何事もない様に、そう、赤ん坊が行ってしまったことなんて微塵も寂しくないかの様に振る舞う。ここは賭郎だから。そして、そんな事はみんな分かっているから誰も忙しなかった日々を惜しまない。
だから、桐箱を差し出すその手がどんなに強張っていても、笑いかけるその目がどんなに揺れていても、それは私の気のせいなのだ。立会人は揺らがない。
「さくらんぼいります?お持たせですけど」
「いや、いいよ。正直、もう一つ大きな箱を買おうか迷ったんだ。世話になったからね」
「あら、殊勝な」
「君はちょいちょい失礼だね」
笑って誤魔化せば、それに乗って南方さんも笑ってくれる。
「さて、表の仕事が溜まっている」
「ですよねえ。頑張ってください」
「手伝ってくれないのかね?」
「流石にそっちは無理ですよう」
分かりきっていた答えに苦笑いをして、踵を返す。その背中を見送りながら、どうかそのままでいてくれるようにとひっそり願う。そして、その心を押し殺すように「呆気ないですよねえ」と言った。
「どんな幕引きが良かったんですか、あなたは」
「どんなって言われると困りますけど、なんか、ドラマチックな感じ?」
権田さんは鼻で笑う。
「ないでしょう」
「ないですかあ」
「ドラマじゃありませんからね」
「ドラマみたいな設定の人ばっかですけどね」
「けど、ドラマじゃない」
権田さんは気怠げに自分の桐箱を人差し指でコツコツやりながら、口を開く。
「我々もまた、淡々と日々を消化するだけの一般人ですよ」
んなアホな。私は思わず突っ込みを入れたくなる口にさくらんぼを放り込む。
「あ、そうだ」
「はい?」
「知ってます?'南方立会人を応援する会'」
「…応援?」
「ええ。初々しくて不器用な南方立会人を後ろから励ましたい黒服が集まる会だそうです」
「また、情けない」
「笑っちゃいますね」
「まあ、彼らしいとも言えますが」
「あはは」
で、権田さんは入らないんですか?とは聞かない。その内入りそうな気がするから。私はにやける頬を悟られないようにと、もう一つさくらんぼを頬張った。
南方さんが赤ん坊の代わりに桐の箱を持って来たのは今日の朝の事。やっぱりその時もなんでもないことの様に、どうでもいいことの様に振る舞った。
「あ、やっと孤児院に空きが?」
「ああ。世話をかけたね。これは約束のものだよ」
「やった。いただきまーす」
努めて何事もない様に、そう、赤ん坊が行ってしまったことなんて微塵も寂しくないかの様に振る舞う。ここは賭郎だから。そして、そんな事はみんな分かっているから誰も忙しなかった日々を惜しまない。
だから、桐箱を差し出すその手がどんなに強張っていても、笑いかけるその目がどんなに揺れていても、それは私の気のせいなのだ。立会人は揺らがない。
「さくらんぼいります?お持たせですけど」
「いや、いいよ。正直、もう一つ大きな箱を買おうか迷ったんだ。世話になったからね」
「あら、殊勝な」
「君はちょいちょい失礼だね」
笑って誤魔化せば、それに乗って南方さんも笑ってくれる。
「さて、表の仕事が溜まっている」
「ですよねえ。頑張ってください」
「手伝ってくれないのかね?」
「流石にそっちは無理ですよう」
分かりきっていた答えに苦笑いをして、踵を返す。その背中を見送りながら、どうかそのままでいてくれるようにとひっそり願う。そして、その心を押し殺すように「呆気ないですよねえ」と言った。
「どんな幕引きが良かったんですか、あなたは」
「どんなって言われると困りますけど、なんか、ドラマチックな感じ?」
権田さんは鼻で笑う。
「ないでしょう」
「ないですかあ」
「ドラマじゃありませんからね」
「ドラマみたいな設定の人ばっかですけどね」
「けど、ドラマじゃない」
権田さんは気怠げに自分の桐箱を人差し指でコツコツやりながら、口を開く。
「我々もまた、淡々と日々を消化するだけの一般人ですよ」
んなアホな。私は思わず突っ込みを入れたくなる口にさくらんぼを放り込む。
「あ、そうだ」
「はい?」
「知ってます?'南方立会人を応援する会'」
「…応援?」
「ええ。初々しくて不器用な南方立会人を後ろから励ましたい黒服が集まる会だそうです」
「また、情けない」
「笑っちゃいますね」
「まあ、彼らしいとも言えますが」
「あはは」
で、権田さんは入らないんですか?とは聞かない。その内入りそうな気がするから。私はにやける頬を悟られないようにと、もう一つさくらんぼを頬張った。