見守る瞳のオキザリス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「女史、いいだろうか?」
間の悪い男め。泣き喚くそれと共に現れた南方立会人を見て、思わず顔を顰める。先生はそれには気付かずーー尤も、気付いて見なかったことにしただけだろうがーードアを開けた。
「ん、女史?」
「あー、可哀想、泣いちゃって、疲れたね」
彼女はトロリとした表情で赤ん坊を南方立会人の腕から引き取り、壁際に座ってあやし始める。
「酔ってるのかね、この子は?」
明らかに普段と違う彼女の姿をまじまじと見つめながら聞かれ、僕は肩をすくめる。
「そこらへんに転がってるのは全部彼女の分。僕はこの一本だけ」
「それはまあ随分と…」
「酔いたかったらしいよ。誰かさんのせいでね」
意地悪はやめて下さいー!と野次が飛ぶので、僕はそこで自粛した。まあ、この男も馬鹿じゃない。伝わっているだろう。現に彼は先生から赤ん坊を取り返そうと手を伸ばす。しかし、彼女はその手を拒む。
「女史、いいよ、気を遣ってくれなくて」
「不安がる人に渡したらまた泣いちゃうでしょー?」
ぎゅうと赤ん坊を抱きしめて、彼女は舌を出す。そしてまたあやし始めたのを見て「わあ相当酔ってるのね」と、南方立会人が口に出した。うん、同感。流石の彼女も自覚はあるらしく、「仕方がないじゃないですかー」と間延びした声を上げた。
「他に誰の前で酔えってんですか」
「弥鱈立会人とか」
「目蒲立会人とか」
「ヤですよう!弥鱈君は絶対殺せっていいますもん!やってらんねえ!」
「じゃ、目蒲立会人しかいないね」
「あの人はダメです、マジで」
「あれ、そっちは茶化さないんだ?」
落差に面食らって、茶化す。すると彼女は諦観を込めて笑った。
「あの人の前では弱くいられない」
ぐずる赤ん坊の額を撫で、彼女は言う。
「いいじゃない、あんなでも立会人だよ?」
「逆です。あんな人がまだ立会人だからいけない」
事情をよく知らない南方立会人が片眉を上げるのを余所目に、僕は「向いてないってこと?」と聞いた。
「うんにゃ、向いてますよ。というか、向いてた、っていうか。私と会っちゃったせいで色んなことに向かなくなっちゃった。目蒲さんは私が今ここにいることが申し訳なくて仕方がないんです。私が弱音なんか吐いたら、きっと、自殺しちゃう。自分なんか生きてない方がいいって思っちゃう」
私がもっと上手に出来たら良かったのに。目蒲さんが負い目なんて感じなくて済むように。そう言う彼女は夢心地で、何故か与えられた台詞を諳んじているかのようだった。
「先生は完璧な立ち回りをしたと思うけど」
「完璧、か。どうでしょ。うん。自分でもあれ以上ないって思いますけど、でも、きっと、もっと頭が良かったら、もっといい結果になったって思う時がある」
彼女の瞳がまた潤み、それを隠すかのように俯いて赤ん坊と目を合わす。
「私が立会人さんみたいな人だったら良かったのにね。ごめんね」
泣き出した赤ん坊。代わりに泣いている様に見えた。
「ごめんね。そしたらきっとね、君のことも助けてあげられたと思うの。ごめんね」
力一杯泣くそれを、柔らかそうな腕がきつく抱く。そのまま彼女は体を横たえ、あろうことか、寝息を立てた。
「…なんだかね」
南方立会人が手を伸ばし、今度こそ彼女から赤ん坊を取り返す。
「想像以上に一杯一杯なんだよ、みんな知らないだけで。あんまり頼らないであげてね」
僕は言った。静かな部屋には赤ん坊の泣き声が響いている。
間の悪い男め。泣き喚くそれと共に現れた南方立会人を見て、思わず顔を顰める。先生はそれには気付かずーー尤も、気付いて見なかったことにしただけだろうがーードアを開けた。
「ん、女史?」
「あー、可哀想、泣いちゃって、疲れたね」
彼女はトロリとした表情で赤ん坊を南方立会人の腕から引き取り、壁際に座ってあやし始める。
「酔ってるのかね、この子は?」
明らかに普段と違う彼女の姿をまじまじと見つめながら聞かれ、僕は肩をすくめる。
「そこらへんに転がってるのは全部彼女の分。僕はこの一本だけ」
「それはまあ随分と…」
「酔いたかったらしいよ。誰かさんのせいでね」
意地悪はやめて下さいー!と野次が飛ぶので、僕はそこで自粛した。まあ、この男も馬鹿じゃない。伝わっているだろう。現に彼は先生から赤ん坊を取り返そうと手を伸ばす。しかし、彼女はその手を拒む。
「女史、いいよ、気を遣ってくれなくて」
「不安がる人に渡したらまた泣いちゃうでしょー?」
ぎゅうと赤ん坊を抱きしめて、彼女は舌を出す。そしてまたあやし始めたのを見て「わあ相当酔ってるのね」と、南方立会人が口に出した。うん、同感。流石の彼女も自覚はあるらしく、「仕方がないじゃないですかー」と間延びした声を上げた。
「他に誰の前で酔えってんですか」
「弥鱈立会人とか」
「目蒲立会人とか」
「ヤですよう!弥鱈君は絶対殺せっていいますもん!やってらんねえ!」
「じゃ、目蒲立会人しかいないね」
「あの人はダメです、マジで」
「あれ、そっちは茶化さないんだ?」
落差に面食らって、茶化す。すると彼女は諦観を込めて笑った。
「あの人の前では弱くいられない」
ぐずる赤ん坊の額を撫で、彼女は言う。
「いいじゃない、あんなでも立会人だよ?」
「逆です。あんな人がまだ立会人だからいけない」
事情をよく知らない南方立会人が片眉を上げるのを余所目に、僕は「向いてないってこと?」と聞いた。
「うんにゃ、向いてますよ。というか、向いてた、っていうか。私と会っちゃったせいで色んなことに向かなくなっちゃった。目蒲さんは私が今ここにいることが申し訳なくて仕方がないんです。私が弱音なんか吐いたら、きっと、自殺しちゃう。自分なんか生きてない方がいいって思っちゃう」
私がもっと上手に出来たら良かったのに。目蒲さんが負い目なんて感じなくて済むように。そう言う彼女は夢心地で、何故か与えられた台詞を諳んじているかのようだった。
「先生は完璧な立ち回りをしたと思うけど」
「完璧、か。どうでしょ。うん。自分でもあれ以上ないって思いますけど、でも、きっと、もっと頭が良かったら、もっといい結果になったって思う時がある」
彼女の瞳がまた潤み、それを隠すかのように俯いて赤ん坊と目を合わす。
「私が立会人さんみたいな人だったら良かったのにね。ごめんね」
泣き出した赤ん坊。代わりに泣いている様に見えた。
「ごめんね。そしたらきっとね、君のことも助けてあげられたと思うの。ごめんね」
力一杯泣くそれを、柔らかそうな腕がきつく抱く。そのまま彼女は体を横たえ、あろうことか、寝息を立てた。
「…なんだかね」
南方立会人が手を伸ばし、今度こそ彼女から赤ん坊を取り返す。
「想像以上に一杯一杯なんだよ、みんな知らないだけで。あんまり頼らないであげてね」
僕は言った。静かな部屋には赤ん坊の泣き声が響いている。