沈丁花の約束
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彼女がゆっくり歩いてお屋形様に近づく。お屋形様はそれに気づくと、「決まった?」と短く聞いた。彼女は「お話、ありがたくお受けします」と頭を下げた。「君、中々変わってるね」と言ったお屋形様の言葉に、つい俺も相槌を打った。その話がありがたいのは俺であってお前じゃないぞ。
「まあ、いいよどんなに変わってても。役に立ってよね」
お屋形様は微笑んでそう言った。もちろん彼女も微笑んで、頷いた。
「さぁーて、ひと段落したところで悪いけどさ」と、嘘喰いが携帯電話を弄りながら話し出す。「知略の及ばない場面…向こうじゃ俺の方に吹いて来たようだ…運がね。アンタこのままじゃここでの賭け以上の大金を無くしてしまう事になるね」
勝ち誇る嘘喰いと、平然とした態度のお屋形様。火花を散らす二人をよそ目に、彼女が車椅子を取りに行くのに気付く。
「お前立つのも…」
思わず俺は駆け寄った。彼女は「いいんですいいんです」と笑った。
「目蒲さん、優しいですよね」
「はあ?」
「いーえ、こっちの話です。さ、押してください車椅子」
さあさあ、と促す彼女になんと返そうかと悩んでいると、不意に寒気を感じる。咄嗟に頭をガードしたのは正解で、寸分違わずその位置に夜行が蹴りを入れた。ひ、という彼女の悲鳴。
「驚かせて申し訳ありません、お嬢さん。號奪戦中でしたもので」
「あえ…あ、はい」
彼女はたじろぐ。微笑む夜行の手元は正確に俺を狙い続ける。彼女はその間も続く嘘喰いとお屋形様の攻防と俺たちの號奪戦を交互に見て、ついに言った。
「あの、あっちが終わったらじゃダメなんですか?」
いいことを言ったと言わんばかりに夜行は頷き、手を止めた。
「佐田ちゃん…首吊っちゃう前に聞いときたいんだけど、アンタ一体ミサイルでどこ狙ってたの?」
「フン!俺の革命はまだ終わってない…同志の死も全てデタラメだ。同志は俺を助ける事よりミサイルを優先しているに過ぎん」
「佐田国さん、今嘘つきましたね」
なんとなく、俺も同じ事を直感した。短いが、濃い付き合いだったからだろうか。
「でしょうな」
本当に休戦する気らしい、夜行と彼女は会話を始めた。
「意地っ張りだから、そこを突かれちゃったんでしょうか」
「…乗せられたんでしょうな」
「可哀想に。ああいうタイプは一人でやるべきだったんです。誰にも意地なんて張らなくて済むように」
彼女はため息をついた。それを見て思う。俺も同じだったのだろうか。
頭の中は誰にも拾われず、話は進む。
「凄いよアンタ…愚直というか、猪突猛進というか。でもまあ、だいたい予想は出来るよ。携帯でミサイルの種類は聞いてる…射程から考えると…狙いは東京兜町の東京証券取引所…もしくは同町にある、今株価が年初来最高値をつけている日本トップ級の大企業、秀英商事。こっちのが有力で現実的かな?」
「なんで秀英商事?」彼女はヒソヒソと問いかける。「株価が暴落するだろ?」と俺が答えると、彼女は納得したのか微妙な表情で「一文無しになっても人は変わらないのに」と呟いた。夜行が笑う。
「アンタは利用されたんだ…日本企業の象徴、秀英商事を狙っている事に目をつけられてね。狙いは株の大暴落。そいつらは日本の株を大量に空売りする事によって天文学的な金を得ようとしている。噂じゃ911もとあるテロ組織が大量の株を空売りしてたって話がある。十中八九佐田ちゃんを利用していた奴…そしてその尻馬に乗った宇宙人…アンタらは相当な金を突っ込んでる。でもさ、もうミサイル発射は阻止される。つまり金はパァだ」
お屋形様は眉をひそめる。それを見て彼女は「役者ですね、お屋形様」と片眉を上げた。夜行が「お屋形様は我々の思考の遥か上をお行きになりますよ」とフォローを加えた。
「佐田ちゃん、アンタらの革命は、周囲からすりゃただの美味しい金儲けの話でしかなかったんだよ」
佐田国様が目を見開く。俺はその姿がお労しくて、思わず目を伏せた。気付いていた。ヒルのように吸い付く金の亡者達。それでも、それが佐田国様の願いだと思うと何も言えなかった。そのことが今佐田国様を苦しめているのなら、俺が一言進言していれば結末は変わったのだろうか。嘘喰いが滔々と語る言葉を心が拒絶した。聞かずとも、全て知っていたからこそだった。ひたすらに車椅子のハンドルを見つめる。
「嘘つきは皆、負けちゃうって事だね」
嘘喰いがそう言葉を締めくくる。いつもみたいに怒声を上げてくれよ。革命にそんなのは関係ないって、言ってくれよ。俺達が浮かばれないだろ。
「俺の取り分の2億5千、キセル姉さんの金、13億。合わせて15億5千。俺たちはこの金をミサイルが発射されないな賭けたんだ。金を用意した方がいい。今日はアンタの負けだ」
お屋形様に向けられた筈の言葉が、佐田国様に、俺に向けられているような気がした。
「まあ、いいよどんなに変わってても。役に立ってよね」
お屋形様は微笑んでそう言った。もちろん彼女も微笑んで、頷いた。
「さぁーて、ひと段落したところで悪いけどさ」と、嘘喰いが携帯電話を弄りながら話し出す。「知略の及ばない場面…向こうじゃ俺の方に吹いて来たようだ…運がね。アンタこのままじゃここでの賭け以上の大金を無くしてしまう事になるね」
勝ち誇る嘘喰いと、平然とした態度のお屋形様。火花を散らす二人をよそ目に、彼女が車椅子を取りに行くのに気付く。
「お前立つのも…」
思わず俺は駆け寄った。彼女は「いいんですいいんです」と笑った。
「目蒲さん、優しいですよね」
「はあ?」
「いーえ、こっちの話です。さ、押してください車椅子」
さあさあ、と促す彼女になんと返そうかと悩んでいると、不意に寒気を感じる。咄嗟に頭をガードしたのは正解で、寸分違わずその位置に夜行が蹴りを入れた。ひ、という彼女の悲鳴。
「驚かせて申し訳ありません、お嬢さん。號奪戦中でしたもので」
「あえ…あ、はい」
彼女はたじろぐ。微笑む夜行の手元は正確に俺を狙い続ける。彼女はその間も続く嘘喰いとお屋形様の攻防と俺たちの號奪戦を交互に見て、ついに言った。
「あの、あっちが終わったらじゃダメなんですか?」
いいことを言ったと言わんばかりに夜行は頷き、手を止めた。
「佐田ちゃん…首吊っちゃう前に聞いときたいんだけど、アンタ一体ミサイルでどこ狙ってたの?」
「フン!俺の革命はまだ終わってない…同志の死も全てデタラメだ。同志は俺を助ける事よりミサイルを優先しているに過ぎん」
「佐田国さん、今嘘つきましたね」
なんとなく、俺も同じ事を直感した。短いが、濃い付き合いだったからだろうか。
「でしょうな」
本当に休戦する気らしい、夜行と彼女は会話を始めた。
「意地っ張りだから、そこを突かれちゃったんでしょうか」
「…乗せられたんでしょうな」
「可哀想に。ああいうタイプは一人でやるべきだったんです。誰にも意地なんて張らなくて済むように」
彼女はため息をついた。それを見て思う。俺も同じだったのだろうか。
頭の中は誰にも拾われず、話は進む。
「凄いよアンタ…愚直というか、猪突猛進というか。でもまあ、だいたい予想は出来るよ。携帯でミサイルの種類は聞いてる…射程から考えると…狙いは東京兜町の東京証券取引所…もしくは同町にある、今株価が年初来最高値をつけている日本トップ級の大企業、秀英商事。こっちのが有力で現実的かな?」
「なんで秀英商事?」彼女はヒソヒソと問いかける。「株価が暴落するだろ?」と俺が答えると、彼女は納得したのか微妙な表情で「一文無しになっても人は変わらないのに」と呟いた。夜行が笑う。
「アンタは利用されたんだ…日本企業の象徴、秀英商事を狙っている事に目をつけられてね。狙いは株の大暴落。そいつらは日本の株を大量に空売りする事によって天文学的な金を得ようとしている。噂じゃ911もとあるテロ組織が大量の株を空売りしてたって話がある。十中八九佐田ちゃんを利用していた奴…そしてその尻馬に乗った宇宙人…アンタらは相当な金を突っ込んでる。でもさ、もうミサイル発射は阻止される。つまり金はパァだ」
お屋形様は眉をひそめる。それを見て彼女は「役者ですね、お屋形様」と片眉を上げた。夜行が「お屋形様は我々の思考の遥か上をお行きになりますよ」とフォローを加えた。
「佐田ちゃん、アンタらの革命は、周囲からすりゃただの美味しい金儲けの話でしかなかったんだよ」
佐田国様が目を見開く。俺はその姿がお労しくて、思わず目を伏せた。気付いていた。ヒルのように吸い付く金の亡者達。それでも、それが佐田国様の願いだと思うと何も言えなかった。そのことが今佐田国様を苦しめているのなら、俺が一言進言していれば結末は変わったのだろうか。嘘喰いが滔々と語る言葉を心が拒絶した。聞かずとも、全て知っていたからこそだった。ひたすらに車椅子のハンドルを見つめる。
「嘘つきは皆、負けちゃうって事だね」
嘘喰いがそう言葉を締めくくる。いつもみたいに怒声を上げてくれよ。革命にそんなのは関係ないって、言ってくれよ。俺達が浮かばれないだろ。
「俺の取り分の2億5千、キセル姉さんの金、13億。合わせて15億5千。俺たちはこの金をミサイルが発射されないな賭けたんだ。金を用意した方がいい。今日はアンタの負けだ」
お屋形様に向けられた筈の言葉が、佐田国様に、俺に向けられているような気がした。