見守る瞳のオキザリス
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「知ってます、滝さん?赤ちゃんの泣き声っていうのはもう、無条件で不快に感じるように出来ているんですよ。だってそうでしょう?泣き声が良いものなら、泣き止ませる必要ないじゃないですか。赤ちゃんはああやって不快な大声を出して群れを危険に晒すことで要求を叶えるんです」
「殺しちまえ、そんな生き物」
「そこが生き物の面白いところです。ベビーシェマって聞いたことありません?赤ちゃんって無条件で可愛いと思われて、庇護欲を掻き立てるようにできてるんです。つまり赤ちゃんが泣いている状態は不快で、笑っている状態は快な訳ですから、やることは一つですね。泣き止ませることに尽力するんです」
「身も蓋もねえな」
「そうなんですよう。生物って面白いですよねえ。赤ちゃんの声を無視できるのは良く訓練された臨床心理士かサイコパスくらいのもんです」
おもむろに蘊蓄を語り出す伏龍の視線の先では、南方が赤ん坊を抱えて視線を彷徨わせている。
伏龍は基本的に優しいが、たまにこういうところがある。
「あのね、女史」
「ハイなんでしょう。報告書ですか?」
「いや、そのね、相談があるのよね」
「多分断りますけど、まあ聞きましょう」
「その、助けて欲しいのよ」
「ほう」
麗らかな微笑みを浮かべる彼女を、南方は苛立ち混じりの目で見つめる。察しろということだろう。それをやってくれる事務ならみーんな楽だったんだがなあ、とこっそりため息をついた。
「聞いてますよ。どうぞ」
焦れる南方に、「素直にお願いしやがれ」と声を掛ける。小さな舌打ちの後、南方は話し出す。
「この子、拾って来ちゃったんだけど、どうしようか」
「知るかばーか」
「なっ!」
突然の罵倒に南方は口をあんぐりさせるが、「き、君女でしょう!」となんとか反論する。
「だから最初に言ったでしょう、赤ちゃんの声を無視できる人もいるんです!」
「君いつから臨床心理士になったのかね!」
「教員なめんな!」
「無茶苦茶だな、母性とかないのかね?!」
「ありますよ当たり前でしょう!産んでない長男に大半を割いてるだけです!」
「目蒲立会人に言うぞ!」
「やめて拗ねちゃう!」
話の流れがおかしくなっていると気付いたのかーーそうであって欲しいがーー二人は黙り込む。
「そもそもですね、何の勝算があって連れてきたんですか」
しばらくの後、伏龍は問うた。
「分かってるとは思いますけど、同種の展開にはこれからも立ち会います。私だって、私の教え子だって賭けのテーブルに乗せられました。何も珍しいことじゃないし、こんなことしてたら来年には孤児院開設できますよ」
「だからって、見殺しには出来ないよ」
「それができるのが、立会人なんです。何でもできて下さい。できるみたいに、振舞って下さい」
しっしっ、と手で南方を払いのけ、彼女は仕事に戻る。彼は入り口で呆然と立ち尽くしていた。
「殺しちまえ、そんな生き物」
「そこが生き物の面白いところです。ベビーシェマって聞いたことありません?赤ちゃんって無条件で可愛いと思われて、庇護欲を掻き立てるようにできてるんです。つまり赤ちゃんが泣いている状態は不快で、笑っている状態は快な訳ですから、やることは一つですね。泣き止ませることに尽力するんです」
「身も蓋もねえな」
「そうなんですよう。生物って面白いですよねえ。赤ちゃんの声を無視できるのは良く訓練された臨床心理士かサイコパスくらいのもんです」
おもむろに蘊蓄を語り出す伏龍の視線の先では、南方が赤ん坊を抱えて視線を彷徨わせている。
伏龍は基本的に優しいが、たまにこういうところがある。
「あのね、女史」
「ハイなんでしょう。報告書ですか?」
「いや、そのね、相談があるのよね」
「多分断りますけど、まあ聞きましょう」
「その、助けて欲しいのよ」
「ほう」
麗らかな微笑みを浮かべる彼女を、南方は苛立ち混じりの目で見つめる。察しろということだろう。それをやってくれる事務ならみーんな楽だったんだがなあ、とこっそりため息をついた。
「聞いてますよ。どうぞ」
焦れる南方に、「素直にお願いしやがれ」と声を掛ける。小さな舌打ちの後、南方は話し出す。
「この子、拾って来ちゃったんだけど、どうしようか」
「知るかばーか」
「なっ!」
突然の罵倒に南方は口をあんぐりさせるが、「き、君女でしょう!」となんとか反論する。
「だから最初に言ったでしょう、赤ちゃんの声を無視できる人もいるんです!」
「君いつから臨床心理士になったのかね!」
「教員なめんな!」
「無茶苦茶だな、母性とかないのかね?!」
「ありますよ当たり前でしょう!産んでない長男に大半を割いてるだけです!」
「目蒲立会人に言うぞ!」
「やめて拗ねちゃう!」
話の流れがおかしくなっていると気付いたのかーーそうであって欲しいがーー二人は黙り込む。
「そもそもですね、何の勝算があって連れてきたんですか」
しばらくの後、伏龍は問うた。
「分かってるとは思いますけど、同種の展開にはこれからも立ち会います。私だって、私の教え子だって賭けのテーブルに乗せられました。何も珍しいことじゃないし、こんなことしてたら来年には孤児院開設できますよ」
「だからって、見殺しには出来ないよ」
「それができるのが、立会人なんです。何でもできて下さい。できるみたいに、振舞って下さい」
しっしっ、と手で南方を払いのけ、彼女は仕事に戻る。彼は入り口で呆然と立ち尽くしていた。