香り立て花蘇芳
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「なんや、お前も暇じゃのう」
笑う門倉に肩をすくめて見せる。
「何、旧友が暇を持て余しているんじゃないかと心配でね」
「お前と友達になった覚えなんぞないわ、ダボ」
「手厳しい」
笑って見せるも、それを返す門倉の目が昏く光るのに気付く。どいつもこいつもご執心だね、どうも。
「今日はあのお嬢ちゃんにおかしな事を言われてねえ」
「ほー、チビが。何言うとった?」
「雑魚、と」
「は?チビが?」
「そうなのよ。しかもね、ラリアット食らった直後の言葉」
「ラリアット食らわしたんか?!」
ドン引きした様子の門倉に、少し内省する。
「そろそろ態度を改めてもいい頃だと思うんだけどねえ」
「生意気じゃろ」
「本当に。あんな歪な存在がいたんじゃあいけない。秩序の維持の邪魔にしかならない」
門倉が何か言いかけたところで、携帯が鳴る。「病院じゃぞ」と苦笑いの門倉に手刀を切りつつそれを取り出した。
「おや、伏龍晴乃からだよ」
「まじか。出てみろ」
「病院なんだけどね」
「ええわ、個室やし」
今度は俺が苦笑いをする番だった。通話ボタンを押せば、冷たい声が電波に乗って送られてくる。
「門倉さんに代わって下さい」
「はあ?突然不躾じゃないか」
「躾けられていないのはどっちですか。いいから飼い主に代われってんですよ」
「飼い主ぃ?」
「あら、ご自覚がない?じゃあ尚更あなたと話しても無駄です。代わりなさい。頭さえ叩ければあなたの事は見逃してあげます」
「はあ?」
「いいから早く代わりなさい!」
突然の大声。び、と割れる音声に思わず携帯から耳を離すと、門倉が驚いたように俺を見た。流石に聞こえたらしく、「代われって、ワシにか?」と聞かれたので頷く。伸ばされた彼の手に携帯を乗せたのは、怖いもの見たさに近い。
彼は携帯を操作し、スピーカーフォンにした。
「よお、チビ」
「ごめんなさいね、門倉さん。入院中に」
「いや、かまへんよ。しかし何でこいつがワシとおると分かった?」
「もう、立会人さんはみーんな知りたがり」
「はぐらかすなや」
俺との会話が嘘のような優しい声に思わずサブイボが立つ。
「ふふ、そんな粗末な斥候じゃ何も分からなかったんでしょ?ざまあ見やがれ、です」
「最近おどれ、口悪うないか?」
「はぐらかしちゃ、ダメですよう。答えてあげなきゃ」
ねえ?気になりますよね、南方さん?クックッと笑い混じりに放たれた言葉に思わず頬が引き攣る。
見えているようだ、全て。
「何故スピーカーフォンと?」
「自分で考えなさいな、情けない」
思わず出た問いかけを、彼女はピシャリと打ち捨てる。ぞわり、背中に走る何かが口を動かす。
「何故私が見舞いに来たと」
「だから、自分で考えなさい」
「お、まえ、ふざけるのも大概にしろ!秩序を乱すな、人質だろうが!」
「ええ、そうね、人質。だから私はそもそも賭郎の秩序の中にいないのよ。残念でした。そういう本質を見抜けないから利用されるんだわ」
利用。この話の流れの中で散々言われた犯人の顔を見る。笑っていた。
「かどくらぁ…」
「乗せられんなや、ワシがいつお前を利用した言うんじゃ」
「利用以外の何者でもないでしょう、門倉さん。あなたやってみたくなったんでしょう?私やお屋形様の戦法。で、私の実力を量ろうとしたんですね?」
クックッと笑う声は電話の向こうとこちらの二つ。
「どういうことなんだ、門倉ぁ!」
「騒ぐなや、病院やぞ」
「簡単な印象操作ですよ。私が秩序を歪める存在であるかのように話しただけ」
「見てきたかのように言うのう、チビ」
「現場を見なくても、あなたが何に興味があって、何が不満で、何がしたいのかはよく知っているので」
「ほー」
「あなたは根っからの支配者。自分の定めたルールを遵守すること、させることがとても大切。それは例えお屋形様に対してでも同じ。あなたはお屋形様に絶対強者であることを求めている。お屋形様はもちろんそれに応え続けてきた。でも、その理を崩したのが私だったのね。目蒲立会人と泉江外務卿を両脇に置いた私が、あろうことかお屋形様まで征服した。そんなおかしな話、あってたまるか。あなたは私を好きだったけど、気に食わなかった。ずっと、ずーっと、支配者としての伏龍晴乃を試したかった。今回自分と同じような思考回路をもつ南方さんが立会人に選ばれたことで、一計を思いついたのね。その人が私のことを好きになる前に嫌いにしてしまおう。そして、戦わせようと」
暫しの沈黙。門倉は何も返さず、ただ静かな微笑みをたたえている。
「でも、手の内がバレてしまったから今回はここまで。続きはあなたが帰ってきてから、あなたがやって下さいな」
「殺すかもしれんぞ」
「ふふ、頭に大怪我をした時点で覚悟はしていましたが、倫理観を持ってかれたんですね。まあ、それだけで済んでよかった。もう半分死んでるようなもんです。心行くようにどうぞ」
じゃ、後は二人で喧嘩して下さいな。柔らかい声はそう告げて、一方的に電話を切った。
不意に訪れた静寂の中、俺は成すすべもなく門倉を見つめた。
笑う門倉に肩をすくめて見せる。
「何、旧友が暇を持て余しているんじゃないかと心配でね」
「お前と友達になった覚えなんぞないわ、ダボ」
「手厳しい」
笑って見せるも、それを返す門倉の目が昏く光るのに気付く。どいつもこいつもご執心だね、どうも。
「今日はあのお嬢ちゃんにおかしな事を言われてねえ」
「ほー、チビが。何言うとった?」
「雑魚、と」
「は?チビが?」
「そうなのよ。しかもね、ラリアット食らった直後の言葉」
「ラリアット食らわしたんか?!」
ドン引きした様子の門倉に、少し内省する。
「そろそろ態度を改めてもいい頃だと思うんだけどねえ」
「生意気じゃろ」
「本当に。あんな歪な存在がいたんじゃあいけない。秩序の維持の邪魔にしかならない」
門倉が何か言いかけたところで、携帯が鳴る。「病院じゃぞ」と苦笑いの門倉に手刀を切りつつそれを取り出した。
「おや、伏龍晴乃からだよ」
「まじか。出てみろ」
「病院なんだけどね」
「ええわ、個室やし」
今度は俺が苦笑いをする番だった。通話ボタンを押せば、冷たい声が電波に乗って送られてくる。
「門倉さんに代わって下さい」
「はあ?突然不躾じゃないか」
「躾けられていないのはどっちですか。いいから飼い主に代われってんですよ」
「飼い主ぃ?」
「あら、ご自覚がない?じゃあ尚更あなたと話しても無駄です。代わりなさい。頭さえ叩ければあなたの事は見逃してあげます」
「はあ?」
「いいから早く代わりなさい!」
突然の大声。び、と割れる音声に思わず携帯から耳を離すと、門倉が驚いたように俺を見た。流石に聞こえたらしく、「代われって、ワシにか?」と聞かれたので頷く。伸ばされた彼の手に携帯を乗せたのは、怖いもの見たさに近い。
彼は携帯を操作し、スピーカーフォンにした。
「よお、チビ」
「ごめんなさいね、門倉さん。入院中に」
「いや、かまへんよ。しかし何でこいつがワシとおると分かった?」
「もう、立会人さんはみーんな知りたがり」
「はぐらかすなや」
俺との会話が嘘のような優しい声に思わずサブイボが立つ。
「ふふ、そんな粗末な斥候じゃ何も分からなかったんでしょ?ざまあ見やがれ、です」
「最近おどれ、口悪うないか?」
「はぐらかしちゃ、ダメですよう。答えてあげなきゃ」
ねえ?気になりますよね、南方さん?クックッと笑い混じりに放たれた言葉に思わず頬が引き攣る。
見えているようだ、全て。
「何故スピーカーフォンと?」
「自分で考えなさいな、情けない」
思わず出た問いかけを、彼女はピシャリと打ち捨てる。ぞわり、背中に走る何かが口を動かす。
「何故私が見舞いに来たと」
「だから、自分で考えなさい」
「お、まえ、ふざけるのも大概にしろ!秩序を乱すな、人質だろうが!」
「ええ、そうね、人質。だから私はそもそも賭郎の秩序の中にいないのよ。残念でした。そういう本質を見抜けないから利用されるんだわ」
利用。この話の流れの中で散々言われた犯人の顔を見る。笑っていた。
「かどくらぁ…」
「乗せられんなや、ワシがいつお前を利用した言うんじゃ」
「利用以外の何者でもないでしょう、門倉さん。あなたやってみたくなったんでしょう?私やお屋形様の戦法。で、私の実力を量ろうとしたんですね?」
クックッと笑う声は電話の向こうとこちらの二つ。
「どういうことなんだ、門倉ぁ!」
「騒ぐなや、病院やぞ」
「簡単な印象操作ですよ。私が秩序を歪める存在であるかのように話しただけ」
「見てきたかのように言うのう、チビ」
「現場を見なくても、あなたが何に興味があって、何が不満で、何がしたいのかはよく知っているので」
「ほー」
「あなたは根っからの支配者。自分の定めたルールを遵守すること、させることがとても大切。それは例えお屋形様に対してでも同じ。あなたはお屋形様に絶対強者であることを求めている。お屋形様はもちろんそれに応え続けてきた。でも、その理を崩したのが私だったのね。目蒲立会人と泉江外務卿を両脇に置いた私が、あろうことかお屋形様まで征服した。そんなおかしな話、あってたまるか。あなたは私を好きだったけど、気に食わなかった。ずっと、ずーっと、支配者としての伏龍晴乃を試したかった。今回自分と同じような思考回路をもつ南方さんが立会人に選ばれたことで、一計を思いついたのね。その人が私のことを好きになる前に嫌いにしてしまおう。そして、戦わせようと」
暫しの沈黙。門倉は何も返さず、ただ静かな微笑みをたたえている。
「でも、手の内がバレてしまったから今回はここまで。続きはあなたが帰ってきてから、あなたがやって下さいな」
「殺すかもしれんぞ」
「ふふ、頭に大怪我をした時点で覚悟はしていましたが、倫理観を持ってかれたんですね。まあ、それだけで済んでよかった。もう半分死んでるようなもんです。心行くようにどうぞ」
じゃ、後は二人で喧嘩して下さいな。柔らかい声はそう告げて、一方的に電話を切った。
不意に訪れた静寂の中、俺は成すすべもなく門倉を見つめた。