香り立て花蘇芳
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さて、一先ず消失バーストについての説明をすべきだろう。消失バーストもまた行動心理学用語の一つで、ある行動が消失する直前に一時的にその行動が激化する、というもの。目蒲さんでいうなら私をお風呂場に監禁する直前がそれに当たる。わーっとなって私と山口さんに全力で暴力を振るって、それでもどちらも意思を曲げないと分かって、その日を境に暴力を振るうのをやめた。そして、監禁という次の手段に移ったという訳。因みにスーパーとかで子どもが寝っ転がって駄々をこねるのも消失バースト。その子の全力のおねだり、最後のあがきなので、それを躱しきれば以降その手段は使われない。余談だがその消失バーストに負けて相手の思い通りにしてしまうことを逆調教という。これだけは絶対に避けなければならない。このタイミングで負けると最悪で、その瞬間以降相手が思い通りにならないことがあるたびに消失バースト級の問題行動を取ってくる。別にスーパーでの駄々ならママは恥ずかしいワで済むが、目蒲さんの大暴れで私か山口さんが降伏していたら本当にヤバかった。多分一週間以内に死んでた。
何故突然そんな話をって、それは偏に私が今まさに消失バーストと対峙している、とご理解頂きたいからである。
「てめえっ…!」
目蒲さんが吠える。ああもう、なんでよりによって目蒲さんが護衛についてる時に仕掛けてくれたのよ。と、天井を眺めながら思う。後頭部が痛い。喉も痛い。
本当、ラリアットとはやってくれるじゃないか。
「めかっ…」
起き上がりつつそこまで言った所で自分の咳に阻まれる。それを聞いた目蒲さんは怒る怒る。やばい。なんとかこの人を止めないと。
「テメエふざけるのも大概にしろよ…相手は女だぞ…!」
「おやあ?賭郎は実力第一主義と聞いたんだがねえ」
「なら下に手ェ出してんじゃねえ新人!」
げほげほと、言葉を発そうとするたびにそれを阻む咳。思わず目蒲さんのズボンの裾を掴んだ。彼は戸惑って私を見下ろす。私はやめてと言う代わりに首を振った。
呼吸を整え、お願い、と言った。目蒲さんが少しだけ迷って、黙ってろ、と返す。
「おやおや、お姫様もこう言っている事だし」
「ああ…?」
ツツ、と唇を人差し指でなぞる南方さん。その姿に、反撃を決める。
「それ、緊張した時にやりますね」
一見間の抜けた私の発言に、目蒲さんさえも胡乱な目でこちらを見た。そんな彼に向かって手を伸ばし、起こしてもらいながら言葉を続ける。
「会敵した時の動作が決まってる人はあなただけじゃない。例えばこの人は冷めた目をするんです。ね、目蒲さん。弥鱈君は必ず足元を見る。あいつは私以外と目を合わせられませんからね。夕湖は髪を弄るし、門倉さんは手袋を引っ張る。銅寺さんは普通に口元が引き締まる。お屋形様は小首を傾げる。心当たりあります?ないでしょう?散々立会人さんたちを怒らせまくった癖にね」
腐っても立会人。嫌味はちゃーんと嫌味として通じてくれたみたいで、彼はぱっと顔を赤らめた。さあ、追撃である。
「あまり指導中に汚い言葉を使うのはよろしくありませんが、いっか。図に乗るのも大概にしろよ、雑魚」
歩き出す。目蒲さんも何も言わずについて来てくれる。有難い。
パァンという音。
案の定というか何というか、後ろから奇襲を受け、それを目蒲さんが止めた音だった。私はその状況だけ確認して、再び歩き始める。
「我々こそがこれの暴です。貴殿如きが勝てる訳ないでしょうが」
目蒲さんは呆れた声でそう言うと、またすぐに歩き出して私に追いついた。
ーーーーーーーーーー
「相変わらず喧嘩っ早いな、お前は」
事務室に戻ったところで、凛とした横顔にそう声を掛けた。途端、彼女は骨でも抜かれたようにぐにゃりと俺にしなだれかかってきた。驚きつつも肩を支えてやる。
「おい?」
「こっ…わかったぁー!」
「はあ?!おまっ…お前に恐怖を感じる回路が備わっていたのか!」
「え、酷いです目蒲さん!ちょっと滝さん権田さん今の聞きました?!」
事務チームを味方につけようとした晴乃だが、滝さんの「痴話喧嘩は他所でやれー」との一声でがっくりと肩を落とした。機を逃さず、反撃に出る。
「誰にでも平気で突っかかっていくだろ、お前は」
「実は平和主義の子鹿ちゃんなんです私」
「とんだ自己認識だな」
「酷いです、本当に酷い。だってラリアットですよ?普通の人生送ってたら喰らうはおろか見ることもないですって」
「普通はな」
「普通の女の子なので」
「'普通'と'女の子'のどちらから突っ込みを入れたらいい」
「どっちも受け入れて下さい」
「無理な相談だ」
「…受け入れて下さいよ、酷いなあ」
初めて見るドロリとした眼差し。思わず息を飲む。
でも、きっと、私を知れば知るほど、あなたはそうやって悩むようになりますよ。昔言われた台詞が不意に思い出された。
何故突然そんな話をって、それは偏に私が今まさに消失バーストと対峙している、とご理解頂きたいからである。
「てめえっ…!」
目蒲さんが吠える。ああもう、なんでよりによって目蒲さんが護衛についてる時に仕掛けてくれたのよ。と、天井を眺めながら思う。後頭部が痛い。喉も痛い。
本当、ラリアットとはやってくれるじゃないか。
「めかっ…」
起き上がりつつそこまで言った所で自分の咳に阻まれる。それを聞いた目蒲さんは怒る怒る。やばい。なんとかこの人を止めないと。
「テメエふざけるのも大概にしろよ…相手は女だぞ…!」
「おやあ?賭郎は実力第一主義と聞いたんだがねえ」
「なら下に手ェ出してんじゃねえ新人!」
げほげほと、言葉を発そうとするたびにそれを阻む咳。思わず目蒲さんのズボンの裾を掴んだ。彼は戸惑って私を見下ろす。私はやめてと言う代わりに首を振った。
呼吸を整え、お願い、と言った。目蒲さんが少しだけ迷って、黙ってろ、と返す。
「おやおや、お姫様もこう言っている事だし」
「ああ…?」
ツツ、と唇を人差し指でなぞる南方さん。その姿に、反撃を決める。
「それ、緊張した時にやりますね」
一見間の抜けた私の発言に、目蒲さんさえも胡乱な目でこちらを見た。そんな彼に向かって手を伸ばし、起こしてもらいながら言葉を続ける。
「会敵した時の動作が決まってる人はあなただけじゃない。例えばこの人は冷めた目をするんです。ね、目蒲さん。弥鱈君は必ず足元を見る。あいつは私以外と目を合わせられませんからね。夕湖は髪を弄るし、門倉さんは手袋を引っ張る。銅寺さんは普通に口元が引き締まる。お屋形様は小首を傾げる。心当たりあります?ないでしょう?散々立会人さんたちを怒らせまくった癖にね」
腐っても立会人。嫌味はちゃーんと嫌味として通じてくれたみたいで、彼はぱっと顔を赤らめた。さあ、追撃である。
「あまり指導中に汚い言葉を使うのはよろしくありませんが、いっか。図に乗るのも大概にしろよ、雑魚」
歩き出す。目蒲さんも何も言わずについて来てくれる。有難い。
パァンという音。
案の定というか何というか、後ろから奇襲を受け、それを目蒲さんが止めた音だった。私はその状況だけ確認して、再び歩き始める。
「我々こそがこれの暴です。貴殿如きが勝てる訳ないでしょうが」
目蒲さんは呆れた声でそう言うと、またすぐに歩き出して私に追いついた。
ーーーーーーーーーー
「相変わらず喧嘩っ早いな、お前は」
事務室に戻ったところで、凛とした横顔にそう声を掛けた。途端、彼女は骨でも抜かれたようにぐにゃりと俺にしなだれかかってきた。驚きつつも肩を支えてやる。
「おい?」
「こっ…わかったぁー!」
「はあ?!おまっ…お前に恐怖を感じる回路が備わっていたのか!」
「え、酷いです目蒲さん!ちょっと滝さん権田さん今の聞きました?!」
事務チームを味方につけようとした晴乃だが、滝さんの「痴話喧嘩は他所でやれー」との一声でがっくりと肩を落とした。機を逃さず、反撃に出る。
「誰にでも平気で突っかかっていくだろ、お前は」
「実は平和主義の子鹿ちゃんなんです私」
「とんだ自己認識だな」
「酷いです、本当に酷い。だってラリアットですよ?普通の人生送ってたら喰らうはおろか見ることもないですって」
「普通はな」
「普通の女の子なので」
「'普通'と'女の子'のどちらから突っ込みを入れたらいい」
「どっちも受け入れて下さい」
「無理な相談だ」
「…受け入れて下さいよ、酷いなあ」
初めて見るドロリとした眼差し。思わず息を飲む。
でも、きっと、私を知れば知るほど、あなたはそうやって悩むようになりますよ。昔言われた台詞が不意に思い出された。