香り立て花蘇芳
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「意地悪が来た」と先生が笑うので、僕は「誰のこと?」ととぼけて見せる。十中八九昨日のことを言われているんだろうけど、僕からすればあれは先生が悪い。
僕らはこの最弱の女王様に頼って欲しいのだ。
そう、今だって。
「それ、今日もやってるの?」
「ええ」
「いい加減にしないと、体壊すよ?」
「うふふ、平気ですよ。教員だったころはもっと酷かったから」
それに、立会人さんよりはマシ。彼女はあっけらかんとそう言うと、ファイルに目を落とし、右手のノートに何やら書き留めた。
彼女からは時々、立会人に対する過剰な憧れのようなものを感じる時がある。不可侵領域、とでも言えばいいのか。とにかく、絶対に敵わないものとして僕たちを扱う。
「僕たちのためにやってるの?」
だからこそ、そう問うた。彼女は儚げに目を伏せて逡巡する。
「…ええ。そうですよ」
暫くの後に発された答え。言葉がそこで止まるのは、それ以上話す気はないという意思表示。
「そう。ねえ、それ、要らないからさ、先生のご飯が食べたいな」
「ふふ、そう仰ると思ったから何も言わなかったのに。…うん、確かに要らないのかもしれない。でも、フタを開けるまで分からないから、やっておきたいんです」
「無駄になっても?」
「無駄になっても」
彼女の左手がファイルを撫でる。
「要らなくても、使わなくても」
柔らかな表情に強固な意思を感じ、僕は口をつぐむ。出会ったその日に見た顔。こうなった彼女は強い。
ため息をつけば、彼女は「ちょっとそれ、どういうため息ですか」と笑った。それに「なんでもないよ。君らしいと思っただけ」と返しつつ、権田さんの椅子を拝借する。
「南方立会人の件は、あれでOK?」
「OKです。これ以上ないくらいに」
彼女はくるりと椅子を回して僕に向き直ると、ピンと人差し指を立てた。
「消去の原理、行動の弱化。呼び方は様々ですが、つまり人間は結果を求めて行動するので望む結果が得られなければその行動をしなくなるとされています。南方さんはどうやら私が偉そうなのが気に食わなくて、一泡吹かせられれば何でもいい。だから、私や立会人さんが怒ろうが泣こうが南方さんは嬉しいんです。そしてもっとやるようになる。その行動ではなにも得られなかった、と思わせないといけません。今は我慢の時期です」
「でもさ、暴力が効かないとなれば次の手段で来るんじゃない?」
「ふふ、大正解。そこで如何に問題行動を望ましい行動に変えていくかが腕の見せ所ですが、今回はそもそも'不当に高い地位にいる伏龍晴乃を引き摺り下ろしたい'という意地悪い目的を抱えていること自体が問題ですので、どんなに行動を叩いても望ましい行動が出現する可能性はゼロです。目的を変えさせないと」
「出来るの?いや、先生を疑うわけじゃないけどさ」
「ええもちろん。今週中には終わらせます」
彼女は人の悪い笑みを浮かべる。
「全く、もうちょっと暇な時にちょっかいかけてくれたらいいのに、南方さんも間が悪い」
「OK、時間があるうちにと思って色々始めた途端にトラブルが舞い込むのはよくあることさ」
「まあ、ねえ」
彼女は肩を竦め、またデスクに向き直る。僕に割いてくれる時間はこれでおしまい。残念に思いつつ、持参した本を開く。彼女はいつも通り、拒絶せずここに置いてくれた。
僕らはこの最弱の女王様に頼って欲しいのだ。
そう、今だって。
「それ、今日もやってるの?」
「ええ」
「いい加減にしないと、体壊すよ?」
「うふふ、平気ですよ。教員だったころはもっと酷かったから」
それに、立会人さんよりはマシ。彼女はあっけらかんとそう言うと、ファイルに目を落とし、右手のノートに何やら書き留めた。
彼女からは時々、立会人に対する過剰な憧れのようなものを感じる時がある。不可侵領域、とでも言えばいいのか。とにかく、絶対に敵わないものとして僕たちを扱う。
「僕たちのためにやってるの?」
だからこそ、そう問うた。彼女は儚げに目を伏せて逡巡する。
「…ええ。そうですよ」
暫くの後に発された答え。言葉がそこで止まるのは、それ以上話す気はないという意思表示。
「そう。ねえ、それ、要らないからさ、先生のご飯が食べたいな」
「ふふ、そう仰ると思ったから何も言わなかったのに。…うん、確かに要らないのかもしれない。でも、フタを開けるまで分からないから、やっておきたいんです」
「無駄になっても?」
「無駄になっても」
彼女の左手がファイルを撫でる。
「要らなくても、使わなくても」
柔らかな表情に強固な意思を感じ、僕は口をつぐむ。出会ったその日に見た顔。こうなった彼女は強い。
ため息をつけば、彼女は「ちょっとそれ、どういうため息ですか」と笑った。それに「なんでもないよ。君らしいと思っただけ」と返しつつ、権田さんの椅子を拝借する。
「南方立会人の件は、あれでOK?」
「OKです。これ以上ないくらいに」
彼女はくるりと椅子を回して僕に向き直ると、ピンと人差し指を立てた。
「消去の原理、行動の弱化。呼び方は様々ですが、つまり人間は結果を求めて行動するので望む結果が得られなければその行動をしなくなるとされています。南方さんはどうやら私が偉そうなのが気に食わなくて、一泡吹かせられれば何でもいい。だから、私や立会人さんが怒ろうが泣こうが南方さんは嬉しいんです。そしてもっとやるようになる。その行動ではなにも得られなかった、と思わせないといけません。今は我慢の時期です」
「でもさ、暴力が効かないとなれば次の手段で来るんじゃない?」
「ふふ、大正解。そこで如何に問題行動を望ましい行動に変えていくかが腕の見せ所ですが、今回はそもそも'不当に高い地位にいる伏龍晴乃を引き摺り下ろしたい'という意地悪い目的を抱えていること自体が問題ですので、どんなに行動を叩いても望ましい行動が出現する可能性はゼロです。目的を変えさせないと」
「出来るの?いや、先生を疑うわけじゃないけどさ」
「ええもちろん。今週中には終わらせます」
彼女は人の悪い笑みを浮かべる。
「全く、もうちょっと暇な時にちょっかいかけてくれたらいいのに、南方さんも間が悪い」
「OK、時間があるうちにと思って色々始めた途端にトラブルが舞い込むのはよくあることさ」
「まあ、ねえ」
彼女は肩を竦め、またデスクに向き直る。僕に割いてくれる時間はこれでおしまい。残念に思いつつ、持参した本を開く。彼女はいつも通り、拒絶せずここに置いてくれた。