香り立て花蘇芳
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す、と南方が足を伸ばし、晴乃はそれに引っかかってバランスを崩すが、咄嗟に二の腕を掴めた為事なきを得る。だが、むず、と予想以上に潰れてしまったそれに衝撃を受けた。
「ありがとうございます、目蒲さん」
「気にするな。痩せろ」
「ええ?!」
「普通の二の腕にはこんなに指が沈まない」
「沈みますよ失礼な!目蒲さんのお友達が偏ってるからそう思うだけです!」
「その偏ったお友達の中でお前だけが異質だから言うんだ」
「私賭郎じゃありませんもーん!」
「九割九分賭郎だ、諦めろ」
「誰のせいですか誰の!…でもね目蒲さん。仮に私が鍛えたとして、あなたに勝てそうですか?」
「馬鹿言うな」
「ほらね。鍛えようが無駄なんです。なら楽な方でいいじゃないですか」
「屁理屈だな」
「否定できない」
自分もやっと賑やかすぎるこの女との会話が板についてきた。心中で自画自賛しつつそのまま歩き出すと、何かしらの反撃を予想していた南方が目を丸くする。
「どうされました」
振り返り話しかけたのは、単なる意趣返し。動揺する彼を見て、少し溜飲が下がる。
「これが何もないところで躓くのは良くあることです。お気になさらず」
今度こそ歩き出せば、南方が何か追撃をすることはなかった。本当に効果があるんだな。
思い出すのは昨日のこと。
ーーーーーーーーーー
「皆さんの気持ちは痛いほど伝わって来ますし、とても嬉しい。でも、このままじゃ問題が解決しないから私のことを庇っちゃダメです」
事務室に集められたのは伏龍会のメンバー。各々晴乃からのSOSと信じて馳せ参じたのだか、蓋を開けてみればこの言い草。思うところがあるのは俺だけではないようで、目が合った銅寺立会人は肩を竦めてきた。
「いや、でもだな…」
泉江外務卿が異議を唱え、「気持ちは有難いですが、私が実際に被害にあわないと指導のきっかけを得られませんし、皆さんが叱ると私は指導できません。遠回りどころの騒ぎじゃないんです。明確にマイナスです」と長文で言い返される。
「とりあえず、問題は二つ。一つは私に一人で対処する力がないと思われること。もう一つは皆さんが事務一人の為に動くと思われること。最悪前者はそれでいいです。本来そうですし。でも、後者は大問題です。立会人さんたちの沽券に関わります」
「私たちの沽券とお前の体のどっちが…」
「沽券です。当然沽券です。いいですか、立会人以外の賭郎構成員は全員立会人のサポーターです。私だって内情こそあれど表向きは事務員。あなたたちが本業に集中して頑張れる様にするのが本懐です。皆さんの手を煩わすなんてあってはならないんです」
「煩わせていいじゃない」と銅寺立会人がため息をつく。全く同感だ。だが、彼女は首を横に振る。
「賭郎の人はみんな立会人さんのファンなんです。喜んであなたたちに尽くすけど、何かを享受しようだなんて以ての外です」
とまで力強く言い切り、直後誰の何を見たのかバツが悪そうに顔をしかめ、「その、あくまで、表向きはの話ですが」と付け足した。
「とにかくですね」
彼女は咳払いを一つして、先を続ける。
「反応すればするほど行動は強化されます。今みたいにただただ私が痛い目にあって立会人さんが怒るっていうのは南方さんを喜ばせるだけです。この構図が変わらない限りいたちごっこです。なので私に何が起きようが反応しないでください」
無理でしょ、それ。銅寺立会人がにこやかに言った。ぐぬ、と晴乃が言葉を詰まらせるのは、顔ではないどこかが俺たちにも分かるほど笑っていないからだ。
「僕らが先生のことを心配してるって分かってるかな?君は賭郎で一番弱い。君の戦いのそばにはいつも立会人がいたよね?佐田国様の時も、お屋形様の時も、夜行立会人の時も。君は僕らが場を整えなければ勝てない。君の能力はそういうものなんでしょう?なら、ある程度は僕らの意思を尊重すべきじゃない?」
「…そうですね。でしたら、助けて頂いた時は私が一人でこけたみたいに振る舞って頂く事なら」
「事務を助けるべきじゃない。そうでしょう?僕らは立会人なんだけど」
銅寺立会人の狙いを察し、思わず泉江外務卿と目を合わせる。すると彼女は口端を柔らかく上げ、突然の逆襲に目を白黒させる晴乃に助け舟を出す。
「お前はどの立場で話しているんだ、晴乃」
彼女はハッとし、次いで顔を赤らめた。ええと、と俯く彼女の珍しい姿をまじまじと眺める。それで彼女が更に恥じらうのが快い。
「あの、お、お友達としてお願いするんですけど、できれば南方さんが私に手を出してきても、私の代わりに叱るのはやめて頂けませんか?」
「うーん、さっきとあんまり変わらないなあ」
「ええ…」
「敬語が良くないんじゃないか?私にやるみたいに普通に話してみろ」
「立会人さん相手に…?」
「その意識があるなら我々もそれ相応に振る舞うしかありませんね…」
「そんな、亜面さんまで」
「事務らしく一人で戦え」
「ああもう…あの、もしよければ、怪我しないようにだけ、庇って欲しいんだけど…」
「アンタそんなしおらしい女じゃねーだろ」
「酷い」
「そーでもない。ホラ~、こっちは忙しいんだぜ?さっさと言えって~」
「あーもう!いいわよいいわよ!痛いのは嫌だし負けるのも嫌!協力して!」
最終的にだいぶ偉そうになった晴乃の要請を銅寺立会人がくすりと笑う。それが了承の合図だった。
「ありがとうございます、目蒲さん」
「気にするな。痩せろ」
「ええ?!」
「普通の二の腕にはこんなに指が沈まない」
「沈みますよ失礼な!目蒲さんのお友達が偏ってるからそう思うだけです!」
「その偏ったお友達の中でお前だけが異質だから言うんだ」
「私賭郎じゃありませんもーん!」
「九割九分賭郎だ、諦めろ」
「誰のせいですか誰の!…でもね目蒲さん。仮に私が鍛えたとして、あなたに勝てそうですか?」
「馬鹿言うな」
「ほらね。鍛えようが無駄なんです。なら楽な方でいいじゃないですか」
「屁理屈だな」
「否定できない」
自分もやっと賑やかすぎるこの女との会話が板についてきた。心中で自画自賛しつつそのまま歩き出すと、何かしらの反撃を予想していた南方が目を丸くする。
「どうされました」
振り返り話しかけたのは、単なる意趣返し。動揺する彼を見て、少し溜飲が下がる。
「これが何もないところで躓くのは良くあることです。お気になさらず」
今度こそ歩き出せば、南方が何か追撃をすることはなかった。本当に効果があるんだな。
思い出すのは昨日のこと。
ーーーーーーーーーー
「皆さんの気持ちは痛いほど伝わって来ますし、とても嬉しい。でも、このままじゃ問題が解決しないから私のことを庇っちゃダメです」
事務室に集められたのは伏龍会のメンバー。各々晴乃からのSOSと信じて馳せ参じたのだか、蓋を開けてみればこの言い草。思うところがあるのは俺だけではないようで、目が合った銅寺立会人は肩を竦めてきた。
「いや、でもだな…」
泉江外務卿が異議を唱え、「気持ちは有難いですが、私が実際に被害にあわないと指導のきっかけを得られませんし、皆さんが叱ると私は指導できません。遠回りどころの騒ぎじゃないんです。明確にマイナスです」と長文で言い返される。
「とりあえず、問題は二つ。一つは私に一人で対処する力がないと思われること。もう一つは皆さんが事務一人の為に動くと思われること。最悪前者はそれでいいです。本来そうですし。でも、後者は大問題です。立会人さんたちの沽券に関わります」
「私たちの沽券とお前の体のどっちが…」
「沽券です。当然沽券です。いいですか、立会人以外の賭郎構成員は全員立会人のサポーターです。私だって内情こそあれど表向きは事務員。あなたたちが本業に集中して頑張れる様にするのが本懐です。皆さんの手を煩わすなんてあってはならないんです」
「煩わせていいじゃない」と銅寺立会人がため息をつく。全く同感だ。だが、彼女は首を横に振る。
「賭郎の人はみんな立会人さんのファンなんです。喜んであなたたちに尽くすけど、何かを享受しようだなんて以ての外です」
とまで力強く言い切り、直後誰の何を見たのかバツが悪そうに顔をしかめ、「その、あくまで、表向きはの話ですが」と付け足した。
「とにかくですね」
彼女は咳払いを一つして、先を続ける。
「反応すればするほど行動は強化されます。今みたいにただただ私が痛い目にあって立会人さんが怒るっていうのは南方さんを喜ばせるだけです。この構図が変わらない限りいたちごっこです。なので私に何が起きようが反応しないでください」
無理でしょ、それ。銅寺立会人がにこやかに言った。ぐぬ、と晴乃が言葉を詰まらせるのは、顔ではないどこかが俺たちにも分かるほど笑っていないからだ。
「僕らが先生のことを心配してるって分かってるかな?君は賭郎で一番弱い。君の戦いのそばにはいつも立会人がいたよね?佐田国様の時も、お屋形様の時も、夜行立会人の時も。君は僕らが場を整えなければ勝てない。君の能力はそういうものなんでしょう?なら、ある程度は僕らの意思を尊重すべきじゃない?」
「…そうですね。でしたら、助けて頂いた時は私が一人でこけたみたいに振る舞って頂く事なら」
「事務を助けるべきじゃない。そうでしょう?僕らは立会人なんだけど」
銅寺立会人の狙いを察し、思わず泉江外務卿と目を合わせる。すると彼女は口端を柔らかく上げ、突然の逆襲に目を白黒させる晴乃に助け舟を出す。
「お前はどの立場で話しているんだ、晴乃」
彼女はハッとし、次いで顔を赤らめた。ええと、と俯く彼女の珍しい姿をまじまじと眺める。それで彼女が更に恥じらうのが快い。
「あの、お、お友達としてお願いするんですけど、できれば南方さんが私に手を出してきても、私の代わりに叱るのはやめて頂けませんか?」
「うーん、さっきとあんまり変わらないなあ」
「ええ…」
「敬語が良くないんじゃないか?私にやるみたいに普通に話してみろ」
「立会人さん相手に…?」
「その意識があるなら我々もそれ相応に振る舞うしかありませんね…」
「そんな、亜面さんまで」
「事務らしく一人で戦え」
「ああもう…あの、もしよければ、怪我しないようにだけ、庇って欲しいんだけど…」
「アンタそんなしおらしい女じゃねーだろ」
「酷い」
「そーでもない。ホラ~、こっちは忙しいんだぜ?さっさと言えって~」
「あーもう!いいわよいいわよ!痛いのは嫌だし負けるのも嫌!協力して!」
最終的にだいぶ偉そうになった晴乃の要請を銅寺立会人がくすりと笑う。それが了承の合図だった。