沈丁花の約束
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佐田国様の同志は生き絶えた。
お屋形様がこの場に来た。
どうやら俺には運がなかったらしい。泥はもう、窒息寸前のところまで迫ってきていた。こうなった以上、この戦いを長引かせてもいずれ佐田国様は首を吊られる。
今更何処へも帰れないんだ、俺は。さあ、第3の道を選択しなければならない。
心を決めた、その時の事。
「やっと来たみたいだね 」
お屋形様がそう言ったのと同時に、嘘喰い側の重い扉が開いた。
「待ってたよ。君が遅いから皆好き勝手始めて大変だったんだ。ギャンブルとか、號奪戦とか、テロとか」
「ええ?!それは…すみませんでした?」
間の抜けた声。嘘だ。なんで。嘘だ嘘だ嘘だ。
なんでお前がここにいるんだよ。
力が抜けて、俺は地面に膝をついた。視界がぼんやりする。
「そうだ嘘喰い獏。君の前に佐田国の手口を見破ったのが彼女だよ。君は二人目ってワケ」
「へえ。凄いね。で、なんでその子が一度見破ったにも関わらずキタロー君の不正が野放しになってたの?」
「それが、次はこの子が目蒲に加担してさ、もうてんやわんやだよ。今日ここに来たのは彼女と取引をするためだったんだ。だからちょっと待っててよ」
お屋形様は嘘喰いにそう告げると、俺を一瞥して、晴乃の方へと歩き出す。それを受けて彼女も立ち上がり、お屋形様へと近づいていった。歩く度に俺が折った右足がぐに、と曲がって、俺は堪らない気持ちになった。
晴乃は進む。何も酷いことなんて起きてやいないかのように、麗らかに。
「はじめまして。伏龍晴乃です」
「能輪から聞いているよ。君が報告書に細工したんだってね」
「正直に書いただけです」
「ふうん。なんで?」
晴乃は少し俯いて、悩むそぶりを見せた。そしてまたついとお屋形様を見上げると、言った。
「目蒲さんが目を覚ましたら、元どおりに戻れるように」
なんだ、それ。脳裏に浮かぶのは、夜遅くに山口といた彼女の姿。あれは、あれはもしかして。
「そう。目蒲がこの後も元どおりに賭郎に居られることが望みなら、提案がある。君が命を懸けて賭郎に忠誠を尽くすんだ。それを約束するのなら、僕らは君が望む通り、目蒲が何も不正なんかしなかったかのように振舞おう」
「でも目蒲さんは」
「そうだね。書類上は。でも、印象は刻まれた。目蒲は立会人には向かない。賭郎の中で飼い殺すしかない。でも、君が人質として代わりに飼い殺されるなら目蒲の事は見なかったことにしてあげる」
「…少しだけ、時間を下さい」
「いいよ。嘘喰いとの話が終わるまでに決めてよね」
悩んでんじゃねえよ。そんな馬鹿な話あるかよ。断れ。断れよ。そもそも命を懸ける関係じゃないだろ。俺がお前に何をしてきたと思ってるんだよ。
俺の思惑なんて御構い無しに、彼女は俺に目を向けて、笑いかけて、寄ってきた。
「目蒲さん、選んで下さい。佐田国さんと死にますか?私と生きますか?」
しゃがみこんで、俺と目線を合わせて微笑む彼女。逸らしたくて堪らないのに、目が彼女を捉えて離れない。
「俺は…死ぬべきだろ…」
「そうですか?私は、目蒲さんは生きるべきだと思いますよ。ちゃんと報われるべきです。一人で、最後まで、頑張り切ったじゃないですか」
「頑張ったらなんだよ。俺は、ここで…ここで…」
「ここで?」
「ここで…佐田国様と…いや、お前を…」
頭の中で、言葉が渦巻く。尻尾の捉えられない断片が口から漏れる。彼女の骨ばった手が膝に触れた。出会った時はもっと柔らかそうだったのに。温かそうだったのに。
「ごめん」
何への謝罪なのか。彼女はそれには何も返さず、仕方がない子供を見るような目で笑った。
「目蒲さん、あのね、目蒲さんがした事は良いことではなかったから、あなたは正しく報われません。私は佐田国さんを助けませんから。だから、あなたは私と生きてもきっと辛い。何度も何度もあの時死んでおけばって、思う筈」
彼女の手が膝を撫でる。何度も何度も往復する。
「でも、私は目蒲さんは生きるべきだと思いますよ。あなたを心配してる人がいるんです。あなたのために、私に頭を下げた人がいる。おかしいって分かってても従ってくれた人がいる。その人達に報いましょうよ。報いるために、報われましょう」
「そうしたら、お前は…」
「いいです。差し上げます私の命くらい。大事に使って下さいね」
「お、おお…」
おおってなんですか。彼女は笑った。
「一緒に生きましょ。目蒲さん」
俺は頷いた。彼女もそれを見てまた、満足気に頷いた。
お屋形様がこの場に来た。
どうやら俺には運がなかったらしい。泥はもう、窒息寸前のところまで迫ってきていた。こうなった以上、この戦いを長引かせてもいずれ佐田国様は首を吊られる。
今更何処へも帰れないんだ、俺は。さあ、第3の道を選択しなければならない。
心を決めた、その時の事。
「やっと来たみたいだね 」
お屋形様がそう言ったのと同時に、嘘喰い側の重い扉が開いた。
「待ってたよ。君が遅いから皆好き勝手始めて大変だったんだ。ギャンブルとか、號奪戦とか、テロとか」
「ええ?!それは…すみませんでした?」
間の抜けた声。嘘だ。なんで。嘘だ嘘だ嘘だ。
なんでお前がここにいるんだよ。
力が抜けて、俺は地面に膝をついた。視界がぼんやりする。
「そうだ嘘喰い獏。君の前に佐田国の手口を見破ったのが彼女だよ。君は二人目ってワケ」
「へえ。凄いね。で、なんでその子が一度見破ったにも関わらずキタロー君の不正が野放しになってたの?」
「それが、次はこの子が目蒲に加担してさ、もうてんやわんやだよ。今日ここに来たのは彼女と取引をするためだったんだ。だからちょっと待っててよ」
お屋形様は嘘喰いにそう告げると、俺を一瞥して、晴乃の方へと歩き出す。それを受けて彼女も立ち上がり、お屋形様へと近づいていった。歩く度に俺が折った右足がぐに、と曲がって、俺は堪らない気持ちになった。
晴乃は進む。何も酷いことなんて起きてやいないかのように、麗らかに。
「はじめまして。伏龍晴乃です」
「能輪から聞いているよ。君が報告書に細工したんだってね」
「正直に書いただけです」
「ふうん。なんで?」
晴乃は少し俯いて、悩むそぶりを見せた。そしてまたついとお屋形様を見上げると、言った。
「目蒲さんが目を覚ましたら、元どおりに戻れるように」
なんだ、それ。脳裏に浮かぶのは、夜遅くに山口といた彼女の姿。あれは、あれはもしかして。
「そう。目蒲がこの後も元どおりに賭郎に居られることが望みなら、提案がある。君が命を懸けて賭郎に忠誠を尽くすんだ。それを約束するのなら、僕らは君が望む通り、目蒲が何も不正なんかしなかったかのように振舞おう」
「でも目蒲さんは」
「そうだね。書類上は。でも、印象は刻まれた。目蒲は立会人には向かない。賭郎の中で飼い殺すしかない。でも、君が人質として代わりに飼い殺されるなら目蒲の事は見なかったことにしてあげる」
「…少しだけ、時間を下さい」
「いいよ。嘘喰いとの話が終わるまでに決めてよね」
悩んでんじゃねえよ。そんな馬鹿な話あるかよ。断れ。断れよ。そもそも命を懸ける関係じゃないだろ。俺がお前に何をしてきたと思ってるんだよ。
俺の思惑なんて御構い無しに、彼女は俺に目を向けて、笑いかけて、寄ってきた。
「目蒲さん、選んで下さい。佐田国さんと死にますか?私と生きますか?」
しゃがみこんで、俺と目線を合わせて微笑む彼女。逸らしたくて堪らないのに、目が彼女を捉えて離れない。
「俺は…死ぬべきだろ…」
「そうですか?私は、目蒲さんは生きるべきだと思いますよ。ちゃんと報われるべきです。一人で、最後まで、頑張り切ったじゃないですか」
「頑張ったらなんだよ。俺は、ここで…ここで…」
「ここで?」
「ここで…佐田国様と…いや、お前を…」
頭の中で、言葉が渦巻く。尻尾の捉えられない断片が口から漏れる。彼女の骨ばった手が膝に触れた。出会った時はもっと柔らかそうだったのに。温かそうだったのに。
「ごめん」
何への謝罪なのか。彼女はそれには何も返さず、仕方がない子供を見るような目で笑った。
「目蒲さん、あのね、目蒲さんがした事は良いことではなかったから、あなたは正しく報われません。私は佐田国さんを助けませんから。だから、あなたは私と生きてもきっと辛い。何度も何度もあの時死んでおけばって、思う筈」
彼女の手が膝を撫でる。何度も何度も往復する。
「でも、私は目蒲さんは生きるべきだと思いますよ。あなたを心配してる人がいるんです。あなたのために、私に頭を下げた人がいる。おかしいって分かってても従ってくれた人がいる。その人達に報いましょうよ。報いるために、報われましょう」
「そうしたら、お前は…」
「いいです。差し上げます私の命くらい。大事に使って下さいね」
「お、おお…」
おおってなんですか。彼女は笑った。
「一緒に生きましょ。目蒲さん」
俺は頷いた。彼女もそれを見てまた、満足気に頷いた。