水仙の闘争
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「髪に何かついていますよ」
声を掛けられ振り向けば、そこにいるのは目蒲立会人。自分の立会人室に戻る為の、廊下での出来事。
「はあ~」
ため息をつきつつ髪を掻きむしれば、言う通りふわりと落ちてくるものがあった。
「梅の花びら、ですか」
目蒲立会人は床に落ちたそれに目を向けて、何でもないようにそう言った。
探られている。
乗ってやろうじゃないか。
「ええ~。今日は梅見に行きましたので、さもありなんですねえ~」
「へえ、梅を。まるでデートですねえ」
「羨ましいなら貴方もお誘いになればいいんじゃないですか~?」
「生憎、彼女はここを出られませんので」
「ああ…そうでしたねぇ~。でしたら、伏龍に選ばれることです。彼女は挑戦されたら受けざるを得ませんし、その時は誰かに立会いを頼まざるを得ません。信頼の置ける、自分の特性をよく理解している立会人に」
目蒲立会人のどろりとした瞳に炎が灯る。エラソーに。思わず舌打ちする。
「伏龍が貴方を大切にしているので誰も言いませんが、貴方のせいで伏龍は半年も軟禁状態です。守られている自覚はお有りなのですか?ならば自重すべきです。貴方と伏龍は対等ではありません。いい加減恥を知りなさい」
目蒲立会人の顔色が変わる。のしちまえ。追撃だ追撃。
「おや、ショックを受けてしまいましたか?伏龍はまだ事務室に居ますよ。面倒見のいいヤツです。泣きつけば慰めてもらえますよ。なんてったって貴方は伏龍の可哀想な誰かさんです」
俺は一頻り満足して、踵を返す。今日は割といい日だ。楽しかったし、ようやく言いたい事を言えてすっきりもした。
ーーーーーーーーーー
このお嬢さんは、日頃は'命のための防衛戦'の為に必死になっているだけで、もしかしたら本来の姿はとても可愛い方なのかもしれません。真っ赤になって俯くその姿を見ておりますと、そう思えます。
「意外と罪づくりな方ですね」
「誤解です。誤解なんですよう…」
訳あって弐號立会人室にいらしていた晴乃さんは、廊下にいた目蒲立会人と弥鱈立会人の話を聞いてしまったのです。その結果、先程までの堂々たる仕草は何処へやら、乙女な一面が顔を出してしまった訳です。全く、偶然とは恐ろしい。
「ああもう、こんなに壁が薄いなんて!」
「おやおや、あまり大きな声で話されますと、廊下に筒抜けになってしまいますよ?」
「あうう」
「しかし、羨ましい。青春ですね。こんな老いぼれには遥か昔の話です」
「…夜行さんにもあったんですか?」
「おや、色恋には無縁に見えましたか?」
「あ、いや、ごめんなさい。そうじゃなくて、あんな捻くれた人たちに共感するなんて、と思って」
捻くれた人たち。自分を慕う者に随分な言い草です。笑いを禁じ得ません。
「立会人の若い頃など、皆同じ。高慢で独りよがりで、意地っ張りですよ」
「ああ…」
得心がいった様子の彼女。まさかその中に自分も含まれているとは、きっと夢にも思ってはいらっしゃらないでしょう。若手たちも、外務卿も、お屋形様も、貴女も。我々老人から見れば井の中の蛙なのです。
ですが、それでいいのです。その万能感が、無鉄砲が、意地が貴女たちを高みへと導く。
「喧嘩を止めに行かれないのですか?」
「ううん…行かない…というか行けないです…どんな顔で止めに行けばいいのか…」
「そうですか」
意外な事に、このお嬢さんは全ての人間関係に上手く対処することはできない様です。色恋沙汰には不慣れなのかもしれませんね。
おっと。人間観察は彼女の領分でした。素人は自重すると致しましょう。
「では本題に入るとしましょう。賭けの報酬は本当にそれでよろしいのですね?」
→番外編:女神に関するエトセトラ
声を掛けられ振り向けば、そこにいるのは目蒲立会人。自分の立会人室に戻る為の、廊下での出来事。
「はあ~」
ため息をつきつつ髪を掻きむしれば、言う通りふわりと落ちてくるものがあった。
「梅の花びら、ですか」
目蒲立会人は床に落ちたそれに目を向けて、何でもないようにそう言った。
探られている。
乗ってやろうじゃないか。
「ええ~。今日は梅見に行きましたので、さもありなんですねえ~」
「へえ、梅を。まるでデートですねえ」
「羨ましいなら貴方もお誘いになればいいんじゃないですか~?」
「生憎、彼女はここを出られませんので」
「ああ…そうでしたねぇ~。でしたら、伏龍に選ばれることです。彼女は挑戦されたら受けざるを得ませんし、その時は誰かに立会いを頼まざるを得ません。信頼の置ける、自分の特性をよく理解している立会人に」
目蒲立会人のどろりとした瞳に炎が灯る。エラソーに。思わず舌打ちする。
「伏龍が貴方を大切にしているので誰も言いませんが、貴方のせいで伏龍は半年も軟禁状態です。守られている自覚はお有りなのですか?ならば自重すべきです。貴方と伏龍は対等ではありません。いい加減恥を知りなさい」
目蒲立会人の顔色が変わる。のしちまえ。追撃だ追撃。
「おや、ショックを受けてしまいましたか?伏龍はまだ事務室に居ますよ。面倒見のいいヤツです。泣きつけば慰めてもらえますよ。なんてったって貴方は伏龍の可哀想な誰かさんです」
俺は一頻り満足して、踵を返す。今日は割といい日だ。楽しかったし、ようやく言いたい事を言えてすっきりもした。
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このお嬢さんは、日頃は'命のための防衛戦'の為に必死になっているだけで、もしかしたら本来の姿はとても可愛い方なのかもしれません。真っ赤になって俯くその姿を見ておりますと、そう思えます。
「意外と罪づくりな方ですね」
「誤解です。誤解なんですよう…」
訳あって弐號立会人室にいらしていた晴乃さんは、廊下にいた目蒲立会人と弥鱈立会人の話を聞いてしまったのです。その結果、先程までの堂々たる仕草は何処へやら、乙女な一面が顔を出してしまった訳です。全く、偶然とは恐ろしい。
「ああもう、こんなに壁が薄いなんて!」
「おやおや、あまり大きな声で話されますと、廊下に筒抜けになってしまいますよ?」
「あうう」
「しかし、羨ましい。青春ですね。こんな老いぼれには遥か昔の話です」
「…夜行さんにもあったんですか?」
「おや、色恋には無縁に見えましたか?」
「あ、いや、ごめんなさい。そうじゃなくて、あんな捻くれた人たちに共感するなんて、と思って」
捻くれた人たち。自分を慕う者に随分な言い草です。笑いを禁じ得ません。
「立会人の若い頃など、皆同じ。高慢で独りよがりで、意地っ張りですよ」
「ああ…」
得心がいった様子の彼女。まさかその中に自分も含まれているとは、きっと夢にも思ってはいらっしゃらないでしょう。若手たちも、外務卿も、お屋形様も、貴女も。我々老人から見れば井の中の蛙なのです。
ですが、それでいいのです。その万能感が、無鉄砲が、意地が貴女たちを高みへと導く。
「喧嘩を止めに行かれないのですか?」
「ううん…行かない…というか行けないです…どんな顔で止めに行けばいいのか…」
「そうですか」
意外な事に、このお嬢さんは全ての人間関係に上手く対処することはできない様です。色恋沙汰には不慣れなのかもしれませんね。
おっと。人間観察は彼女の領分でした。素人は自重すると致しましょう。
「では本題に入るとしましょう。賭けの報酬は本当にそれでよろしいのですね?」
→番外編:女神に関するエトセトラ