水仙の闘争
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「そういやさ、翠ちゃんのこと覚えてる?」
「酒井と付き合ってた奴?」
「そうそう。あ、でももう付き合ってない。別れた」
「まじか」
そう言いながら彼女はテーブルの上の右手に指を絡めてくる。不思議に思いつつもしたいままにさせてやると、握った手の強弱でモールスを送ってきた。
あ、い、で、あ、る。う、し、ろ。
「理由が酷くてね?私たちが別れたからだっていうの」
「は~、なんだそれ。関係ねえだろ」
何人だ。
二人。ビリー・クレイグと知らない人。
「なんかさあ、'思い返せばあんたらをおちょくることで成り立ってた関係だったわ'っていうの」
「一理ある」
「ないよ」
どうしよう。
粛清する。
弥鱈君が?
アンタやるか?
無理。
「つーか、アイツら俺たちをくっつける為に結成したようなもんだろ~?俺が音信不通になった時点で続ける理由を失うだろ」
「愛って儚い」
じゃあどうする。
そのモールスに伏龍は手を止め、考える。そして、'弥鱈君が気にしないなら、助けを呼びたい'とモールスを送ってきた。
「そうだ、素敵なアプリがあるの。見てくれる?」
そう言いながら彼女は握っていた手を離すと、例のキッズケータイを取り出す。イントラネットとメールだけの携帯だったのは昔の話らしい。彼女は地図のようなアイコンをタップし、アプリを起動させる。画面に展開された地図の上に番号付きの矢印がいくつも踊っている。中心にある矢印は28。なるほどな、流石はお屋形様のワイルドカード。これはつまり、全立会人の現在地。そして彼女はいつの間にかその情報にアクセスできる立場に成り上がっていた訳だ。
「いいでしょ、これ。事務では私と滝さんしか持ってないんだよ?」
「すげーな」
だがこれをアンタに持たせるお屋形様の気が知れねえ。そう机の下で足を踏み踏みモールスを送れば、彼女は苦笑い。そして、私が脱走したらどうする気なんだろうね、あの人。とモールスを返してきた。本当に全く。
彼女は画面をズームさせる。徒歩15分程度までを画面に表示させ、その中から赤い矢印を選びタップした。
「最高。よし、デザート選ぼ」
画面に表示されたのは、夜行掃除人の顔写真。泉江外務卿と共に最序盤にアイデアルと会敵した掃除人。確かに最高だ。
いいよね?そうモールスで問われ、肩を竦めた。
「でもよ、勝ちたいならアンタがやるべきだぜ」
きょとん顔の彼女にため息。コイツ、自分が何の勝負をしているか、完全に忘れてやがる。
「珈琲」
「ああ。うん。いいよ負けなければ」
「はぁ~。ならやれよ」
「いい、いい。だってあっちは勝手にポイント減らしてくれてるもん。負けはしないよ」
夜行掃除人にメールを作りながら、事も無さげに言う。
「それにさ、下手に活躍してマジで信任集まってみなよ、じゃあやらせてもいいかなってなるかもじゃん」
「あー」
「嫌でしょ」
「嫌だな」
「なので今回は全く仕事しませーん!」
「かんぱーい!」
汗をかいたグラスを合わせる。デザートと一緒に飲み物も頼まねえとな、と思ったところで、「これデース!」という陽気な声に思考を遮られる。やべえ、コテコテのアメリカンじゃねーか。
「下がってよろしい!」
同じ声が居丈高にウェイターに命じる。なんだアイツ。気になって後ろを向くと、金髪のガタイのいい男がいた。
あれがビリー・クレイグ。
そうモールスを受け、納得する。道理で纏うオーラがおかしい訳だ。
向かいが部下か?
多分違う。部下は窓の近くのテーブル。
ロン毛?
うん。
じゃ、あのおっさん誰だ。
ごめん、知らない。
なんとかしろ。
ええ…と、伏龍が声を漏らす。真に受けんじゃねえよ、ばーか。
狼狽える彼女を横目にビリー・クレイグの動向を伺う。無邪気にスポークを褒め称える彼だったが、その肩をコーンロウのチンピラが叩く。
「それはスポークって言うんだよ…外国の兄ちゃんよー。良かったなあ名前が分かってよー。んでよ…兄ちゃんちょっと声がデケーんじゃねーかぁ?」
八つ当たりだよね、と呆れ声で言うと、伏龍はウェイターを呼んで注文を始める。あの男が煮られようと焼かれようとどうでもいいという意思表示だろう。コイツは自業自得に対して厳しい。
「この、猿っ」
低い声。直後、鮮やかにビリー・クレイグはチンピラの手首を折った。伏龍が顔をしかめる。そして、ここを離れて仲裁に入ろうとするウェイターを引き止めてドリンクの注文を始める。
代わりに仲裁に入ったのは、部下のロン毛。
「すみませんでしたっ!私の連れが取り返しのつかない事を…。私はマーティンと申します。これは少ないですが受け取ってください。お詫びの印です」
どうぞ、と封筒を差し出す男にコーンロウの部下らしきアフロが面食らう。その間もどんどんロン毛は話を進め、コーンロウとアフロを連れ出した。ほう、という彼女の吐息。
「お~。お眼鏡に適ったか?」
「うふふ。うん」
帰ったら夕湖に聞いてみようっと。彼女はうっとりとした調子でそう呟いた。
「酒井と付き合ってた奴?」
「そうそう。あ、でももう付き合ってない。別れた」
「まじか」
そう言いながら彼女はテーブルの上の右手に指を絡めてくる。不思議に思いつつもしたいままにさせてやると、握った手の強弱でモールスを送ってきた。
あ、い、で、あ、る。う、し、ろ。
「理由が酷くてね?私たちが別れたからだっていうの」
「は~、なんだそれ。関係ねえだろ」
何人だ。
二人。ビリー・クレイグと知らない人。
「なんかさあ、'思い返せばあんたらをおちょくることで成り立ってた関係だったわ'っていうの」
「一理ある」
「ないよ」
どうしよう。
粛清する。
弥鱈君が?
アンタやるか?
無理。
「つーか、アイツら俺たちをくっつける為に結成したようなもんだろ~?俺が音信不通になった時点で続ける理由を失うだろ」
「愛って儚い」
じゃあどうする。
そのモールスに伏龍は手を止め、考える。そして、'弥鱈君が気にしないなら、助けを呼びたい'とモールスを送ってきた。
「そうだ、素敵なアプリがあるの。見てくれる?」
そう言いながら彼女は握っていた手を離すと、例のキッズケータイを取り出す。イントラネットとメールだけの携帯だったのは昔の話らしい。彼女は地図のようなアイコンをタップし、アプリを起動させる。画面に展開された地図の上に番号付きの矢印がいくつも踊っている。中心にある矢印は28。なるほどな、流石はお屋形様のワイルドカード。これはつまり、全立会人の現在地。そして彼女はいつの間にかその情報にアクセスできる立場に成り上がっていた訳だ。
「いいでしょ、これ。事務では私と滝さんしか持ってないんだよ?」
「すげーな」
だがこれをアンタに持たせるお屋形様の気が知れねえ。そう机の下で足を踏み踏みモールスを送れば、彼女は苦笑い。そして、私が脱走したらどうする気なんだろうね、あの人。とモールスを返してきた。本当に全く。
彼女は画面をズームさせる。徒歩15分程度までを画面に表示させ、その中から赤い矢印を選びタップした。
「最高。よし、デザート選ぼ」
画面に表示されたのは、夜行掃除人の顔写真。泉江外務卿と共に最序盤にアイデアルと会敵した掃除人。確かに最高だ。
いいよね?そうモールスで問われ、肩を竦めた。
「でもよ、勝ちたいならアンタがやるべきだぜ」
きょとん顔の彼女にため息。コイツ、自分が何の勝負をしているか、完全に忘れてやがる。
「珈琲」
「ああ。うん。いいよ負けなければ」
「はぁ~。ならやれよ」
「いい、いい。だってあっちは勝手にポイント減らしてくれてるもん。負けはしないよ」
夜行掃除人にメールを作りながら、事も無さげに言う。
「それにさ、下手に活躍してマジで信任集まってみなよ、じゃあやらせてもいいかなってなるかもじゃん」
「あー」
「嫌でしょ」
「嫌だな」
「なので今回は全く仕事しませーん!」
「かんぱーい!」
汗をかいたグラスを合わせる。デザートと一緒に飲み物も頼まねえとな、と思ったところで、「これデース!」という陽気な声に思考を遮られる。やべえ、コテコテのアメリカンじゃねーか。
「下がってよろしい!」
同じ声が居丈高にウェイターに命じる。なんだアイツ。気になって後ろを向くと、金髪のガタイのいい男がいた。
あれがビリー・クレイグ。
そうモールスを受け、納得する。道理で纏うオーラがおかしい訳だ。
向かいが部下か?
多分違う。部下は窓の近くのテーブル。
ロン毛?
うん。
じゃ、あのおっさん誰だ。
ごめん、知らない。
なんとかしろ。
ええ…と、伏龍が声を漏らす。真に受けんじゃねえよ、ばーか。
狼狽える彼女を横目にビリー・クレイグの動向を伺う。無邪気にスポークを褒め称える彼だったが、その肩をコーンロウのチンピラが叩く。
「それはスポークって言うんだよ…外国の兄ちゃんよー。良かったなあ名前が分かってよー。んでよ…兄ちゃんちょっと声がデケーんじゃねーかぁ?」
八つ当たりだよね、と呆れ声で言うと、伏龍はウェイターを呼んで注文を始める。あの男が煮られようと焼かれようとどうでもいいという意思表示だろう。コイツは自業自得に対して厳しい。
「この、猿っ」
低い声。直後、鮮やかにビリー・クレイグはチンピラの手首を折った。伏龍が顔をしかめる。そして、ここを離れて仲裁に入ろうとするウェイターを引き止めてドリンクの注文を始める。
代わりに仲裁に入ったのは、部下のロン毛。
「すみませんでしたっ!私の連れが取り返しのつかない事を…。私はマーティンと申します。これは少ないですが受け取ってください。お詫びの印です」
どうぞ、と封筒を差し出す男にコーンロウの部下らしきアフロが面食らう。その間もどんどんロン毛は話を進め、コーンロウとアフロを連れ出した。ほう、という彼女の吐息。
「お~。お眼鏡に適ったか?」
「うふふ。うん」
帰ったら夕湖に聞いてみようっと。彼女はうっとりとした調子でそう呟いた。