ミスミソウの駆け引き
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「もうホント信じられない…」
「君も大概往生際が悪いね。そろそろ開き直ったらどうなの」
「私から強情を抜いたら何も残りませんよう」
「それ、どうなの」
「良いことではない自覚はある」
「君ねえ」
お屋形様はため息をつくと、晴乃のグラスにビールを注いだ。彼女はそれを一気に空けると、お屋形様に返杯する。
「でも多分、強情じゃなかったら私とっくに潰されてると思うんですよねえ」
「普通逆じゃない?」
「そうなんですけど、賭郎ですからねえ」
「君喧嘩っ早いからねえ」
「ご迷惑を」
「ホントだよ。せめて僕に楯突いちゃ駄目じゃない」
「いやその感覚はあったんですけどね?むしろ私にしては結構いい子にしてたと思うんですけどね?流石にスターウォーズ一気見辺りで諦めちゃったんですよ」
「ああ、確かにその頃から君、迷いなく僕にツッコミを入れるようになったよね」
諦めんなよ馬鹿女。そしてお屋形様とスターウォーズ一気見って正気か。
「君、本当に変」
「やーでも、優しいですって。あなたと恋ダンス踊ってくれるのなんて私くらいのもんですよ」
「あの時君、自分が何て言ったか覚えてる?」
「何か言いましたっけ?」
「'私お屋形様みたいなドス黒い津崎さん嫌です'って言った」
あちらこちらで咳き込む音が聞こえた。
「ちょ、お屋形様ふられてるじゃないですかー!」
「他ならぬ君にね」
「いやあ、気のせいじゃないですか?」
「いや、'確かに周りに関係を偽っている点は似ています。でもあっちは金、こっちは人質。あっちは妻と見せかけてハウスキーパー、こっちは事務と見せかけて軟禁。嫌ですこんな逃げ恥。あともう古いです'ってばっさり切ったよね」
「いやあそうだったかしら」
「そうだよ」
「まあいいじゃないですか、最後には踊ったんだから」
「普通私が言ったら即やるの」
「強情なもので」
「でも私君のそのとんでもなさ大好き」
「知ってます」
「君じゃなきゃ粛正してる」
「愛を感じる」
二人は仲良くグラスを空けると、次のビールを注ぎあう。とんでもなさすぎて目が離せん。参加者全員同じ気持ちなのだろう。会場は静まり返っている。
「まあでも、仮にこれが葉っぱ隊とかだったら死んでもやりませんでしたけどね」
その空気に気付いてか気付かずか、二人の会話はまだまだ続く。
「葉っぱ隊?」
「あ、しまった墓穴掘った。忘れて下さい」
「いや気になるじゃない。ちょっと安藤、君やりなよ」
「やめてあげて下さいよ、可哀想に」
「いやでも、気になるし」
「ダメです。後で動画見ましょ」
「今見たい」
「ダメ」
晴乃はお屋形様のグラスに無理矢理ビールを注ぎ、「新人だからって無茶振りはダメですよ」と注意した。奥の方では櫛灘立会人が安藤立会人の背を叩いている。平和裏に終わってしまった。葉っぱ一枚で踊る安藤立会人を見なくて済んで本当に良かった。
「ところで安藤といえばさ」
お屋形様と晴乃のやりとりはまだまだ続く。
「広報誌の立会人インタビュー、安藤で一周するじゃない?」
「あ、そうなんですか。どうするんですか?二周目に入るんですか?」
「いや、君のインタビューに決まったみたい」
「え」
え。
「イヤですよ、なんで私なんですか。ホラ、夕…泉江外務卿とかは?」
「もう外務卿就任の時に特集が組まれてる。他の幹部も終わってるんだよね」
「あー、そうなんですか。参ったな」
「嫌?」
「もちろんですよ。なんで私みたいな平社員が」
「謎が多いからじゃない?」
「謎なんてないですよう」
「いや謎だらけだよ。いつのまにか事務にいた状態だよ」
「そんな、'今日から事務やりまーす!'って宣伝して事務になることなんてまずないでしょうに」
「あとほら」
「はい」
「事務なのに忘年会で僕の隣で食事してるし」
沈黙。
「誰のせいですか、誰の!」
「目蒲じゃない?」
「いや待って、目蒲さんダシに使われてるだけですよね!あなたの思いつきのせいじゃないですか!」
「お屋形様の命令は絶対でしょ?」
「約束はあなたへの忠誠じゃなくて賭郎への忠誠です!」
「屁理屈は嫌いだ」
「それなら私は理不尽が嫌いです」
お屋形様がじっと睨むのを、彼女は真正面から笑顔で受ける。
「ずっとイライラしてたんです。つまんないことで脅されて、あなたのコンパニオンやらされて」
「ふうん、コンパニオンと思ってた訳」
「事務と呼ぶなら連れてくるべきではなかった。軟禁相手と呼ぶならそう思われるのも甘んじて受けるべき。でも、もし違うって言うなら。もし私をあなたが気楽につるむ相手と呼ぶなら。そういう関係に変えていきたいのなら」
喧嘩の一つもしてみましょうか。
その言葉は冷たい空気を撒き散らしながら、静かに部屋中に広がった。
「君も大概往生際が悪いね。そろそろ開き直ったらどうなの」
「私から強情を抜いたら何も残りませんよう」
「それ、どうなの」
「良いことではない自覚はある」
「君ねえ」
お屋形様はため息をつくと、晴乃のグラスにビールを注いだ。彼女はそれを一気に空けると、お屋形様に返杯する。
「でも多分、強情じゃなかったら私とっくに潰されてると思うんですよねえ」
「普通逆じゃない?」
「そうなんですけど、賭郎ですからねえ」
「君喧嘩っ早いからねえ」
「ご迷惑を」
「ホントだよ。せめて僕に楯突いちゃ駄目じゃない」
「いやその感覚はあったんですけどね?むしろ私にしては結構いい子にしてたと思うんですけどね?流石にスターウォーズ一気見辺りで諦めちゃったんですよ」
「ああ、確かにその頃から君、迷いなく僕にツッコミを入れるようになったよね」
諦めんなよ馬鹿女。そしてお屋形様とスターウォーズ一気見って正気か。
「君、本当に変」
「やーでも、優しいですって。あなたと恋ダンス踊ってくれるのなんて私くらいのもんですよ」
「あの時君、自分が何て言ったか覚えてる?」
「何か言いましたっけ?」
「'私お屋形様みたいなドス黒い津崎さん嫌です'って言った」
あちらこちらで咳き込む音が聞こえた。
「ちょ、お屋形様ふられてるじゃないですかー!」
「他ならぬ君にね」
「いやあ、気のせいじゃないですか?」
「いや、'確かに周りに関係を偽っている点は似ています。でもあっちは金、こっちは人質。あっちは妻と見せかけてハウスキーパー、こっちは事務と見せかけて軟禁。嫌ですこんな逃げ恥。あともう古いです'ってばっさり切ったよね」
「いやあそうだったかしら」
「そうだよ」
「まあいいじゃないですか、最後には踊ったんだから」
「普通私が言ったら即やるの」
「強情なもので」
「でも私君のそのとんでもなさ大好き」
「知ってます」
「君じゃなきゃ粛正してる」
「愛を感じる」
二人は仲良くグラスを空けると、次のビールを注ぎあう。とんでもなさすぎて目が離せん。参加者全員同じ気持ちなのだろう。会場は静まり返っている。
「まあでも、仮にこれが葉っぱ隊とかだったら死んでもやりませんでしたけどね」
その空気に気付いてか気付かずか、二人の会話はまだまだ続く。
「葉っぱ隊?」
「あ、しまった墓穴掘った。忘れて下さい」
「いや気になるじゃない。ちょっと安藤、君やりなよ」
「やめてあげて下さいよ、可哀想に」
「いやでも、気になるし」
「ダメです。後で動画見ましょ」
「今見たい」
「ダメ」
晴乃はお屋形様のグラスに無理矢理ビールを注ぎ、「新人だからって無茶振りはダメですよ」と注意した。奥の方では櫛灘立会人が安藤立会人の背を叩いている。平和裏に終わってしまった。葉っぱ一枚で踊る安藤立会人を見なくて済んで本当に良かった。
「ところで安藤といえばさ」
お屋形様と晴乃のやりとりはまだまだ続く。
「広報誌の立会人インタビュー、安藤で一周するじゃない?」
「あ、そうなんですか。どうするんですか?二周目に入るんですか?」
「いや、君のインタビューに決まったみたい」
「え」
え。
「イヤですよ、なんで私なんですか。ホラ、夕…泉江外務卿とかは?」
「もう外務卿就任の時に特集が組まれてる。他の幹部も終わってるんだよね」
「あー、そうなんですか。参ったな」
「嫌?」
「もちろんですよ。なんで私みたいな平社員が」
「謎が多いからじゃない?」
「謎なんてないですよう」
「いや謎だらけだよ。いつのまにか事務にいた状態だよ」
「そんな、'今日から事務やりまーす!'って宣伝して事務になることなんてまずないでしょうに」
「あとほら」
「はい」
「事務なのに忘年会で僕の隣で食事してるし」
沈黙。
「誰のせいですか、誰の!」
「目蒲じゃない?」
「いや待って、目蒲さんダシに使われてるだけですよね!あなたの思いつきのせいじゃないですか!」
「お屋形様の命令は絶対でしょ?」
「約束はあなたへの忠誠じゃなくて賭郎への忠誠です!」
「屁理屈は嫌いだ」
「それなら私は理不尽が嫌いです」
お屋形様がじっと睨むのを、彼女は真正面から笑顔で受ける。
「ずっとイライラしてたんです。つまんないことで脅されて、あなたのコンパニオンやらされて」
「ふうん、コンパニオンと思ってた訳」
「事務と呼ぶなら連れてくるべきではなかった。軟禁相手と呼ぶならそう思われるのも甘んじて受けるべき。でも、もし違うって言うなら。もし私をあなたが気楽につるむ相手と呼ぶなら。そういう関係に変えていきたいのなら」
喧嘩の一つもしてみましょうか。
その言葉は冷たい空気を撒き散らしながら、静かに部屋中に広がった。