沈丁花の約束
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「銅寺立会人、目蒲立会人。平田浩一君をお連れしました」
連れて来られた洞窟の中、四、五十はいるだろうかという男性がざっと振り返る。反応の差からして呼ばれたのは恐らく、驚いた表情の黒髪の男性と、呆れた顔をした金髪の男性。どちらかが目蒲立会人で、もう一方が銅寺立会人なのだろう。金髪の方は横にいた小柄な男性に何か耳打ちをし、黒髪の方はこちらに近付いてくる。
「そちらの、物凄く睨んでくる女性は…」
「浩一君の担任だそうです。一緒にいたのでやむを得ず…」
「ちょうどよかった!そいつも賭けるぜ!」
「却下!!」
私はキレた。今ので、完全に、キレた。
「人様ギャンブルに引き込む前にやる事があるでしょうが!」
私は浩一君の手を引いて、浩一君のお父さんに向かって歩き始める。
「浩一君に、謝りなさい!あなたのせいでどれだけ心細い思いをしたか分かってるんでしょうね!」
「はあ!?」
「ああもうそうやって劣勢になるととりあえず聞き返すの浩一君そっくり!親子なんだからもっとちゃんと心配しあいなさい!浩一君にばっかり心配させないで!」
いいわね!私はそう叱って、浩一君をお父さんの前に差し出した。お父さんの視線が左下に流れる。浩一君と同じ癖。その次にはきっと…
「ごめんな、浩一」
「いいよ」と頷く浩一君を見て、私は大きく頷いた。そして、踵を返す。
「さ、じゃあ私と浩一君はここでお暇しますね」
「ああ…」
お父さんの承諾を得て、私は浩一君の手を引いて歩き出した。この人たちが呆気に取られている間に離脱しようそうしよう。
「い、いやいや!」
呼び止める声。目論見を外されてしまった憎しみから、つい声がした方を睨んでしまう。声の主である黒髪の男性がたじろいだ。この人は目蒲立会人だったか、銅寺立会人だったか。
「なんでしょう」
「…帰るんですか?」
「帰ります」
その…と吃る彼を見て、ついため息。そして、立ち止まってしまう。
「聞きますよ」
人に甘すぎるのは私の悪い癖だ。彼の安堵の表情を眺めながらそう思った。
「ええと、センセイ。非常に言いづらいんですが…」
「あ、私伏龍です。でしたら…浩一君、ちょっとお父さんのところ行ってくれる?」
わかった、ととたとた走っていく浩一君の背中を確認して、私は彼に向き直った。
「伏龍先生、私平田様の専属立会人の銅寺晴明です」
「立会人、ですか」
「ゲームの進行役とでもお考えください。今の平田様の状況をお耳に入れたく…」
銅寺さんは聞かせてくれた。浩一君のお父さんが今ギャンブルで負け続けて全財産をスられ、大ピンチだということ。既にお父さんと浩一君の命の取り立て、つまり、臓器売買にかけられることは決まっていること。そして、私の体を差し出せばもう一戦だけできること。そして、銅寺さんは選択肢を示してくれた。このまま私だけが帰ること。私のお金で浩一君達の命の分を補填すること。そして、私の命を浩一君のお父さんに預けること。
「浩一君は、帰れないんですか?」
「はい。残念ながらこのままでは…」
銅寺さんは本当に申し訳なさそうに答えてくれる。この人は優しい人なんだなぁ。でも、残念ながらこの人は何もすることはできないらしい。表情が物語っていた。
さて。私は考える。どうすればいい?見殺しにして逃げるのは無しとして、今の私の預金残高では浩一君とお父さんの半分しか助けることはできない。お父さんを見殺しにして、浩一君を国の支援に入れてしまうか?いや、それはいけないな。お母さんはいないものの、平田家の父子関係自体は良好だからな。ちょっとお父さんがルーズすぎるのが学校としては気になるだけで、離れるべき親子とは到底言えない。何より、そんな酷いこと私はしたくない。なら、私の命をお父さんに預ける…のは、却下だな。あんな切羽詰まった表情の人に逆転なんか出来るわけがないや。あんななら私が出た方がまだマシだ。
「ん?」
今、名案を思いついてしまったような。
「銅寺さん」
「はい」
「あなたが私達の味方をして下さるんですね?」
「味方というには、語弊がありますが…平田様が極端に不利にならないように致しましょう」
「素敵。それで十分です」
私はついにんまりしてしまう。一度思いついてしまえば、これ以外ありえないと思えた。
「浩一君のおとうさーんっ!私が代わりに戦っていいですねー?」
「はあ!?」
そう呼びかけると、動揺の声が浩一君のお父さん以外にも、あちらこちらから聞こえたのが癪に障ったが、まあ、しかたがない。こっちが乱入してきた身だ。
「私の命でやるんだからいいですよね?ダメなら浩一君の命だけお金で買って帰ります!二百万しか持ってません!」
すごく、すごくお父さんが悩んでいるのを待つ。これで「自分たち親子と、お前とお前のお金を交換しよう」とか言い始めたら即帰ってやる!と思ったが、流石にそこまでの事はなく。お父さんは不服そうに頷いた。
「よろしいのですか?」
「ええ。多分これしかありません。銅寺さんも助けてくれるんでしょ?なんとかなりますよ」
銅寺さんは困った顔をして、「ですから味方という訳では」と呟いた。
連れて来られた洞窟の中、四、五十はいるだろうかという男性がざっと振り返る。反応の差からして呼ばれたのは恐らく、驚いた表情の黒髪の男性と、呆れた顔をした金髪の男性。どちらかが目蒲立会人で、もう一方が銅寺立会人なのだろう。金髪の方は横にいた小柄な男性に何か耳打ちをし、黒髪の方はこちらに近付いてくる。
「そちらの、物凄く睨んでくる女性は…」
「浩一君の担任だそうです。一緒にいたのでやむを得ず…」
「ちょうどよかった!そいつも賭けるぜ!」
「却下!!」
私はキレた。今ので、完全に、キレた。
「人様ギャンブルに引き込む前にやる事があるでしょうが!」
私は浩一君の手を引いて、浩一君のお父さんに向かって歩き始める。
「浩一君に、謝りなさい!あなたのせいでどれだけ心細い思いをしたか分かってるんでしょうね!」
「はあ!?」
「ああもうそうやって劣勢になるととりあえず聞き返すの浩一君そっくり!親子なんだからもっとちゃんと心配しあいなさい!浩一君にばっかり心配させないで!」
いいわね!私はそう叱って、浩一君をお父さんの前に差し出した。お父さんの視線が左下に流れる。浩一君と同じ癖。その次にはきっと…
「ごめんな、浩一」
「いいよ」と頷く浩一君を見て、私は大きく頷いた。そして、踵を返す。
「さ、じゃあ私と浩一君はここでお暇しますね」
「ああ…」
お父さんの承諾を得て、私は浩一君の手を引いて歩き出した。この人たちが呆気に取られている間に離脱しようそうしよう。
「い、いやいや!」
呼び止める声。目論見を外されてしまった憎しみから、つい声がした方を睨んでしまう。声の主である黒髪の男性がたじろいだ。この人は目蒲立会人だったか、銅寺立会人だったか。
「なんでしょう」
「…帰るんですか?」
「帰ります」
その…と吃る彼を見て、ついため息。そして、立ち止まってしまう。
「聞きますよ」
人に甘すぎるのは私の悪い癖だ。彼の安堵の表情を眺めながらそう思った。
「ええと、センセイ。非常に言いづらいんですが…」
「あ、私伏龍です。でしたら…浩一君、ちょっとお父さんのところ行ってくれる?」
わかった、ととたとた走っていく浩一君の背中を確認して、私は彼に向き直った。
「伏龍先生、私平田様の専属立会人の銅寺晴明です」
「立会人、ですか」
「ゲームの進行役とでもお考えください。今の平田様の状況をお耳に入れたく…」
銅寺さんは聞かせてくれた。浩一君のお父さんが今ギャンブルで負け続けて全財産をスられ、大ピンチだということ。既にお父さんと浩一君の命の取り立て、つまり、臓器売買にかけられることは決まっていること。そして、私の体を差し出せばもう一戦だけできること。そして、銅寺さんは選択肢を示してくれた。このまま私だけが帰ること。私のお金で浩一君達の命の分を補填すること。そして、私の命を浩一君のお父さんに預けること。
「浩一君は、帰れないんですか?」
「はい。残念ながらこのままでは…」
銅寺さんは本当に申し訳なさそうに答えてくれる。この人は優しい人なんだなぁ。でも、残念ながらこの人は何もすることはできないらしい。表情が物語っていた。
さて。私は考える。どうすればいい?見殺しにして逃げるのは無しとして、今の私の預金残高では浩一君とお父さんの半分しか助けることはできない。お父さんを見殺しにして、浩一君を国の支援に入れてしまうか?いや、それはいけないな。お母さんはいないものの、平田家の父子関係自体は良好だからな。ちょっとお父さんがルーズすぎるのが学校としては気になるだけで、離れるべき親子とは到底言えない。何より、そんな酷いこと私はしたくない。なら、私の命をお父さんに預ける…のは、却下だな。あんな切羽詰まった表情の人に逆転なんか出来るわけがないや。あんななら私が出た方がまだマシだ。
「ん?」
今、名案を思いついてしまったような。
「銅寺さん」
「はい」
「あなたが私達の味方をして下さるんですね?」
「味方というには、語弊がありますが…平田様が極端に不利にならないように致しましょう」
「素敵。それで十分です」
私はついにんまりしてしまう。一度思いついてしまえば、これ以外ありえないと思えた。
「浩一君のおとうさーんっ!私が代わりに戦っていいですねー?」
「はあ!?」
そう呼びかけると、動揺の声が浩一君のお父さん以外にも、あちらこちらから聞こえたのが癪に障ったが、まあ、しかたがない。こっちが乱入してきた身だ。
「私の命でやるんだからいいですよね?ダメなら浩一君の命だけお金で買って帰ります!二百万しか持ってません!」
すごく、すごくお父さんが悩んでいるのを待つ。これで「自分たち親子と、お前とお前のお金を交換しよう」とか言い始めたら即帰ってやる!と思ったが、流石にそこまでの事はなく。お父さんは不服そうに頷いた。
「よろしいのですか?」
「ええ。多分これしかありません。銅寺さんも助けてくれるんでしょ?なんとかなりますよ」
銅寺さんは困った顔をして、「ですから味方という訳では」と呟いた。