沈丁花の約束
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その日、私が受け持つ子が一人、学校を無断欠席した。まあ、はっきり言ってご家庭があまりよろしいとは言えない子だったから無断欠席自体はそこまでショッキングではなかったけど、家も携帯も保護者の会社も、どこに電話しても家族が捕まらないのはひっかかった。
「校長先生。私家庭訪問してきます」
私はジャケットと鞄を片手ずつに持ち、校長先生にそう告げた。快く送り出して下さる先生の声を背中に受け、私はそそくさと学校を後にした。さっさと子供の無事を確認して、テスト採点と授業準備をしなくては。
家に到着する。私は助手席に置いたジャケットを羽織り、鞄の中から財布だけを抜き出した。後は車の中で大丈夫だろう。家は目と鼻の先。窓の外を見ればいかにも金持ちですと言わんばかりの豪奢なお家。思わずため息をついた。ああ、こんなにもお金があったら先生なんか絶対にしないのに。お金がたくさんあったらなぁ。
ーー未来の私は全く逆のことを嘆くことになるのだけど、まあ、それは別の話。
閑話休題。私はインターホンを押した。響く音にやっぱり誰もいないのかと落胆しかけた、その時のこと。
バタバタバタ!
「先生!せんせーい!!」
「あれ?!浩一君いるじゃない!」
浩一君は玄関を弾かれるように飛び出し、私の胸めがけて飛び込んできた。私は思わずの出来事に対応できず尻餅をついたが、浩一君のただならぬ様子を見て、注意するのをやめる。その代わりそのまま背中に手を回し、ぽんぽんと軽く叩く。
「どうしたの、ひどい顔して」
「お父さんが帰ってこない!オレ今日ご飯食べてないよ先生!腹減った!」
「なら何で学校来なかったのよ。今日の給食唐揚げだったよ」
「はぁ?!オレそんなん知らんかったし!」
「おばかさんだなぁ。ちゃんとチェックしとかないと」
浩一君の顔から不安の色が和らいだのを確認して、私は本題に切り込む。
「お父さん帰って来なかったの?いつから?」
「なんか、昨日帰ってきたらもういなくて、オレずっと待ってた」
「そっかぁ。昨日の夕方くらいからずっといなかったんだね。浩一君よく一人で我慢したね。偉かったね」
「えー、オレ平気だったよ。時々留守番するし」
「そうなの。強いねえ」
さあ、降りて浩一君。そしたら先生と一緒に何か食べるもの買いに行こう。そう言うと浩一君は素直に退いてくれる。私も彼に続いて立ち上がり、手を繋いだ。そんな私達を真っ黒の高級車の、ヘッドライトが照らす。
「浩一君のお父さんかな?」
「お父さんの車あれじゃないよ」
「そっかあ。残念」
私達がその横を通過しようとすると、ちょうど高級車の窓が開く。そして、ガタイのいい男の人が「平田浩一君?」と声を掛けてきた。
身体中が粟立つ。
「違います!」
思わず大声が出た。浩一君が不思議そうに私を見る。
「パパの友達なんだけど、浩一君だよね?」
「え、お父さんの?」
「ね、先生教えたでしょ。この人は知ってる人なの?ならお返事しちゃダメ」
「でもさ」
「浩一君、今パパピンチなんだよね。浩一君が来ないと困るって」
「だから、この子は浩一君じゃありません!」
私は浩一君を引っ張り、密着させた。そして、その場に留まろうとする彼の手を引いて、車と逆方向に歩き出す。背中にかかる「おい!」という怒声。車のドアの開く音。私は走り出した。車まで逃げればあとは何とかなる!
「いたっ!先生!」
声と同時に、ぐん、と後ろ手に抵抗を感じた。ハッとして振り返ると、浩一君の反対側の手を男の人が掴んでいた。
「離してください!」
「めんどくせえよ、センセイもまとめて連れて行こうぜ」
「あー、騒ぎ立てられても面倒かぁ」
運転席にいたはずの男性がそう声をかけるのに、浩一君の手を掴んだ男性が応えた。彼らは頷きあうと、私達の必死の抵抗なんて意にも介さず手錠をかけて、車の後部座席に放り投げた。
「校長先生。私家庭訪問してきます」
私はジャケットと鞄を片手ずつに持ち、校長先生にそう告げた。快く送り出して下さる先生の声を背中に受け、私はそそくさと学校を後にした。さっさと子供の無事を確認して、テスト採点と授業準備をしなくては。
家に到着する。私は助手席に置いたジャケットを羽織り、鞄の中から財布だけを抜き出した。後は車の中で大丈夫だろう。家は目と鼻の先。窓の外を見ればいかにも金持ちですと言わんばかりの豪奢なお家。思わずため息をついた。ああ、こんなにもお金があったら先生なんか絶対にしないのに。お金がたくさんあったらなぁ。
ーー未来の私は全く逆のことを嘆くことになるのだけど、まあ、それは別の話。
閑話休題。私はインターホンを押した。響く音にやっぱり誰もいないのかと落胆しかけた、その時のこと。
バタバタバタ!
「先生!せんせーい!!」
「あれ?!浩一君いるじゃない!」
浩一君は玄関を弾かれるように飛び出し、私の胸めがけて飛び込んできた。私は思わずの出来事に対応できず尻餅をついたが、浩一君のただならぬ様子を見て、注意するのをやめる。その代わりそのまま背中に手を回し、ぽんぽんと軽く叩く。
「どうしたの、ひどい顔して」
「お父さんが帰ってこない!オレ今日ご飯食べてないよ先生!腹減った!」
「なら何で学校来なかったのよ。今日の給食唐揚げだったよ」
「はぁ?!オレそんなん知らんかったし!」
「おばかさんだなぁ。ちゃんとチェックしとかないと」
浩一君の顔から不安の色が和らいだのを確認して、私は本題に切り込む。
「お父さん帰って来なかったの?いつから?」
「なんか、昨日帰ってきたらもういなくて、オレずっと待ってた」
「そっかぁ。昨日の夕方くらいからずっといなかったんだね。浩一君よく一人で我慢したね。偉かったね」
「えー、オレ平気だったよ。時々留守番するし」
「そうなの。強いねえ」
さあ、降りて浩一君。そしたら先生と一緒に何か食べるもの買いに行こう。そう言うと浩一君は素直に退いてくれる。私も彼に続いて立ち上がり、手を繋いだ。そんな私達を真っ黒の高級車の、ヘッドライトが照らす。
「浩一君のお父さんかな?」
「お父さんの車あれじゃないよ」
「そっかあ。残念」
私達がその横を通過しようとすると、ちょうど高級車の窓が開く。そして、ガタイのいい男の人が「平田浩一君?」と声を掛けてきた。
身体中が粟立つ。
「違います!」
思わず大声が出た。浩一君が不思議そうに私を見る。
「パパの友達なんだけど、浩一君だよね?」
「え、お父さんの?」
「ね、先生教えたでしょ。この人は知ってる人なの?ならお返事しちゃダメ」
「でもさ」
「浩一君、今パパピンチなんだよね。浩一君が来ないと困るって」
「だから、この子は浩一君じゃありません!」
私は浩一君を引っ張り、密着させた。そして、その場に留まろうとする彼の手を引いて、車と逆方向に歩き出す。背中にかかる「おい!」という怒声。車のドアの開く音。私は走り出した。車まで逃げればあとは何とかなる!
「いたっ!先生!」
声と同時に、ぐん、と後ろ手に抵抗を感じた。ハッとして振り返ると、浩一君の反対側の手を男の人が掴んでいた。
「離してください!」
「めんどくせえよ、センセイもまとめて連れて行こうぜ」
「あー、騒ぎ立てられても面倒かぁ」
運転席にいたはずの男性がそう声をかけるのに、浩一君の手を掴んだ男性が応えた。彼らは頷きあうと、私達の必死の抵抗なんて意にも介さず手錠をかけて、車の後部座席に放り投げた。